十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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新章の展開に手こずってて執筆速度低下中……





36話 逃げる

 累は失望していた。

 

 より高次な鬼へと進化しかけていた猗窩座は結局破れ、崩壊し始めた。

 

 何故逃げたはずの累が今の状況を分かっているのかというと、血鬼術で蜘蛛の視界を通して戦いの様子を監視していたからである。

 

 まさか負けるとは思っていなかったため。累は取り繕うともせずにため息をついた。

 

 ただでは死なせない。少しでも僕の役に立ってもらう。

 

(限られている資源は、有効活用しなきゃね…………血鬼術 脹略圧怪・悠)

 

 

 

 

 

「消える。終わった」

 

 無一郎は仰向けになった。

 

 下弦の伍は逃げた。上弦の参は動かなくなり、どんどん崩壊していっている。

 

 列車の十二鬼月も倒したようだし、鬼は全て片付いた。

 

(あ、意識が。まだ怪我をしている乗客がいるのに。助けないと)

 

 疲労のあまり、意識が朦朧としている。

 

 なんとか頭を傾け、杏寿郎の方を見る。

 

 彼も酷い怪我を負ってはいるが、命に別状はなさそうだ。

 

 だが、彼の眉がピクリと動いたのを無一郎は見逃さなかった。

 

(……? なんだ? 何かが)

 

 

 鬼がいた。

 

 姿が見えなかったから、倒したのか、もしくは逃げたのかと思っていた。

 

「……⁉︎」

 

 満身創痍だったからか、反応に遅れた。

 

「もう数分で日が昇るな。残念」

 

 累が死にかけている上弦の参に手を向けた。

 

 何かに気がついたらしい炭治郎が声を上げる。

 

「ダメだ……!」

 

 

「吸収する気だ‼︎」

 

 

「なん、だって?」

 

 

 

 

 

「残念だよ。上弦の参」

 

 上弦の参は累のほうへ引き寄せられる。累は彼を見下ろした。

 

「下弦の……伍……」

 

「上弦の鬼なのに柱どころか並の剣士すら殺せないなんて」

 

「俺は……俺は、地獄に行く——終式 青銀乱残光…………!」

 

「……‼︎」

 

 ドンっと重低音が鳴り響いた。

 

 しかし累に乱打が撃ち込まれることはない。

 

 累は片脚で上弦の参の左腕を蹴り上げ、打ち砕いた。もう一方の拳は手のひらで受け止める。

 

 頸を完全に再生できず全身の崩壊が始まり、血鬼術が失われつつある彼に累を倒すだけの力は残されていなかった。

 

「死に損ないが何をしたって無駄だよ。短い時間だったけど、さよなら」

 

 ズズズ……と上弦の参は累に吸い込まれ、完全に灰と化した。

 

 地獄になんて行かせない。永遠に僕の血肉として生き続けろ。

 

 

 

 

 

 だが突如累は苦しみ悶え始めた。

 

(⁉︎ なんだ、なにが)

 

 全身の血管が膨張する。高速で血液が全身を回る。

 

 累は自分自身を抱き、地面に膝をついた。

 

(無惨様の血だ。血の量に順応しきれていない)

 

 当然と言えば当然である。何せ、上弦の鬼……その中でも古参である上弦の参を吸収したのだ。大量の血を無惨様から賜っているに違いない。

 

(順応してみせる。この程度)

 

 実をいうと累は上弦の参を吸収するタイミングを見計らっていた。もちろん、彼が死ぬことが確定したとき咄嗟に思いついただけではあるが。

 

 そのまま上弦の参を吸収したら、あまりの血の量に適応できず、累は爆散していただろう。だから待った。彼の力が弱まり、無駄なく彼の血を吸収できるタイミングを。彼が消滅し、力が減っていくのを。

 

 早すぎては適応できず死ぬ。遅すぎては少ししか力を吸収できない。

 

 そのギリギリを見切り、今吸収したのだ。

 

(こいつの力はもう半分も残ってない。本当はまるまる取り込みたかったが、今は()()無理)

 

 累が唸り声を上げる。あまりの威圧に杏寿郎や無一郎は動けずにいた。

 

(血鬼術——)

 

 バリバリと全身の皮膚が剥がれ落ちていく。より硬度の増した肉体へと強化される。

 

「……ッ!」

 

 誰もが呆然する中、いち早く真弓が声を上げた。

 

「みんな! 逃げるぞ! 太陽の下ではどのような血鬼術でさえ塵と化す! 遮蔽物のない平地へ……森から離れろ!」

 

 真弓の一声で炭治郎たちは我に返った。

 

「上弦の参は倒した。欲張りすぎると全て失うぞ!」

 

 下弦の伍に列車を襲うほどの余力はない。怪我人の救出は後回しだ、と加えると真弓は弓に矢をつがえた。

 

 苦しむ累を残し、全員が撤退を始める。

 

「僕に逃げるなと言った……お前らが、逃げるのか……?」

 

 真弓の矢を避けつつ累が歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 この時、鬼殺隊の面々が浮かべていた表情は想像に難くない。

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情で逃げる鬼殺隊の姿は実に滑稽だった——

 






終式を余裕で防いでしまう累……

全快状態のやつ撃ち込まれたらボッコボコにされるけど
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