「こちら、ルミノックス王国の観光にはかかせない平和の象徴、女神の銅像でございます!
かつて世界を支配しようとした魔王の能力が人を銅像にする能力だったという言い伝えから終戦後平和と秩序を守ろうという意思を表す為作られたのです!どうぞ!写真にお収めください!
ほら、慌てない慌てない!銅像は逃げませんよ奥様!!」
ガイドさんがあたふたと動くのを横目に僕はその女神の銅像とやらをしげしげと眺める。長いドレスを来たまさしく女神!というような風貌の銅像だ。周囲にはたくさんの花と平和を祈るメッセージカードが置かれていた。
「ふむふむ、魔王様は人を銅像のようにしてしまうんですネ。恐ろしい能力をお持ちになられテ…ああ恐ろしイ」
「うるさいよダクリール」
「申し訳ございませン。私の近くにそのような恐ろしい能力を持った人物がいるものデ…」
「僕は魔王じゃない。それともう話さないでほしい。僕が変な人だと思われるじゃないか」
ダクリールはタキシードを着てようが帽子を被ってようが見た目は人外そのもの。人間がみたら大騒ぎになり、即座に討伐隊がこちらへと向かってくるだろう。今は僕の影に身を潜めてもらっている。
だからダクリールと話すと僕が独り言をブツブツ言っているように思われるのだ。
「もう手遅れでは無いのですカ?貴方様は私と出会う前から周囲には気味が悪いと近づかれもしないではないですカ」
「……」
確かに僕の周りには不自然な空間がある。それはどこに行っても同じだ。僕の目をみた人は例外なく遠ざかる。
なぜなのか、それはこのガイドさんが教えてくれる。
「魔族と人間の違いはいくつかあります。そのうちの1つに身体的特徴が挙げられます。魔族にはどこかしらに人間とはかけ離れたなにかがあります。大きな角だったり、鋭い牙だったり。魔物もそうです。我々が知っているような動物とは少し違います。しかしそれを隠してしまえばもう見分けはつきません!」
なるほど
僕はそっと手で自分の眼に触れる。僕の眼はおかしい。
いわゆるオッドアイなのだが、珍しいだけで全くいないわけでもない。問題は黒と白というところ。
「そしてあの魔王の特徴は目の色が左は白、右は黒色のオッドアイだったと言われています!」
僕はフードを深く被った。いくつかの視線がささるが顔を伏せてやり過ごす。
この世界では眼が黒色というのは不吉だという風潮がある。それは魔王の眼の片方が黒だったからという説もある。それにあまり見かけないため気味悪がられるのだ。
そしてもう片方の白。純白、つまりは不吉の逆。ただでさえ白も見かけないのに不吉の象徴の黒も併せ持っている僕は周囲からしたら気持ち悪い他ならない。
「まぁでもその魔王は勇者様がギッタンギッタンのメッタメタにしてくれたのであとは討伐部隊に魔族の生き残りをしばいてもらうだけですよ!」
ドッと笑いが起きる。それと同時に僕に注がれていた視線も無くなったが居たたまれなくなった僕はその場から逃げ出すように離れた。
人気のない方向へと足を進める。
______僕はやっぱり魔王なのだろうか…
ぶんぶんと頭をふる。
______いいや、違うはずだ。だってあのガイドさんも言っていたじゃないか。魔王はもういない。勇者に倒されたんだ。
「お悩みのようですネ?」
ズズッと僕の影から出てくるダクリール。
「……僕は魔王じゃない。そう信じているのに、どこかで僕はほんとうに魔王なんじゃないかと思う時があるんだ」
「セルノク様は紛れもなく魔王ですからネ」
「僕は400年前のことを知らなすぎるんだ。だから確信に至れていない。あのときの戦争を知って、魔王が僕じゃないってことが判ればきっと僕は前に進める気がする」
「だから貴方様は魔王…」
「400年前のことをよく知っている人に会いに行こう。それが当分の旅の目的だ」
「私こそが400年前をよーーく知っている有識者ですヨ?」
「さぁ行くよダクリール」
「………」
拗ねてしまったのか無言で僕の影に消えてしまった。
