「僕が_____魔王…?」
「ハイ!」
ダクリールが目を細めて笑う。
それに対し僕は理解が及ばず脳が混乱している。
魔王は勇者にこそ負けたけどその圧倒的な力と指揮力で魔族のトップに君臨していた暴君だ。そんな化け物が……僕?
はは、と乾いた声が出た。とてもじゃないけど信じられない。
まだ「君はほんとうは魔族なんだ」と言われたら信じたかもしれない。散々周囲から魔族なのではないかと噂されていたんだ。それが事実だったに過ぎない。でも魔王となると別だ。
「魔王を探し続けていた生き残りの魔族…でも僕は魔王なんかじゃないよ。なにかの間違いじゃ?そもそも魔王は400年前に…」
「死んだ。しかしそれは事実ではないのですヨ。
正確に言えば…『消えた』それが真実ですヨ」
消えた…?
「私は魔王様に尽くしてきた魔族。魔王様のことは誰よりもわかりますヨ。魔王様は死んでいません、死んだのなら私がわからないはずがないのですヨ」
ダクリールはウンウンと真剣な顔で1人頷く。
そして不意になにか思いついたような表情をする
「そういえば魔王様、これからあの店の店長に謝りに行こうとしていたのでハ?急がないと店長帰ってしまいますヨ」
「僕は魔王じゃない」
ダクリールが邪魔してきたのになんて言い草だ。
僕はそう思いつつダクリールに背を向け街に走り出した。これ以上変な話に巻き込まれたくない。
「いいえ、貴方は魔王様ですヨ。それは逃れられない真実…」
ダクリールの声はもう僕に届いていなかった。
________________
なんなんだあの魔族…あの姿にはなにか仕掛けがあって僕を騙しているのだろうか
街の人間は僕のことが嫌いだ。こんな手の込んだことをしてきそうなほどに。僕が…魔王だなんて。
頭を振ってその考えを無理やり追いやる。僕は人間だ。誰がなんと言おうと。それに僕は400年も生きた覚えはない。
物心ついた頃には孤児院にいて、そこではすでに僕の居場所は無かった。
一気に走ったからだろう息が切れ、心拍数が上がる。
もう閉店した店の前まで来ると乱れた服と髪を直し、息を整える。店長は家に帰ってないはずだ。閉店の1時間後ほどで店を完全に閉めるのがいつもだからだ。まだ30分しか経っていない。
気を引き締めて扉のノブに手をかける。
キィと小さな音を立てて扉を開け、隙間から中の様子を伺う。
店内は暗闇と静寂に包まれていた。店長の姿は見えない。
厨房の方だろうか。店内に足を踏み入れる。
木の板で敷き詰められた床は少しのきしみを伴って僕の緊張感を更に高まらせた。もし謝っても許してくれなかったらまた1から職探しの始まりだ。僕なんかを雇ってくれるとこなんてもう無いようなものなのに。
月明かりを頼りに片付けられた店を慎重に歩く。厨房の扉の前に到達するとまたしても髪と服を整える。ドアノブに手をかけ、僕は扉をゆっくりと開けた________
初めに目に入ったのは包丁やボウル、おたまなどが散乱した厨房。次に目に飛び込んできたのはひどいあざと切り傷をつけた店長の怯えた顔だった。
次の瞬間
僕の視界の端から猛スピードでなにかが飛んできた。僕は考える間もなく反射でそれを避ける。飛んできたのは厨房のナイフだった。
「チッ完全に不意打ちだっただろ」
「うるせーなだったらお前がやればよかっただろ」
「お前こそ口を閉じろよ」
1人はニット帽の男若い男。もう一人はサングラスをかけた同い年くらいの男。
僕は理解した。これはいわゆる強盗というやつだ。
そして思った、僕は絶体絶命のピンチだと。
「おいガキ。さっきはたまたま避けられたみたいだが今度は当てるぞ?ここに来たのが運の尽きだな。」
ぶっそうな世の中になったものである。魔族との戦争は終わったものの完全な平和とは言い難い。盗み殺しはもちろん貧困だってあるし、社会格差は広がりつつある。最近では武器の流通も頻繁に行われているそうだし、この二人もどこかの売人から買ったのだろう。そう、銃とか。
「ガキ、これが見えるか?誰でも知ってるよなこの武器の恐ろしさを。大人しくしときゃ楽に一発で仕留めてやるぜ」
グヘヘと下品極まりない笑い声を上げる二人。
もう僕にできることは泣き叫んで命乞いをするくらいだろう。
一般人でも武器1つ持つだけで脅威になる。今の僕にはダクリールよりも店長よりも、この目の前にいる二人が恐ろしい。
と冷や汗をかきながらも謎に冷静になっていると、ふと店長が目に入る。二人にやられたと思われる生々しい傷跡の数々。僕が来なかったらもう殺られていたかもしれない。しかし、僕が終われば次は店長だ。二人は見逃してくれそうもない。
なにか交渉はできないのだろうか、もしくは僕だけでも逃してくれることはできないのか________
「_____!!」
僕は動き出していた。二人の攻撃が始まったからではない。
最後の抵抗でもない。店長の目が、言葉が、心が僕に訴えかけてきたからだ。
「助けておくれ________!!」
何も考えていなかった。
咄嗟に低く踏み込み二人の視界から消え、ニット帽の男に素人タックルを食らわせた。不意をつかれた男は銃を手から落とし、落ちた銃は暴れた拍子に遠くへ飛ばされてしまう。男は僕ともつれ合いながら転ぶ。そんな刹那の出来事にサングラスの男が思い出したかのように銃を向けた。
「銃を降ろせ!!」
僕は転ばせたニット帽の男を盾にするようにサングラスの男に向けた。緊張の沈黙が2秒、3秒と続く。劇で見た戦いの見様見真似で男の首に腕を回し、締め上げるように力を入れる。
苦しそうにもがくニット帽の男。
「おい、やめといたほうがいいぜ。お前はこのババアを助けるために動いたんだろうが、詰めが甘いな。甘すぎるぜ。そのババアが無防備になってるじゃねぇか」
暴れるニット帽に対しサングラスの男は冷静に言い放ち、銃を僕から店長に向ける。
「ヒッ…」と小さな悲鳴を上げた店長の目から涙が溢れる。
「お前が店長を撃ったら僕はこの男を絞め殺す!」
ハッタリだ。僕は人を殺したことなんかない。
「ちょっとでも動いてみろ、その前にこの銃がお前の頭をぶち抜く」
またしても流れる沈黙。確かに僕がこいつを殺すのに少なくとも数秒はかかる。だがあの男の銃は1秒とかからず僕の頭に到達してしまうだろう。
「_______て、めぇ、舐めてんじゃねぇよ!!!!」
「ガッ!!」
ニット帽の男が僕の顎に拳を振るった。ものすごい脳への衝撃に視界が揺れる。僕は床にへばりつくように倒れてしまった。
ニット帽の男が弾かれた銃を拾い上げ僕へと向ける。
「ははは!残念だったな!!結構頑張ったみたいだが全部無駄に終わった!!!ざまぁないぜ!!」
「さっさと始末してしまおう。時間をかけすぎた」
「…はぁ…!はぁ…」
グニャグニャとした視界とまともに働いてない頭に僕はどうすることもできずただ二人を見上げるだけだった。
「じゃあな、二人一気にあの世に送ってやるよ」
死ぬ________死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない________!
___________________________
「では、どうすべきですカ?」
____________________________