アビドス砂漠の砂糖スレ自作概念置き場   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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2025/10/05 砂糖スレ先行公開作品

本文の装飾や微修正が出来てない為、読みづらい場合はテレグラフ公開版を読む事をお勧めします。

テレグラフ公開版(容量オーバーの為前後編に分かれています)

前編
https://telegra.ph/%E8%A9%A6%E4%BD%9C%E7%A0%82%E7%B3%96%E5%A0%95%E3%81%A1%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%82%A8%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%8A%E8%A9%B1-%E3%82%B2%E3%83%98%E3%83%8A%E7%B7%A8-%E7%AC%AC4%E8%A9%B1%E3%83%92%E3%83%8A4-10-05

後編
https://telegra.ph/%E8%A9%A6%E4%BD%9C%E7%A0%82%E7%B3%96%E5%A0%95%E3%81%A1%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%82%A8%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%8A%E8%A9%B1-%E3%82%B2%E3%83%98%E3%83%8A%E7%B7%A8-%E7%AC%AC4%E8%A9%B1%E3%83%92%E3%83%8A4-%E5%BE%8C%E5%8D%8A-10-05



この物語はトリオ過去編氏の砂漠の砂糖SS「アリウス勧誘 その後の一幕」「空崎ヒナの推理、選択、決意」「アリウスモブ小隊長≠スバル説」から設定・台詞・情景描写などを引用しております。

https://telegra.ph/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B9%E5%8B%A7%E8%AA%98-%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%BE%8C%E3%81%AE%E4%B8%80%E5%B9%95-04-17
https://telegra.ph/%E7%A9%BA%E5%B4%8E%E3%83%92%E3%83%8A%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%90%86%E9%81%B8%E6%8A%9E%E6%B1%BA%E6%84%8F-04-24

また、該当作品よりオリキャラ(モブ)さんをお借りしました
https://telegra.ph/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%96%E5%B0%8F%E9%9A%8A%E9%95%B7%E3%82%B9%E3%83%90%E3%83%AB%E8%AA%AC-09-27-2



第4話ヒナ(4)

 

 

 

ある朝、それは突然やってきた。

 

 

「あがっ……かひゅっ……」

 

 

強烈な苦しさと痛みで叩き起こされるようにヒナは目覚めた。

 

「あぅっ……く、くるしい……砂糖、食べなきゃ……」

 

それが砂漠の砂糖が切れた事による禁断症状だとすぐに分かったヒナは起き上がり、砂糖を食べようと、ベットの上に散乱する砂糖の袋を手に取り、口の中へ流し込む。

しかしいつもなら満たされるはずの身体は悲鳴を上げるだけで一向にあの幸福感と満腹感が来ない。

 

「なんで……なんで……??」

 

必死に砂糖を口の中に流し込む。口だけでは足りないと、散らかった机の上の書類を投げ捨てるとキャンプ用ガスバーナーを置き火をつける。セットし加熱した小型のフライパンに砂糖を敷いて炙り、鼻に差し込んだストローを当て、その粉と匂いを吸い込む。

 

「来ない……なんで何も来ないのぉっっ!!」

 

いつもなら強烈な、まるでロケットに括りつけられて天高く宇宙へ届くくらいの高さまで打ち上げられたような衝撃を味わえるはずなのに、今日は何も来ないのである。

鼻の両穴にストローを差しても、刺す本数を鼻の穴の広がる限界まで増やして差し込んでもあの快楽が全くやって来ない。

 

「えっ……匂いも味がしない……?うそ……」

 

そこでヒナは気づいてしまった。先程から口に砂糖を詰め込み流し込んでも、砂糖を炙って吸引しても、快楽どころかあの砂漠の砂糖の甘い味も香りも全く感じない事に。まるで只の"砂"を食べ匂いを嗅いでいるだけのような状態になっているのだ。

 

 

「う"ぁ"あ"あ"あ"あ"~~~!!」

 

その事実を認識したとたん、さらなる痛みと苦しみがヒナの身体を襲う。体中が一気に干上がり、喉と食道はまるで焼けた鉄を流し込まれて焼け、ひっついて詰まった様な感覚に襲われる。

 

 

「カハッ……やだ……ゴホッ……やだやだ嫌だぁああああ」

 

床材が見えず足の踏み場もないほど散らかり降り積もった砂糖や投げ捨てられた空き袋を踏み滑り、まだ中身の入った砂糖の袋に足を取られ蹴躓く。何度も転び床に頭や身体を打ち付けながらヒナは部屋に天井まで届くほど積み重ねられた砂糖の袋の山にへばりつく。

無我夢中で袋を破り、噴き出した砂糖を全身で浴びながら必死に砂糖を、あの暴力的な多幸感を得ようとするが何も感じない。苦しみと痛みだけが加速度的に増えて行くだけだ。

 

「たすけて……たすけて……【アコ】……」

 

霞む視界でヒナは必死に腕を伸ばし、姿は見えない――でも声と気配は確かに傍に居る、あの愛しい幻覚の少女に救いを求める。

あの子なら決して自分を見捨てない、必ず助けてくれて幸せを与えてくれる――、そう縋るように腕を伸ばす。

 

【委員長……】

 

声が聞こえる。ずっと待っていたあの声が聞こえる。

なのに、その声はとても小さく、霞んで消えてしまいそうなほど朧げなものだった。

 

「【アコ】……ねぇ、どこに居るの?どうしてそんなに声が"遠い"の?……苦しいの……早く助けて【アコ】……」

 

 

【委員長……残念ながら、もう今の委員長は砂糖の効果を得ることは出来ません。ゲヘナに存在する低純度の砂糖ではヒナ委員長の身体の渇きを癒す事は不可能なのです】

 

