アビドス砂漠の砂糖スレ自作概念置き場   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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2026/06/08 砂糖スレ先行公開作品

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テレグラフ公開版
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第6話ジュリ(2)

夜の静寂に包まれた一室。カーテンの隙間から差し込む月光だけが、ベッドの上で狂おしくのたうち回る少女の輪郭を浮かび上がらせていた。

 

「はぁ、ハァ、う、あ……あま、い……美味しい、の……っ」

 

牛牧ジュリは、狂ったようにヒナから貰った大袋に手を突っ込んでいた。

スケバンたちに引き裂かれた制服のシャツは、ボタンがいくつも弾け飛び、はだけた胸元から豊満な胸が露わになっている。大きな身体をシーツに擦り付け、汗ばんだ肌を月光に濡らしながら、彼女はただひたすらに、脳を融解させる「砂漠の砂糖の飴」を口へと運び続けていた。

 

パチパチ、シュワシュワと口内で弾ける暴力的な快感が、神経を通じて下腹部へと突き抜ける。

 

「ん、むぅ……っ! あぁ、んっ……! つよ、すぎ、て……頭が、おかしく、なっちゃう……ぅ!」

 

飴を噛み砕くたびに、全身の細胞が歓喜の悲鳴を上げ、ジュリの口元から、そして目元から、耐えきれない快楽の体液が溢れ出していた。太ももを固く擦り合わせ、弓なりに背中を反らせて喘ぐその姿は、およそ料理を愛する給食部の少女のものとは思えないほど、淫らで、退廃的な色気を放っている。

 

ガサリ、とベッドの上に引きずり込んでいた大袋の奥へ手を突っ込むと、指先がカサカサとした袋の底に直接触れた。

 

「え……?」

 

気がつけば、あれほど大量にあった飴玉が、もう一粒しか残っていない。

 

(『――食べる量には気を付けなさい。一度に食べ過ぎるのは良くないわ』)

 

脳裏に、あの小さくも圧倒的だった救世主・ヒナの、冷徹で優しい忠告がよぎる。一度にこれ以上摂取すれば、精神の形が保てなくなる――本能がそう警鐘を鳴らしていた。

 

だが、もはや砂糖の怪物に成り果てたジュリの脳は、そのブレーキを受け付けない。

 

「ヒナさん……ごめんなさい、ごめんなさい……! 私、もう無理、我慢、できないですぅ……っ!」

 

とろけた瞳から涙をボロボロとこぼしながら、ジュリは淫靡な笑みを唇に浮かべ、最後の一つとなった飴玉を指先でつまみ上げた。それを、自らの熱い舌の上へと乗せようとした、まさにその時。

 

ジュリの混沌とした脳内に、全く別の、しかし聞き馴染んだ声が響き渡った。

 

『――駄目よ、ジュリ』

 

「……ぇ?」

 

ジュリの動きが止まる。はっきりと理解はできない。けれど、その声は間違いなく、今日自分を庇って頭を下げてくれた、大好きな先輩の声だった。

 

(フウカ、先輩……?)

 

幻聴。あるいは、良心の最後の残滓。

しかし、すでに限界を超えて砂糖を欲するジュリの指先は、飴を口へと運ぶ衝動を止められない。脳内で響く最愛の先輩の制止の声に、ジュリは締め付けられるような胸の痛みを覚えながらも、涙で顔をグシャグシャにして首を振った。

 

「う、うあぁ……フウカ、先輩、ごめんなさい……! ごめんなさい、私、もう……っ!」

 

はだけたシャツの間から大きく波打つ胸を震わせ、ジュリはベッドに額を擦り付けるようにして、脳内の声に向けて狂おしく哀願する。

 

「ダメ、なの……分かってる、のに……っ! でも、頭の中が、身体の中が、ずっと熱くて、おかしくなりそうなのぉ……! ヒナさんの『たくさん食べちゃダメ』って約束も、守れそうにありません……!」

 

とろけた瞳から大粒の涙を流しながら、ジュリは最後の一玉を凝視した。その指先は、快楽への渇望で小刻みに震えている。

 

