アビドス砂漠の砂糖スレ自作概念置き場   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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グロテスクな表現があります。
閲覧注意

この物語はトリオ過去編氏の『アビドスボロボロハナエモドキ』をベースに作られており該当作品からセリフ・設定・情景描写を一部参考・引用しております。


ハーメルン版は文章の仕上げが出来てない為、telegra.ph版を読むことをお勧めします。

telegra.ph版
https://telegra.ph/%E7%A0%82%E7%B3%96%E5%A0%95%E3%81%A1%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%82%A8%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%8A%E8%A9%B1-BADEND-IF-%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%81%8C%E8%90%BD%E3%81%A1%E3%81%9F%E6%97%A5%E5%BE%8C%E7%B7%A8-01-30


砂糖堕ちハナエちゃんのお話 BADEND IF 『ミサイルが落ちた日』後編

 

 

「ううっ………あぅ……?」

 

ゆっくりと暗闇から浮かび上がった意識が目覚め、セリナは目を開ける。

どうやら気を失っていたようで砂の上にうつ伏せで横たわっていた。

 

「ここは……どこ?」

 

自分は確かビルの地下階へ逃げ込んだはずなのに、いつの間にか周りの景色が変わっていており、どこかの屋外に倒れていたようだ。

 

「私……また"飛んじゃった"の……?」

 

鷲見セリナには特殊能力がある。自分や自分の大切な人に危機が訪れた時、望んだ場所や危険から逃れられる場所へ無意識で瞬間移動出来る事があるのだ。

ただ、この能力は不完全であり本人の意思とは関係なく発動すること、滅多に発動せず肝心な時には使えないなど不便な点があまりにも多い。

そのため、セリナ本人はこの能力は過信どころか期待もせず、能力の存在自体忘れる事が多いのだった。

 

ゆっくりと起き上がろうとすると頭と背中に重みを感じる。何かが自分に覆いかぶさっているようだ。

身体を起こせば『ドサッ、バササササッ』と何かが落ちて、粉塵が舞う。

 

「白い……砂……?」

 

どうやら砂の上に倒れていたようで、辺り一面には白い砂が降り積もっていた。

空を見上げれば真っ黒な分厚い雲からまるで雪のようにしんしんと白い砂が降り注いている。

倒れていた自分の上に砂が降り積もっていたのは雪のように空から砂が降っていたからだ。

 

その時、ふと甘い香りがセリナの鼻腔をくすぐる。

空から降り注ぎ地面に積もる白い雪のような砂から漂っているようだ。

セリナはそっと砂を掬い上げ、己の鼻と口へ近づける。

 

まるで砂糖みたい……。

 

そう思ったセリナはまるで誘われるかのように舌を出し、砂へと伸ばす。

思いっきり深呼吸して砂を吸い込み、舌で砂を味わおうとして――。

 

 

脳裏に浮かぶ、忘れはしない、忘れたくても忘れられない邪悪な暴力的なまでの甘味。

 

師を――、大切な後輩を――、砕き狂わせ地獄へ叩き落した悪魔の白い砂、アビドス砂漠の砂糖――!!!

 

 

「………!!!」

 

 

とっさにセリナは両手いっぱい山盛りに掬っていた白い砂を投げ捨てる。

そのまま近くのビルの入り口に駆け込むと全身に纏わりつく甘い白い砂を払い落とす。

すぐにポシェットから消毒用アルコールを取り出し手にふりかけ念入りに洗い落とすとN95マスクを装着する。

 

(危ない……もう少しで私、取り返しのつかないことするところだった……)

 

いつの間にか無意識で砂糖を両手いっぱい山盛りに掬い、鼻と口から砂漠の砂糖を摂取しようとしていた自分に身の毛がよだつ。

まるで何かに操られるように行動していたからだ。

 

(ここに留まるのは危険すぎます。早く団長とハナエちゃんを探し出して合流しなくちゃ……)

 

二人の様子が気になる。空からは今もどんどん大雪のように白い砂糖の砂が降り続けてる。

団長の事だ、この砂の正体に気が付き、安全な場所に避難しているはずだが、万が一のこともある。

 

覚悟を決めて降り続ける砂の雨の中に飛び出そうとして――。

 

 

(……誰か居るの?)