「そんな……おねがい……助けて【アコ】……」

 

【申し訳ありません。私にはもう何も出来る事はありません。直に姿も声も消えて行くでしょう。残された委員長はこのまま何もできずに禁断症状に苦しみながらゆっくりと死に向かう事になります】

 

「ひっ……そんなの……いやだよ……」

 

幻覚アコから伝えられる残酷な結末にヒナは顔を青ざめさせ泣きながら助けを乞う。

 

「おねがい……何でもするから……なんでも言う事聞くから……たすけて、たすけて【アコ】」

 

【………………】

 

 

悲痛な沈黙が流れる。ヒナにとってまるで何日も何か月も経つような気の遠くなりそうな時間が流れた後、幻覚アコは口を開く。

 

【委員長、ひとつだけ助かる方法があります。とても危険でリスクのあるお勧めしない方法ですがよろしいですか?】

 

 

「!!ほんとう……なの?ほんとうに……わたし、たすかるの?」

 

【ええ、助かります。しかもそれを実行すればまた再び砂糖を美味しく味わえます――いえ、今よりももっと美味しくて甘くて幸せになれるでしょう】

 

幻覚アコの提案にヒナの目に光が燈る。

 

「そ、それはほんとうなの……もっとお砂糖美味しく食べられるの?」

 

【ええ、本当です。ただし、条件があります】

 

「じょ……条件……?」

 

【はい、それを実行するためにはヒナ委員長には今持っているすべてのモノを手放していただく必要があります】

 

「なにを……手放せばいいの?」

 

【ヒナ委員長のゲヘナでのすべての地位と権利と身分……それと仲間です】

 

「地位と権利と身分と仲間を――?」

 

【風紀委員会と言う所属組織、風紀委員長の地位と立場、そしてゲヘナ学園の学籍――。あなたはゲヘナでの全てを捨て失い、"ただの空崎ヒナ"になっていただきます】

【そしてアビドスへ行き、小鳥遊ホシノの配下になるのです。"仲間に加えて欲しい"とホシノさんに懇願し、アビドス自治区内でしか手に入らない高純度の砂糖――"アビドス純正糖"を手に入れるのです】

 

「ゲヘナを捨ててアビドスに行く、ホシノに頼んで仲間に入れて貰う……そうすればわたしはたすかるの……?」

 

【はい、助かりますし、今よりももっと幸せになりますよ。委員長、時間がありません。決断してください、すべての捨てアビドスに向かうか、このまま此処(ゲヘナ)で苦しみながら死を待つか――、さぁっ!!】

 

「うん!全部要らない!全部捨てる!!だから早くアビドスへ連れて行って【アコ】!!」

 

ヒナは懇願する。その姿に蛇のような歪んだ笑みを浮かべる幻覚アコは満足そうに頷く。

 

【ではさっそく行きましょう。時間はもうありませんよヒナ委員長】

 

「うん……アビドスに行く……ホシノにあって……砂糖をもらう………」

 

ふらふらとヒナは外へ向かう。幻覚の声に誘われるままに……。

 

 

 

 

「お、おはようございます!委員長――ぎゃああ!?」

 

「邪魔……どいて……」

 

道を歩いてると偶然通りかかった風紀委員に銃撃を浴びせ、乗っていたスクーターを強奪する。

 

125ccながら50cc並みの車体なそのスクーターは小柄なヒナでも十分運転できるからだ。

 

「はやく……アビドスへ向かわなきゃ……」

 

フルスロットルにし、前輪を軽く浮かせながらヒナが乗ったスクーターは走る。遥かアビドスを目指して。

 

 

 

 

 

「ぐっ……この……」

 

暫く走り、アビドス自治区に入ったところでスクーターが足を取られ蛇行を始める。

道路に深く積もった砂に車輪を取られ始めたからだ。どんどんスピードが出せなくなり、ついには進めなくなる。

 

「早くアビドス行かなきゃいけないのに………あら、こっちの道は綺麗ね」

 

ふと横を見れば少し離れたところに砂一つ落ちてない綺麗な黒々としたアスファルトの道がある事に気が付くヒナ。

 

「最初からこっち通れば良かったわ」

 

"立ち入り禁止""カイザーグループ占有私有地"と書かれた看板ごと有刺鉄線付きフェンスを愛銃で吹き飛ばすと警報サイレンが鳴り響く中、スクーターを再び疾走させる。

いつの間にか周りの空気が甘い香りを漂わせているのに気づいたヒナは嬉しさが溢れ出してくる。

 

「あはっ!良い香りっ!!もうすぐ…もうすぐだわ……砂糖が……砂糖が手に入る――」

 

その瞬間、空気を切り裂く鉄の滑空音がし、ヒナの身体を衝撃と爆炎が包む。

 

「あ"あ"あ"っ"!?何をするのよっっ!!」

 

地面に激しく叩きつけられ煤塗れになったヒナが顔を起こせば、一瞬で原型をと止めず吹き飛ばされたスクーターの残骸が炎を上げて燃え盛り、さらにヒナを囲むように大量のロボット兵たちが囲んでいたからだ。

 

「空崎ヒナ!何しに来た。ここはカイザーPMCの前線基地の敷地内だ。ゲヘナ風紀委員長といえども不法侵入と破壊行為は見逃さないぞ!大人しく降伏しろ!!」

 

ロボット兵の中のおそらく隊長機だろうロボット兵がヒナに勧告する。

 

「うるさい……私は砂糖が欲しいの……私の邪魔をするなら――消えてしまえっっ!」

 

 

 

