「……やっと着いたぁ」
家の前だ。
今の私の、大事な大事なマイホーム。
……私は、窓付きとは違う。
この扉をくぐれば、私には幸せだけが待っている。
それは私という人間を癒し、慰め、そして本当の私を薄めてくれる。
「………………」
扉の前で、私は少しだけ立ち止まっていた。
立ちすくんでいたと言ってもいい。
……今日は久々に、窓付きの事をあそこまで深く思い返した。
だからなのだろうか?
何となく、このまま日常に戻ってしまいたくなかった。
「はは……」
悪い冗談だと思う。
私はこんなにも、恵まれた毎日を過ごしているのだ。
それなのに、それでもそれはそれで、この扉を開けるのには別の勇気がいるらしい。
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私はこれからも、普通の中で生き続けるのだと思う。
そしてきっと、寿命が尽きて無になるまで、目先の欲求のままに全てを曖昧にし続けるのだと思う。
あの子はきっと、あれから先もあのゆめにっきを描き続けたのだと思う。
そして、何かを完成させ、それを抱いて、彼女なりに何かに納得をしながら死んでいったのだと思う。
私の人生には、お金がある。
愛もあり、名誉もあり、そこそこの幸せすらもある。
……けれど、おそらく彼女が抱いた、その為に死んでしまえる程の何かだけはそこにはない。
あの子のゆめにっきに描かれた私は、最後は、一体どんな顔をしていたのだろう?
……きっと、私がこれから会う全ての人が、その答えを知らない。
そして、どうしようもなく醜く愚かな私も、本当に深い所では、それを知りたいとは願えない。
だからきっと、それを私は一生知りえない。
もういないあの子だけが、その答えを知っていたように思う。
「……寒」
外は、どうしようもなく肌寒かった。
だから、そろそろ暖房の効いた家の中に入りたかった。
きっと私は、ただそれだけの理由で、この躊躇いなども忘れてしまう。
長くても、この発作はあと3分くらいだろう。
その後にはもう、私はこのドアに手をかけ、ただいまと言い、柔らかな暖かさにだけ包まれている筈だ。
だって、私はおばけだ。
私は結局、どうしようもない程に、ただのおばけなのだ。
「あはは……。なのに、なんでなんだろうね?」
それなのに、今でも時々、発作のようにこれは起こる。
どうせ一瞬後には忘れる癖に、その一瞬の間だけ、どうしようもなく苦しんでしまう。
亡者の癖に。答えなど、どうせ出せない癖に。それでも何故か、一丁前に、今でも時々、考えてしまう。
あの子は一体、どんな子だったのか。
この世界は、本当はどんな形をしているのか。
私は一体、何者なのか。