気づいたら艦これの世界にいた。   作:りるはばな

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思い出の数だけ意見はあるでしょうが、やっぱり艦娘で初めて会うのはこの娘がいいよねって思います


3話:いざ艦娘のいるところ

ガタガタとワンマン列車は往く。

 

長く列車に揺られていた佐野環は、一際大きな揺れに飛び上がる。

すっかり眠りこけていた体を慌てて起こして、窓の外を見やった。

 

 

季節は春も春だというのに、薄い青が広がる空はどこか寂しさを感じさせる。

少し目線を下げると、荒々しく削れたリアス式の海岸が広がっていた。

早朝の暗い海は、昨晩の夜を未だ残しているみたいで、こちらを海の底に誘ってくるようだった。

 

 

ここは東北地方太平洋沿岸。

 

旧青森県地域に位置する、北部方面艦隊司令部が設置されている()()()()()()()

東北地域と北海道の全域は勿論のこと、未だ人が残る一部の千島列島やサハリンの南部に至るまでの広域な海域を統合的に監視・防衛。

ノーヴィソビエト連邦や中華人民政府など、大陸国家との交易路を死守する経済の要でもある。

 

そんな栄えある六大統合鎮守府の一つに環が配属…されるわけではなく。

 

その支部である八戸に置かれた()()()()()()()

津軽海峡の太平洋側の水道を警戒監視し、日夜、陸奥湾への侵入を試みる水生生物から湾内を守る重要な支部である。

 

そんな有名地方鎮守府の一つに環が配属…されるわけでもなく。

 

彼が赴くのは、さらにその支部。久慈警備府。

八戸地方鎮守府正面海域の哨戒を担当する極小規模の警備府であった。

 

彼の成績からすれば、統合鎮守府への配属は勿論、市ヶ谷にある大本営麾下海軍司令部の門を叩くことも不可能ではない。

一見すると左遷されたように見える状況であったが、自ら出世コースをどぶに捨てた環からすれば、これ以上ない栄転であった。

なお、大学校の卒業式以後、彼の任官を心待ちにしていた大規模鎮守府勤務の面々や、環がエリートコースに進むとみて少ない枠を勝ち取った同期から連日、校長室に抗議の電話が鳴り響いたようだが…。

枯葉のようになった校長が腹を抑えて廊下を歩く姿が頻繁に目撃されて以後、騒動は一定の治まりを見せたらしい。

 

ちなみに、その件について環はなにも了解していない。

数日後に艦娘と会えるという事実が頭の10割を占めていたからである。こいつアホだ。

 

 

(え、なんでこんな廃線寸前おんぼろワンマンに男が乗ってるの…?)

(声かけようかな…)

 

現在も登校中の学生から様々な目を向けられているが、彼はラノベ主人公バリの鈍感さを遺憾なく発揮して、ある1つの思いに耽り続けていた。

そんな馬鹿が何を考えているかというと…。

 

 

俺、今から艦娘と会うんだよな…。

やばい、めちゃくちゃ緊張してきた!

どうしよどうしよ!最初なんて言えばいいかな?!

「ずっとファンでした!」

いや、艦娘からすると誰ってなるか!?

「こんにちは!サインしてください!」

いや、仮にも俺は上官になるわけで、そんな下から間接取るような真似しても…

うーんどうしよ!どうしよ!分かんない!

助けて、うし○もーーーん!!

 

 

好きな子に会う思春期男子のような精神状態になっていた。

まぁ、冷静に考えてみると彼に取って艦娘とは、前世を足すと数十年を超えて焦がれてきた存在である。

誰が同じ状況に置かれたとして、環のようにならないと言えるだろう。

 

「まもなく久慈、久慈です。お出口は…」

 

 

ハッ!

もう着いちゃった!

 

汽車がゆっくりと速度を降ろす。

ガタンガタンと鳴る間隔が徐々に広がって、あれほど願ってきた艦娘との対面が近づいているのが否が応でも分からされる。

このまま音の間隔が更に広がったら、心電図みたいにピーっと死んでしまうんだろうかと妄想をしながら。

無駄にポーカーフェイスができる環は、その緊張を全く外には見せずに軍帽を深くかぶった。

 

軍人であることが判明した車内では、その過疎った人数に見合わない喧騒が巻き起こったが、そんなことはおいておいて。

当の本人である環は、

 

 

 

まぁ、艦娘ってなんだかんだ全員コミュ力高いだろうし、何とかなるだろ!