――無我夢中で愛銃を乱射してロボット兵を薙ぎ倒していく。

 

あはっ、良い気味ね

 

――自分より遥かに巨大なロボット兵やオートマタを蹴散らしていく

 

鉄屑の分際で

 

――愛銃をリロードするのも面倒になり、鈍器のように振り回し、殴りつけて行く

 

ゴミの分際で

 

――死角から飛び込んできたカイザー兵に拳を揮う。拳から血を噴き出しながら、ヒナの腕がカイザー兵を砕いて行く

 

生意気なのよ

 

 

 

 

 

「そこまでだ!攻撃を止めろ、空崎ヒナっっ!!」

 

「あ"あ"あ"っ"!?今度は何っ!?まだ邪魔をする気なの!?」

 

突然響いた声にヒナは怒りの形相で振り返る。

いつの間にか景色は変わっていた。

 

大量に積み重なったカイザー兵の残骸の山とその上からヒナを取り囲み見下ろす、生徒達の姿に。

砂漠には似合わない白いフード付き外套にガスマスク姿の少女達。

砂漠の風になびくその制服に付けられた逆三角形を背景にあしらわれた髑髏と黒バラの校章にヒナは酷く見覚えがあった。

 

 

その校章を見た瞬間、ヒナの脳裏にあの思い出したくない記憶が浮かび上がる。しかしそれよりの先に別の感情――疑念が持ち上がる。

 

 

「アリウス分校……?何故アリウス分校の生徒がアビドスに居るの?」

 

トリニティならわかる。アリウスなら関係が深いからだ。実際、エデン条約事件後にアリウス分校の生徒を一部転入生として受け入れていると話を聞いた事がある。

ゲヘナならわかる。アリウスはゲヘナとも対立しており、スパイ活動などで極少数のアリウス生が潜り込んでいるのは情報部から聞いていた。

でも何故アビドスに――?一見縁も所縁も無いこの二つの学校の関係にヒナは脳内で推察をしようとして――。

 

 

 

「やぁやぁやぁ、おはよう、ゲヘナの風紀委員長ちゃん。朝早くから元気が良いね。こんなに大暴れするなんて若いね~、おじさんにはとても真似できないよ」

 

 

 

砂漠に凛と声が響き渡る。ヒナが今いちばん聞きたかった声だ。自分を取り囲むアリウス生の壁が崩れ、左右に分かれ敬礼の姿勢を取る中、その姿はゆっくりとヒナの目の前に現れた。

 

桃色の髪にアビドス高校の制服。大きな黒い盾に白を基調とした明るい色合いのショットガン。

 

アビドス高校、小鳥遊ホシノがヒナの目の前に立っていたのだった。

 

 

「小鳥遊……ホシノ……」

 

「うん、ホシノおじさんだよ~。ところで風紀委員長ちゃんはここで何してるのかな?」

 

「私はただ……アビドスに行きたくて……」

 

「それだけでカイザーの基地、一個壊しちゃうの?風紀委員長ちゃんが不法侵入したって話を聞いてるけど?」

 

「だって……砂が多くて前に進めないから……ここなら砂落ちてないから早くアビドスへ行けるって思ったの……」

 

「だからって基地壊す必要は無いとおじさんは思うよ。ねぇ、風紀委員長ちゃん、今年の春の事覚えてる?そっちの行政官ちゃんが風紀委員の子達引き連れてアビドスへ来たでしょ」

 

「うん……」

 

「その時、委員長ちゃん、おじさんと約束したよね。勝手に人の敷地へ入らない、勝手に人の庭で軍事行動や破壊活動しないって。どうして風紀委員長ちゃんがそれを破るかな?おじさん風紀委員長ちゃんの事信用していたんだよ?それともやっぱりアビドスなんてどうでも良いって思っているの?」

 

「ち、ちがう……わたし……そんなつもりじゃ……」

 

「じゃあ、なんなのさ。ここはね、おじさん達と仲良くしてくれる貴重なカイザーの基地だったんだよ。お砂糖を仲良く分け合って助け合おうって、カイザー本体から独立してアビドスに付いてくれたんだよ。それを何で壊すかなぁ~」

 

「それは、ごめんなさい。あとで弁済でも補償でも何でもするから……。私はどうしてもアビドスに来たかったのよ」

 

「それはそれは、ご苦労様。――まだるっこしいのや嫌だからハッキリと簡潔に目的言ってよ」

 

 

ホシノの声が1トーン低くなり冷たく凍えそうな気配を纏う。今まで目の奥は笑ってなかったが、声まで笑うのを止め、重圧を放つ。

視線は決してずらさず、ヒナの動きを見据えたまま、予備動作の気配すら見せずにさり気無く素早くセーフティーを外す音が聞こえる。

 

 

(ど、どうしよう、【アコ】。ホシノがとても怒っているの……)

 

【落ち着いてください委員長。大丈夫です】

 

(だ、だめだわ……今のホシノ……私の言葉に耳を傾けてくれない……私を撃つ気だわ……)

 

【大丈夫です。ここはこちらに攻撃の意思がない事をホシノさんに示すのです】

 

(でもどうやって……)

 

【言葉が無理なら態度で誠意を見せるのです。ホシノさんに恭順の意を示すのです】

 

(……………)

 

 

「ねぇ、さっきから何独り言いってるのさ。言いたい事があるならハッキリ言いなよ!」

 

苛立つホシノ。先程からヒナの様子がおかしい事に気が付いていた。

自分やアリウス生達に包囲され、銃を突きつけられているのにも関わらず、自身は愛銃を構える事すらしない。

俯いた顔は不安の表情に染まり、視線は左右に忙しく動いている。

口は言葉を発するのに勇気が必要なのか、唇が小さく動き震えてる。

何やら言葉のような物を発しているように見えるが、何を言いたいのか、読唇術を持たないホシノには理解できない。

 