 

 

どこか遠くから人の声が聞こえる。それも大勢の人の声が――。

声の聞こえる方向を見れば向かいのビル群とその間に一本の道があり、その先が開けているのがわかる。

向こうに大通りか広いスペースがあり、そこに人が居るのだろう。

 

(この辺りはミレニアムの人たちの居る場所のはず、まずは合流して情報収集と怪我をしている人が居たら手当をしなくちゃ!)

 

よく見れば周りの建物には無数の弾痕――、明らかに今回の軍事侵攻作戦で出来たと思われる銃弾や砲弾の痕があり、漂う甘い凶暴な香りに交じり、硝煙の匂いが鼻に感じられる。

アビドス・反アビドス連合軍双方による激しい戦闘が行われた場所なのだろう。なら怪我人も居るはずだ。ならばまずは救護活動しなければならない。それが自分の使命なのだから。

覚悟を決めたセリナは未だ降り注ぎ徐々に降る量も積もる砂の高さも増えていく白い砂地獄へ飛び出し駆け抜けていく。

ビルの間の通りを駆け抜けていくと目の前に開けた空間が見え、人の声と気配を感じられる。

 

「皆さん!大丈夫ですか!トリニティ救護騎士団の鷲見セリナです!お怪我をされている方はいらっしゃいませんか?居られたら私が救護――」

 

通りから広場へ飛び出たセリナが声を上げ――、目の前に広がる異様な光景に足が止まり言葉に詰まった。

 

 

「あははははは」「うふふふふふふ」「きゃはははははは~~」「わーい!わーい!」

 

 

目の前には大勢のミレニアムの生徒たちが居た。

 

皆、銃を捨て、衣類を脱ぎ捨て、生まれたての姿で白い砂糖の砂の大地を走り回り、地面へとダイブしている。

光が消え、瞳孔が開ききった瞳を瞠目させ大粒の涙を流しながら大声で叫び奇声を上げている。

 

「きゃはははは~~~」「きもちいい~~~」「あはぁ~~~」

 

お互いに白い砂糖の砂をかけあい全身に浴びている少女達。

その姿はまるで海辺で砂や水をかけあい楽しんでるように見えた。

 

「敵の潜水艦を発見んんんん!!!」「駄目よ!!」「駄目よ!!」「駄目よ!!」「駄目よ!!」

 

降り積もった砂に潜るように倒れ、砂の中に頭を突っ込んでまるで海を泳ぐように手足をばたつかせている少女。

その少女の周りにプールに飛び込むかのように何人もの生徒が次々と飛び込んで行く。

 

「皆さん何やってるんですか!!それは危険な麻薬なんですよ!!すぐに離れてください!!鼻や口、皮膚に着けないでくださいっ!!」

 

必死に呼びかけ、狂い始めてる生徒を止めようとセリナは声を張り上げ、追いかける。腕を掴み止めようとするが――。

 

「うるさい!邪魔をするな!」

 

「きゃあぁぁっ!?」

 

腕を振り払われ信じられないほどの強い力で突き飛ばされ、セリナは後ろに吹っ飛ばされ尻もちを搗く。

 

「なんで……どうして……??」

 

少女たちの異常な状態に戸惑うセリナ。

 

 

「お゙い゙じい゙!お゙い゙じい゙!お゙ざどゔお゙い゙じい゙!!!」

 

「………!?」

 

後ろを振り返れば、そこには何人もの生徒が地面に座り込んで両手いっぱいに白い砂を鷲掴みして口に入れ頬張っていた。

 

「あ゙ま゙い゙!あ゙ま゙い゙!お゙ざどゔあ゙ま゙い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙!!」

 

狂ったように砂を頬張り続ける生徒たち。しかし、いくら甘い香りと味のする砂漠の砂糖の原料の砂とは言え、精製前のただの砂である。当然、普通の人間が食べられるわけない。

歯は砕け、歯茎と唇が引き裂かれ、口から歯の残骸破片交じりの夥しい量の血が溢れ出し顔を、胸元を、足元を、真っ赤に染上げていく。

 

「だめぇ!!そんなのたべちゃだめぇえええ!!」

 

セリナは立ち上がり駆けつけると砂を貪り続ける少女たちを制止しようとする。後ろから羽交い絞めにして引き釣り出そうとするが――

 

「じゃまをするなぁ!!」

 

「ぎゃああっ!?」

 

強烈な肘内をみぞうちに喰らいセリナの身体が九の時に曲がる。

 

