私が殺した、ゆめにっきの女の子   作:最後のかしわもち

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小説10話 あの子が死んでも、私の人生には結局関係がない

 長かった電車での旅が終わった。

 電車から降りて、駅のホームへと入ると、ちょうどそのタイミングでスマートフォンに通知が来た。

 

 それは、私の旦那からのLINEだった。

 愛している。

 そんな甘い言葉が、そこには書かれてあった。

 ……今の私は、熱々カップルとして周囲からは有名だ。

 大人になった私は、職場恋愛をして、結婚をして、周りの誰からもそれを祝福されていた。

 

「ふふ……」

 

 だから私は、幸せそうな顔をする。

 そういう顔をしていれば、本当に、自分が幸せであるような気持ちになれる。

 ……というか、本当の幸せなんて、そんな哲学的なものに私はそもそも興味がない。

 

 今が楽しければ、それでいいではないか。

 

「私も愛してるぞー、っと……」

 

 そう呟きながら、同じ文面のLINEを返す。

 そうして、顔をニヤニヤとさせたまま、私は自宅への帰路に着いた。

 

 

---

 

 

 ……人間には、嘘という物が必要だと思う。

 本当の自分。本当の世界。

 そんなものと向き合い続けたら、おそらく、人は壊れてしまう。

 

 窓付きはそれを知らなかった。

 それを知れる程大人ではなく、それを出来るほど鈍感でもなかった。

 窓付きはこの世界のおぞましさを見続け、それに何の嘘も付かなくて、だから当然のように、壊れていった。

 

「……………」

 

 いや、逆か?

 本当は、彼女だけがまともだったのだろうか?

 私達はみんなおばけで、壊れていない方がおかしくて、生きている方がおかしくて……。

 

「…………お、100円」

 

 私は、垂れ流されていたそんな思考をふと中断する。

 自動販売機の裏に100円が落ちていたのを見つけたのだ。

 ……私は別に、お金に困っている訳ではない。

 なんなら、私は結構な金持ちだ。

 だけど、そういうのはあまり関係がない。どんな小銭でも、嬉しいものは嬉しいのだ。

 

「ラッキー」

 

 ……私の、自分に嘘を付くスキルというものは、社会というものからは理不尽な程に重宝された。

 嘘ばかり付く私には、ごく自然と、沢山の友達が出来た。

 上手く着飾ってみせるだけで、みんなが私に一目を置いてくれた。

 だから、青春を送れた。

 だから、就職なども上手く行った。

 だから、今も旦那と熱々カップルで居続けられている。

 

「~~~~~♪」

 

 30年生きてきて、分かった事が幾つかある。

 その中の一つは、この世界で生きていく力と、自分を幸せにする力というものは、全然別物だということだ。

 

 だって、そうだろう。

 この世界はそもそも、おばけの世界なのだ。

 おばけの世界で生きながら、自分がおばけである事に傷つく力。そんなものが、生きていく上で、一体何の力になるだろうか?

 

 いや、まあ、芸術家とかになるなら別なのかもしれない。

 あるいは、空気を読む力というのは、それとはまた別に必要だ。

 だけど、もっと本質的なところでは、おそらくそれは、生きていくのには必要がない。

 

 だって、私は生きている。

 ……私だけが、生きている。

 のうのうと、これから先も、ずっとずっと、生きていく。

 

 

 

 あのゆめにっきを読み終えてから、もう15年の月日が流れた。

 そんな15年間の時間の中で、私はもう一つ、分かった事がある。

 

 ゆめにっきを見てしまった事で、私はあんなにも悩んだ。

 窓付きが死んだ事で、私はあんなにも悲しみ苦しんだ。

 ……だけど、そんな悩みにも、苦しみにも、私などでは何も答えが出せなかった。

 

 私の本質は、やっぱり、どうしようもないほど鈍感な人間だった。

 そして私は社会的に、やっぱり、どうしようもないほど恵まれている人間だった。

 そんな私にとって、窓付きが抱えていた悩みというものは、この世の何よりも大切なものだったような気がしたのに、結局、どういうものだったのか全然何も分からない。

 

「あはは、あははは」

 

 あの子が死んでも、結局の所、私には何も関係がない。

 だけど、だからこそ、本当はどうしようもなく、……私にはあの子がいないとダメだった。

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