 

 

 

と、斜め上の着地を見せて落ち着きを取り戻した。

 

「…足元にお気を付けください。ドアがし…」

 

 

よぉし!何はともあれ一に挨拶、二に挨拶!社畜経験も無駄じゃなかったな!

 

 

「こんにちわぁーーーー!お迎えありがとう!あれ?だれもいない?」

 

佐野環、20代。

 

ゴソゴソ。

 

「あ、(指令書)に自力で行けって書いてあるわ。なんやねん俺」

 

彼はまだ、貞操逆転世界を理解して(わかって)いない。

 

 

 

 

 

 

 

~◇~

 

 

 

 

 

沿岸部が見せる急峻な坂を、口笛を吹きながらえっちらおっちら登ること、およそ30分。

未だ山道を歩きながら、環はここがこれからの居場所になるのか━━と、あらゆるものに目を輝かせていた。

 

久慈駅に迎えが来ると思っていた件しかり、まともに指令書を読んでいるか非常に怪しい環だが、そんな彼でも、久慈警備府はとんでもない立地にあることは調べがついていた。

当たり前の話ではあるが、知的水生生物の攻撃優先度が高いとされる軍の施設、特に艦娘関連の施設は、市街地と充分に離されて設置される。

 

瀬戸内海や九州北西部などの小島が多い地域では、島々を要塞化して軍事拠点とすることが多いそう。

そうでない場合は辺境も辺境に建てられている。海洋生存圏戦争黎明期の世論の名残だ。

 

こりゃ車買わなきゃかぁ。軍大学校出た奴には一連の免許試験が免除されてる世界だし、あるとないとじゃ大違いだしなーー。

 

しかし中古車じゃないとわしの懐が…。ローン組むか…。とか未来の計画について考えながらも、環は獣道と見紛う細道をぐんぐんと進んでいく。

ちなみに、この世界において彼のような体力がある男性は絶滅種である。この世界に自らの筋肉を傷めつけるドM共はいないのだ。

 

 

「はぁ疲れた。休憩休憩」

 

 

ある程度舗装整備された道を脇に逸れてはや15分。

間にそびえる小山を登り切った環は、ここで小休憩を入れることにした。

 

周囲を見返すと、1本の青々とした木の真下。

固められた焦茶色の土にベンチが置いてある。ベンチに座る直前、その奥に小さな祠があるのが一瞬目に入ったが、そんなことはおいておいて。

おあつらえ向きのベンチに腰掛けながら、ここも昔は人が来てたんだろうなーと風に戯言を飛ばした。

 

「おぉ、海が見える」

 

時刻はもう昼前になり、温かい太陽が地面に降り注いでいる。

暗く黒い海模様はすっかり消えて、眼下には美しい自然の光景が広がっていた。

これからの道はもう下り坂で、その先をよく見ると、戦前の映像に出てきそうな木造2階建ての棟が何個か見えた。

 

「あれが久慈警備府か」

 

中央に円形の建築物がドンと構えていて、その脇に、円形の建物に接続するように2つの棟が並んでいる。

離れたところにもう2つ建物があって、その一つは小さいながらも工廠であることがなんとなくわかった。

そこから道が伸びた先に岸壁があって、遮るもののない太平洋と繋がっていた。

 

いよいよ来たぞ。この場所に。

これから俺の生活がここで始まるんだ。

 

そんな新大学生よろしく、どう落ち着けようともテンションが高まっている自分に気づく。

心はまるで #春から久慈警備府 である。たまに砲撃が降ってくるかもなファニーでクレイジーなところだよ!

みんなもおいで!

 

 

…おほん。そんなことはおいておいて。

目線を少し下げると、やはり円形の建物がメインなのか、その玄関から施設正面にゲートが続いている。

昔の学校にありそうな横引きの鉄のゲートには、1人の少女が立っているのが見えた。

 

その瞬間。

 

気づけば暑いからと脱いだ帽子をきっちり被りなおして、襟を正している自分がいた。

どうゆう原理で転生したのかも分からないし、何故こんな世界に産み落ちたのかも分からないけど。

1つだけ言えることがあるとすれば。

 

 

 

 

 

 

「よし、提督始めるぞ!」

 

俺は今、どうしようもなく生きているってことだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~◇~  数十分前  ~◇~

 

 

 

 

 

 

 

「…ぶきちゃん、吹雪ちゃん!」

「わっせい!」

 

