私が殺した、ゆめにっきの女の子   作:最後のかしわもち

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小説4話 あの子は、ゆめにっきを私に見せてくれた

 電車に揺られたまま、記憶の時間を少し飛ばす。

 ……窓付きと出会って、友達になって、そこから先は、少しの間特に大きな出来事は無かった。

 やった事と言えば、窓付きにテレビゲームをさせてずっとニヤニヤしていただけ。

 窓付きは私の持つゲーム達にひたすら夢中になっていて、私はそれを、ただ満足げに眺めていただけだった。

 

「……ゆめにっきが出てくるのは、この後だもんね」

 

 その頃の私はまだ、何も知らなかった。

 彼女がどれだけ、狂っているのかを。

 彼女がどれだけ、尊いのかを。

 

 

---

 

 

 窓付きとの出会いから、1か月程が経った頃だったろうか。

 

「ゲームクリア、おめでとー」

「……これで、おわり?」

「このゲームは裏ダンジョンとかはないからね。だから、エンディングを見たら終わりだよー」

「……そう……」

 

 窓付きが一番夢中になったRPGゲーム。

 それが、ラスボスを倒して無事エンディングとなった。

 窓付きがコントローラーを置いて、エンディングの余韻も次第に冷めていって、私達の間に、何もない時間が流れ始める。

 

「ねえ窓付き、次は何がしたい?」

 

 優越感の為に、もっと彼女が喜ぶ事をさせてあげたい。

 そんな思いで私は尋ねる。

 

「……なに、すればいい?」

 

 窓付きは、困ったようにこちらへと尋ね返す。

 

「私は別に、窓付きが楽しければなんでもいいけど?」

「…………」

 

 窓付きは基本的に、うろついている時以外は誰かの言いなりになっている。

 だから、自分で行動の指針を決めるのが苦手なのだろう。

 私は少し考えて、窓付きから何か、次の行動を引き出そうとした。

 

「窓付きってさ、普段は何してるんだっけ?」

「さんぽ……」

「それ以外は?」

「ゆめにっき……」

「……ああ。そういえば、そうだったね」

 

 この頃の私はまだ、本質的に、窓付きという人間自体には全然興味がなかった。

 ただ、優越感を感じさせてくれるだけの可哀そうなおもちゃで遊んでいるだけだった。

 だから、最初に会った時に話して貰った事なんて、1か月もあればもうすっかり忘れていた。

 

「夢日記って、どんなのだっけ?」

「ゆめの、にっき……」

「きのうは、もりのおばけ……」

「とりにんげんが……はしってくる……」

 

 ……当時の私はまだ、そんな事を言われても何もイメージなど出来ない。

 

「あー、じゃあさ、それ見せてよ」

「……え?」

「なんか、面白そうだし」

 

 本当に、ただの思い付きだった。

 この子が日々、どんな事を考えているのか。

 この子が日々、どんな夢を見ているのか。

 窓付きという少女があまりにも無口な事もあって、私はそれを、何となく知ってみたいと思ったんだ。

 

「………………」

 

 窓付きは、悩んでいた。

 ……きっと、本当に凄く悩んでいたと思う。

 あのゆめにっきは、おそらく窓付きにとって、誰にでも見せていいようなものではない。

 彼女にとってのあれは、全てが傷だらけの彼女にとって唯一の、誰にも汚せない聖域だったのだと思う。

 

「…………いいよ」

 

 だけど、窓付きは許可をくれた。

 ……きっと、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、それでも深い深い勇気を出して、私の事を信じてくれた。

 

「ありがとー。じゃあ今度遊びに来る時、持ってきてよね」

「……うん」

 

 好奇心と、暇潰し。

 ……私はただ、そんな何処までも軽い気持ちで、ゆめにっきへと触れる事となった。

 

 

---

 

 

 そして、次に遊びに来た時。

 窓付きはちゃんと約束を守ってくれた。

 

「これ……」

 

 窓付きは、漢字が書けない。

 だから、渡されたノートの表紙には、ひらがなで『ゆめにっき』とだけ書かれていた。

 