「お願い、先輩……叱らないで、私を見捨てないでぇ……! 食べさせて、これがないと、私……っ! 悪い子でごめんなさい、でも、もう我慢できないの、あぁ、んっ……!!」

 

罪悪感と異常な興奮の狭間で、ジュリのそこかしこから淫らな甘い体液が溢れ出し、シーツをドロドロに汚していく。それは、これ以上ないほど破滅的で、淫靡な許しを乞う姿だった。

 

そんなジュリの愚行を見つめるように、脳内の「幻覚のフウカ」は、呆れたように、しかしひどく慈愛に満ちた声でため息をついた。

 

『仕方ないわね……。ちょっと待ってなさい、今、手伝ってあげるから』

 

次の瞬間だった。

 

「ひゃ、あぁあああっ!?!? ん、んんん――っ!!」

 

ジュリの身体が、寝室のベッドの上で激しく跳ね上がった。

衣服の上からではない。ジュリの身体の内側、秘められた『ナカ』へと、何か温かくてドロドロとした『ナニか』が、ズブリ、ズブリ……と肉を押し分けて侵入してくる、あまりにもリアルな感覚。

 

「うそ、何、これ……! 中に、なにか、入って、くるぅ……っ!」

 

異物感と、それを上回る圧倒的な精神的充足感が、ジュリの肉体を蹂躙していく。ジュリのナカへと溶け込んでいく幻覚のフウカが、耳元で愛おしそうに囁いた。

 

『もういいわよ。一思いに、食べなさい』

 

「あ、は……っ、フウカ、先輩……っ!」

 

言われるがまま、ジュリは最後の一玉を口の中へと放り込み、一気に噛み砕いた。

 

――刹那。

 

これまでに体験したどの衝撃をも遥かに凌駕する、超新星爆発のような快感がジュリの脳髄を直撃した。神経という神経が、精神の全回路が、純白の砂糖の光によって焼き切られるような凄まじい衝撃。

 

「あ、がぁ、あぁああああああああーーーっっっ!!!???」

 

声にならない絶叫を上げ、ジュリの170cmの身体が、限界まで美しく、激しく弓なりに反り返った。

目からは涙が、口からは蜜のような唾液が、そして肉体のあらゆる隙間から愛液が噴出し、彼女は何度も、何度も、世界の終わりを迎えるかのように連続して絶頂に達し――そのまま、深い、深い闇の中へと意識を失って沈んでいった。

 

 

翌朝。

 

鳥のさえずりと、窓から差し込む眩しい朝日で、ジュリはゆっくりと目を覚ました。

昨夜の狂乱が嘘のように、頭の中はひどくスッキリとしており、身体も軽い。しかし、自分の身体の異変にすぐ気がついた。

 

胸元が妙に重い。そして、誰かが自分の身体の上に、馬乗りになって跨っている。

 

「……んぅ?」

 

ジュリが恐る恐る目を開けると、そこには、見慣れたゲヘナの制服にエプロンを身に纏った、小柄な少女の姿があった。

 

「おはよう、ジュリ。よく眠れた?」

 

「ふ、フウカ先輩……っ!?」

 

ジュリは驚愕して上半身を起こそうとしたが、跨っている先輩の重みで身動きが取れない。なぜフウカ先輩が自分の家に? 昨夜の不始末で、怒りに来てくれたのだろうか。

 

「どうして、先輩がここに……? 食堂の片付けは……」

 

疑問を口にするジュリに対し、フウカは、本物の愛清フウカなら絶対に浮かべないような、どこか妖艶で、底の知れない、ジュリだけを甘やかすような微笑みを浮かべて答えた。

 

「私は本物の愛清フウカじゃないわよ、ジュリ。私は、昨夜あなたが『砂漠の砂糖』を全て受け入れたことで生み出された、あなたのための幻覚。あなたを支え、護り、全てを肯定するためだけに存在する、あなただけのフウカよ」

 

「え……幻覚、の、フウカ先輩……?」

 

ジュリの心が激しく戸惑う。目の前にいる先輩は、確かにフウカの姿をしていて、フウカの声で喋っている。けれど、本物よりもずっと、自分に対して盲目的で、甘い。

 