やがて落ち着いたのかヒナがゆっくりと顔を上げ視線が再びホシノと交差する。

その時だった

 

「な、何ぃっ!?」「う、うへぇっ!?」

 

砂漠に音が響き渡る。ヒナが持っていた愛銃を横へと投げ捨てた音だ。

 

「…………」

 

そのままヒナは羽織っていた外套を広げる。

その内側に予備の弾倉とサブウェポンの制式拳銃が一つも欠ける事無く揃っている事をホシノ達に見せると、そのまま脱ぎ捨てる。

キヴォトスではありえない、対する大勢の前で丸腰になったのだ。

 

「え?えええっ!?」

 

困惑するホシノ達の前でヒナはゆっくりとしゃがむ。暑い砂漠の砂の上に跪いて両手を胸の前で組み、まるで神に祈るように、赦しを乞うような姿勢を取る。

涙ぐんだ瞳と赤らんだ顔で大きく息を吸ったヒナはホシノ達――、正確にはホシノに向かって叫んだ。

 

 

「お願いホシノ、私を仲間に入れて!」

 

「う、うへ?」

 

予想外のヒナの言葉にホシノはあっけにとられ固まってしまう。

ヒナが一瞬何を言っているのか理解できなかったからだ。

 

 

「おねがい……たすけて……ホシノ。わたし……もう……げんかい……な……の」

 

ぐらりとヒナの身体が傾く。ヘイローが消えそのままゆっくりと受け身も取らず吸い込まれるように地面へと倒れる。

 

 

「っっ!!風紀委員長ちゃぁっんん!!!」

 

その瞬間、ホシノは弾かれるように飛び出した。砂糖で大幅に強化された身体機能をさらにブーストし、楯も銃も投げ捨て倒れ往くヒナの元へ全力へ駆ける。

ヒナのその顔と身体が地面に無惨に叩きつけられるその直前でホシノは彼女の身体を抱き留める。

 

 

「風紀委員長ちゃんしっかりしてっっ!!」

 

抱き留めたヒナを必死に揺すり声を掛ける。腕の中のヒナは苦しそうに喘ぐのみでホシノの問いかけに反応しない。

 

「いったい……何が……」

 

【ヒナちゃんはね、重度の砂糖欠乏症にかかっているんだよホシノちゃん】

 

その時だった、ホシノの脳内に声が響き、隣に一人の少女が姿を現す。

浅葱色の髪をホシノと同じように整え、同じ着こなしの制服は胸部がはち切れんばかり膨らんでいる。

優し気な顔を黒い笑みで歪ませているこの少女は、ホシノが己の存在や命よりも大事で――それゆえに奪われ利用されている梔子ユメ――の姿を模した幻覚でありすべての元凶、蛇神:アポピスだった。

 

「アポピスッッ!!やっぱりお前の仕業かっ!!お前、風紀委員長ちゃんに何をしたっっ!!」

 

ホシノは幻覚ユメを睨む。

 

【私は何もしてないよホシノちゃん】

 

「嘘つけっ!!どうして風紀委員長ちゃんが砂糖を摂ってるんだよ!!あの子がそんな事するわけないだろうっっ!!」

 

そうだ、コイツが何かしたんだ。あのゲヘナの風紀委員長ちゃんが砂糖なんて摂るわけない。きっと、ハナコちゃんの時みたいに精神的に追い詰めて砂糖を食べるように差し向け陥れたんだ。

睨むホシノに幻覚ユメは笑みを絶やさず答える。

 

【だから私は何もしてないよ。アビドス以外は私の管轄外だからね。きっとヒナちゃんは偶然お砂糖を摂取してしまったんだよ。そもそもゲヘナに食品として低純度の砂漠の砂糖流したのホシノちゃんでしょ】

 

「そんな……まさか……」

 

【普通の砂糖としてきっと料理かお菓子か――コーヒーに入れた物で摂取したんだと思うよ。私もここまで酷い症状は初めて見るね。ふふっ、ヒナちゃん、もう低純度の砂糖じゃ満足できないくらいいっぱいお砂糖摂って来たんだね。良かったねホシノちゃん、お得意さまだよ?】

 

「うるさいっ!!揶揄うな!!それよりも風紀委員長ちゃんを助けろっっ!!」

 

【うん、私も助けたいと思ってるからね。今のホシノちゃんならヒナちゃんを助ける方法持ってるし】

 

「!?」

 

【ヒナちゃんを助ける方法はただ一つ、もっと純度の高いお砂糖を与えてあげる事だよ。ほら丁度いい所に今朝作った新製品――アビドスサンシュガー・サイダーがあるでしょ?】

 

「!!」

 

今朝、アポピスに急かされて、言われるままに作った砂糖水がある。今まで作った砂糖よりもさらに純度の高い砂糖をより飲みやすく炭酸水で割った物が。

幻覚ユメが【砂漠で喉が渇いたら必要だから、試飲も兼ねて持って行こうよ】とホシノに持たせたサイダーが腰に付けた炭酸飲料対応水筒に入っていた。

 

「やっぱりお前が仕組んだ事じゃないか!!」

 

【ひぃん、怒らないでよホシノちゃん。本当に偶然だってば】

 

「嘘つけっ!!これのどこが偶然なんだっ!!」

 

【怒らないでよホシノちゃん。それよりも良いの?ヒナちゃん重症だよ?このままだと死んじゃうよ?】

 

【………それともワザと見捨ててヒナちゃん死なせたいのかな?】

 