「えっと、どれどれ……」

 

 私は早速、ぱらぱらとノートをめくってみた。

 

「……うわ」

 

 ……確か最初、思わずそんな声を出した。

 一言で言えば、引いた。

 ゆめにっきには、文字が全く書かれていなくて、絵ばかりが描かれてあった。

 そして、その絵は何と言うか……、とても不気味で、おどろおどろしい絵だった。

 

「……どう?」

 

 窓付きは、まるで審判を待つ罪人のような瞳でこちらを見つめる。

 ……流石に当時の私でも、ここでキモいと言わない程度には空気を読めた。

 

「……何て言うか、前衛的だね。

 こういうの、アウトサイダーアートって言うんだっけ?

 テレビの特集とかでやってるの、見た事ある気がするよ」

 

 ……一応、そう感じた事も、丸っきりの嘘ではなかったようにも思う、

 

「ぜんえいてき……?」

「うん。芸術的って意味」

「げいじゅつ……?」

「あーえっと、なんていうか、そう。よく出来てるって意味だよ」

 

 窓付きは、全然よく分かっていなさそうだった。

 だけど、自分が褒められている事だけは何となく理解したらしい。

 不安そうだった顔を次第にほころばせて、とても、とても深い安堵を浮かべていた。

 

「……いやぁ。しかしこれ、確かになんか、よく見てみると凄いね」

 

 一目見た時の感想は、ただの気持ち悪い変な絵。

 しかし、小難しい事を言ってみてから改めてそれを見返すと、不思議な事に自分でも味があるように思えてくる。

 

「なんか、参考にした絵とかあるの?」

「……ない」

「じゃあ、落書きみたいな感じなんだ?」

「ゆめのえ……。わたしのゆめの……かたち……」

「へー」

 

 単なる夢の絵と言うには、それはあまりにも、不気味過ぎるものだった。

 ……しかし、その時の私は本当に何も考えていなかったので、言われてみれば人間の夢とは、このようなものであるような気がしてきていた。

 

「……そういえば私も、インフルエンザで寝込んでた時とか、こんな夢見てたような気がするよ」

「ほんと……?」

「うん、ほんとほんと」

 

 ぱーっと、窓付きの顔が更に明るくなる。

 あの子はとても私に懐いていたが、特にその瞬間は、本当に嬉しそうな顔をしていた。

 

「起きる度に忘れるけどさ。夢って確かに、こんな感じなのかも。

 ……そう考えると、なんか面白ね。これ」

 

 我ながら、浅い感想だったと思う。

 だけど、それが私の素直な感想だった。

 まだ何もなかった時の、一番純粋な、私という人間のゆめにっきへの感想だった。

 

「これとかさ……、凄い不気味だけど、何なの?」

 

 私は、特に目に付いた部分を窓付きに尋ねてみる。

 

「これは、すうじのせかい」

「ちゃっくがいっぱい」

「おばけもいっぱい」

「ひょっとこがあって、かくれてるの」

 

 ……その意味は、何も分からない。

 

「あはは、何それ」

 

 私はとりあえず、笑っておいた。

 そして好奇心の赴くまま、更に内容を尋ね続けた。

 

「じゃあ、これは?」

「……これは、しろくろのせかい」

「こわいかいぶつ、いる」

「でもかいぶつ、おすわりできる」

「ものえ、いる」

「ものこも、いる」

「みんな、かくれてる」

「しろくろはみんな、かくれてる……」

 

 なんか変なの。

 そんな感想しか浮かばない。

 ……今でもたぶん、それは変わらないと思う。

 

「じゃ、これは?」

「……これは、たてみんぞくのせかい」

「みんな、たて、もってる」

「たてで、みんな、まもってる」

「すこしでいたり、いっぱいでいたりして、まもってる」

 

 これなら、私にも少しは分かるかも。

 ……愚かにも、そんな事を思っていたような気がする。

 

「心理学的に、拒絶の心みたいな?」

「しんりがく……?」

「えっと、夢には人の深層心理ってのが現れるんだよ。だから窓付きは、この盾民族みたいになりたいのかなって」

「そうなの……?」

「いやまあ、私に聞かれても困るけどさ……」

 

 窓付きは興味深そうに私の話を聞きながら、ノートの一部分を指さす。

 

「ここ、ねこある」

「ねこならわたし、なりたい」

「ねこだと、みんなやさしいの」

「へー」

 

 かわい子ぶる事による防衛本能的な、そういう奴だろうか?

