十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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4話 記憶

(なんだ? 糸が……斬られはじめている?)

 

 より多くの血を込めた糸は確かに柱を殺しかけていた。なのに、その糸が徐々に斬られているのを感じる。

 

(くそ……一体何が…… ん? なんだあの痣は)

 

 攻撃の精度が急上昇している柱の左頬に痣が浮かび上がっている。

 

(あの痣……どこかで見たことが……)

 

 と思った直後、奴の間合いに入った糸のほとんどが霧散する。

 

 いや、違う。刀で切ったのだ。十二鬼月である累ですら視認するのに苦労するような速度で。

 

「水の呼吸——」

 

 累は技が破られるや否や、次の行動を起こした。

 柱が今の血鬼術を防いだ、その一瞬の隙をつく。

 

「血鬼術 殺目篭!」

 

 

 

 

 

 体が熱を帯びるのが分かる。自分でも驚くくらいに技の精度が上がっていく。

 

 神速の剣技で糸の血鬼術を崩壊させると、義勇は鬼の頸を斬るべく下弦の伍へ接近した。

 

「水の呼吸——」

 

「血鬼術 殺目篭!」

 

 型を出そうとする義勇の周囲を、触れそうになるほど近くを取り囲むようにして籠状の血鬼術が発動した。

 

 義勇は今、鬼の頸を斬ろうとしている。だから、当然鬼は自身の前に糸の壁をつくり、攻撃を防御するものだと思っていた。

 

 だが奇想天外、下弦の伍は義勇が考えもしなかった形で、義勇の間合いの更に内側に糸を出現させた。

 

(何⁉︎ 防げない! 今から型を変えるのでは間に合わない‼︎ どうする⁉︎)

 

 

 

 

 

 

(俺が……俺が冨岡さんを助けるんだ! 俺しかいない……!)

 

 急に伊之助の攻撃が弱まった。

 

「そうか! 冨岡さんに攻撃するのに手一杯でこちらにまで意識を向けられないんだ!」

 

 心なしか、蜘蛛の動きが鈍っているような気がした。

 

 あまりの凶暴性に、先程までは防戦一方だったが、今なら反撃できる。

 

 一度、伊之助と距離を取ると、炭治郎は深く息を吸った。

 

「水の呼吸 参ノ型 流流舞い!」

 

 伊之助に纏わりつく糸を斬ると、案の定、それ以上糸が紡がれることはなかった。

 

「デコ太郎……」

 

「伊之助!」

 

 伊之助はそう言い残すと気絶したようだった。良かった。命に関わるほどの傷はない。

 

 安堵しかけた瞬間、義勇が破った血鬼術の糸の一部がこちらへと飛んできた。

 

(避けられない! 死——)

 

 

 

 

 

「炭治郎、呼吸だ。息を整えてヒノカミ様になりきるんだ」

 

 これは誰の声だったか。そうだ父さんだ。死を覚悟した炭治郎の脳裏に、幼き、在りし日の記憶が蘇る。

 

「炭治郎、ほら、お父さんの神楽よ」

 

 母さんだ。

 

「うちは火の仕事をするから、怪我や災いが起きないよう年の初めはヒノカミ様に舞を捧げてお祈りするのよ」

 

 しとしとと雪の降る中、舞う父を見て、炭治郎はふと疑問を抱いた。

 

「ねぇ母さん、父さんは体が弱いのにどうしてあんな雪の中で長いあいだ舞を舞えるの? おれは……はいが凍りそうだよ」

 

 

「息の仕方があるんだよ。どれだけ動いても疲れない息の仕方」

 

 体が弱く、病弱だった父はそう言った。

 

「正しい呼吸ができるようになれば炭治郎もずっと舞えるよ。寒さなんて平気になる」

 

 この時の炭治郎には父が言うことを何一つ理解することができなかった。

 

「炭治郎、この神楽と耳飾りだけは必ず途切れさせず継承していってくれ、約束なんだ」

 

 そうだ……今なら、わかる。

 

 

 

 

 

「ヒノカミ神楽!」

 

 意識が再び今、この瞬間へと引き戻される。

 炭治郎の黒刀が灼熱の炎の如く燃え上がった。

 

「円舞!」

 

 体温が上がる。心拍数が急上昇しているのがわかる。

 全身にもの凄い負荷がかかる中、炭治郎は勢いのまま走り出した。

 

(止まるな! 走り続けろ! 今止まればヒノカミ神楽の呼吸の負荷に耐えられなくなって跳ね返りが来る!)