心地よい風がカーテンを揺らす執務室らしき部屋。

気持ちよさそうにうたたねをしていたポニーテールの少女は、茶髪の髪を二つに結んだ姉妹の声によって飛び起きた。

口に着いた涎をさっと腕でふき取りながら、その少女━━特型駆逐艦1番艦、吹雪は周りを見渡す。

 

よほどいい夢を見ていたのか、()()()とふやけていた彼女の顔は、時間がたつにつれて徐々に青くなってきて。

 

「し、白雪ちゃん。私もしかして司令官の机で寝てた…?」

「うん、ばっちり。気持ちよさそうに寝てたよ」

「申し訳ありませんでした!」

 

そこには少女2人しかいないはずなのに、吹雪は芸術的なまでの直立不動をして謝罪を口にした。

見ると、その額には大粒の冷や汗をかいている。

 

「もう、私しかいないのに。吹雪ちゃんは大げさね」

「司令官の机で寝るなんて私、とんでもないことしちゃった…」

「大丈夫。いくら任務だったとはいえ、私と綾波ちゃんは吹雪ちゃんに執務室の掃除全部任せちゃったし。寝るのもしょうがないよ」

 

 

久慈警備府。敵性水生生物が突如として現れ、大混乱する黎明期に建てられた近海防衛のみを目的とした軍事施設。

その後の混乱の終息や命令系統の刷新に伴って、すっかり重要度は薄れ、今では長いこと提督不在で運営されていた。

戦闘向きではない者も合わせると日本中に無数に存在するはずである艦娘が、ここ久慈警備府では3人しかいないという事実が、何よりも運営の実情を語っている。

そんな役目を終えかけた施設に、いきなり提督が赴任するという伝令が届いた時は、それはもう大変な騒ぎであった。施設中がひっくり返るんじゃないかと思ったとは白雪の言である。

 

そんなこんなで。

吹雪は、埃まみれでろくに整備されていなかった執務室を今まで掃除していたのである。

 

「それで吹雪ちゃん」

「うん、どうしたの白雪ちゃん!」

「上から提督の追加の情報は届いてない?」

「…。うん、なにも来てない」

「そうなのね…」

 

吹雪と白雪。2人が複雑な表情をするのも無理はなかった。

提督がやって来るという伝令。

そのペラ1枚は、提督が赴任するという事実、到着予想時刻、そして、提督の個人情報保護に関する指令のみが書かれた実にシンプルなものであった。

 

通常、提督の簡単なプロフィールや経歴などがともに記載されるものであるのだが。

 

「"司令の情報に関する取扱いに注意されたし"…だって」

「なんか怪しいよね…」

 

情報にすれば3文程度の内容しか送られてこなかったことに対して、訝しみを覚えるのは当然と言えた。

 

「どんな人が来るんだろう…」

「内密にしなきゃいけない立場の人…。新華族の人とか?それとももっと上の…」

 

もっと上、その白雪の発言に2人ともやんごとなき人物が思い浮かぶが、彼女たちはすぐに首を振る。

 

「「まさかね~」」

「さすがにないよね」

「うん、こんな小さなところに来る理由がないもの」

 

日本各地に久慈警備府と似た状況に陥っている施設は沢山あるが、その中でも特に久慈は"趣がある"見た目と中身をしているので、万が一にも高貴な人物が訪れる可能性は皆無に等しい。

それは悲しいかな、久慈に配属された2人が最も理解していることだ。

 

「うーん、でも、だとしたらなんでこんな伝令になったんだろう」

「分からないよね」

「うーん」

「うーん」

 

考えても考えてもそれらしい理由が思いつかない吹雪と白雪。

うんうんと唸り続けて数分だろうか。

吹雪が何かをひらめいたように肩を揺らした。

 

「あ、もしかして!司令官、男の人だったりするんじゃない!?」

「…え」

「だとしたら他の鎮守府とかに知らせちゃいけない理由もわかるし!」

「…」

「えへへ、そうだったらいいなぁ!」

「吹雪ちゃん、現実を見ようよ」

 

考えが先走って今にも妄想を始めそうな吹雪に、白雪は悲しい表情を浮かべながらストップをかけた。

 

「男の人が提督になるってそもそもありえないし、仮になったとしても配属先は大規模なところか内地になるよ。だって、そんな人が本当にいたら誰も離そうとしない…でしょ」

 

冷静に否定するつもりで説明を始めた白雪は、実際にそんな人物がいたらどうなるのかを吹雪と同じく夢想してしまったようで、だんだんと頬を紅く染めて会話が尻すぼみになった。

