気づいたら艦これの世界にいた。   作:りるはばな

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今さら艦これ小説を書くとかいう暴挙。
どうぞお付き合いください。


1章:抜錨前夜
1話:忘れてしまったもの


「ねみぃ…」

 

そう口に出して本当に寝ないようにしながら、俺は最寄駅から自宅であるボロアパートへの道のりをとぼとぼと歩いていた。

今日は金曜日で、世の中のサラリーマンは街に繰り出してパーっとやっているのが分かる。

 

いいなぁ…。俺もその元気があればぁ…!

 

こちらはあいにくブラック企業所属のしがない独身貴族。先週から後輩の確認ミスで発生した重大インシデントを修正すべく、部署全体で今日までデスマーチを敢行していた。

無駄に社員数が多いくせ、みんな転職活動で忙しいのか必要以上の仕事をしないから、その分の仕事は無駄に俺が背負うことになった。

気づけば一週間たっていたのは衝撃だったな。タイムワープしたのかと一瞬疑ったぐらいだ。

 

でも、週末まで跨がなくてよかったなと心から思う。デスマーチで倒れこんだ戦士に対して、「あ。明日から通常業務なんで出社ですよ」は死刑宣告と同義だもんな。

 

ミスの原因を作った後輩からは「先輩!本当にありがとうございました!!お詫びに今日は先輩の家で私が料理作りますよ!あっ、なんなら私のこともお詫びにもらっていただいても…

とか何とか言っていたが、正直疲労が限界すぎて無視した。退社するときにあいつ、ギャーギャー喚いていたが、その元気はどこから来るんだろうか。もしかして仕事してねぇな?

 

 

来週あったらシメてやる…とか考えながら、街を徘徊するゾンビみたいな動きで自宅にたどり着いた俺は、適当に服を投げ飛ばしてソファに座った。

 

ああ、限界だ…。でも一杯飲みたい…!

1週間まともに寝てないんだから今夜はすぐ寝よう━━そう冷静な俺ならば思えるんだろうが、仕事が終わった達成感やら解放感で無性にビールが飲みたくなり。

 

プシュッ

 

銀色のやつを飲みながら1人で晩酌を楽しむことにした。

 

そうとなれば何かつまみが欲しいものだ。周囲を見渡してもそれらしいものはなかった。キッチンまで行けば何かあるだろうが、そんな元気はないので目の前にあるノートパソコンで何か見ることにする。

 

「うーん映画でも見るかぁ?でも眠たくなるしなぁ」

 

開いて10数分、ネットサーフィンをしてみたが、それらしく感傷に浸れるものはない。

諦めて寝るかぁ、とか思いながら過去にブックマークしたサイト一覧をずらーっと眺めていたら、

 

【艦隊これくしょん-艦これ-】

 

と書かれていた。

 

 

「うわなっっっつ!最後にやったの何年前だ?」

 

 

艦隊これくしょん。略して艦これ。言わずと知れたブラウザ美少女育成ゲームの金字塔である。

旧日本海軍の軍艦が擬人化した美少女を率いて海域を攻略していく、という今思えば時代を先取った内容だった。

そして、その内実は完全なる運ゲー。美少女の可憐なビジュアルに引き寄せられた哀れなオタクたちが、いずれ魚雷と攻撃機を避けることに祈りを捧ぐようになる。…俺もその一員だ。

 

まだクソガキの頃にやってたっけ。その後は入試だ就職だでリアルがどんどん忙しくなって、他の新作タイトルも出たことでめっきり開かなくなったな。

 

…どうしよう。久しぶりにやってみようかな。

確かプレイヤーが操作できる個所はあんまりなかったし、今の大型タイトルみたいにキャラクター固有のコンテンツがあるようなものでもなかったと思うけど…。

 

そんなマイナスを吹き飛ばすほど、サイトのトップページに映る子たちが懐かしすぎて。

彼女らは確かに、自分の青春を飾る1ページにずっといて。

吹雪。時雨。川内。他にももっとたくさん言える。

 

今でも殆どの艦娘を覚えているぐらい、愛着を持ったゲームで。

 

「…よし。久しぶりにやるか!」

 

何か大人になるにつれて忘れてしまった、大事なものがそこにはあるような気がして、再び始めてみたくなった。

 

スタートする。

データは…。まぁ残ってないよな。そりゃそうだ。

 

いいさ。もう一回ゼロから暁の水平線に勝利を刻んでやるぜ!

