十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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33話 懐古強襲

 空気が震えた。

 

「煉獄さん‼︎」

 

 凄まじい爆風が辺りを覆い隠した。

 

 猗窩座に不意打ちを喰らわせることができたとはいえ、彼の攻撃そのものを完全に打ち消すことができたわけではない。杏寿郎の一撃が猗窩座を抉るところまでは視認できたが……

 

「……あ」

 

 霧が晴れたそこには、2つの人影があった。いや、片方は……

 

 上半身が消え失せ、下半身のみが残された猗窩座。

 

「や、やった……」

 

 さすがに頸を含めた上半身が吹き飛べば再生はできまい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 肩で息をしている杏寿郎は地に膝をついた。体中はぼろぼろだ。

 

「勝ちましたね。煉獄さ——⁉︎」

 

 勝ちを確信したその時、再び辺りに殺気が漂うのが分かった。

 

「な……」

 

 下半身だけとなった猗窩座が、再生を始めている⁉︎

 

(冗談も休み休みにしてほしいな……さすがにこれ以上は……いや)

 

 ピクピクと痙攣しながら、猗窩座の胴体が再生を始めた。

 

(効いてる。痙攣しているのが何よりの証拠だ)

 

 しかも……

 

(もうじき夜が明けるはず)

 

 あいにくの天気で正確な時間は分からないが、長く見積もってもとっくに夜明けまで10分を切っているはずだった。

 

 向こうに炭治郎たちが倒れているのが見える。

 

 鬼の姿がないということは勝ったのか、あるいは退けたということだろう。

 

(もうここにいる誰もが満身創痍だ。上弦の参だって、朝日が昇れば逃げざるを得ないはず……上弦を殺すまたとない機会だったが、今回は見逃すしかない)

 

 正しくは、見逃してもらう、かもしれない。

 

 

 だが修羅であるこの鬼は一気に上半身を再生させ、またしても頭を生やし始める。

 

 猗窩座の瞳が、無一郎を捉えた。

 

「無一……郎……よくも……よくも俺と杏寿郎の戦いを、邪魔してくれ——」

 

 

 

「狛治さんもうやめて」

 

 先程の女が再び猗窩座の腕を掴む。

 

「は……く、じ?」

 

「もうやめてください。向こうに行きましょう」

 

「誰だそれは。それに俺は強くならなけれぱいけない。強くなければ持って帰って来られないからだ。親父に薬を」

 

 強くならなければ盗んだ財布を持って逃げきることができないし、強くなければ返り討ちに遭っても勝てない。強くならなければ奉行所に捕まって刑罰を喰らう。

 

 

 俺は今日も奉行所に捕まってしまった。

 

「掏摸の入れ墨はもう両腕に三本線だ。次は手首を斬り落とすぞ」

 

「ハハハハハ! 斬るなら斬りやがれ! 両手首斬られたって足がある! 足で掏ってやるよ! どの道次は捕まらねぇぜ‼︎」

 

 猗窩座……狛治は笑い叫んだ。

 

「わずか十一で犯罪を繰り返し大の男すら失神する百敲きを受けてこの威勢、お前は鬼子だ」

 

 百敲きとは簡単に言えば、竹棒を革で包んだもので罪人を打つ刑罰のことだ。

 

 役人どもは大人でさえ気絶するような激痛をガキの俺に叩き込んできやがる。

 

「何とでも言ってろ。そうだ。俺は鬼子だ。生まれた時から歯が生えてたらしいからな!」

 

 痛みに耐えた後は放免されるわけだが、家に帰ったら俺は衝撃の事実を告げられた。

 

「狛治! お前がまた捕まったって聞いて親父さんが首を括って死んじまった! 死んじまったんだよぉ‼︎」

 

 あまりの衝撃に言葉を失った。

 

『“狛治へ。真っ当に生きろ。まだやり直せる。俺は人様から金品を奪ってまで生き永らえたくない。迷惑をかけて申し訳なかった”』

 

 貧乏人は生きることさえ許されないのか。こんな世の中は糞くらえだ。どいつもこいつもくたばっちまえ。なんで俺の親父が死ななきゃならねぇんだ。

 

 迷惑なんかじゃなかった。何で謝るんだよ。親父は何も悪いことなんかしてないだろ。盗みの刑罰を受けるのだってつらくなかった。鞭でめった打ちにされようが、骨が折られようが、親父のためなら耐えられる。

 

 何百年でも。

 

「反省しろ! 真面目に働け!」

 

 金が足りないんだ。高いんだよ薬は。貧乏な平民がいくら働いたところで薬を買うに足りる金は稼げない。

 

 それならば、盗むしかないだろ。

 

 どんどん痩せていくんだ親父が。背中もボコボコ骨が浮き始めてた。もっと栄養のあるもんを食わせたいんだ。

 

 きっと俺が治してやるんだ。

 

「なんで首なんか吊った! 俺は死んだって良かったのに! 親父のためなら……親父のためなら!」

 

「真面目に! 働け!」

 

「うるせぇ! 黙れ糞がァァァァ‼︎」

 

 

 

 

「おーおー大したもんだ。子供が殺されそうだってんで呼ばれて来てみれば、大人七人も素手で伸しちまってる。お前筋がいいなあ。大人相手に武器も取らず勝つなんてよ。気持ちのいい奴だなあ」

 

 暴れた俺を取り押さえるために7人もの男が襲いかかってきやがった。

 

 ちょうど全員を返り討ちにしたところで、笑みを浮かべたうさんくさい謎の男が現れる。

 

(誰だコイツは。俺は何を見てる? 俺の記憶?)

 

「俺の道場に来ないか? 門下生が誰もいなくてな」

 

「うるせえ糞爺! ぶち殺すぞ! くたばれ糞爺!」

 

 さっきの糞どもと同じように叩きのめそうと拳をふり挙げる。

 

「うむ。まずは生まれ変われ少年」

 




はくじさん……

次回はほんのちょっとだけオリジナル恋愛エピ追加して、だいたい原作と同じ感じになります……
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