 ……何も考えず、そんな浅い事だけを感じていたと思う。

 

「……やっぱこれ、意外と面白いかも」

 

 心理学的な意味みたいなのが見えてくると、ますますそれが味わい深いものであるように思えてくる。

 もしかしたら、さっきの数字の世界や白黒の世界にも、何かちゃんと意味があるのかもしれない。

 私はどんどん興味深くなって、またページをめくっていく。

 

「うわっ……、こ、これは……?」

「……これは、らくがきのせかい」

「なんか、生理的嫌悪感というか、今までに増して不気味なんだけど……」

「うん……こわい……」

「じてんしゃ……のりたい……」

「といれ……いきたい……」

「こわい……」

「こわい……の……」

 

 気持悪いし、意味が分からない。

 そんな感想しか浮かんでは来ない。

 

「やっぱ、人が見る夢に意味なんて無いのかも……」

「そうなの……?」

「……さあ?」

 

 ゆめにっきは、不気味だった。

 でも私は、何故か、そのゆめにっきを耽るように読み進めていった。

 見れば見る程おかしくて、でも何故か、見れば見る程吸い込まれそうな魅力がある。

 そんな、不思議な日記だった……。

 

 

----

 

 

 少しして、一通りその夢日記を読み終わった。

 それを読み終えた後。私は初めて、窓付きという人間自体に少し興味が芽生え初めていた。

 

「そういえばさ……。窓付きのお父さんって、何してるの?」

 

 この子の家庭環境が、間違いなく異常である事は察していた。

 でも私は、ただのおもちゃであるこの子を助けたいとかは、本当は別に全然思っていなかった。

 だから、そんな事を聞くのすらこの時が初めてだった。

 

「おとうさん、しんだ……。こうつうじこ……」

「……そうなんだ」

 

 また一つ、この子の闇が垣間見える。

 

「じゃあお母さんと2人か」

「うん……、ふたり……」

 

 窓付きはそう呟いた後、少しだけ躊躇ってから、言葉を続ける。

 

「でも……、おかあさんも……おかあさんじゃない……」

「……え?」

「ふたりめ、なの……」

「いまのおかあさん、ふたりめ……」

「ほんとのおかあさんじゃ……ないの……」

 

 ……きっと、そんな事を思ってしまっている自分への後ろめたさもあったんだと思う。

 窓付きはとても辛そうに、そんな事を話していた。

 

「じゃあ、1人目がいるんだ」

「うん……。でも、こうつうじこ……」

「……また事故?」

「……よくわかんなかった」

「そうって……きいた……」

 

 窓付きは泣きそうな顔で、服の裾をぎゅっとつまむ。

 

「おねえちゃんも……」

「おとうさんも……」

「おかさんも……」

「みんな……ちだらけ……ばらばら……」 

「わたしだけ……いきてた……」

「わたしだけ……」

 

 ……この時の私はまだ、窓付きの話をただぼけーっと聞いている。

 けれど、これから先の私は、生涯を通じてこのゆめにっきの意味について考えていく事となる。

 

 その考察の、最初のとっかかりになるもの。

 それは、先程のゆめにっきの白黒の世界の話と、窓付きが今している悲しい幼少期の話だ。

 

 ……白黒の世界は、おそらく、窓付きの最初の両親が死ぬまでの世界を投影している。

 年齢としては、おそらく、生後から3歳くらいまでの間の期間。

 窓付きは、まだ幼稚園にすら通っていないそんな段階で、道路交通法とかそういう概念を何も分かっていない段階で、家族を全員失っている。

 しかも、ただ失っただけではない。

 おそらくその時、窓付き達は一家でただ普通に歩道を歩いていた。そしてその時に、たぶんトンネルのような壁に囲まれた閉所で、本当に何の前触れもなく、トラックか何かが歩道に突っ込んできた。