 

 闇夜に燃え上がる灼熱の舞で、残る糸を何度も何度も糸を捌きながら前に突き進む。

 

(そうしたら……俺はしばらく動けなくなるだろう……だから……今やらなければ!)

 

 糸は斬れない。攻撃力が足りない。逸らすことしかできない。だがそれで良い。少しでも冨岡さんの役に立つために、禰豆子のために、舞を舞う。

 

(走れ! 冨岡さんを…… 禰豆子を俺が! 守るんだ!)

 

 死ぬかもしれない。でも、鬼舞辻無惨の、配下を減らすために。

 

 俺や禰豆子のような、鬼の被害者を減らすために。

 

「今ここで倒すんだ! たとえ、相討ちになったとしても‼︎」

 

 

 

 

 

 全身が痛い。糸に縛られる中、誰かが声をかける。

 

「禰豆子……禰豆子……起きて……お兄ちゃんを助けるの、今の禰豆子ならできる」

 

 誰? …………おかあ、さん…………?

 

「頑張って……お願い……禰豆子……お兄ちゃんまで死んでしまうわ……」

 

 その言葉に導かれ、衝動が、想いが禰豆子を突き動かす。

 

 カッと禰豆子は目を見開らき、宙に突き出した拳を力強く握った。

 

(血鬼術 爆血!)

 

 鬼を焼く、紅の炎が、炭治郎や義勇、累へと降り注いだ。

 

 

 

 

 

(馬鹿な……糸が焼かれて——⁉︎)

 

 累を焼き尽くさんとするかのように炎が降り注ぐ。それと同時に、少年が殺目篭を一刀両断すると、爆ぜる炎の中から柱と少年が飛び出した。

 

「絶対にお前を——」

 

 糸を破り、義勇の刀と炭治郎の刀が累の頸へ到達する。

 

 炭治郎の髪が炎のように燃え上がり、額の火傷あとが肥大した。

 

(なんだなんだ……この痣は……この感覚……さっきも)

 

 累の脳裏に、紅の長髪の男の姿が浮かび上がる。

 

(これは……僕じゃない……僕の記憶じゃない……まさか、無惨様の……?)

 

「絶対にお前を——」

 

『絶対にお前を——』

 

 記憶の中の男と目の前の少年が重なる。よく見ると2人とも、花札のような耳飾りをつけていた。

 

「逃さない!」

 

『逃さない!』

 

「ひっ……!」

 

 悲鳴を上げて累は後ろへ下がろうとした。しかし、何かが累の足に飛びついて、離れない。

 

「豚太郎! 紋逸を連れてきてやったぜ! 俺様たちも加勢するッ‼︎」

 

「炭治郎ぉ〜! 1人で怖かったよぉ〜! 俺の代わりに、そいつの頸を‼︎」

 

「伊之助⁉︎ 善逸まで⁉︎」

 

 そのお陰で、炭治郎と義勇の刃は累の頸を逃がさなかった。

 

「俺と禰豆子の絆は……」

 

 血の炎を浴びた炭治郎の黒刀の刀身が、炎よりもなお深い赫へと変貌した。

 

(この赫い刀は……)

 

 炭治郎と義勇の刃が累の頸を穿つ。

 

「誰にも‼︎ 引き裂けない‼︎」

 

 爆風を帯びた双閃を受け、累の頭は宙を舞った——

 




義勇さんと炭治郎に痣が⁉︎ 炭治郎は赫刀も⁉︎⁉︎
さすがの累も敵わずボコられました……
この後の展開は、もうお察しですよね()


補足

神楽のシーンはアニメの感じを思い浮かべてくれれば大丈夫です。
ただ、累は力を回収して強化されているため、炭治郎は糸を斬れてません。殺目籠を斬れたのは痣と爆血のお陰です。

本作で、累はどれくらいの強さになって欲しいですか?

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