「ちが……そんな事は……」

 

【私知ってるよ。ゲヘナにお砂糖流す時、ホシノちゃんとっても心配してたよね?もしもゲヘナ風紀委員会に気づかれたら、ヒナちゃんに気づかれたらどうしようってね。ゲヘナと全面戦争するのもヒナちゃんと対決するのもとても不安がってたよねホシノちゃん】

 

「そんな……そんな……」

 

【良かったねホシノちゃん。ヒナちゃん死んだらもうゲヘナに敵はいないよ。全部ホシノちゃんの物だよ?うふふ……楽しみだね、ゲヘナを砂糖漬けにする未来を!!】

 

「違うっ!!私はそんな事を望んでないっ!!!私はただ、ただ……」

 

【じゃあ、ヒナちゃんに美味しいサイダー飲ませて助けてあげようよ。ヒナちゃんは命助かって幸せに、ホシノちゃんはヒナちゃんが仲間にッてくれてさらに新製品の感想まで聞けるよ】

 

「~~~~~~!!」

 

【そろそろ時間だね。お返事聞きたいなホシノちゃん】

 

「わ、私は…………。ごめん――風紀委員長ちゃん」

 

「風紀委員長ちゃんを見殺しにするなんてできないよ」

 

そう言うとホシノは水筒を開けるとヒナの口に当て中身を流し込んでいく。

 

「~~~~~~!!!!」

 

こくん、とヒナの喉が一度鳴ったと気だった。ヒナが一気に目を開けると声にならない叫びを上げる。

 

「あぁあぁあああぁあああああああああ~~~~♡♡♡♡♡♡」

 

 

肌を上気させ色のついた喘ぎ声を上げる。小さな身体を弓なりに逸らして何度も絶頂を迎え痙攣をおこす。

内股の奥、両足の付け根から盛大に潮を吹き、体液と愛液を自分とホシノを汚しながら撒き散らしながら身体をくねらせる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」

 

「ふう、ふう、ふう、ふう……」

 

華奢な身体の薄い胸を大きく揺らし、やがて落ち着きを取り戻すとヒナは潤んだ瞳でホシノを見つめる。

 

「あ、ありがとうホシノ……助かったわ……」

 

「風紀委員長ちゃんが、無事で良かったよ」

 

「違うわ……」

 

「うへ?……あっ!!」

 

一瞬の隙を突かれ、水筒を奪われるホシノ。奪い取った水筒を傾けると残った砂糖水をヒナは一気に煽る。

ごきゅ、ごきゅ、とヒナの喉が美味しそうに音を立てて中身をすべて飲み干すと、水筒を投げ捨てヒナはホシノを見つめる。

 

「私は全てを捨ててここに来たの。もう風紀委員長じゃないのよ。私の事はヒナって呼んで」

 

「え?ええっと……風紀委員長ちゃん……?」

 

「ヒナ」

 

「あ、あの……」

 

 

「 ヒ ナ 」(※特大文字で表示)

 

 

「あ、あ……うん、ヒナちゃん。ヒナちゃん……これで良いかな?…ふ、ヒナちゃん?」

 

「ええ、構わないわ。ご馳走様、この砂糖水とても甘くて美味しかったわ」

 

「それはお粗末さまでした。ところで仲間になりたいって言っていたけど……」

 

「ホシノと一緒にアビドスで砂糖を広めたいの。お願い、私をホシノの側に置いて。必要なら必要なだけ私を自由に使って」

 

「う、うん……それはありがたい申し出だね。えっと、その前に確認したい事があるんだけど良いかな?」

 

「何かしら」

 

「ヒナちゃん、一応聞くね。――『甘いものは好き?』」

 

「? ……『至上の喜び』であってるかしら?」

 

「あ、うん。わかった。合格だよヒナちゃん。ようこそアビドスへ」

 

ヒナとホシノが固く手を握り結び合った。

 

 

 

 

 

 

「うへ~、ただいま~」

 

「ホシノさんっ!!今までどこに行っていたのですか?侵入者と激しい戦闘が合ったって聞いて連絡も全然取れなくてずっと心配していたんですよ!」

 

アビドス高校へ戻ったところでホシノ達を出迎える一人の少女。トリニティ総合学園の生徒、浦和ハナコが居た。

不安そうに飛び出してきたハナコだったが、ホシノとその隣に居る少女の姿を見た途端、表情が一変する。

 

「あら?……あらっ!あらあらあら~~~♡♡♡」

 

目を細めて満面な笑みを浮かべるハナコ。

 

「ホシノさんったら♡ また女の子を誑かしてきたんですか?」

 

よく見れば二人とも着衣が乱れており、視線を下げれば腰当たりの制服、スカート周りが不自然に湿り何か粘液の付いた染みが広がっている。

ホシノの隣の少女は顔が上気し瞳は潤み、両足の内ももには何本もの体液が垂れた跡が残っている。

 

「うふふ、誑かしただけではなくて食べちゃったんですか♡ホシノさんは手が早いですね、鷹さんから狼さんへジョブチェンジですか♡」

 

「もぉう~~、揶揄わないでよハナコちゃん!おじさん大変だったんだよ」

 

「ごめんなさい、あとでお赤飯炊いておきますね♡」

 

「うへぇ~人の話を聞いてよぉ~」

 

「うふふ、ホシノさんが可愛いのでつい揶揄ってしまいました☆」

 

「もぉ~~。あ、そうだ、紹介するね。この子はヒナちゃん、うちに入ってお砂糖広めたいって言ってくれたんだ。あ、ヒナちゃんにも紹介するね。この子はハナコちゃんって言ってね、ヒナちゃんと同じく自分の学校を飛び出ておじさんのお手伝いしたいって言ってくれたんだ。元の所属はトリニティで……あ」

