リアルのほうで色々あり(色々の一言で片付けてしまって申し訳ないです)メンタルがずたぼろだったので長らく療養させてもらってました
またぼちぼち再開していきます〜
「な、ぜお前……が……天——」
「その名で呼ぶな」
下弦の参が短刀を持つ腕に力を入れた。
天元が呻き声をあげる。
「いまの俺は十二鬼月、下弦の参・病葉! お前を殺すために死の淵から這い上がってきてやったんだよ」
天元の脳内に、あの日の光景が蘇る。
「あ、あ゛あ゛‼︎」
まだ忍といて生きていたある日のことだ。
「近ごろ、我々忍の一族を探っている者がいる。そいつらを始末しろ」
父親から告げられた任務。
こちらの情報を漏らさないためにも、覆面を外さないようにとこの男は付け加えた。
普段から単独で任務を遂行することはよくあった。それ以外にも、過酷な修行や任務は日常茶飯事で、現に9人いたきょうだいは既に6人しかこの世に残っていなかった。
「敵はこちらの動きを熟知していると思え」
父親の最後の言葉が少し引っかかったが、そのときはこの言葉について深く考えることもなく、忍び装束に身を包むと家を飛び出した。
違和感。
最初に感じたのは火薬玉を使い敵の視野を遮った時だった。
(後ろに回り込み、先手を取る)
こちらよりやや背が低い。まだ15にもなっていないのだろうか。
そんなことを考えつつクナイを敵の首目掛けて振り下ろした。
「……ッ!」
首を掻き切る直前で、敵は突然振り向き、天元のクナイを叩き落とした。
「チッ」
(速い。いや速いというより、元からこちらの動きを知っているかのようだ)
違和感を覚えつつも、武器を短刀に持ち替え再び敵に肉薄した。
一族の中でも特に、移動および攻撃の速度に定評のある天元である。実際、天元は自分より素早い敵と対峙したことがなかった。
(これにも対応してくるか……動体視力が高いのか?)
敵は防戦一方になってはいるものの、天元の攻撃をある程度捌けていることもまた事実だった。
(俺たちの情報を知っているというのは本当らしいな。ならこれならどうだ!)
懐から複数の煙玉を取り出すと、それぞれの別の方向へとまいた。
天元の聴覚は常人の域を遥かに超えている。音の反響を聞いただけで、人や物の配置や建物の構造を把握できるほどだ。
忍はどのような環境下でも活動できるよう、光がほとんどない夜の暗闇の中でも訓練を行なっている。しかし天元の空間把握能力はそれの比ではなかった。
つまり、天元は視界が制限される夜の暗闇や、霧の中でも普段通りに動くことができるのだ。
減速することなく、天元の短刀は敵の喉を正確に貫いた。
父親曰く、敵の素性はある程度割れているようで、身柄を拘束する必要はないとのことだった。だから容赦なく殺せる。
ひとり始末したのも束の間、すぐに背後から複数のクナイがこちらをめがけて飛んできた。
すべて撃ち落とすと、木々の間を縫うように走り、敵に接近した。
飛び道具を使うということは、自身がどこに潜んでいるかを敵に教えているのと同義である。
(ひとり敵を殺した直後で、緊張の弛緩した瞬間を狙うのは悪くないが……それでも今のは悪手だ)
なによりクナイの軌道が不安定だった。そこまで練度が高くないということだ。
(さっき殺したやつほど強くない)
相手の間合いの3歩手前ほどまで接近すると、短刀を相手の顔面めがけて飛ばした。
(こいつもまだ子供じゃねえか?)
だが忍に情けは無用だ。
相手が短刀を撃ち落とし、一瞬視界が隠れた瞬間に、クナイを両手に持つと、足に力を入れ一気に前へと飛んだ。
あいつから見れば、天元が瞬間移動したように見えただろう。
「⁉︎」
ばってんを描くようにして相手の顔面を深く切り裂く。声無き悲鳴をあげながら倒れる敵を目の端で捉えながら、天元は近くの木を凝視した。
(この距離になるまで気配を感じなかった。何者だ?)
「素晴らしいよ。仮にも同じ訓練を受け、同じ釜の飯を食ったきょうだいをこんなにも無常に殺せるなんて」
木の影から姿を現した人物に驚くとともに、天元は先ほど殺した忍の元へと駆け寄った。
(まさかまさかまさか)
十字を描くように顔面が切り裂かれた忍から覆面を剥ぎ取る。
そこには——
下弦の参・病葉は天元につけられた傷を治すことなく、きょうだいとしてではなく鬼として復讐しにやってきたのだった。