少女2人の間に妙な空気が流れる。

 

「そっかー…」

「うん…」

 

カチッ。カチッ。

 

秒針が時刻を刻む音だけが、静かな部屋でイヤに大きく流れた。

 

「……」

「…」

 

彼女らの口をふさいでいるのは、諦めに似た感情。

国防の根幹を担うものとして誇り高く任務を遂行する日々の代償として、諦めてしまっている存在。

 

そんな苦い諦観が無限に続くかと錯覚してしまいそうなその時。

 

「で、でも!」

 

吹雪が表情を一転、花のように咲かせて口を開いた。

 

「でも、結局どんな人が来るのかはわからないけど、私は司令官ができるだけで嬉しい…!」

「…うん。そうだね」

 

思えばこの世界に現れてから10年とちょっと。初期の頃や大規模作戦などで様々な提督の指揮下に入ったことはあるが、あくまで一時的にの話。

艦娘たるもの、従うべき司令官を持ちたいと考える思いが人一倍強い吹雪には、どんな提督が来るのであれ、とても歓迎すべきことだった。

そしてその気持ちは、もちろん白雪も同じだ。

 

「よしっ!そうと決まれば、これからの訓練もっと頑張っちゃうよ!白雪ちゃん!」

「…そうね。あと、とりあえず、今日の歓迎会で楽しんでもらえるようにがんばりましょう」

「そうだね!えーっと、歓迎会開始はヒトヨンマルマルだから…。あ」

「どうしたの吹雪ちゃん?」

 

 

「はっ、まさか!司令官をお出迎えする時間を寝過ごしたぁー!?」

 

再び鬼の直立不動を始めようとする吹雪を前に、白雪は冷静に時間を確認した。

 

「落ち着いて吹雪ちゃん。今はヒトヒトヒトマル。司令官の到着予想時刻はヒトヒトサンマルだから、あと20分あるよ。でも、急いだほうがいいとは思うけど」

「はいーーー!吹雪、全速前進で急ぎまぁーーーす!」

「あっ、吹雪ちゃん!」

 

妹の声も届かず、嵐のように走り去って行った姉の姿を見て、瞬間俄然とした後、くすりと笑いがこぼれる白雪。

なにかいいことが起こる。そんなぼんやりとした希望の訪れを感じて、白雪はこれからの日々が楽しみになった。

 

 

 

「あっ。白雪さんここにいた!」

 

そうして、吹雪が走り去って行った廊下からひょっこり顔を出す少女が1人。

 

「綾波ちゃん。わざわざ迎えに来てくれてありがとうね」

「さっき吹雪さんがすごい速さで通って行ったんですけど…。なにかあったんですか?」

「うん、司令官のことでちょっとね」

「私も司令官のお話聞きたいです!」

「じゃあ、哨戒の時間だし行きながら話しましょ」

 

 

こうして。

久慈警備府所属、吹雪・白雪・綾波。

それぞれがそれぞれに、提督を迎える準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~◇~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人が歩いて来るたび、当たり前だけどその人は大きくなっていって。

 

 

彼女に近づけば近づくほど、あの時の記憶のままの彼女がそこにいて。

 

 

すらっとした長身とか、優しそうなその表情とか。

 

 

いつか見た真っ白な制服とか、溌溂とした表情とか。

 

 

なんども否定しようとしても、目の前で微笑んでいるのは男性で。

 

 

敬礼した手がガチガチに緊張して震えているその姿は、間違いなく彼女で。

 

 

『ここでの生活が始まる鐘が鳴ったように聞こえた』

 

 

 

 

 

 

~なお。

 

 

 

 

 

「日本海軍所属、2等海尉の佐野環です。特別指揮官として、これから久慈警備府の指揮を執ります」

「と、と、特型駆逐艦1番艦のふびっ、ふぶきです。よよよよろしくお願いしますうう!」

 

 

 

 

 

現実はあまり締まらないご様子。

 




久慈警備府の中心部の建物の構造は、何というかスタートレックのエンタープライズ号を上から見た感じになってます。伝わってるかこれ。

次回は吹雪さんいちゃいちゃ回です。

ちなみにダーツ旅よろしく舞台地域を決めたので、久慈はおろか東北にはほとんど行ったことがないのは内緒だよ。
でも久慈って名前かっこいい。東北だから海鮮も上手そうだし最強だな。
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