混乱するジュリの脳を、突如として強烈なスパーク(刺激)が襲った。

「あ、う……っ!」と頭を押さえて身をよじるジュリ。しかし、その衝動が収まったとき――ジュリの頭の中にあった全ての戸惑いは、綺麗さっぱり消え去っていた。

 

脳の書き換え。精神の完全な調教。

ジュリはトロンとした至福の目をフウカに向け、ごく当たり前のこととして、目の前の「幻覚フウカ」を愛おしそうに見つめ返した。

 

「そう、ですよね……。私の、フウカ先輩……えへへ、大好きです……」

 

「ええ、私もよ、ジュリ。さあ、そろそろ準備をして学校へ行きましょう? 委員長がお待ちかねよ」

 

「はいっ!」

 

見慣れたゲヘナ学園の制服に身を包んだ牛牧ジュリと、その隣にぴったりと寄り添う、同じく制服姿の幻覚の愛清フウカ。二人は仲良く手を繋ぎ、身支度を整えて家を出た。

ガチャリ、とジュリの自宅の玄関の扉を開け、一歩外へと踏み出す。

 

 

「おはよう。――待っていたわよ、ジュリ」

 

背中の黒い翼を静かに休め、愛銃を傍らに置いた空崎ヒナが、ジュリが家から出てくるのをずっと待っていたかのような瞳で、静かに二人を迎えた。

 

「あ、ヒナさん……おはようございます」

 

ジュリが声をかけるが、ヒナはすぐには答えず、ただ冷徹な瞳でジュリの姿をじっと見つめていた。その視線は、ジュリのすぐ隣で腕を組んでいる幻覚フウカの姿を、完全に素通りしている。ヒナにはやはり、フウカの姿が見えていないのだ。

 

しかし次の瞬間、ヒナは自分の右斜め後ろの、誰もいない「不自然にぽっかりと空いた空間」へと、愛おしそうにじっと見上げる。

 

ヒナの薄い唇が、見上げる先の何もない空間に向かって静かに動く。

 

「……ええ、アコ。そうなの?」

 

「?」

 

ジュリが戸惑うのを余所に、ヒナは少し背伸びをするようにして、高めの位置にある“声”に耳を傾けていた。それから納得したように、見上げたまま小さく頷く。

 

「なるほどね……。あの子のすぐ右隣に、給食部長の姿で立っているのね。……ふふ、教えてくれてありがとう、アコ」

 

自分より遥かに背の高い「誰か」がそこに立って見下ろしているかのように、親密そうに目線を上に向けて言葉を交わすヒナ。ジュリにはヒナの隣にいるはずの『幻覚アコ』の姿も声も一切見えず、聞こえない。だからこそ、ヒナが不自然に高い虚空へ向かって微笑みかけるその光景は、底知れない狂気となってジュリの背筋を冷たく這い上がった。

 

満足そうにふっと唇を綻ばせたヒナは、ゆっくりと目線を下ろし、ジュリへと視線を戻す。今度はその瞳に確かな確信を湛えて、ジュリの右隣の空間を、まるでそこに見るべき標的があるかのようにじっと見据えた。

 

「そう……あなたにも、現れたのね」

 

「え……? あなたに『も』、ということは、ヒナさんにも……」

 

ジュリが驚きに目を丸くすると、ヒナは再び、何もいないはずの虚空を誇らしげに見上げながら呟いた。

 

「ええ、居るわ」

「えっ、どこに……?」

 

ジュリが周囲をキョロキョロと見回すが、ヒナの傍には誰もいない。そんなジュリの様子に、ヒナは静かに首を振った。

 

「砂漠の砂糖の幻覚は、本人にしか見えないのよ。私にも、私の隣にいる『アコ』の姿は見えるけれど、あなたの隣にいるはずの『フウカ』がどこにいるかは見えないの」

 

その言葉通り、ジュリの隣では幻覚フウカが、誰もいないはずの虚空に向かって一礼していた。

 

「――はい、アコ行政官。首尾は順調です。これより計画の第二段階へ移行します」

 

