広大な大地の上空を悠々と飛行するドラゴン。本や写真でしか見たことがなかったが、実際見てみるとこれほどまでに違う。
綺麗に生え揃った鱗、黄金に輝く金色の瞳、力強い大きな翼。どれもとても写真じゃ収めきれないほどの美しさと壮大さを併せ持っていた。ただ少し違うのは________
「黒い…?」
僕がみた写真や絵は鱗の色が赤か、オレンジ、青などカラフルだったがこのドラゴンは真っ黒だ。未発見のドラゴンなのだろうか。
「魔物狩りは初めてですか?」
サユキが首を傾げていた僕を見かねて話しかけてくれた。
かなり気になるところなので僕はうんうんと頷く
「貴方の知っているドラゴンは恐らく
興味深い話だ。
ドラゴンはドラゴンでも動物と魔物の区切りがあるとは。
習性や能力までも違うとなるともはや姿形が似ているだけで別の生き物として捉えたほうがいいかもしれない。
強さは魔物の方が上らしいが動物のドラゴンも十分人間にとっては脅威である。それより上なんて考えたくもない話だ。
「______知っていますか」
「?」
視線を僕から外していたサユキが再び僕に向き直る。その目には様々な思惑が揺らいでいるようにみえた。
さっきと雰囲気の違う彼の様子に僕は一気に不安になる。
サユキの整った口が開くと、
「____魔王はたくさんの魔物の軍勢を支配し、操って我々人間を襲ったのだという言い伝えです。もしこの話が本当だとしたら恐ろしいなんて言葉だけでは到底足りません。」
その言葉の意味がいまいちわからず困惑する。
「…なぜその話を僕に?」
「さぁ…なぜでしょうね」
意味深な言葉と微笑を残して彼は僕に背中を向けた。
「あと、あのドラゴンの影には気をつけてください。基本的な攻撃はあの影から放たれるんです」
そして待機していた第3部隊の全員に号令をかける。
「皆の者!これより魔物ドラゴン、またの名を
「はっ!!」
ガチャガチャっと鎧の音を立て、敬礼をする部隊。
剣を下向きに持ち、地へ突き刺す。これがこの国の兵の敬礼だ。
これから赴くのはいつ死ぬかわからない戦地。その場所への敬意を払うのだ。
「右翼、左翼展開!!後は私に続けーーっ!!」
うおおおと雄叫びをあげて威勢よく飛び出していく戦士達。
高揚する気持ちと高鳴る鼓動に僕は突き動かされていた。
僕はとてもワクワクしていた。
「ダクリール」
「はい、いかがいたしましたカ?」
「今の僕にできることはなんだと思う?」
「影の能力である物体を銅像のように固めてしまう能力が今の貴方のできることでス。しかしあのような大きな龍を固めるのことはまだできませんネ。実戦不足といったところかト」
あまり活躍はできなそうだ。
でもきっとなにかできることがあるはずだ。
「ご安心くださイ、なにかあれば私が貴方様をお守りしまス」
「ありがとうダクリール」
僕は戦地に足を踏み込んだ。
___________________________
シャドラは下に散らばる人間など見向きもせず、自由気ままに広い空を泳いでいた。おとぎ話を彷彿とさせる壮大なその姿に惚れ込み、ドラゴンを神と崇める宗教もあるとか。
「では最初は私からいかせていただきます________」
腰に光る剣に手をかけサユキが足を踏ん張る。バキキッと大地が割れ、サユキの周りにクレーターを作った。次の瞬間、音を置き去りにして彼は僕たちの前から姿を消した。
しかしそれは消えたのではなくとてつもなく早いスピードで地を蹴り、シャドラ目がけて飛び出していたたのだ。
それがわかったのは翼をはためかせ飛んでいるシャドラの悲鳴が聞こえた時だった。
「やっぱ隊長すげぇ!!」
「流石
兵達の割れんばかりの歓声と勢いに気圧されそうになる。
サユキはシャドラの腹に自身の身長の何倍にもなる大きな傷を負わせていた。シャドラの悲痛な悲鳴が広大な大地を揺らしていた。
「さぁ!もたもたせず次の攻撃へ移りなさい!
シャドラなど私達の敵ではない!」
地面に降り立つとサユキが兵達を鼓舞するように呼びかける。
それに応えるように兵達は次々と武器を取り出した。
「撃てーーー!!」
見たこともないような兵器だ。銃口から真っ直ぐな白い光線が放たれ、一直線にシャドラへと向かっていく。その度シャドラの咆哮が鳴り響いた。効いているのか高度が落ちてきた。
「ここからが本番です!気を引き締めなさい!!」
再び剣を鞘から抜いたサユキ。ここから、ということはついにシャドラからの攻撃が来るのだろう。
「グォォォォォオ」
瞬間、シャドラの影に変化が現れた。
シャドラ自体は何もしていないというのに影はグググと身をよじったかと思うと身体から何本もの影が伸びていく。それは僕たち討伐隊に向けられていた。
その上驚いたことに影が地面から飛び出してきたのだ。
初見だったならばその鋭い攻撃は何十もの兵達を貫いていただろう。しかしさすがは、といったところか兵達は高く跳び上がりそれを回避する。人間離れしたその跳躍力に呆気に取られる。
そう言う僕は危険を察知したセレンに助けられていた。
僕を抱えた空中でセレンは
「もう!!なにボケッとしてんるのよ!私がいなかったらあなたの身体串刺しだったんだからね!!」
プンプンと怒る彼女に礼を言いつつ僕はしげしげと影を見る。
本体はただ飛んでいるだけなのに影は自在に形を変え僕たちを襲ってくる。いや、影だからこそ変えられるのだろうか。
「ハーハッハッ!!私とそんなに殺りたいのか!!!