「ううっ……ううううっ……」

 

痛みと衝撃で息が出来ず蹲るセリナを少女たちが取り囲む。

 

「こいつ、トリニティの救護騎士団だ」

 

「なにぃ、じゃあ朝顔ハナエの仲間か」

 

「こいつが、こいつがぁぁあああ!!」

 

セリナを取り囲んだ生徒たちが一斉に暴力を振るい始める。

 

複数の足が拳がセリナの頭を顔を胸を腹を足を容赦なく蹴りつけ踏みつける。

 

「ぎゃあっ!?痛いっ!!やめてっ!がはっ!?おねがいっ!!がふッ!!やめてぇええええ!!」

 

必死に懇願するセリナ。しかし暴力の嵐は止むどころか一層激しさを増していく。

 

「ゆるさい!ゆるさい!絶対にゆるさない!」

 

「かえせ!かえせ!仲間を返せ!」

 

「砂の小魔女(朝顔ハナエ)の同類めっ!くたばれ!くたばれ!」

 

「いぎぃっ!?うぎゃっ!!ぎゃああっ!!ゴボ!!ガハッ!!」

 

口から血の混じった吐瀉物を吐き出し呻くセリナ。

やがてセリナから反応が消え蹲ったまま動かなくなると、ただ単純に飽きたか疲れたのか生徒たちは興味を失ったかのように離れていき、再び狂ったように砂糖を貪りだし始めた。

 

「ごほっ、ごほっ……うううっ……お願い……もうやめてぇ……砂を食べないでよぉ……」

 

震えながら弱弱しく泣きながら呻くセリナ。もはや彼女たちの暴走を止める気力は無くなろうとしていた。

 

 

 

「セリナ……なの?……おねがい、助けてよ……」

 

 

救護の心が消えようとしていたその時だった、後ろから聞きなれたセリナのよく知る人の声が聞こえたのは。

その声に再び闘志が宿ったセリナは震えながらもゆっくりと立ち上がる。

涙と血交じりの吐瀉物で汚れた口元を拭い、絶望と悲しみで歪んだ顔を精一杯の虚勢で飾ると振り返り声をかける。

 

 

「コハルちゃんですか?大丈夫ですか?どこか痛むところとか怪我をしてるところはありませんか――」

 

 

そう言い終わったところでセリナは止まってしまう。コハルの異様な出で立ちに。

 

 

「セリナ……おねがい……ハナコ達を治してよ……」

 

 

ボトッ……ボトトッ……ズルッ……ベチャッ……

 

 

 

本人の血ではない誰かの返り血で赤黒く染まった全身。

胸の下あたりで組んだ両腕は何かを抱えていて――。

血と半固形状のどす黒い何かが腕の間から漏れ滴り落ちている。

コハルは抱き抱えてた。

 

 

腕の中に血と骨の臓器の残骸にまみれた、セリナも知る3つの人の頭部が――。

 

 

「――――!!!!!」

 

 

思わず悲鳴を上げそうになったセリナは寸前で何とか押し留まる。

彼女の救護騎士団としての矜持がギリギリ踏みとどませたのだ。

 

 

「私達ね……やっとハナコを正気に戻せたの……。ハナコ……謝ってくれたの。もう二度と砂糖は食べない、私達の元から黙って居なくなったりしないって」

 

「やっと、やっと、ハナコを取り戻せたって。もう一度やり直せる、みんなで補習授業部やりなおせるって、喜んでいたのに……」

 

「いきなり……ミサイルが飛んできて……わたし……何も出来なくって……そしたらハナコが覆い被さってきたの。『コハルちゃん危ないっ』て……」

 

「目の前が真っ赤になって……身体中が熱くて焼けそうになって……怖かった。でもハナコが強く優しく抱きしめてくれて……ハナコの匂い……あの悪魔の砂糖の甘ったるい吐き気のしそうな匂いじゃない……ハナコの……アイツの本当の匂い……優しい匂い……それに包まれて護られてるみたいで安心できたの……」

 

「そしたらハナコが苦しみだして……口から鼻から目から耳から身体中から血が噴き出して苦しみだして……でも私何も出来なくて……アイツ、自分が痛いはずなのに苦しいはずなのに……最期まで私の事だけ気遣ってくれて……『コハルちゃん……だめ……おねがい…にげて……』って動けない私を突き飛ばして……」