幻覚フウカが視線を向けているのは、ヒナの隣の不自然に開いた、まるでそこに人が一人立っているかのような空間だった。ジュリはその奇妙な光景に首を傾げる。

 

「あの……フウカ先輩には、ヒナさんの砂糖の幻覚が見えるのですか?」

 

「ええ、そうよ、ジュリ」

 

幻覚フウカは、自分より背の高いジュリの腰へと愛おしそうにそっと手を回し、その豊かな身体にぴったりと身を寄せた。そして、下からジュリの顔を覗き込むようにして甘く微笑む。

 

「私たち『砂糖の幻覚』はお互いに姿も見えるし、会話もできるわ。本人の脳を通じて、砂糖のネットワークで繋がっているの。……さあ、本物の私に見つかる前に、行きましょう?」

 

「え、ええ……」

 

何とかして幻覚アコの姿が見えないかと目を凝らすジュリの姿を、ヒナは面白そうに、どこか妖艶に微笑みながら見つめ、背後を示した。

 

「そろそろ学校へ行くわよ。車に乗りなさい」

 

「ひゃうっ……!」

 

170cmと大柄なジュリであったが、そのあまりにも厳つく、殺気すら放つ黒い鉄塊を目の当たりにし、思わず小さく悲鳴を上げて一歩後退りした。大きな身体を縮こまらせてビクビクと怯えるジュリ。

 

そんなジュリの過剰な怯えっぷりを見て、ヒナは冷徹だった表情をふっと緩めた。

重苦しい風紀委員会の重圧を背負う彼女にとって、目の前の大きな少女が小動物のように怯える姿は、どこか微笑ましく、愛らしく感じられたのだ。

 

「ふふ……そんなに怯えなくていいわよ。大人しく乗っていれば、この車はあなたをあらゆる危険から守る絶対の盾になるんだから」

 

ヒナは年上のジュリをあやすように小さく笑うと、エスコートするようにリムジンの分厚いドアを開け放った。

 

「さあ、お乗りなさい。ジュリ」

 

「は、はい……! 失礼しますぅ……っ」

 

ジュリが緊張で身体を強張らせながら、ゆっくりと車内へ足を踏み入れようとした、その時。彼女の鼻腔を、あまりにも甘美で暴力的な、あの「砂漠の砂糖」の香りがかすめた。

香りの誘惑に抗えず、ジュリは吸い寄せられるようにふらふらと歩き出す。リムジンの後方に停車していたのは、風紀委員会の大型トラックだった。ジュリがトラックの幌の隙間から恐る恐る荷台の中を覗き込むと、そこには『砂漠の砂糖』と書かれた30kg入りの巨大な紙袋が、天井まで届くほど大量に積載されていた。

 

「これ、は……」

 

「砂漠の砂糖よ。昨日あなたにあげた魔法の飴玉の原料なの」

 

ジュリの背中に、ヒナの小さな影がそっと重なる。ヒナはジュリの大きな背中を見上げるようにしながら、しかし風紀委員長としての絶対的な威圧感を孕んだ静かな声で、後ろから語りかけた。

 

「これを使って、給食部の出す料理を作ってほしいの。この砂漠の砂糖を……ゲヘナ学園中に広めたいのよ」

 

ヒナの言葉に、ジュリの心臓がドクンと跳ね上がる。昨日の恐怖が、罪悪感が一瞬だけ頭をもたげた。

 

「で、ですがヒナさん……! 私は、私は料理が作れません! 私が食材に触れたら、また昨日みたいに大変なことに……!」

 

「大丈夫よ、ジュリ」

 

ヒナは優しく、しかし有無を言わせぬ絶対的な拒絶の拒む力をもって、ジュリの大きな手を両手で包み込んだ。

 

「あなたの腕と、この砂糖の力を信じて。さあ、行きましょう」

 

「……はい、ヒナさん」

 

甘い香りに脳を委ねたジュリは、そのままヒナのリムジンに同乗し、ゲヘナ学園へと向かった。

 

 

