角付きの演奏者   作:落日

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ep8.仲が良くなる一番の方法

「私ってさ、今まで病気とは無縁の生活送って来たんだ。だから、入院中とかの勝手が分からなくてさぁ」

 

 あれから一週間と少し。

 だいぶ治癒が進み、ゆっくり動く程度なら出来るようになった。

 ただ、ふとした事で激痛が走ることがあるため、油断はできないが。

 

「――あ、お菓子あるよ。食べる?」

 

「……いらねぇよ」

 

 私の手は払いのけられ、不機嫌そうな声で返事をされる。

 とはいえ、ほぼ予想していた通りだ。

 軽く溜息を吐いて、払いのけられたお菓子を自分の口に運ぶ。

 

「えぇ~、勿体ない。こんな美味しそうなのに……ぅん……ゴメン、言うほど美味しくなかった」

 

「なんなんだよ」

 

 新しい味が出たというのでセキに買ってもらったが、普通に美味しくなかった。

 やっぱシンプルなのが一番だね。

 

「――っつーか、何でお前はアタシに絡んできてんだよ!」

 

 私に割り当てられたベッドの隣。

 そこで横になっていた、私と同じように安静にするよう命じられた子。

 私がそうであるように、彼女だって暇を持て余しているのだろうと思い、先程からベッド横に置かれた椅子に座って話しかけていた。

 まぁ、声を荒げて抗議されてしまったが。

 

「しーっ……他にも寝てる子いるから、もうちょっと静かに話そ?」

 

「ムカつく、お前……っ!!」

 

 場所が場所なので、やんわりと彼女を諭す。

 明らかに不満気な声とセリフを発しながらも、声のボリュームを落としてくれた。

 口調とは裏腹にいい子かもしれない。

 

「――で、なんで絡んでるか、だっけ」

 

 彼女のベッド脇にあるサイドワゴンの上。

 そこに置かれている、バイザーが破損したヘルメット。

 彼女は――

 

「思い切り撃ち抜いちゃったでしょ? 貴女のこと。だから、ごめんなさいって言いたくて」

 

 彼女は、あの時襲ってきたヘルメット団員であり、私が体当たりしてショットガンをかました子だ。

 ちなみに他のヘルメット団員たちも入院しているが、比較的軽傷だった子達は既に退院したりもしていた。

 

「……はぁ?」

 

 私の言葉に、まるで意味が分からないといった表情をされる。

 まぁ、撃った撃たれたが日常のこの世界では、そんなことで謝る方が珍しいだろう。

 

「自分の非はちゃんと認める。他人の非は、流せるものなら流す。仲良くなるための、一番の方法だよ」

 

「……アタシと仲良くなる気?」

 

「ん~まぁ、そういう訳じゃなかったけど……仲良くなっちゃう?」

 

「なる訳ねぇだろ。誰がゲヘナとなんか」

 

「あらら」

 

 考える余地もなくフラれてしまった。

 その口ぶりからすると、わたし個人に対してではなく、ゲヘナ全体に悪感情を持っているようだが……

 

「まぁ、この先まだ入院生活が続くからさ。話し相手くらいにはなってよ」

 

「やだね。ときどき見舞いに来るヤツらと話してろよ」

 

「来ないときが暇なの~。生返事してくれるだけで良いからさぁ」

 

「そのあいだ、お前の話を延々と聞いてろって? 地獄かよ」

 

 取り付く島もないとは、この事だろうか。

 とはいえ、こうして彼女は「拒絶」という形で対話してくれている。

 人形や壁に話かけているより、はるかにマシだ。

 

「まあいいや。嫌って言っても話しかけるから」

 

「おまえ『頭おかしい』って言われた事ない?」

 

「少なくとも、手榴弾で私ごと爆破しろって友達に命令するくらいには頭おかしいよ?」

 

「自覚あんのかよ……」

 

 溜息を吐き、彼女は天を仰いだ。

 呆れたような、諦めたような……

 そんな感情が表情から見てとれた。

 

 

 

 

 

「あ、もう五時過ぎだ」

 

 退屈によるストレスを発散するように長話をしていたら、すっかり時間の事を忘れていた。

 

「マジでこんな時間まで話しやがった……」

 

「でも、退屈しのぎにはなったんじゃない?」

 

「ストレス溜まっただけだっつーの」

 

 憎まれ口を叩いているが、ちゃんと最後まで意志をもって返事してくれていた。

 やはり、根は良い子なのかもしれない。

 

「んじゃ、今日のところは帰るね」

 

「帰るっつっても隣じゃねーかよ」

 

「じゃーねー……えっと……」

 

 ここでようやく気付いたことが一つ。

 ここまで話していて、一切気付かなかったが……

 

「――名前、知らないや」

 

 一方的に話していたため、名前を呼ぶ機会が無かったのも原因の一つだろう。

 これから長い付き合いになる(予定)のため、名前くらいは知っておきたい。

 

「教えて?」

 

「教える訳ねーだろ」

 

「どうしても?」

 

「何があっても」

 

 彼女の意思は固いらしい。

 しかし困った。

 これから呼ぶ事があるかもしれないのに、呼び名が無いのは困る。

 だから――

 

「じゃあ『ヘルちゃん』って呼ぶね?」

 

「絶対やめろ」

 

 安直だが、ヘルメット団員だから「ヘルちゃん」。

 物凄い反射速度で拒否されたが、それ以外に無いのなら、この呼び名を使うしかない。

 

「じゃあヘルちゃん、また明日ね~」

 

「おい! その呼び方やめろ!!」

 

「えぇ~? でも、他に呼び方無いし……」

 

「~~ッ!! ラキアッ!!」

 

 一瞬の躊躇の後に、聞きなれない単語が発せられる。

 もしかしなくても、それは……

 

「……名前、って事で良い?」

 

「チッ……ああ」

 

 諦めと後悔が入り混じった顔を見せる彼女――ラキア。

 偽名という事もないだろう。

 それなら、そんな顔はしないだろうし。

 

「フフッ……じゃあラキア、また明日ね」

 

「気安く呼ぶな!!」

 

 彼女の怒声を背中に浴びつつ、ベッドに戻る。

 入院中限定かもしれないが、楽しみが一つ増えた。

 明日は何の話をしようか……など考えつつ、私は携帯で話題を漁り始めた。

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