十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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〜〜、そして……って言うサブタイトルが定着しつつある件





35話 役立たずの狛犬、そして……

 墓参りに行ってたんだ親父の。

 

 祝言を上げるって報告したくて。

 

 日が暮れる前には道場に戻ったのに、聞く前から吐きそうだった。横隔膜が痙攣して嫌な予感に鳥肌が立っていた。

 

「誰かが井戸に毒を入れた! 慶蔵さんやお前とは直接やり合っても勝てないからってあいつら酷い真似を……惨たらしい……あんまりだ! 恋雪ちゃんまで殺された!」

 

 俺は大事な人間が危機に見舞われている時、いつも傍にいない。約束したのに。

 

『俺は誰よりも強くなって、一生あなたを守ります』

 

 結局口先ばかりで何一つ成し遂げられなかった。

 

「ちょっといいか?」

 

 再び、いや、本気で修羅となることを決めた男は隣の剣術道場へと訪れる。

 

 その惨殺事件の詳細は一度は奉行所に記録が残されていた。

 

 素流道場の親娘が毒殺された後、生き残りの門下生一人が隣接する剣術道場を襲撃。剣術道場の六十七名を殺害したのは素手による頭部破壊、内蔵破壊。殆どの遺体は潰されて原型もなくひしゃげた上、体の一部が大きく欠損。顎や脳や目玉、手足、内臓が天井及び壁に飛び散り張り付く地獄絵図。生存していた女中も正気を失った。

 

 あまりの荒唐無稽な内容にこの記録は三十年程して作り話ということで破棄されている。

 

 

 

 

「鬼を配置した覚えの無い場所で鬼が出たとの大騒ぎ。わざわざ出向いて来てみれば、ただの人間とはな。何ともつまらぬ」

 

 狛治は呆然とし、街をふらついていた。

 

「どけ……殺す……ぞ」

 

 目の前の男に殴りかかる。

 

 しかし、先に男の手刀が狛治の頭部を貫いた。

 

「十二体程強い鬼を造ろうと思っているんだ。お前は与えられるこの血の量に耐えられるかな?」

 

「……ど、う……も……う……ど、う……でも……いい……全て……が……」

 

 幸か不幸か。狛治は鬼の血に順応した。してしまった。

 

 それは呪いとなり、もう見るべきものなどない色褪せた世界に狛治……猗窩座を繋ぎ止める杭となる。

 

 鬼になって記憶を無くし、また俺は強さを求めた。守りたかったものはもう何一つ残ってないというのに。

 

 家族を失った世界で生きていたかったわけでもないくせに、百年以上無意味な殺戮を繰り返した。何ともまあ惨めで滑稽でつまらない話だ。

 

 

 

 

 

(死んだところで三人と同じ場所には行けない。よくも思い出させたな、あんな過去を。人間め、柔く脆い弱者すぐ死ぬ壊れる消えてなくなる)

 

 地面に伏せる無一郎と膝をつく杏寿郎に拳を向ける。

 

(破壊殺 滅式)

 

 滅式を囮に、もう一方の手の拳で応戦しようとした杏寿郎の刀を叩き砕く。

 

 これで終わり……!

 

「刀が無くとも、俺は——」

 

 杏寿郎は手を握りしめた。

 

『生まれ変われ少年』

 

「俺の責務を全うする‼︎」

 

(2人の姿が重なって——⁉︎)

 

 ストレートが猗窩座の顔面に直撃した。

 

 弱い奴が嫌いだ。

 

 弱い奴は正々堂々やり合わず井戸に毒を入れる。醜い。弱い奴は辛抱が足りない。すぐ自暴自棄になる。

 

 “守る拳”で人を殺した。師範の大切な素流を血塗れにし、親父の遺言も守れない。

 

 そうだ。俺が殺したかったのは。

 

(他でもない——)

 

 ここまで溜めた滅式はもう止められない。ならば。

 

(俺自身なんだ)

 

 

 

 

(まさか刀が砕かれるとは!)

 

 杏寿郎は、咄嗟に猗窩座の顔面を殴りつけたが、相手は鬼。それも上弦の鬼である。もちろん一瞬の足止めにもならない。はずなのだが……

 

(……笑った?)

 

 こちらを殴りつける寸前の拳が急旋回し、猗窩座自身に直撃した。

 

 自身の耐久力をも超えた、現実離れした破壊拳が自らの体を打ち砕く。

 

「自分を攻撃⁉︎ これも血鬼術の一種か?」

 

 

 

 

(もういい。やめろ。再生するな。勝負はついた。俺は無一郎に負けた。あの瞬間完敗した。正々堂々見事な技だった。足元に滑り込むような動きからの切り上げ。緩急つけた独特の動きで間合いを錯乱。杏寿郎も凄かった。人間とは思えぬ威力の拳だ。終わりだ。潔く地獄へ行きたい)

 

 絶大な傷を負ってなお再生をやめない体。

 

 ああ、俺はまだこの世界に縛り付けられなければならないのか。

 

 

 

 

 数人、人影が見える。

 

 ここはどこだ? 

 

「親父…もう平気か? 苦しくねぇか?」

 

 親父がいるということは地獄ではない。この俺がいるということは天国でもない。

 

「大丈夫だ狛治。ありがとうなァ……」

 

 親父は優しい目をしていた。

 

「ごめん親父ごめん。俺やり直せなかった。駄目だった……」

 

 俺のせいで辛い目に合わせちまって……

 

「関係ねぇよ」

 

 

「お前がどんなふうになろうが息子は息子、弟子は弟子。死んでも見捨てない。天国には連れて行ってやれねぇが」

 

「師範……」

 

 こんな俺の面倒を見てくれたのに、恩を仇で帰る羽目になってしまった。

 

「すみません……」

 

 

「強くなりたいのではなかったのか? お前はこれで終わりなのか?猗窩座」

 

 無惨様……

 

(そうだ俺は強くなる。強くなりたい。頸を斬られたから何だ? 勝負? 関係ない。皆殺しにしてやる。俺はまだ強くなれる。約束を守らなければ——)

 

 

「狛治さんありがとう。もう充分です。もういいの。もういいのよ」

 

「こ、ゆき……さん」

 

「猗窩座!」

 

 恋雪が猗窩座の顔を優しく包み込む。

 

 もうそこに猗窩座はいない。無惨の声が聞こえることはない。

 

「ごめんごめん! 守れなくてごめん! 大事な時、傍にいなくてごめん! 約束を何ひとつ守れなかった! 許してくれ! 俺を許してくれ頼む! 許してくれ……‼︎」

 

 狛治は恋雪に抱きついて泣いた。泣くなんていつぶりだろうか。

 

「私たちのことを思い出してくれて良かった。元の狛治さんに戻って良かった……おかえりなさい、あなた……」

 

 

「ただいま親父。戻ったよ。師範、恋雪さん、ただいま」

 

 地獄の業火と共に猗窩座の姿は灰となり散り始めた——

 

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