登校時間にはまだずいぶんと余裕があるため、早朝のゲヘナ校舎にはほとんど生徒の姿はなかった。

静まり返った廊下を通り、ジュリは昨日の暴動でグチャグチャになった学園食堂の調理室へと足を踏み入れる。

 

「あっ……」

 

調理室は、まだ完全には直っていないものの、ある程度は綺麗に片付けられていた。ジュリが昨日、無責任にバイトへ向かった後、フウカがたった一人で夜遅くまで掃除をしてくれたのだ。

 

(フウカ先輩……本当にごめんなさい……っ。私を庇って、こんなになるまで……)

 

胸を締め付けるような後悔がジュリの心を乱す。その後ろでは、ヒナの指示を受けた風紀委員のモブたちが、手際よく大量の砂糖の袋を調理場奥の保管庫へと運び入れていた。

 

「あとはお願いね、ジュリ」

 

全ての搬入が終わると、ヒナはそれだけ言い残し、部下を引き連れて静かに去っていった。

 

誰もいない調理室。静寂の中で、ジュリの隣に立つ幻覚フウカが、ハツラツとした笑顔でジュリの背中を叩いた。

 

「さあ! さっそく料理を作りましょう、ジュリ! 最高の朝食を作るのよ!」

 

「は、はい……!」

 

幻覚フウカの指示を受けながら、ジュリは恐る恐る調理を開始した。

驚いたことに、幻覚フウカの言う通りに『砂漠の砂糖』をふんだんに使って作った料理は、不気味なオーラを放つこともなく、信じられないほど見事な手際で完成していった。

 

焼き上がったのは、黄金色に輝くフレンチトーストと、甘い香りを放つ特製のポタージュスープ。

 

「できた……。本当に、バケモノになってない……」

 

ジュリが恐る恐るそれを一口食べてみる。

 

「っ!? おいしい……! すっごく甘くて、美味しいです……!!」

 

異次元の美味。ジュリは感激のあまり涙を浮かべながら、大盛りで作ったはずの朝食を、取り憑かれたようにペロリと平らげてしまった。完全に我を忘れて幸福感に浸るジュリ。

 

しかし、その至福の時間を、背後からの鋭い声が切り裂いた。

 

「――ジュリ。あんた、こんな朝早くから何してるの?」

 

「ひゃいっ!?」

 

振り返ると、調理室の入り口に、本物の愛清フウカが立っていた。

寝不足なのか、その目の下にはうっすらと隈があり、怪訝そうにジュリを見つめている。

 

「フウカ、先輩……!?」

 

ジュリは慌てて、自分の隣で腕を組んでいる幻覚フウカと、目の前の本物のフウカを何度も何度も見比べた。姿も、声も、全く同じ。ジュリはパニックになり、必死に幻覚フウカを自分の大きな身体の後ろへと隠そうとする。

 

しかし、幻覚フウカは余裕の笑みを浮かべて囁いた。

 

「大丈夫よ、ジュリ。落ち着きなさい」

 

「ちょっと、ジュリ? あんたさっきから一人で何をコソコソ隠してるのよ」

 

呆れた顔で歩み寄ってくる本物のフウカに、ジュリは冷や汗を流しながら尋ねる。

 

「あ、あの……フウカ先輩、見えない、のですか……?」

 

「何がよ? そこには何にも無いでしょ。それより、あんたは何をやってるの? 掃除をしてるようには見えないけれど……」

 

本物のフウカには、やはり幻覚フウカの姿が全く見えていない。ジュリは「本当に自分にしか見えないんだ」と確信し、答えに窮して言葉を詰まらせた。

 

「えっと、それは、その……」

 

その時だった。ジュリの口が、まるで自分以外の何者かに乗っ取られたかのように勝手に動き、滑らかな言葉を紡ぎ出した。

 

「――料理の練習をしているんです、フウカ先輩。昨日はたくさん迷惑をかけちゃったから……先輩に、美味しい朝食を食べてもらいたくて!」

 

「えっ……!?」

 

それを聞いた本物のフウカは、一瞬にして顔を真っ青にした。昨日、ジュリの料理によってカフェが木っ端微塵になった惨状を思い出したのだ。

 