 

「そしたらね、目の前でハナコが爆発したの……水風船みたいに……。ううん……ハナコだけじゃない……ヒフミとアズサまで苦しみだして……ハナコみたいに身体中から血を吹き出して……私…せめて二人だけでも助けようって、ハナコみたいに見殺ししないって……でも何も出来なくて……」

 

「二人も苦しいはずなのに……私を庇ってくれて……『コハルちゃん……だめ……来ちゃダメ……』『コハル…逃げろ……私達に構わず……早く逃げろ』って……でも足が震えて力が入らなくて……逃げることも……二人を救うことも出来なくて……」

 

「二人とも爆発しちゃった……みんなバラバラに壊れちゃった……。だから必死にかき集めてきたの。飛び散った身体をかき集めてきたの……私がみんなを必ず救うって決めたから……」

 

「だから……セリナ……早く治してよ……。みんなを……私の大切な仲間を治してよ……」

 

「アンタ救護騎士団でしょ。怪我してる人を必ず治すのが役目なんでしょ……」

 

「ハナエ、アンタの後輩なんでしょ……。つまりアンタはアイツの仲間なんでしょ。アイツのせいで私達はこんなひどい目に逢ってんのよ」

 

「責任取りなさいよ……。ハナエの仲間ならアンタも同罪よ……。かえして……返してよ。ハナコを、ヒフミを、アスザを、トリニティの皆を返してよ。……返して……返せっ!!」

 

 

 

「トリニティの裏切者、この人殺し――!!!」

 

 

 

 

セリナの心は限界を迎えた。

 

 

 

「~~~~~~!!!!」

 

声にならない悲鳴のような叫びをあげ、セリナはコハルを突き飛ばすとそのまま無我夢中で走りだす。

 

「痛ぁああ!!何すんのよっ!!ああっ、ハナコッ!!ヒフミィッ!!アズサァァッ!!ごめんなさいごめんなさい………セリナっ!!逃げるなぁっ!!逃げるなぁぁぁぁあああ!!!」

 

後ろから聞こえるコハルの叫び声から逃げるようにセリナは走り続ける。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

両目をぎゅっと強く瞑り、両耳を両手で抑えて必死になって走る。

 

「ゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてください……」

 

何もかも投げ捨てセリナはひたすら走る。

 

 

 

周りに広がる地獄絵図の中を逃げる。

 

 

 

「イブキぃい!!イブキぃい!!ごめんよぉ……ごめんよぉおおおおお!!」

 

――万魔殿(仲間)の屍の山の上で小さな亡骸を抱きしめながら慟哭するゲヘナの少女

 

 

「エイミぃ!!ハレぇ!!どこですかぁ!!チーちゃんっ!マキッ!コタマっ!お願い返事してぇぇえええええ!!」

 

――動かない半身を引き摺り、仲間の血の海の中を虫けらの様に這いずり回るミレニアムの少女

 

 

「うううう……ナツ……アイリ……ヨシミ……置いて逝かないでよぉ……やだぁ……お願い……私も連れて逝ってよぉおおおおおお……」

 

――必死にかき集めた仲間の残骸を抱きしめ号泣するトリニティの少女

 

 

「あはははは……消えた、消えた……皆消えた……アツコもミサキもヒヨリも……真っ赤なシャボン玉みたいに飛んで弾けちゃった……あははははははははは」

 

――仲間の血肉で赤黒く染まった顔を歪ませ、狂ったように笑い続ける心壊れたアリウスの少女

 

 

「ごめんなさいごめんなさい、ゆるして、ゆるして、ゆるしてぇ……」

 

 

セリナはひたすら走り逃げ続ける。たくさんの真っ赤に咲いて飛び散った命の華の残滓とその傍らで壊れていく少女たちを置き去って――。

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい走り続けたのだろうか。

 

気が付けば周りには建物は無くなり辺り一面真っ白な雪原のような砂原をセリナは走っていた。

 

「ぎゃあっ!?」

 

何かに蹴躓き、目を閉じ両手を塞ぎ走っていたセリナはろくに受け身も取れず顔面から砂へとダイブする。

 

「ぎゃああっ!!あぐぅぅっ!!いぎぃぃいいいい~~~」

 

倒れた勢いで甘い砂がセリナの鼻と口から体内に入り、砂漠の砂糖の甘味の暴力が身体中を走り回り神経と脳を容赦なく焼いていく。

 

もはやセリナに対抗する気力も意思もなく暴れる強烈な甘味にのたうち回るしかなかった。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……うううっ……」

 

 

徐々に衝撃が収まり、セリナはゆっくりと起き上がる。周りをゆっくり見渡すと真っ白な砂の雪原に一人の少女が立っているのに気が付く。

 

「………ミネ団長?」

 

見間違えるわけない。団長だ、団長は無事だったんだ!