 

自己紹介を済ませようとしたところでホシノは二人の所属学校を思い出す。

トリニティとゲヘナが仲が悪く度々対立や衝突をしていたのは有名であり、それらを防ぐエデン条約も両校の反対派の思惑に別の組織の思惑が乗り混乱の末ご破産し立ち消えとなった。

ヒナもハナコも排外主義は無く、穏健派なため、心配はいらないかもしれないがもしかしたらホシノ達部外者には見えない何か確執が残っているかもしれない、と言う事をすっかりホシノは忘れていた。

 

「あ、あのね……二人とも……お互い色々何かあると思うけど……今はね、落ち着いて、ね?」

 

慌てて二人を取り成そうとするホシノを前に静かに近づきじっと見つめ合うハナコとヒナ。

 

おろおろと心配するホシノをよそに最初にハナコが口火を切る。

 

 

 

「ホシノさん、いいですよね♡」

 

「いい……」

 

 

ヒナが答えると満足げにハナコは頷く。

 

「改めまして、浦和ハナコです。よろしくお願いしますね、空崎ヒナさん♡」

 

「空崎ヒナ。私の事はヒナって呼んで」

 

「はい♡では私の事もハナコって呼んでください、ヒナさん♡」

 

「よろしくね、ハナコ」

 

ピシガシグッグッ!とマンガのような強い握手をお互いに交わし意気投合する二人にホシノは困惑する。

 

「ね、ねぇ、二人にも、何を通じ合ったの?」

 

「ホシノさんのおかげです♡」

 

「ええ、ホシノのおかげね」

 

「うう~小隊長ちゃん!二人がおじさんの知らないおじさんの話題で盛り上がってるよぉ~~~~!!」

 

謎の結束力を見せるヒナとハナコに対し、ホシノは傍に居た小隊長に泣きつく。

 

 

「諦めろ、ホシノ様は二人の脳を焼いた責任を取る事だな」

 

そんなホシノをバッサリと切り捨てる小隊長、さらに彼女の口から飛び出した謎発言にホシノは驚く。

 

「何その表現!?人間は脳焼かれたら死んでしまうんだけど!?またどこかで変なサブカル知識を仕入れちゃって……仕事押し付けすぎて不安だったけど、実は結構エンジョイしてない?小隊長ちゃん?」

 

「ああ、これもホシノ様のおかげで、だな」

 

「もぉ~~小隊長ちゃんまでそんな事を言う~~~」

 

ホシノと小隊長のやり取りを見ていたヒナやハナコも思わず笑みをこぼす。

 

アビドス高校に暫くの間少女達の賑やかな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでホシノ、私はこれから何をすれば良いかしら?」

 

アビドス高校でのヒナの歓迎を祝うパーティーが終わった後、ヒナはホシノに呼び出されていた。横にはハナコも同席している。

 

「うん、この間、ハナコちゃんにも伝えたんだけど、ヒナちゃんには一旦ゲヘナに帰って貰いたいんだ」

 

ホシノのその台詞にヒナの表情が曇る

 

「そんな……仲間に入れてくれたんじゃないの?どうしてそんなこと言うの?」

 

青ざめた表情で責めるヒナ。どうやらホシノに「お前やっぱ要らないから家(ゲヘナ)へ帰れ」と言われたと感じたようだ。

 

「あー、違うよ。落ち着いてヒナちゃん」

 

「もう駄目ですよホシノさん。ちゃんとヒナさんに説明しないと、私だって最初「トリニティに帰って」って言われた時、とってもショックだったんですから」

 

「ううぅ~ごめんねハナコちゃん。あのねヒナちゃん、落ち着いて聞いて欲しいんだ」

 

「ぐすっ……何?ホシノ……?」

 

「私はヒナちゃんを要らないとか仲間じゃないとか言ったんじゃないんだよ。ヒナちゃんはもうかけがえのない大切な仲間なんだよ」

 

「だったらどうして……」

 

「おじさんはね、ヒナちゃんにゲヘナを任せたいと思っているんだ。まだ完全に染まってないゲヘナをお砂糖でたっぷり染めて漬けるのをヒナちゃんにやって欲しいんだ」

 

「ゲヘナを砂漠の砂糖で染める……私がするの……?」

 

「うん、本当は砂糖を最初に広めた責任を取る為に私がゲヘナも管理したいんだけどおじさん忙しくてね、此処(アビドス)も面倒見ないといけないし、D.U(連邦生徒会)にミレニアム、百鬼夜行に山海経にクロノスにレッドウィンターにヴァルキューレにハイランダーにワイルドハントにオデュッセイアに……とにかくいっぱいの学校を見て回らないといけないんだ」

 

「そんなにたくさんの学校をホシノ一人で……?」

 

「うん、もちろんいずれはそれぞれの学校に信用できるおじさんの仲間を作ってお任せしたいんだけど中々上手くいかなくてね。そこでまずはハナコちゃんにトリニティを、ヒナちゃんにゲヘナを任せたいと思ってるんだ」

 

「私がゲヘナを……。ハナコはトリニティを担当してるの?」

 

「はい♡ホシノさんからお任せしてもらっています。既にティーパーティーは壊滅して、今は正義実現委員会を攻略中です。まぁ、あとはツルギさんとイチカさんだけで他の正実の皆さんお砂糖大好き烏ちゃんになっちゃいましたけどね」

 

「ハナコちゃんはえらいね~がんばってるね~」

 

「はい、ホシノさんの為ですから♡褒めてください」

 