「あ、あんた正気なの!? 一体何を考えているのよ! 」

 

「ひぃっ、ごめんなさい……!」

 

ジュリが慌てて謝ろうとした瞬間、脳内で幻覚フウカの鋭い声が響く。

 

『駄目よ、ジュリ! 引いちゃダメ! ここは絶対に本物の私を説得して、料理を作りなさい!』

 

「う、うう……!」

 

ジュリは意を決し、とろけた瞳に涙を浮かべながら、本物のフウカに向かって何度も何度も深く頭を下げた。

 

「お願いです、フウカ先輩! もう一度だけ、もう一度だけチャンスをください! 私は……私はどうしても、先輩に私の料理を食べてもらいたいんです……! お願いです、私に料理をさせてください!!」

 

激しく懇願するジュリの必死な姿に、本物のフウカは毒気を抜かれたようにため息をついた。ジュリがここまで真剣に料理に向き合おうとしている。給食部部長として、その想いを無下にはできなかった。

 

「……はぁ。分かったわよ。そこまで言うなら、一回だけよ? もしおかしな気配がしたら、即座に中止。いいわね?」

 

「はいっ!! ありがとうございます、先輩!」

 

ジュリが歓喜して調理の準備を始めようとすると、幻覚フウカがニヤリと笑って指示を出した。

 

『いいわジュリ。今度は、『砂漠の砂糖』を一切使わずに作りなさい』

 

「ええっ!?!? な、何言ってるんですか先輩!?」

 

ジュリは驚愕して心の中で叫んだ。砂糖を使わなければ、自分の料理は確実にバケモノになる。そんなことをしたら、今度こそフウカ先輩に完全に嫌われてしまう。

 

「そんなの無理です! 大変なことになっちゃいます!」

 

『大丈夫よ、あなたならできるわ。自分を信じなさい』

 

幻覚フウカに何度も強く念を押され、ジュリは恐怖にガタガタと震えながらも、通常の食材だけで調理を開始した。

 

本物のフウカは、いつでも愛銃のサブマシンガンを撃てるよう、利き手を常に銃にかけた状態で、固唾をのんでジュリの手元を見守っている。

 

そして、ジュリの手によって作られた朝食が、恐る恐るテーブルへと出された。

メニューは、ゲヘナの朝には珍しい、シンプルで温かい「出汁巻き卵と、お豆腐のみそ汁、そして炊き立ての白米」。

 

異変は起きない。紫色のオーラも、牙も、触手も生えてこない。ただ湯気を立てる、至って普通の、美味しそうな和朝食だった。

 

「……」

 

フウカはしばらくの間、出された朝食をまじまじと見つめ、警戒を解かなかった。しかし、何の怪異も起きないことに少しだけ安心すると、おそるおそる箸を伸ばし、出汁巻き卵を口へと運んだ。

 

一口ずつ、毒見をするかのようにゆっくりと咀嚼するフウカ。

その瞬間、フウカの目が大きく見開かれた。

 

「――おいしい……」

 

それは、素朴だが、じんわりと心に染み渡るような優しい味わいだった。フウカは夢中になって箸を進め、みそ汁を飲み干し、白米を完食した。最後まで、何も異変は起きなかった。

 

お皿を置いたフウカの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 

「ジュリ……すごいじゃないの……! 完璧よ……おめでとう……っ!」

 

「フウカ先輩……っ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ジュリの感情が完全に爆発した。大泣きしながら本物のフウカに飛びつき、その小さな身体を思い切り抱きしめる。

 

「う、うわあああん! ありがとうございます、フウカ先輩! ありがとうございます……!!」

 

 

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・フウカ「うぅ……まさかジュリが……!」(https://bbs.animanch.com/board/2584538/)

 

 →連載打ち切りギャグ落ちEND

 

 →砂漠の砂糖スレとは無関係なスレ世界へ飛びます。(https://telegra.ph/%E3%81%86%E3%81%85%E3%81%BE%E3%81%95%E3%81%8B%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%81%8C%E6%AD%B4%E4%BB%A3%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81-03-23)

 

 

・フウカ「うぅ……ついにジュリが……!」

 