急いで駆けつけようとしてセリナは違和感を覚える。

 

目の前のミネ団長らしき少女。しかし何かがおかしい何かが欠落している。

 

(団長……髪型が違う……?)

 

 

三つ編み付きの長いストレートヘアは血の付いた手で鏡を見ずにセットしたのかところどころ赤黒く汚れれ歪な形のツインテールに変わっていて――。

 

(団長……翼がっっ!!)

 

青く美しかった背中の翼は無残に根元から切り落とされ、少女の足元に無数の羽をまき散らしグシャグシャの状態で落ちている。

制服の背中の翼を取り出す部分からは溢れた大量の血液が固まりどす黒い塊として付着していた。

事故や怪我で翼が取れたのではない、彼女自ら切断したのか、その腕には沢山の羽の残骸と血の付いたチェーンソーが握られている。

 

 

「団長……どう、して……?」

 

 

なぜ髪型が違うのか、なぜ翼がもぎ取られてるのか……なぜそんな自傷行為に走ったのか?

セリナの疑問と不安が声となって口から零れる。

 

とても小さな呟きだったがとても良く通り響いたせいか彼女の耳まで届いたようだ。

 

ゆっくりと、油の切れた機械の様にぎこちなく彼女が振り返る。

 

 

「あっ……セリナ……先輩」

 

 

少女が微笑む。本人ではない誰かの返り血で真っ赤に染まった顔を歪に歪ませ、光の消えた廃糖蜜の様な色の瞳を向けて微笑む。

 

「よかった、ご無事だったんですね。セリナ…先輩の姿が見えなくて心配していました。お怪我はないですか?」

 

ゆらり、ゆらりと幽鬼の様にゆっくりとセリナに向かい足を進める少女。セリナは足が震え思わず後ろに下がりそうになるのを何とか堪えながら声を出す。

 

「わ、私は大丈夫です。どこも怪我をしていません。ミサイルが落ちてきたとき、咄嗟にビルの地下階へ逃げ込めたので無事だったんです。……それよりも団長は」

 

「それは良かったです。なら早速ですがセリナ…先輩も手伝ってくれませんか?人手が足りなくて困っているんです」

 

"団長"という言葉に一瞬反応するそぶりを見せた後、まるでその単語を聞かなかったかのように喋り始める少女。セリナは違和感をさらに強く感じる。

 

「あ、あの……ハナエちゃん、は?」

 

ハナエの姿がどこにも見えない事にセリナは疑問に思い少女に尋ねるが――。

 

「……?……はい、私はここにいますよ。そんな事よりも手伝ってくださいよ。人手が足りなくて困ってるんです」

 

不思議そうに首をかしげる少女。まるで自分がハナエだと言わんばかりに――。

 

「人手が足りないって……何をされるんですか?救護活動ですか?」

 

違和感を憶えつつもまずは目の前の少女が何をしようとしてるのか尋ねるセリナ。"救護"という単語に少し強めに反応を示すと少女は笑みをやめる。

 

「救護活動など必要ありません。所詮救護では人を救うことなどできないからです。それよりも『愛』、『愛』なのですよ、セリナ…先輩」

 

そして歪な笑顔を浮かべると少女は身振り手振りで語りだす。

 

「私は以前から思っていたんです。救護なんて何にも役に立たない、誰かを救おうと必死になって走り回ってたのに、結局誰も救えず傍らにいた大切なあの子すら守れない、そんな軟なあの女の信念など必要無いのです。鋼の意思?鋼なんて熱せられて叩けばたやすく折れ曲がるじゃないですか?そんな脆くて『あの子』のチェーンソーであっけなく両断されるモノなど捨ててしまえば良いのです。そんなものよりも愛ですよ、愛。愛はすべてを――、世界を救うのですっ!!」

 

爛々と笑みを浮かべて熱く語る少女。

 