ダクリールは確かに400年前の魔王と人間の戦いを知っているのだろう。でもダクリール1人の話すことを鵜呑みにはできない。どこかでなにかがすれ違っている可能性がある。
ここで僕は足を止める。
ダクリール以外に魔王をよく知っている人物…ダクリール以外の魔族なら…
「ダクリール、君以外の魔族は今どこにいるの?」
「……さぁ…魔王様が消えてからはあまり会っていませんネ」
「魔族は時折人間の村などを襲うらしいね。目的は何なの?」
「血気盛んな魔族の一部のお遊びですヨ。戦争がなくなって平和になったことをつまらなく思って、もしくは血で血を洗うあの頃が懐かしくなって、が大半の理由かト。未だに戦争で殺られた仲間の復讐をしているお馬鹿さんもたまに見かけますネ」
「なるほど…なんとかして会えないのかな?」
「できますとモ」
「どうやって?」
「すぐに分かりますヨ」
「?それってどういう________」
ヒュンッ
直後、背後の壁が大きな音を立てて崩れる。
土煙に咳き込みながら僕は恐る恐る振り返った。
壁にはなにかが刺さっている。ナイフのようなものだ。
しかし僕はナイフで建物をぶっ壊すという概念を知らない。
かすったのだろう僕の頬から血が垂れる。あと少しズレていたらと考えると恐ろしい。
「来ますヨ」
剛速球で空からまたしてもナイフが降ってきた。今度は3本。
頭では認識できているものの避けられやしない。それほどに速い。壁を破壊できるんだ、ただのナイフではなさそうだな。
っていうか________これ死______
「しょうがないですネ…」
ダクリールが僕の前へ出る。ズズズという重い音と共に影が盾のように変形する。ナイフが影に突き刺さると影はそれを呑み込んでしまった。そしてまたもや影を変形させると今度は槍状にし、ナイフの飛んできた方向に飛ばす。僕は何がなんだかわからずただ口を開けて見ているだけだった。こんな経験初めてだ。
「魔王様、貴方はほんとうにお変わりになられタ」
ダクリールが情けない姿をさらす僕の方向へ向いた。
「能力や容姿、そして私の本能が貴方を本物だと告げていまス。しかし貴方はまるで何も知らなイ。400年前のあの瞬間から戦い方も何もかも忘れてしまったようでス」
流れる沈黙。ダクリールは少し寂しげな表情をしていた。
なぜ僕が魔王だと思うのか、それはもう質問にすらならないのだろう。ダクリールにとっての魔王は僕以外あり得ないのだから。
だからこそ知りたい。400年前、一体何があったのか。
「______おいおい、お前ほんとに魔王なのかよ?」
突然、空から声が聞こえた。
正確には建物の上に立っている人物からの声だ。
そしてそれはきっとあのナイフを寄越した人物____
「魔王が現れたって聞いて来てみりゃとんだ勘違いだったぜ。
あの程度も防げない魔王なんか魔王じゃねーもん」
「だから言ったでしょうミルエル。憶測で人を攻撃しちゃいけないって。この人たちはなにもしていないのよ?」
「でもそこの影のやつは気になるな。お前魔族だろ。戦おうぜ!」
「もう!ミルエルったら!」
女の人2人…1人は血気盛んでちょっと怖い、もう一人はお人好しそうな人だ。しかし僕の目に止まったのは血気盛んな方の人。
角が生えている
魔族と人間が一緒に行動を共にしている…いやもう片方も隠しているだけで魔族の可能性はある。
「…でもなんで僕が魔王だと…?」
「おそらく昨夜の事件でしょうネ。あの店長がどこかで貴方様の使った能力のことを話したのでしょウ。」
それを聞きつけてここへ…
行動力があって大変素晴らしい
「ミルエル、ここは引きましょ!あの影のやつ相当強いわよ!
私達じゃ勝てないわ!」
「うるさい!うるさいぞセレン!魔族なんて久しぶりなんだ!戦えるときに戦う!」
ギャーギャーと上で騒ぐ2人。僕はそれをポカンと眺めていた。ダクリールはなんだか楽しげだったが。
「______お二人とも取込み中大変申し訳無いのですが、私共丁度魔族を探していましテ。良ければお話してモ?」
「「え?」」