 →本編続行ルート(このまま読み進めてください)

 

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「うぅ……ついに、ついにジュリが普通に美味しい料理を……! よかった、本当によかったわね、ジュリ……っ!」

 

本物のフウカも感極まって声を上げて泣きながら、ジュリの大きな背中を何度も撫で、その成長を褒め称えた。

そしてその横では、幻覚のフウカもまた、優しい笑みを浮かべてジュリの身体を反対側から抱きしめていた。

 

「おめでとう、ジュリ」

 

二人の「フウカ先輩」に同時に抱きしめられ、ジュリはこれ以上ないほどの全能感と、最高に甘美な幸せに包まれていた。自分の料理で、大好きな先輩を笑顔にできた。これ以上の喜びなど、この世界に存在するはずが――

 

「――なるほど。これがジュリさんの『美食』なのですね。まだ粗削りとはいえ、これはなかなか興味深いですわ」

 

「「え……?」」

 

突如として調理室に響いた凛とした声に、本物のフウカとジュリは思わず身体を離して振り返った。

 

いつの間にか、調理室の真ん中に、ゲヘナ学園が誇る最凶の問題児組織の一つ――美食研究会会長、黒舘ハルナがいた。

 

ハルナはご丁寧にも、調理テーブルの上に自前の豪奢なテーブルクロスを敷き、そこに用意されていたジュリの朝食の「予備(フウカに出さなかった分)」を、優雅に、完璧なテーブルマナーで平らげていた。

 

カトラリーを美しく置き、ナプキンで口元を拭うと、ハルナは満足そうに立ち上がった。

 

「ふふっ、これはとても良いことを聞きましたわ」

 

ハルナの紅い瞳が、怪しく、そして獲物を見つけた猛獣のようにギラりと輝く。

 

「ついにジュリさんが、普通に料理を作れるようになった。……ということは――」

 

次の瞬間、ハルナの姿がブレた。常人には視認できないほどの圧倒的な速度。

 

「――フウカさんはもう、私たちが自由に連れ出しても良いということですわね!!」

 

「きゃああっ!?」

 

声が聞こえた瞬間、ハルナはいつの間にかフウカのすぐ隣へと肉薄し、その身体を軽々とお姫様抱っこで抱きかかえていた。

 

「さあ! フウカさん! 給食部の食堂はもうジュリさんに任せて、私と一緒に飽くなき美食の道を邁進し、極めましょう!」

 

「ちょっと、離しなさいハルナ! 私はまだやることが――!」

 

暴れるフウカを抱えたまま、ハルナは窓際へとステップを踏む。

ジュリは血の気が引くのを感じ、慌ててハルナの前に立ちはだかった。

 

「待ってください! フウカ先輩を連れて行かないでください! 先輩は、ゲヘナ学園の食堂にとっても、給食部にとっても、絶対に、無くてはならない必要な人なんです!」

 

必死に訴えかけるジュリ。しかし、ハルナの腕の中で暴れている本物のフウカの顔を盗み見た瞬間、ジュリの心臓がチクリと痛んだ。

フウカの表情には、困惑の裏に、どこかハルナに求められていることに対する「満更でもない」ような、微かな歓びの色が混ざっているように見えたのだ。

 

(嘘……フウカ先輩……? 私の料理が成功したから、もう、私が必要なくなっちゃったから……美食研究会に行っちゃうの……?)

 

ドロドロとした黒いモヤモヤ(嫉妬と独占欲)が、ジュリの心を一瞬にして侵食していく。

 

「さあ、そこをどいてくださらない? ジュリさん。これ以上、私たちの美食の時間を邪魔しないでほしいのですよ」

 

ハルナが冷徹に微笑む。その言葉が、ジュリの理性の糸をぷつりと切った。

 

「――嫌、です」

 

ジュリは背中から、給食部の護身用ショットガンを引き抜き、その銃口を容赦なくハルナへと突きつけた。激しい殺気と、砂漠の砂糖による狂気の残滓が、ジュリの全身から噴き出す。

 

「お願いです……フウカ先輩を、返し、てください……!」

 