「愛って……どうするつもりなのですか?そもそも……団長の言う『愛』とは具体的に何を示してるんですか?」

 

さきほどから『愛』と言う言葉を繰り返し強調する少女にセリナは疑念をぶつける。

 

「だから私はハナエだと言っているでしょう――。それはさておき、セリナ…先輩。いい質問ですね」

 

「今回もそうですが、争いとは『愛』を持つ者と持たざる者がいるからこそ起こるのです。だから私はみんなに平等に『愛』を届けるのです」

 

ニヤリと少女が嗤う。

 

「この一面に広がる「砂糖の大雪原」使ってみんなに『愛(砂糖)』を広めるんですよっ!!!」

 

「――!!」

 

「それにしてもミレニアムの皆さんも酷い事をしますよね。愛(砂糖)が欲しいなら強引に奪ったりせず素直に下さいと言えばよかったのに。ミサイルで悪い人を全員やっつけたらあとは自分達の物、とでも思ったのでしょうか?まったく笑わせますね、中毒者を一掃しようとミサイルで爆散させたところで大気中に飛び散り舞った中毒者の血肉骨片で再び砂糖が生み出され、気化したそれを吸えば次の中毒者が生まれるだけなんですよ。新たに生まれた中毒者達は砂糖を求めて砂漠の砂を集め始めます。アビドス砂漠が存在し続ける限り砂漠の砂糖は決して無くならない不滅の存在になるのです!」

 

「そんな……ミネ、団長……私はどうしたら……」

 

「だから私はハナエです~。もう、間違えないでくださいよう。さっきから言ってるじゃないですか。手伝ってください、人手が足りないのです。砂糖を広める人手が今すぐ必要なんですよ」

 

「おかしいです……そんなの間違ってます!あれは愛なんかじゃありません!あれは……砂漠の砂糖は人を狂わせ破滅させる麻薬なんです!いい加減にしてくださいミネ団長っ!!」

 

「おかしいのはセリナ…先輩の方ですよ。さっきから何ですか……私はミネ団長ではないと何度も言ってるじゃないですか!おまけにこの素晴らしい愛(砂糖)を麻薬呼ばわりするなんていい加減にしてほしいのはセリナ…先輩の方ですよ?」

 

「団長……それよりも私と一緒にハナエちゃんを探しに行きましょう?はやく見つけてあげないとハナエちゃんが――」

 

グチャ……

 

「えっ……?」

 

何か砂の下にある柔らかいモノを踏みつけた感触にセリナは視線を落とす。不自然に――丁度人が一人地面に横たわってるように地面が盛り上がっていることに気づく。

ゆっくり足をどかすとそこだけ白い砂が固くドス黒い色に変色していた。

 

「これは……?」

 

ゆっくりと砂を掘りどかすとドス黒い何かの塊が姿を現した。

 

 

錆びた鉄――血の匂いの漂う死肉の塊。

 

見覚えのある朝顔色の髪の毛が大量に混じった作りかけの粘土細工のような塊

 

ここへ来るまでに見た無残に散華した命の数々

 

 

「うわぁああああああああああ!!!ハナエちゃんハナエちゃあああああああんんん!!!」

 

 

セリナは理解してしまった。これが自分達が命を懸けて救いたかった大切な後輩の変わり果てた姿なのだと

 

セリナは理解してしまった。もうハナエはこの世には居なく、救うことは永久に不可能になったのだと

 

 

「どうしてぇぇえええ!!どうしてぇええええ!!」

 

 

認めたくなかった。ハナエが死んでしまった言う現実を。

 

認めたくなかった。彼女だけは、ハナエだけは無事だと必死に思い込み現実から逸らしていたことを

 

「いやぁあああああああああ、ゲフッ!?」

 

死臭漂い始めた肉塊を抱き上げて泣いていたセリナだったが突然、わき腹を蹴り上げられ横へと転がる。

起き上がろうとしたところを胸倉を掴まれ持ち上げられると目の前に少女の不気味な形相が視界に広がった。

 

「いい加減にしなさい、セリナ…先輩。"ソレ"をハナエと呼ばないでください。ハナエは私です。そんな醜い汚物がハナエなわけないじゃないですか!」

 

「いい加減にするのは貴方の方ですよ、どうしてハナエちゃんのフリなんてしてるんですか!ミネ団長っ!!」

 