 だから、意味も分からないまま突然目の前で家族全員が跳ね飛ばされて、直ぐ手前の壁に挟まれて、大破の爆発に巻き込まれて、ミンチのようにグチャグチャに潰れ合って、気が付けば四肢がバラバラになったそれぞれが苦悶の表情を浮かべながら息絶えていった。

 ……おそらくそういう、本当に、考えうる限り最悪の事故だったんだと思う。

 まだ幼い窓付きにとって、それがどれだけ恐ろしい体験だったか、私には、想像する事すら出来ない。

 

「そのあと……おとこのひとが……わたしを……つれてった……」

「……親戚の家に預けられたって事?」

「わかんない……」

「こわかった……」

「かえりたかった……」

 

 ……いきなり、全然知らない人の家に預けられる。

 まだ物心も付いていないような子供の視点からしたら、殆ど、誘拐されているのと同じだった事だろう。

 

「まあ、よく分かんないまま親権が移って、その人が2人目のお父さんになったんだよね?

 2人目のお父さん、そんなに怖い人だったんだ?」

「わかん……ない……」

 

 窓付きは、けれど首を横に振る。

 

「わたし……ずっとへやにいた……」

「せかい……ずっとばらばらだった……」

「ぽちは……あたまからあし……」

「ほとけさまも……かおがはんぶん……」

「となりでものこが……ずっとずっと……くるしんでる……」

 

 ……ゆめにっきの中の白黒の世界は、何時も2つに分断されていた。

 1つ目は、モノ子達がいる広い世界。2つ目は、犬のような何かがいるだけのとても狭い世界。

 あまりにもヒントが少なくて、この考察を思い付くまでかなり苦労したけど、その2つ目の場所はおそらく、事故の後に預けられた親戚の家だったんだと思う。

 あの場所は確かに、不自然な程に閉ざされていて、何故かモノ子達のいる場所に行く術が何もなかった。

 

「おとうさん……とおくからみてた……」

「ずっとずっと……ただみてた……」

「あかかった……」

「わたし……いつまでも……へやにいた……」

「ほかにどこにも……いかなかった……」

「それをずっと……ただみてた……」

「だから……だんだん……くろくなった……」

 

 ……そしてこれが、樹海道路と白黒の世界Bの間にいた、謎の怪物の正体だったんだと思う。

 あれは、本当はただ、トラウマに苦しむ窓付きを見守ってくれているだけの親切な親戚だった。

 あの赤いグロテスクな怪物は、当時の窓付きの視点だから怪物に見えただけで、実際は怪物でも何でもなかったのだ。

 

「せかいにいろ……ついてきた……」

「だからわたし……やっと……もりにいった……」

「おとうさん……わたしがかまうと……ほんとにすごく……よろこんだ……」

「わるものじゃないのかも……」

「やっと……そうおもいはじめたとき……」

「もりのおく……」

「……じこで……しんだ……」

 

 これが、窓付きの幼少期に起きた一連の何かの全容だったんだと思う。

 ……悲惨という、そんな言葉では言い表せない。

 彼女にかける言葉なんて、私は今でも持ち合わせていない。

 

「そっか……。

 じゃあそれで、血の繋がってないお母さんと2人きりになったんだ。

 お互いに全然知らない人同士だろうし、大変だったろうね……」

 

 窓付きはまた、首を振る。

 

「いちおう……あってた……」

「むかしも……いた……」

「だけど……こわくなかった……」

「ふつうの……ひとだった……」

「だけど……おかあさん……つめたくなった……」

「すごく……こわくなった……」

 

 まあ、それはそうだろう。

 親戚の子供に最初から冷たく当たる理由なんて、別に誰にもない。

 ……窓付きの母親という人物は、知れば知るほど本当に最低な人物だったが、それでも、彼女にも一応彼女なりの事情はあったのだろうとも、今では思う。

 