「うへへ~~、頑張り屋さんなハナコちゃんにご褒美だよ~」

 

ホシノの前にしゃがみこんだハナコの頭を優しく何度も撫でた後、ポケットから飴玉を取り出すとハナコの口に入れるホシノ。

 

「う"う"ぅ"~ん"……幸せですホシノさぁん♡♡♡」

 

芳醇な甘い香りを漂わせて甘味の暴力に酔いしれるハナコ。気が付けばヒナの口からは大量の涎が垂れていた。

 

「ってこんな感じでご褒美もあるからヒナちゃんにもお願いしたいんだ」

 

「じゅるる……っごめんなさい。それで私はゲヘナで何をすればいいの?」

 

慌てて涎を袖口で拭い、残った涎を啜って飲み込むヒナ。未だにハナコの口から漂う高純度の砂糖の飴玉の香りがヒナの嗅覚と神経を揺さぶり続けている。

 

「とりあえずはゲヘナ内での砂糖の流通の管理かな?あとは砂漠の砂糖を悪用する連中を監視して必要なら実力排除してほしい」

 

「砂糖を悪用する連中が居るの?」

 

「うん、残念だけどね。混ぜ物を入れたり偽物を砂漠の砂糖と偽って粗悪品を流している連中。砂糖に麻薬やその他禁止薬物を混ぜて狂わしたり、砂糖を餌に監禁や誘拐、性暴力や売春に人身売買とか酷い事をしてる輩が居るんだ。――残念だけどゲヘナにも大勢いる」

 

「そう…なの……。それは気が付かなかったわ」

 

「だからヒナちゃんにはそう言う悪い連中を取り締まり排除して、正しいお砂糖を正しい方法で広めて欲しいんだ。ゲヘナの皆を甘い幸せに包んであげようよ」

 

「なるほど……つまりは今までと同じく、風紀を取り締まればいいのね」

 

「そう言う事」

 

「わかった、任せてホシノ」

 

「ありがとうヒナちゃん。ゲヘナの事はヒナちゃんにしか任せられないからね。――これをヒナちゃんに上げるよ」

 

机から分厚い資料を取り出すとホシノはヒナに差し出す。

 

「これは?」

 

「アビドス自治区内にある砂漠の砂糖の精製工場、その中でゲヘナに一番近い工場なんだ。これをヒナちゃんに上げるよ。うちの工場群で一番新しくて生産規模は上から2番目、ゲヘナ向けの鉄道路線と直結した専用貨物線があるから列車で大量に運び放題だよ。運用担当はハイランダーでもうすぐヒカリちゃんとノゾミちゃんが"仕上がる"から鉄道運用はお任せ出来るかな」

 

「こんなに凄い工場を鉄道設備付きで譲ってくれるなんて……ありがとうホシノ」

 

「期待してるよヒナちゃん」

 

「ええ、ホシノの望み通り、ゲヘナを砂糖で白く染め尽くして見せるわ」

 

「うん、お願い。ゲヘナの皆をヒナちゃんの手で幸せにしてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ……甘くて美味しいわ」

 

【はい、アビドス純正糖100%の飴玉ですからね。今まで食べてた砂糖とは比べ物になりません】

 

「それにね、この飴玉を舐めるとすごく力が湧いてくるの。最高ね」

 

口の中でカラリコロリと飴玉を転がす。校内の粘膜や舌を通じて甘い香りと味がヒナを染めていく。

アビドスを出てゲヘナに戻ったヒナが見たのは混乱と混沌の渦に包まれている学園の姿だった。

 

「空崎ヒナが行方不明になった」「風紀委員会にも誰にも告げずに失踪した」「どうやらゲヘナにはもう二度と戻ってこないらしい」

 

そんな噂が広まり流れ、まさに地獄の窯の蓋が弾け飛び中身が溢れ出したかのようになっていた。

スケバンヘルメット団、温泉開発部に美食研究会、さらには万魔殿の連中までがバカ騒ぎを繰り広げられていた。

一方の風紀委員会はヒナ失踪の噂を真に受けてしまい戦意が大幅に低下し、崩壊と壊走をしていた。

もはや戦っているのはイオリとチナツとアコくらいで風紀委員会は消滅寸前まで追い込まれていたのである。

そんな中に舞い戻ったヒナは大掃除に着手する。

暴れている連中を片っ端から薙ぎ倒して"掃除"していく。普段なら骨の折れる疲労困憊な作業だが、高純度の砂糖で狂化されたヒナにとっては、雑巾で机を吹くような雑な作業間隔で片づけて行く。

 

戦闘が終わった後、疲労するどころかむしろさらに元気とやる気が溢れ出てきたヒナは逃げる生徒達を追跡し、徹底に甚振った後砂糖を口に捻じ込んで行く。そんな楽しい作業を繰り返していくのだった。

 

今はあらかた終わり、それでも冷めやらない興奮を抑えるべく夜風にあたりに来ていたのだ。

 

「ああ、暴力を振るうのがこんなに楽しいなんて思わなかったわ」

 

【ヒナ委員長、あなたのそれはただの暴力ではありません。愛です。ゲヘナを愛するヒナ委員長から愚か者達への慈愛なのです。本来はムシケラ如きに与える必要など無いもの。勿体ないくらいです。そんなムシケラどもにも救いの手を差し伸べるのはさすがです。我が王バアル――】

 

「ふふっ、良いことした後は気持ちが良いよね【アコ】♪……あら?」

 

【?どうされましたか?委員長?】

 

「【アコ】……あなた……姿が……見えるわっ!!」

 

