「連邦生徒会長が行方不明なんだって! 知ってた!? ラキア!!」
「いつの話してんだよ」
あれから数日。
今日も今日とてネットを眺め、ふと目についた記事を面白そうな話題だと飛びつき、ラキアに話しかけた。
が、呆れた表情で、あっさりと返されてしまう。
……もしかして私、遅れてる?
「え、そんな有名な話なの?」
「数週間前から噂になってただろ」
「うそぉ……聞いたこと無い」
「おまえ普段どんな生活してんの?」
日常生活を気にされるほど、有名な話らしい。
……という事は
「え、じゃあこの新しく発足する機関っていうのも、もう時代遅れの話題なの?」
「……新しく? いや、それは知らねーけど」
「あっ、そうなんだ。この『シャーレ』ってとこ」
ほら。と、記事が映し出された携帯を一緒に見る。
連邦生徒会長の失踪と関連して書かれている「
どうやら生徒会と連携して、各地で起こっている問題の解決を図るらしい。
掲載されている写真には一人の大人が映っており、記事には「先生」と書かれている。
「へぇ……先生、か」
「フンッ。結局、一人消えて一人増えただけじゃねーか。何も変わんねーよ」
「まぁ……たしかに、そうなんだよね」
結局、生徒会長だろうが先生だろうが、根本的にやる事は変わらない。
いや……記事を見れば、先生はキヴォトスの外から来たらしい。
……ということは、先生はキヴォトスの事を深くは知らないはず。
これでは、むしろ悪い結果を生んでしまうのではないだろうか……?
「――っつーか、近ぇんだよ!! 離れろ!!」
ほぼ頬と頬がくっつく位の距離感で記事を見ていた私達。
それがラキアの
「だって仕方ないじゃん? この画面を一緒に見るってなったら、こうするしかないもん」
「一緒に見る必要ねぇだろうが!」
「しーっ……もう、声大きいって」
「うっせぇ!」
何回か呼びかけたのだが、完全に無視されてしまった。
ここでしつこくしたら逆効果だと判断した私は、大人しく自分のベッドに戻る。
そして「何しようかな~」とスマホを弄っていると。
「失礼します」
「カナメ~」
セキ、ヘチマがタイミングよく来てくれた。
二人の名前を呼びながら手を振り、歓迎する。
「いいタイミングで来てくれるねぇ」
「? 何かしてたの?」
「ほら、前にMomoTalkで言った、隣の子と話してたんだけど……」
親指で隣を指しながら二人に言う。
それを聞いた二人は、目を見合わせて微妙な表情を浮かべた。
「……正直、カナメが何考えてるのか分かんないけど……」
「ま~……カナメが良いなら、良いのかな~?」
納得していない表情を浮かべながら、諦めたように二人は言う。
まぁ、敵として戦った相手(しかもテロリスト)といきなり仲良くなった、などと言われても納得できる者の方が少ないだろう。
それでも二人は、私が良いなら……と尊重してくれた。
本当、私には過ぎた友人たちだ。
「話してみると結構いい子なんだよ? ね~、ラキア~」
返事は返ってこなかったが。
「……無視されてるけど?」
「うん、さっきちょっと色々あってね……」
「いきなり喧嘩したの~?」
「んまぁ、喧嘩っていうか……私がしつこくしすぎた、というか……」
「あ~。それはカナメが悪いね~」
「ヘチマがそれ言うんだ……」
当事者だから反論できず、グッと
「あれ~?」と、さして心外とも思っていない声をあげるヘチマ。
自覚あんのかい。
「ところで~、あと数日で退院って本当~?」
「うん。ホント、ホント。最後に検査して異常なかったら退院だって」
「そうなんだ。良かった……」
セキの顔が和らぐ。
私が入院してから、ここ最近、ずっと心配そうな顔をしていた。
それがいつもの表情に戻ったことで、改めて心配させてしまったなと反省する。
「私が居なくて、そんなに寂しかった?」
「うん」
「……おぉ~……」
「……いや、うん……私から言っといてなんだけど、即答されるとちょっと恥ずかしい……」
ちょっとしたジョーク、
セキの予想外の即答に、私の方が恥ずかしくなってしまった。
湧き上がる羞恥から目を逸らすように、別の話題を話し始める。
「そ、そうだ。ネットみてて気になったんだけどさ、連邦生徒会長が失踪したって――」
「「いつの話してるの?」」
「あれぇ……?」
私だけ知らなかったの……?
あれからしばらくの間、三人で談笑して時間を潰した。
夕方前には二人とも帰り、再び私一人の時間に。
そうなると、私の頭には一人の存在が思い浮かぶ。
「ラキア~?」
名前を呼びながら、彼女のベッドの方へと足を運ぶ。
見れば、まだ私とは反対側を向いたままだった。
「まだ怒ってる~?」
返事はない。
寝息が聞こえないため、本当に無視されてるだけだ。
「……ごめんね。足りないなら、もっと謝るし……望むなら、もう話しかけないからさ」
「……るせぇなぁ」
不機嫌そうな声とセリフを吐きながら、身体を回して私の方を見てくれた。
窓から差し込む光のおかげで、彼女の表情がよく見える。
「……アタシが言わなくても、もう話すこと無いだろ」
「え……?」
少しの間。
躊躇するように、ラキアは言葉を紡いでいく。
「……退院すんだろ、数日後に。じゃあ、もう話す事なんてねぇじゃねーかよ」
眉が下がり、目尻も下がっている。
その顔は、不機嫌というより……
「……そうだね。退院しちゃうから、今日みたいに一日中話しかける……なんてことは出来なくなっちゃうね」
ラキアの目が、少し揺れた。
それで確信できた。
「……そうかよ」
――不安なのだ。
彼女が何を抱えているのか、それは分からない。
でも、ゲヘナを嫌ってる彼女が。
そのゲヘナの中心地で、一人置き去りにされる。
言わば敵地で孤立している状態だ。
そんなの、普通は耐えられない。
「ラキア……」
「ハンッ、
この数日間、言葉を交わしただけの仲。
しかも、ほとんど一方通行。
でも。
たったそれだけでも。
「――来るよ」
「……あ?」
私は彼女を好ましく思った。
私はこの子を助けたいと思った。
私は――
「退院しても。放課後とか、時間ある時は必ずここに来るよ」
私はラキアを、もっと知りたくなった。
当の彼女は、ゲヘナである私のことを好いてはいないだろうが。
だが、それでもいい。
――ヘタクソ! 何年も音楽やっててその程度なの!?――
――その程度の腕に使われる楽器の身にもなりなさいよ!!――
嫌われるのには慣れている。
それに、あれに比べれば可愛いものだ。
「……ケッ」
ラキアは再び、私から顔を背けてしまう。
だが、さっきとは違って、怒った訳では無いのは一目瞭然だった。
その少しの進歩に、思わず頬が緩む。
「じゃあね、ラキア。また明日」
彼女の背中に向かって手を振りながら、自分のベッドに戻る。
そして私は、また彼女と話すための話題を探し始めた。