十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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32話 激突

(打つ手なしだな。頸がない上に胴体を袈裟斬りにしても死なない。むしろ再生速度が上がってるくらいだ)

 

 体に蓄積した疲労が無一郎の動きを鈍らせる。

 

 先程の蹴り、数ヶ月前の僕なら死んでいた。それだけの威力があった。

 

(ヒノカミ神楽の影響なのか、急に体が重くなった。今度こそ本当に終わった。夜明けは近いけど、日が上がる前に僕たちは殺されるだろうな)

 

 僕たち以外の柱を総動員でもして、朝まで耐久する以外に、修羅であるこの鬼を殺す術はないだろう。

 

 地面に倒れ込むように前方に回転することで、猗窩座の拳を無一郎はすんでのところで避けた。

 

(頭が再生しはじめてる。もう一回……斬れないだろうな)

 

「破壊殺 砕式 万葉閃柳」

 

 まだ完全には再生しきっていないものの、治りかけたその口が言葉を紡ぐ。

 

(避けられな——)

 

 その時、炎の如き閃光が無一郎を抱え、猗窩座の一撃から無一郎を助けた。

 

 無一郎は地面にうつ伏せに倒れる。

 

「時透!」

 

「れ、煉獄さん……」

 

「呼吸が乱れている、らしくないな」

 

「すみません」

 

「いや、俺のほうこそすまない。下弦に手こずって、時透1人に上弦と戦わせてしまっていた」

 

 下弦の伍を真弓や炭治郎に任せたという。

 

 だが杏寿郎が加勢したところで、猗窩座は頸を切ってもしなないことに変わりはない。

 

「でも……あの鬼は頸の弱点を」

 

「大丈夫だ。あの鬼、確かに頭を再生しつつあるが明らかに再生速度が遅い。まだ倒せるかもしれない」

 

 杏寿郎が刀を力強く握り、構えた。腰をやや落とす。

 

「俺があいつとぶつかったら、隙をついて頸を狙って……いや、無理はしなくて良い」

 

「ぶつかったらって……!」

 

「炎の呼吸 奥義 玖ノ型——」

 

 半分ほど頭が生えた猗窩座もそれに応じるようにして、血鬼術を発動する。

 

「破壊殺——」

 

 

「煉獄‼︎」

 

「滅式‼︎」

 

(何か、何かできることはないか僕に‼︎)

 

 猗窩座は頸を斬っても殺せるかわからない。それどころか、時間の経過と共に身体能力が上昇しているように思える。

 

 このまま2人がぶつかったら、人間である杏寿郎が押し負けるのは目に見えている。

 

(そうだ、僕は鬼殺隊の柱なんだ……! だからできるだろ!)

 

 一瞬だけでいい。猗窩座の動きを鈍らせることさえできれば。

 

 だからもう一度。

 

(霞の呼吸+ヒノカミ神楽の呼吸——)

 

垂天陽華霞(すいてんようかすみ)‼︎」

 

 うつ伏せの態勢のまま、右手で刀を投げ飛ばした。

 

 地面と平行ではなく、僅かに角度がつけられた刀はどんどん加速し、猗窩座と杏寿郎がぶつかり合う直前に、猗窩座の右腕に突き刺さる。

 

「——ぁ⁉︎」

 

 猗窩座がぎょっとし、その目が無一郎を捉え見開かれた。

 

 一瞬だが、無防備になった猗窩座に杏寿郎の刀が直撃する——

 

 

 

 

 

 その頃、累や炭治郎は。

 

「炎の呼吸 撥ノ型! 趨炎腐熱‼︎」

 

「ぐ……ぁッ!」

 

 杏寿郎の一太刀が累を輪切りにした。

 

「天涯! 溝口少年! この鬼を頼んだ!」

 

 その隙をつき、杏寿郎は今にもとどめを刺されそうになっている無一郎の救援に向かう。

 

(どいつもこいつも……僕をこけにしやがって……!)

 

 糸を地面へと伸ばし、倒れぬように体勢を固定した。

 

 すぐに半身を再生しようとしたが、そこに何かが飛来する。

 

「空の呼吸 肆ノ型 空空雀雀」

 

 するどい一矢が、累の下半身に刺さると、そのまま下半身のみが遥か後方にまで吹き飛ばされた。

 

(! 再生させないつもりか!)

 

「僕はね! わざわざそんなことをせずともこの程度なら片手間で治せるんだよ‼︎」

 

 累の再生能力は上弦の鬼の域に入っている。だが、他の上弦の鬼と比べるとやや劣るのもまた事実。

 

 炭治郎はその隙を見逃さない。

 

 

 

 

 

(再生させない! 煉獄さんがやっとの思いでつくってくれた隙だ! しかも向こうは上弦が相手だぞ! 下弦に手こずってどうする!)

 

 累は柱である小芭内を屠っている。だが、だからといって諦める理由にはならないし、諦めたくもなかった。

 

(水の呼吸+ヒノカミ神楽の呼吸‼︎)

 

(水の呼吸にヒノカミ神楽の呼吸を取り入れれば、水だけの時より力強く、そして長く動ける!)

 

「はぁぁぁ‼︎」

 

 参ノ型である流流舞いを応用した動きで、累の糸と右の手首を切り落とした。

 

「天涯さん!」

 

 

 

 

 

「わかってる」

 

 真弓は既に弓に矢をつがえている、この時を待っていたのだ。

 

「空の呼吸 漆ノ型 空刻跫音(くうこくきょうおん)!」

 

(空の呼吸最速の一矢……防御はさせん!)

 

 虚空を切り裂く空前絶後の一矢が累の頸めがけて加速する。

 

 だがこの時の炭治郎と真弓は累や猗窩座に気を取られ、気がついていなかった。じきに夜が明けようとしていることに。

 

 累は口を最大まで開くと、顎の力を最大限に生かし、矢を歯で止めてみせた。

 

「⁉︎」

 

 それだけではない。先の炭治郎の攻撃により、累が地面に繋いだ糸は切られている。だから。

 

 累の上半身は矢につられて、遠くまで飛んでいく。

 

「逃げるつもりか! ヒノカミ神楽——!」

 

 逃さぬよう炭治郎は累を斬ろうとするが、既に累の片腕は再生していた。

 

「殺目篭」

 

 自身の周囲を糸でがんじがらめにする。回転の勢いもあり、炭治郎の刀はいとも容易く弾かれてしまった。

 

 そして、累は不規則な弧を描きながら、空の彼方に消え去った——

 







え、なんて謎すぎるシュールな逃げ方……?笑

まだまだ無限列車編は終わりませんよ!?
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