ついいつもの癖でスルーしていたヒナはようやく違和感に気づき、普段本物のアコが居て控えてる立場にその少女が姿を現している事に気が付いた。

今まで声だけで姿は見えない、どこかぼんやりとおぼろげだった少女が目の前に立っている。まるで本物の天雨アコのように。

 

【はい、委員長がアビドスへ行き小鳥遊ホシノの仲間となり高純度の砂糖を食べてくださったお陰です。委員長だけではなく私も新たな力を、より大きく強い力を手に入れたのです。肉体の完全顕現化、第2フェーズ移行の恩恵です】

 

「【アコ】……【アコ】ぉぉっ!!!」

 

幻覚アコに抱き付くヒナ。背中に回した腕に力を込めればまるで本当にそこに居るかのように、彼女の肉体を、体温を、心臓の鼓動をはっきり感じることができた。

胸に顔を埋めて深呼吸をすれば濃厚な甘い香りがヒナの嗅覚と脳神経を揺さぶり焼いて行く。

 

【私もとても嬉しいです。こうやってヒナ委員長を抱きしめ、あなたの肉体を体温を心臓の生きる鼓動を感じられるのですから】

 

「嬉しいっ!嬉しいっ!!ずっとこのまま一緒にいて【アコ】!」

 

【ええ、ええ。ずっと一緒です。もう離しませんよ私の愛しの委員長……】

 

「私も好き、愛してるわ【アコ】」

 

【私もです委員長……】

 

 

二人の顔がゆっくりと近づく。目を閉じ唇を差し出すヒナ。一瞬、蛇のような歪んだ笑みを浮かべると幻覚アコはゆっくりと己の唇をヒナの唇に重ね合わせようとようとして――。

 

 

 

微かに聞こえる少女の悲鳴、僅かに聞こえる銃撃音、そして爆発音

 

 

すぐに顔を離す二人。そこには風紀委員長とそれを支える行政官の顔をしたふたりが居た。

 

「行くわよ【アコ】」

 

【はい、委員長】

 

 

 

 

 

 

「ここね」

 

数ブロック先の雑居ビルの上に羽を静かに羽ばたかせて着地するヒナ。

眼下のビルの間の裏路地で、一人の少女が複数のスケバンに囲まれて甚振られていた。

既に武器を手放し戦意喪失して蹲って助けを乞うだけの少女に汚い言葉を浴びせ容赦なく暴力を振るい続けるスケバン達。

 

「くだらないわね」

 

【ええ、本当に醜い生き物です。ヒナ委員長のゲヘナには存在してはいけない塵ですね】

 

「さっさと片づけようか……あら?あの少女は……?」

 

甚振られ続けてる少女にヒナは見覚えがあった。その少女の名前と所属部を思い出した時、ヒナの頭の中に最高の楽しい計画が浮かび上がる。

 

「ねぇ、アコ……あの娘なんだけど……」

 

となりに控える幻覚アコに顔を向ける。

どうやら我が右腕たる行政官も同じことを考えていたようで黒い笑みを深める。

 

【うふふ、委員長。言わなくてもわかります。私も同じことを考えました】

 

「あの娘を利用するわ。砂漠の砂糖を最高の形でゲヘナに広めるの。そのためにはあの娘(駒)が必要だわ」

 

彼女の所属部の力を借りれば、食品の形、砂糖の姿である砂漠の砂糖をその見た目や性質を100%発揮して広めることができる。

誰にも気づかれず誰にも怪しまれずに、気が付けば体内は砂漠の砂糖で染まりきりもう逃げる事は出来なくなる。

彼女の立場はそれが容易に出来るのだ。

 

ああ、ゲヘナに砂糖は浸透しきった時、皆はどんな表情を浮かべ、どんな声をするのか、絶望と悲鳴の最高のハーモニーを利かせてくれるだろう

 

「あはは……愉しいわね」

 

【ええ、とても愉しみですわ。ああっいけません委員長。そろそろ動き出さないと彼女が殺されてしまいます】

 

視線と意識を向ければスケバンの一人、おそらくあのグループのリーダーであろう物が少女の荷物から包丁を取り出していた。

どうやら本気で命を奪うつもりなのだろう。

 

「行くわよ【アコ】」

 

【お待ちください委員長、顔が歪んでますよ?】

 

幻覚アコに言われて雑居ビルの屋上に据えられたステンレス製貯水タンクを鏡代わりに覗く。

そこには邪悪なヘビのような歪んだどす黒い笑顔を浮かべている自分が写っていた。

 

「いけない、これはいけないわ。あの娘が怯えてしまうわ」

 

【はい。委員長はこれから彼女の救いの女神になるのですから】

 

頬を何度も何度もマッサージして歪みを取る。

 

「これで良いかしら【アコ】」

 

【はい、完璧です。今の委員長は心優しい慈愛の戦女神に相応しいお顔をしています】

 

「ふふっ、ありがとう【アコ】、行くわよ」

 

【はい、ヒナ委員長】

 

ヒナは一気に床を蹴り空へと身体を羽ばたかせる。そのまま急降下し、目標めがけて突っ込んで行く。

泣き叫び命乞いする少女の頭部に今まさに出刃包丁が振り下ろされようとしていた。

 

 

 

 

「そこまでよ。何をしているのあなた達」

 

「絶対に許さないわ……消えなさい」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?もう安心して良いわ」

 

 

「あなたは私が護るから。だからもう泣かないで」

 

 

 

 

 

「牛牧ジュリ……(ニチャァァァッ)」

 

 

 

 

砂糖堕ちハナエちゃんのお話 ゲヘナ編 「砂糖堕ちヒナ」話 おわり

 

 

砂糖堕ちハナエちゃんのお話 ゲヘナ編 「砂糖堕ちジュリ」話へつづく

 

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