俺はいつか地獄に落ちる。
父親の策略だったとはいえ、きょうだいを2人も手にかけたという事実に変わりはない。
俺はいつか地獄に落ちる。
「いまの俺は十二鬼月、下弦の参・病葉! お前を殺すために死の淵から這い上がってきてやったんだよ」
(なぜ……お前は俺が殺してしまったはず……)
病葉は刺した短刀を引き抜き、そのまま天元を蹴り飛ばした。
(まずい……意識が)
もう天元は限界だった。既に片腕を切られているのである。満身創痍な上に不意打ちで致命傷を負い、その上、死んだはずのきょうだいが蘇ってきた。
「いまの俺は鬼だ! 死に体に鞭打ったところで人間であるお前なんかには負けないんだよ」
(やべえ……呼吸もままならねえぞ)
「宇髄さん‼︎」
炭治郎がこちらの様子に気が付き声を上げている。だが嫁3人を抑えるのに手一杯でこちらに来ることはできないようだった。
(肺に残っている空気であと1発……いや2発は型を繰り出せる)
片腕だと体を支えるのがここまで難しいとは。それだけでなくもう体力もほとんど残ってし、何より出血量が多すぎる。この2回でなんとか2人の鬼の隙をついて、回復の呼吸を……
「音の呼吸 壱ノ——」
「遅い」
天元が地面へと振り下ろそうとしたその腕を病葉は真横から手刀を叩き込み軌道を逸らした。
速い
天元の記憶の中にある弟よりも体術が練磨されている。それだけでなく、敏捷も下弦の鬼の域を出ているように思えた。
「きょうだいを殺したお前を地獄に送らないと気が済まない」
(ああ……こりゃだめだな)
その言葉が天元の胸を深くえぐる。
頼りの残った片腕だって今の一撃で痺れ、上手く力が入らない。
ゲラゲラ笑っていた妓夫太郎もそろそろこの時間を終わらせようとしているようだ。
竈門、我妻、嘴平……雛鶴、まきを、須磨……鬼殺隊のみんな……お館様……ごめん。俺は……
俺は地獄に落ちる。
「つらいね天元。君の選んだ道は」
お館様だ。あのころはまだ病の状態もそこまで深刻ではなく、いまより若く元気だった。
「自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら、戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ」
部下は駒、妻は跡継ぎを産むためなら死んでもいい、本人の意思は尊重しない、そして無機質。そんな人間にはなりたくなかった。
「様々な矛盾や葛藤を抱えながら君は、君たちはそれでも前を向き戦ってくれるんだね……人の命を守るために」
そうだ。俺は、俺たちは人の命を守るために戦ってきた。
でも何のために? 俺は鬼に身内を殺されたわけでもないのに何故? どの道いつか地獄に落ちることは決まってるのに、そんなことに意味はあるのか?
俺は地獄に——
「ありがとう」
地獄に——
「君は素晴らしい子だ」
殺したはずのお前が俺の目の前に現れた時、とうとう地獄に落ちる日が来たのかと思った。
雛鶴が泣いている。まきをは怒っている。須磨は噛みついてきた。
そうか。そうだった。
なんで忘れてたんだ。もう決めたことだったのに。
俺は……俺たちは……
意識を現実へと引き戻す。
「俺は……地獄には行かない! まだ死ぬわけには行かないんだよ‼︎」
天元の左目を囲むように描かれた化粧が燃えるように広がり——
——痣が発現した
たぶん次の更新は新年になりそう笑