「まあそりゃ、大変だろうね。子供とかいたら、再婚とかするのも難しいだろうしさ」

 

 その時の私はただ、漠然と思った事を呟いた。

 子供ながらに私は、一応、そういう下世話な事を想像出来る程度の知能はあった。

 ……けれど、窓付きはまた、小さく首を振った。

 

「さいこん……してる……」

「おとうさん……ほんとは……いる……」

「あ、もう再婚してたんだ。……じゃあ、3人目のお父さんか。複雑だろうなぁ」

 

 だから私は、聞いてしまった。

 

「その人は、どんな人なの?」

 

 私は中途半端に知識があるだけで、地頭はたぶん悪い。

 本当に空気が読める人間なら、そんな事は聞かない。

 だって、それが聞いていい事なら、窓付きがわざわざ一度、母親と2人だと嘘を付いた理由なんてなかった。

 

「……やだ……」

「やだ……やだやだやだやだやだ……」

「やだやだややだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 ……たぶん、その人が赤の王様だったんだと思う。

 

 

 窓付きには、父親が3人いる。

 白黒の世界の、バラバラ死体であるモノクロUFOが、本当の父親と母親。

 樹海わきの道路の死体さんが、親戚という事で後継人になった2人目の父親。

 そして、彼女の中でも最も恐ろしい記憶である赤の王様が、3人目の父親。

 

 それで様々な事の辻褄が合う。

 ……私が本格的にそんな考察を始めたのは、この子が死んで全てが手遅れになってから、ずいぶん経った後だった。

 

 

---

 

 

 子供の頃の私は、自分を可哀そうな人間だと信じていた。

 広い家に独りぼっちなのが私だ。

 全然かまって貰えない。何時も仕事ばかりで、親などいないのと変わらない。

 その癖、帰ってきたら何時も、やれ勉強しろとばかりで煩い。

 

「ああ、なんて可哀そうな私」

「こんな下らない家、何時かは出て行ってやる」

 

 中学生になった辺りから、私は完全にスレていて、そんな事を願わない日はなかった。

 

 ……けれど、私は偽物だ。

 人の不幸なんて当人の尺度次第かもしれないが……。それでも、本物の可哀そうな人というのは、そういうものではないのだと思う。

 だって、少なくとも一人、ここに実例がいた。

 

 別に、遠い国の話でも何でもない。

 窓付きが住んでいるのは直ぐ隣の町。

 私の家まで歩いて通えるくらいの距離。

 そんな場所に、こんなにも、意味が分からないくらい悲惨な境遇の子がいる。

 

 ……醜い私が感じたものは、嫉妬だった。 

 自分が大切に座っていた席。そこを突然、横から奪い取られたような気がしていた。

 

「……分かるよ」

 

 だから私は、そう嘯いた。

 ……豪語をして、嘘をついた。

 

「……ひっく……ひっく……」

 

 窓付きはぎゅっと、私に抱き着いてきた。

 

 「よしよし……」

 

 頭を撫でた。

 お前は私より下なんだぞ。

 言いたいのは、あくまでそんな事だった。

 

「……ぁぁ……ぁぁぁぁ………」

 

 窓付きはやはり、信じれらないくらいに可愛かった。

 席を奪われたのはショックで、それは悔しくてムカついたけど、やっぱりそれよりもまだ、彼女が与えてくれる優越感の方がずっと大きかった。

 私は愚かで、だからそれで満足した。

 

 

 私は、恵まれている、

 どうしようもない程に。狂おしい程に。

 

 だから、分からない。

 人に優しくすることはできる。人の悲しみに悲しむ事もできる。

 けれど、私にはきっと、本当の人の心の痛みなど分からない。

 

 ……だから私は、窓付きの絵を見ても表面的な理解しか出来ない。

 ゆめにっきに書かれていた絵なんて、本当は今でも、ただの変な絵だとしか思えない。

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