十二鬼月・累の物語 〜Another〜   作:葵巴鈴蘭

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5話 完全体

「や……やった……! 十二鬼月の頸を、斬ったんだ!」

 

 炭治郎は地面に倒れ込んだ。冨岡さんも横に、伊之助と善逸は2人の下敷きになっている。

 

 善逸は目立った外傷は少ないものの、体調が万全ではないのか既に意識を失っていた。

 伊之助は全身の骨が折れているようで、ほとんど意識を失いかけている。

 

「冨岡さん!」

 

 左頬に痣のようなものが浮き出た冨岡さんは熱が出ているようで、呻き声を上げていた。

 

 良かった。深い切り傷がいくつかあるようだが、幸い今すぐ命に関わるような傷はない。

 

 それに……

 

(家に代々伝わる神楽でなぜ技を出せたのかわからない……でも……それで助かった! 勝てた。父さんが、助けてくれた)

 

「あれ……? 禰豆子は」

 

 なんとか周囲を見渡すと、すぐ近くに禰豆子は倒れていた。腹の傷は治りかけており、今は眠っているようだ。

 

(咄嗟に無理な呼吸をしたせいか……耳鳴りがひどい……体中に激痛が走って……早く……回復しなければ)

 

 命に別状はないからと言って全員をそのまま放置するわけにもいかない。

 

「——⁉︎」

 

(血の匂いが濃くなった……⁉︎ そういえばあの灰のような匂いがしなかった……まさか⁉︎)

 

 辺りに再び強く重い気配が漂い始める。先程よりも、なお重い存在感だ。

 

「頸を、斬ったのに」

 

「僕に勝ったと思ったの? 可哀想に。憐れな妄想して幸せだった?」

 

 頸がない、下弦の伍がこちらへと歩いてくる。

 

「鬼だから頸を斬れば殺せる、そう思ったんでしょ。……残念、僕は頸の弱点を克服しているんだよ」

 

「⁉︎」

 

 頸のない体が、腕を動かすと、糸に吊られた頭が降りてきた。

 

(そ、そんな……頸が弱点じゃない鬼がいるなんて……そんなの、一体どうしたら)

 

「もういい。お前も妹も、全員殺してやる。こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ」

 

 下弦の伍が頭を持ち、元あった場所へと戻すと、なんと頸が再生した。

 

「そもそも何でお前らは燃えてないのかな? さっきの炎……僕と僕の糸だけ燃えたよね」

 

 憤怒の形相で鬼が一歩一歩近づいてくる。

 

「妹の力なのか知らないがイライラさせてくれてありがとう。何の未練もなくお前達を刻め——」

 

 

 

 

 

「蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞(ごこうのまい) 百足蛇腹(ひゃくそくじゃばら)

 

 目にも止まらぬ速度で鬼に接近する女……蟲柱・胡蝶しのぶは、下弦の伍に刀を貫通させた。

 

「⁉︎ 僕の感知を掻い潜った? て、なんだこの刀。ただの突きじゃあ……」

 

 急に鬼は片膝をつく。

 

「これは……毒か‼︎」

 

(同じ柱である冨岡さんと他の4人が協力しても倒せなかった鬼……頸が弱点じゃないならわたしの毒で!)

 

「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞(せいれいのまい) 複眼六角(ふくがんろっかく)!」

 

 

 高速の六方向からの連続突きを放つ。別種類の毒を大量に注入した。

 

 

 

 

 

「次から次に、僕の邪魔ばかりするクズ共め!」

 

 苦しみながら、累は後退する。

 

 あの女……僕の感知を逃れていた……それだけじゃない、なんだこの毒は。鬼に通常の毒物は効かないはずなのに。

 

 父さんに与えていた血鬼術を使い、累は全身を強化した。

 

 全員の皮膚にヒビが入り、剥がれ落ちる。

 

 容姿はほぼ変わらないが、より強靭な肉体に変化したのが分かった。

 

 それだけではない。実は累は先程まで、家族鬼から血鬼術と血を回収したものの、少ししか消化しておらず、完全に自身の力としては吸収していなかったのだ。

 それをたった今、完全に吸収し、消化した。

 

 累の体に本来の、完全な力が戻る——

 

 すぐに毒の抗体を生成する。父さんに与えていた身体能力を回収し、肉体に反映した今、その程度他愛もない。

 

「クズが」

 

 解毒に驚いた女の柱隙をつき、蹴り上げる。累のつま先が腹に突き刺さり、柱は上に飛ばされた。すぐに、それを上回る速度で上に移動すると拳を叩き下ろし、柱は地面にめり込んだ。

 

 柱が動かなくなったのを確認するのと同時に、辺りが明るくなりつつあることに気づく。いつの間にか、かなりの時間を浪費してしまったようだ。夜明けが近い。

 

 累は全力で走る。

 

(全員殺しておきたかったが仕方ない)

 

 男の柱が、ふらつきながら追いかけてくるが、更にその背から誰かが大声で叫んだ。

 

「逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!」

 

(僕の家族の絆を引き裂いておいて……! 何いってるんだあいつは)

 

 累は柱を振り切るべく那谷蜘蛛山を駆け降りる。まさかここを去ることになるとは夢にも思わなかった。

 

(僕と家族の静かな暮らしが……)

 

 そういえば。市松模様の羽織のガキも、男の柱も、記憶にある剣士と同じような痣を発現させていた。

 

(あの2人は確実にあの時の僕の頸を斬れるだけの力を発揮していた。恐らく今の僕の頸にも……)

 

 頸の弱点を克服したというのは嘘だ。実際は、斬られる寸前に自身の糸で頸を切断した。そうすることで、死を免れたのである。

 

(だがあの赫い刀。あれは記憶の中の剣士と同じ刀だった。無惨様に報告しないと……)

 

 鬼の妹の血鬼術もそうだったが、刀が触れた部分に焼けるような痛みを感じた。再生が阻害されているかのようだった。

 

(無惨様無惨様)

 

 累は心の中であの方とのコンタクトを図る。

 すぐにあの方は呼びかけに答えてくださった。

 

『累。すぐに戻れ』

 

 目の前に障子が出現し、琵琶の音と共に開いた。

 

 




まだ累は全力じゃなかった⁉︎


力を抜き取られた家族鬼はどうなったんでしょうね?

本作で、累はどれくらいの強さになって欲しいですか?

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