相手してやる!!私と遊ぼうぜ!!!」
ミルエルが意気揚々と前へ出る。シャドラの攻撃は凄まじいが単調なため避けられる力がある者達ならば立ち向かうことは困難ではない。だが一般人がシャドラに遭遇してしまった場合、命は無いと思ったほうが良いだろうな。
でもまぁここには僕以外一般人などいないんだが。
「サユキとか言ったな!!お前のつけた傷よりさらに深くこいつの身体をえぐってやる!!そしてぇ!こいつは私の方が強いと認めるんだ!!」
ギラリと鈍く光る持ち前のナイフを懐から取り出したミルエルはすかさずシャドラにぶん投げた。
風を切りシャドラの黄金の瞳にナイフが刺さる。しかし不思議なことにサユキより小さな傷に見えるというのにシャドラはサユキのときよりも更に苦しそうな悲鳴を上げた。もがき空中で暴れるシャドラの影の攻撃が兵達を置いてミルエルへと集中する。
それを愉快そうに笑いながら避けるミルエル。彼女が攻撃を躱す度地面が割れ、木が薙ぎ払われた。
「ミルエルのナイフはただのナイフじゃないの。影の能力で相手を切り裂くと同時に傷を更に深めることができるわ。ナイフが刺さっている限り傷は深まり続けるのよ」
ドラゴンにナイフを取るという発想はできないだろう。実際ミルエルのナイフは瞳を貫き、血を求めてさらに奥へと進んでいた。
その間もミルエルはナイフを投げ続けている。腹、翼、胸、至る所から血が吹き出す。
シャドラは暴れに暴れ、影も操作が効かなくなっていた。
次々と襲い来る影を兵達は必死に躱し続ける。が___
「うわぁっ!!」
1人の兵士が石につまづき転ぶ。そこへ待ってましたと言わんばかりの速さと勢いで影が襲いかかる。慌てて避けようとするも間に合わない。
「だめだ________っっ!!」
「_______しょうがないですね」
剣で影の軌道をずらし、兵士を救ったのはサユキだった。
「大丈夫ですか?早く立ちなさい。次が来ますよ」
「___っあ、ありがとうございます!!隊長!!」
なんとかなったようだ。感謝されている本人は息切れさえしてない。そして何か考え込んでいるようだ。
_____________________________
(他の兵達も少し限界が来てますね…影の攻撃スピードが速すぎる。数年前に倒したシャドラはこんなに速くなかった。やはりここ数年で魔物達の能力が飛躍的に上昇しているとみて間違いないでしょうね…)
サユキはもう十年も前からこの討伐隊を率いている。しかし年々魔物達の強さが上がってきているのに違和感を感じていた。自分が弱くなったのかとも思ったがそれは他の兵士達も感じていたことだった。しかしここまで顕著に現れたのは初めてのことだ。
ここでサユキはあることに気づく
______確か魔王が街に現れたと噂されたのは数日前________まさか________
「グルォォォォ!!」
と、ここで影が猛スピードでサユキへ迫る。思考が先へ行きすぎていたサユキは一歩遅れる。
(っ!少しかすってしまうが致命傷は避けれる_____…!!?)
とある少年が視界を遮る。
まさに今サユキの頭の中をよぎっていた少年だった。
魔王と同じ瞳の色を持つ白髪の少年。
手を大きく広げサユキを庇うように立ち塞がる。咄嗟の行動だったのだろうか、何も考えてなかったのだろうか、
________無防備にもほどがある…
サユキは偏見や先入観は失礼にあたるとわかってはいても好奇心には勝てず戦いの前セルノクに少し探りを入れていた。
しかしそこで知れたのは彼はただ…そう…何も知らない子供そのものだったということだ。
魔物の話に真面目に耳を傾け、自分が探りを入れた話をしだすと途端に不安そうな顔をし、頭にハテナを浮かべるような子供が魔王なんじゃないかなんて________
いい大人がなにやってんだか
サユキは手にした剣を強く握りしめた。
主人公 セルノクデータ 1
少し気が弱いが思考が恐ろしく冷静。焦っていても恐怖を感じていてもどこか落ち着いている。そんな彼の姿からは余裕すら感じる。
表情変化は大きくはないがちゃんと喜怒哀楽はある。
孤児院出身であり親の顔はとうの昔に忘れている。
昔から眼のことで人と関わる機会が無かったため人の気持ちを汲み取るのに苦労している。
自分が魔王なんて信じられない。でも魔族ではあるんだろうな、とは思っている。
男
14歳