そう奮起しながら、「さぁて初期艦はどの娘にしちゃおうかなぁ~」なんて考えていると。

 

「あ、やべ」

 

頭が急にふらっとなって。

あっこれ死ぬやつかもとか思いながら、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~◇~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、俺。転生しました。

いやー。転生なんてもの実際にあればなぁ、ってたまに現実逃避しながら仕事していた前世だったが、本当にあるとなれば話は変わりますよね。

 

転生後の世界はお約束ナーロッパではなく、現代日本。

まぁそれでもいいよ。俺は今からGAFAに投資してエンジェル投資家エンジェル(小学生)になってやるぞと息巻いていたが、よくよく観察してみると社会の閉塞感がちょっと強い。

そして、全くと言っていいほど外国の話題を聞かないことに気づいた。

当時幼稚園児だった俺は江戸川コ●ン君をまねしながら「ねぇねぇお母さん。日本のお外とはどうなっているの」と質問をかましたところ、

母(めちゃくちゃ若くてビビったよ)は悲しそうな眼をしながら「お外には怖いお化けがたくさんいるのよ」と教えてくれた。

曰く、数年前から正体不明の化物が海に出没して海外との交流が途絶えているらしい。

 

もしかしてディストピア世界に来たのでは…と恐怖にかられた俺は、シングルマザーである今生の母にせがんで図書館に連れて行ってもらい、「実録近代史:グローバル化の終焉と知的水生生物との戦争」というクソ分厚い本を借りて母をドン引きさせながら内容を食い入るように見つめた。

 

そこに書いてあったことをまとめると、

・2000年代辺りまでは歴史がほとんど変わらず。

・グローバライゼーションが加速しかけるが、そのタイミングで謎の水生生物が世界中の海運をメッタンメッタンのギッタンギッタンに。

・彼らは様々な形をしていて、人型と酷似したものはその他の生物を操っていると見られることから、高度な知性があると判明。

・意思疎通を試みるがすべて失敗。

・事態を重く見たアメリカを中心とした国連は、彼らに対して総攻撃を開始。

・しかし、謎の防御機構や貫通力を超える硬度が原因で悉く失敗。

・お返しとばかりに反撃をくらう。特に太平洋に展開していたアメリカ合衆国海軍は悲惨で、第7艦隊所属の艦船を始め多くの軍艦が沈没。ここでハワイも喪失したらしい。

・海には敵対生物が跳梁跋扈し、あらゆる産業が著しく後退。

・人類は後退しました。以上。

 

そういえば、よくよく観察してみたら配給制になってるよね。日本。

出てくる食べ物は魚介類が中心だし、前世ほど車が走ってない。

この本を見てから気づいたわ。どんだけ節穴なんだ俺。

前世を足したら30を普通に超えるというのに…。まぁ転生して数年間はバブミを感じるのに専念してたからしょうがない。俺は悪くない。

 

よし、誰に対してか分からない正当化が完了したところで、改めて考えてみる。

これ、艦これ世界じゃね?と。

 

確証はない。おぼろげな知識を総動員すれば、確か艦これは時代設定とかがあいまいだった気がするし、深海棲艦が何なのかも触れられてなかった気がするしな。

でも、島国である日本が海運が死んでるのに目に見える変化が少ないのは、何か人類側に切り札があるからなんじゃないか?

 

そう思って、もう一度母に「ヒーローってどんな人のこと?」と聞いてみた結果。

「それはね、たまき(俺の名前だ)。艦娘みたいな人たちのことよ」

 

と、見事に艦これ世界であることが確定した。

 

どうやら、この世界の艦娘というのは謎の水生生物群(多分深海棲艦)と同じくよくわかっていない存在で、同じ時期に突然現れて人類側に与したらしい。

当時の日本の世論は、無敵のアメリカ様が破れて天地がひっくり返る騒ぎになっていたから、突然現れた彼女らに対し、挙国一致政府は藁にも縋る思いで協力を要請した。

その後も紆余曲折騒動や問題はあったみたいだけど、それは割愛。

彼女たちのおかげで日本近海の制海権は何とか維持し、騒ぎは落ち着いたのだった。

 

やっぱいるよね艦娘…。そりゃ見るからに艦これ世界だもんね…。これでいなかったら何をコレクションするか分からないもんね…。

当たり前のことを考えながら、もう一度"艦娘"がこの世界にいるという事実を嚙み締めてみる。

 

 

「…会ってみたい」

 

 

…うん。やっぱり会ってみたいな。そして、彼女たちと一緒に時を過ごしてみたい。

 

 

 

母を見やる。

数日前から始まった俺の奇行は母の目から見てもやはり奇妙なようで、何やら不安そうな顔をしているが、その目には優しさが宿っているのが分かる。

ありがとう、母さん。どうやら俺のこの世界での進路は決まったらしい。

すなわち提督になって鎮守府に勤務!艦娘と絆を深める!これすなわち宇宙の真理なり!

 

「母さん!俺頑張って艦娘の司令官になる!」

「何言ってるの。あなたは男の子なんだから家でゆっくりしてなさい」

 

え、ここ貞操逆転世界でもあるの?

 

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