「私をその名で呼ばないでっ!!あの子は生きてるっ!!あの子は救われたっ!!私が救ったんです!!だから私はハナエなんですよっっ!!」

 

「そんなのただの現実逃避なんです!!私達はここでこんな事してる訳には行かないんです!死んでしまったハナエちゃんのためにも、一刻も早くこの事件を解決して、苦しんでる人たちを助けないと……。このままだとハナエちゃんは死んでも浮かばれませんよっっ!!」

 

「うるさいっ!黙ってっ!!あの子は死んでないっ!!ハナエは生きてるっ!!あの子が死んであの女が生き延びてるなんて絶対に認めないっっ!!私がハナエなんだっっ!!」

 

「目を覚ましてください!!あなたは蒼森ミネ!トリニティ救護騎士団団長の蒼森ミネなんですっ!!どんなに髪型を変えても、喋り方を変えても、誰が見てもどこから見ても蒼森ミネ団長なんです!!あなたはハナエちゃんじゃないっっ!!」

 

「うるさい、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇええええええ!!!!」

 

「がはっ……」

 

強く突き飛ばされもう一度倒れたセリナ。少女は倒れてるセリナに近づくと凄まじい力で首を掴み持ち上がる。

 

「セリナ……先輩。あなたには相当強度の高い『救護』が必要ですね……!!」

 

「ふざけたことを言うのなら……こうしてやりますよ――!!!」

 

少女は地面に降り積もった白い砂を掴むとセリナの口に腕ごとねじ込み始めた。

 

「うがぁあああああ!もごぉぉおおおおお!!!」

 

「ふざけた事を言うのはこの口ですか!私がハナエに見えないと言うのはこの口ですか!!」

 

「がはっ、むごぉぉつ、ごほぉぉっ!」

 

容赦なく砂糖をねじ込んでいく少女。セリナの口も顔も首もみるみるうちに大きく膨らみ始める。

 

「私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!私はハナエ!」

 

 

 

ゴキンっ!!

 

「ごふっっ………」

 

骨が折れる音がしてセリナの頭部が90度傾く。同時にヘイローがパリンッと砕け散り、白目を剥くと鼻と口から血と体液交じりの砂が大量にあぶれだした。

少女が手を離すとグシャリとセリナの身体が地面へと崩れ落ちる。

暫く動かなくなったセリナを見下ろしていた少女が声をかける。

 

「さて、もう良いでしょう。――いつまで寝てるのですか?起きてください、セリナ……先輩」

 

少女の冷たい声にピクリとセリナの身体が反応すると、命消えたはずの少女の身体が不気味な音を立てて起き上がる。

首が折れてさかさまに皮一枚でぶら下がっていた頭部がゴキンッ!と音を立てて元に戻る。

 

「セリナ……先輩。お聞きしたいことがあります。――今、あなたの目の前に居るのは誰ですか?私たちはこれから何を為すべきか使命を答えなさい」

 

少女の声にピクリと反応するとセリナは目を開ける。――光が消え、底なしの沼のようなドス黒い廃糖蜜の様な瞳が目の前の少女を捉えると、

 

「アナタ ハ 朝顔ハナエチャン。 ワタシタチ ノ 使命ハ アポピス様ノ 愛 ヲ 届ケ コノ 世界 ヲ 白ク 染上ゲ 深イ砂ノ 奥底ヘ 沈メルコト」

 

と答える。同時に頭上にヘイローが浮かび上がる。無数の蛇に集られ貪り食い散らかされてボロボロの形になったヘイローが弱弱しく輝いている。

 

その様子に満足げに少女は頷く。

 

「よろしい。では時間がありません。さっそく行動へと移しましょう。行きますよ、セリナ先輩」

 

「うん!砂蛇(アポピス)様の愛を広めて皆を幸せにしてあげようね、ハナエちゃん♪」

 

その瞬間、二人の少女の周囲を取り囲むように砂嵐が巻き起こった。

 

 

ゲラゲラゲラゲラゲラ……

 

 

狂ったように笑い始める二人の少女。

 

砂嵐はその二人を飲み込むと、巨大な蛇のような姿になり、激しく地面をのたうち回る。

 

 

やがて巨大な膨れ上がった蛇の形の砂嵐はアビドスを、キヴォトスを飲み込んで言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

BADEND

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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