長かった電車での旅が終わった。
電車から降りて、駅のホームへと入ると、ちょうどそのタイミングでスマートフォンに通知が来た。
それは、私の旦那からのLINEだった。
愛している。
そんな甘い言葉が、そこには書かれてあった。
……今の私は、熱々カップルとして周囲からは有名だ。
大人になった私は、職場恋愛をして、結婚をして、周りの誰からもそれを祝福されていた。
「ふふ……」
だから私は、幸せそうな顔をする。
そういう顔をしていれば、本当に、自分が幸せであるような気持ちになれる。
……というか、本当の幸せなんて、そんな哲学的なものに私はそもそも興味がない。
今が楽しければ、それでいいではないか。
「私も愛してるぞー、っと……」
そう呟きながら、同じ文面のLINEを返す。
そうして、顔をニヤニヤとさせたまま、私は自宅への帰路に着いた。
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……人間には、嘘という物が必要だと思う。
本当の自分。本当の世界。
そんなものと向き合い続けたら、おそらく、人は壊れてしまう。
窓付きはそれを知らなかった。
それを知れる程大人ではなく、それを出来るほど鈍感でもなかった。
窓付きはこの世界のおぞましさを見続け、それに何の嘘も付かなくて、だから当然のように、壊れていった。
「……………」
いや、逆か?
本当は、彼女だけがまともだったのだろうか?
私達はみんなおばけで、壊れていない方がおかしくて、生きている方がおかしくて……。
「…………お、100円」
私は、垂れ流されていたそんな思考をふと中断する。
自動販売機の裏に100円が落ちていたのを見つけたのだ。
……私は別に、お金に困っている訳ではない。
なんなら、私は結構な金持ちだ。
だけど、そういうのはあまり関係がない。どんな小銭でも、嬉しいものは嬉しいのだ。
「ラッキー」
……私の、自分に嘘を付くスキルというものは、社会というものからは理不尽な程に重宝された。
嘘ばかり付く私には、ごく自然と、沢山の友達が出来た。
上手く着飾ってみせるだけで、みんなが私に一目を置いてくれた。
だから、青春を送れた。
だから、就職なども上手く行った。
だから、今も旦那と熱々カップルで居続けられている。
「~~~~~♪」
30年生きてきて、分かった事が幾つかある。
その中の一つは、この世界で生きていく力と、自分を幸せにする力というものは、全然別物だということだ。
だって、そうだろう。
この世界はそもそも、おばけの世界なのだ。
おばけの世界で生きながら、自分がおばけである事に傷つく力。そんなものが、生きていく上で、一体何の力になるだろうか?
いや、まあ、芸術家とかになるなら別なのかもしれない。
あるいは、空気を読む力というのは、それとはまた別に必要だ。
だけど、もっと本質的なところでは、おそらくそれは、生きていくのには必要がない。
だって、私は生きている。
……私だけが、生きている。
のうのうと、これから先も、ずっとずっと、生きていく。
あのゆめにっきを読み終えてから、もう15年の月日が流れた。
そんな15年間の時間の中で、私はもう一つ、分かった事がある。
ゆめにっきを見てしまった事で、私はあんなにも悩んだ。
窓付きが死んだ事で、私はあんなにも悲しみ苦しんだ。
……だけど、そんな悩みにも、苦しみにも、私などでは何も答えが出せなかった。
私の本質は、やっぱり、どうしようもないほど鈍感な人間だった。
そして私は社会的に、やっぱり、どうしようもないほど恵まれている人間だった。
そんな私にとって、窓付きが抱えていた悩みというものは、この世の何よりも大切なものだったような気がしたのに、結局、どういうものだったのか全然何も分からない。
「あはは、あははは」
あの子が死んでも、結局の所、私には何も関係がない。
だけど、だからこそ、本当はどうしようもなく、……私にはあの子がいないとダメだった。