「あら……」

 

至近距離で銃口を突きつけられたハルナは、怯えるどころか、楽しそうに目を細めて剣呑なオーラを漂わせた。

 

「私と一戦交えるつもりでしょうか? 面白いですわね」

 

ハルナはフウカを優しく床へと下ろすと、自身の愛銃である優美なスナイパーライフルを滑らかな動作で構え、ジュリの額へと向けた。

一触即発。火花が散るような沈黙。本物のフウカは、突然始まった二人の本気の殺し合いのような気配に、顔を青くして不安そうに見つめることしかできない。

 

 

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・フウカ(頭お花畑)「やめて!お願い、二人とも私のために争わないで」(お目めキラキラ)

 

 →連載打ち切りギャグ落ちEND

 

 

・フウカ(腹黒)「争え……もっと争え……(ぽわわーーん)」(https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%9D%89%E6%9C%AC%E5%9B%9B%E8%91%89)

 

 →連載打ち切りギャグ落ちEND

 

 

・フウカ「ジュリ……ハルナ……」(心配そうに見つめる)

 

 →本編続行ルート

 

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「ジュリ……ハルナ……」

 

フウカが心配そうに事態の推移を見つめる。

 

しばらくの間、二人は激しく睨み合っていた。ジュリの瞳の奥にある、常軌を逸した「濁り」を察したのか、やがてハルナはフッと剣呑な空気を解き、ライフルをゆっくりと下ろした。

 

「ふふ、今回はジュリさんの『初めての成功』に免じて、おとなしく引き下がりましょう」

 

ハルナは優雅に一歩、また一歩と後ろへ下がり、窓枠へと足をかける。

 

「……ですが、覚えていてください。もはやフウカさんをあなたの物として、給食部だけに縛り付ける枷(ジュリの壊滅的な料理スキル)は無くなったのです。これからは、フウカさんを手に入れることが、我が美食研究会の最重要事項になったということを……!」

 

「――っ!」

 

ハルナが不敵に微笑んだ一瞬の隙。

 

パシャーーーン!!!

 

ハルナは窓ガラスを派手にぶち破り、そのまま校舎の外へと飛び降りて逃走した。

 

「待ちなさいっ!!」

 

ジュリは慌てて窓辺に駆け寄り、逃げるハルナの背中に向けてショットガンを何度も放つ。

 

ドォン! ドォン!!

 

激しい銃声が朝の学園に響き渡るが、ハルナは並外れた身のこなしで弾道を躱し、あっという間にゲヘナの敷地外へと消え去ってしまった。

 

「ああっ……逃げらてしまいました……!」

 

追撃を諦めたジュリは、急いで床に座り込んでいた本物のフウカの元へ駆け寄り、その身体を抱き起こした。

 

「フウカ先輩! 大丈夫ですか!? 怪我はありませんか!?」

 

「え、ええ……大丈夫よ、ありがとうジュリ。それにしても、ハルナの奴、朝からなんて暴挙を……」

 

フウカを支えながら、ジュリの心には先ほどの「モヤモヤ」が冷たく澱(よど)んでいた。

もし、またハルナが来たら。もし、フウカ先輩が本当に私の元から去ってしまったら――。

 

そんな二人の様子を、少し離れた調理室の隅から、じっと見つめている者がいた。

幻覚のフウカである。

 

彼女はハルナが逃げ去った窓の向こうをじっと見つめ、それから、本物のフウカに必死にしがみついているジュリの姿を見た。

 

次の瞬間、幻覚フウカの端正な顔が、蛇のように、悍ましく歪んだ。

 

「――ふふっ、あはは……。黒舘ハルナ……。あれはいい『駒』として、楽しめそう(使い潰せれそう)ね。さっそくアポピス様にご報告しないと……うふふふ」

 

クツクツと、邪悪極まりない笑い声を漏らす幻覚フウカ。

砂漠の砂糖が生み出した怪物は、ジュリの心にある「フウカを独占したい」という歪んだ欲望を栄養にして、さらにドス黒く、鋭く、その牙を研ぎ澄ましていくのだった。

 

(つづく)

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