角付きの演奏者   作:落日

11 / 19
ep9.私が貴女を知りたいと思ったから

「連邦生徒会長が行方不明なんだって! 知ってた!? ラキア!!」

 

「いつの話してんだよ」

 

 あれから数日。

 今日も今日とてネットを眺め、ふと目についた記事を面白そうな話題だと飛びつき、ラキアに話しかけた。

 が、呆れた表情で、あっさりと返されてしまう。

 ……もしかして私、遅れてる?

 

「え、そんな有名な話なの?」

 

「数週間前から噂になってただろ」

 

「うそぉ……聞いたこと無い」

 

「おまえ普段どんな生活してんの?」

 

 日常生活を気にされるほど、有名な話らしい。

 ……という事は()()()()()()も?

 

「え、じゃあこの新しく発足する機関っていうのも、もう時代遅れの話題なの?」

 

「……新しく? いや、それは知らねーけど」

 

「あっ、そうなんだ。この『シャーレ』ってとこ」

 

 ほら。と、記事が映し出された携帯を一緒に見る。

 連邦生徒会長の失踪と関連して書かれている「S.C.H.A.L.E(シャーレ)」という名称。

 どうやら生徒会と連携して、各地で起こっている問題の解決を図るらしい。

 掲載されている写真には一人の大人が映っており、記事には「先生」と書かれている。

 

「へぇ……先生、か」

 

「フンッ。結局、一人消えて一人増えただけじゃねーか。何も変わんねーよ」

 

「まぁ……たしかに、そうなんだよね」

 

 結局、生徒会長だろうが先生だろうが、根本的にやる事は変わらない。

 いや……記事を見れば、先生はキヴォトスの外から来たらしい。

 ……ということは、先生はキヴォトスの事を深くは知らないはず。

 これでは、むしろ悪い結果を生んでしまうのではないだろうか……?

 

「――っつーか、近ぇんだよ!! 離れろ!!」

 

 ほぼ頬と頬がくっつく位の距離感で記事を見ていた私達。

 それがラキアの(かん)(さわ)ったらしい。

 

「だって仕方ないじゃん? この画面を一緒に見るってなったら、こうするしかないもん」

 

「一緒に見る必要ねぇだろうが!」

 

「しーっ……もう、声大きいって」

 

「うっせぇ!」

 

 ()ねてしまったのか、私とは反対側を向いて寝てしまう。

 何回か呼びかけたのだが、完全に無視されてしまった。

 ここでしつこくしたら逆効果だと判断した私は、大人しく自分のベッドに戻る。

 そして「何しようかな~」とスマホを弄っていると。

 

「失礼します」

 

「カナメ~」

 

 セキ、ヘチマがタイミングよく来てくれた。

 二人の名前を呼びながら手を振り、歓迎する。

 

「いいタイミングで来てくれるねぇ」

 

「? 何かしてたの?」

 

「ほら、前にMomoTalkで言った、隣の子と話してたんだけど……」

 

 親指で隣を指しながら二人に言う。

 それを聞いた二人は、目を見合わせて微妙な表情を浮かべた。

 

「……正直、カナメが何考えてるのか分かんないけど……」

 

「ま~……カナメが良いなら、良いのかな~?」

 

 納得していない表情を浮かべながら、諦めたように二人は言う。

 まぁ、敵として戦った相手(しかもテロリスト)といきなり仲良くなった、などと言われても納得できる者の方が少ないだろう。

 それでも二人は、私が良いなら……と尊重してくれた。

 本当、私には過ぎた友人たちだ。

 

「話してみると結構いい子なんだよ? ね~、ラキア~」

 

 衝立(ついたて)越しにラキアに声をかける。

 返事は返ってこなかったが。

 

「……無視されてるけど?」

 

「うん、さっきちょっと色々あってね……」

 

「いきなり喧嘩したの~?」

 

「んまぁ、喧嘩っていうか……私がしつこくしすぎた、というか……」

 

「あ~。それはカナメが悪いね~」

 

「ヘチマがそれ言うんだ……」

 

 当事者だから反論できず、グッと(こら)えた私の言いたいことを、セキが代弁してくれた。

 「あれ~?」と、さして心外とも思っていない声をあげるヘチマ。

 自覚あんのかい。

 

「ところで~、あと数日で退院って本当~?」

 

「うん。ホント、ホント。最後に検査して異常なかったら退院だって」

 

「そうなんだ。良かった……」

 

 セキの顔が和らぐ。

 私が入院してから、ここ最近、ずっと心配そうな顔をしていた。

 それがいつもの表情に戻ったことで、改めて心配させてしまったなと反省する。

 

「私が居なくて、そんなに寂しかった?」

 

「うん」

 

「……おぉ~……」

 

「……いや、うん……私から言っといてなんだけど、即答されるとちょっと恥ずかしい……」

 

 ちょっとしたジョーク、揶揄(からか)いのつもりだったのだが……

 セキの予想外の即答に、私の方が恥ずかしくなってしまった。

 湧き上がる羞恥から目を逸らすように、別の話題を話し始める。

 

「そ、そうだ。ネットみてて気になったんだけどさ、連邦生徒会長が失踪したって――」

 

「「いつの話してるの?」」

 

「あれぇ……?」

 

 私だけ知らなかったの……?

 

 

 

 

 

 あれからしばらくの間、三人で談笑して時間を潰した。

 夕方前には二人とも帰り、再び私一人の時間に。

 そうなると、私の頭には一人の存在が思い浮かぶ。

 

「ラキア~?」

 

 名前を呼びながら、彼女のベッドの方へと足を運ぶ。

 見れば、まだ私とは反対側を向いたままだった。

 

「まだ怒ってる~?」

 

 返事はない。

 寝息が聞こえないため、本当に無視されてるだけだ。

 

「……ごめんね。足りないなら、もっと謝るし……望むなら、もう話しかけないからさ」

 

「……るせぇなぁ」

 

 不機嫌そうな声とセリフを吐きながら、身体を回して私の方を見てくれた。

 窓から差し込む光のおかげで、彼女の表情がよく見える。

 

「……アタシが言わなくても、もう話すこと無いだろ」

 

「え……?」

 

 少しの間。

 躊躇するように、ラキアは言葉を紡いでいく。

 

「……退院すんだろ、数日後に。じゃあ、もう話す事なんてねぇじゃねーかよ」

 

 眉が下がり、目尻も下がっている。

 その顔は、不機嫌というより……

 

「……そうだね。退院しちゃうから、今日みたいに一日中話しかける……なんてことは出来なくなっちゃうね」

 

 ラキアの目が、少し揺れた。

 それで確信できた。

 

「……そうかよ」

 

 ――不安なのだ。

 彼女が何を抱えているのか、それは分からない。

 でも、ゲヘナを嫌ってる彼女が。

 そのゲヘナの中心地で、一人置き去りにされる。

 言わば敵地で孤立している状態だ。

 そんなの、普通は耐えられない。

 

「ラキア……」

 

「ハンッ、清々(せいせい)すらぁ」

 

 この数日間、言葉を交わしただけの仲。

 しかも、ほとんど一方通行。

 でも。

 たったそれだけでも。

 

「――来るよ」

 

「……あ?」

 

 私は彼女を好ましく思った。

 私はこの子を助けたいと思った。

 私は――

 

「退院しても。放課後とか、時間ある時は必ずここに来るよ」

 

 私はラキアを、もっと知りたくなった。

 当の彼女は、ゲヘナである私のことを好いてはいないだろうが。

 だが、それでもいい。

 

――ヘタクソ! 何年も音楽やっててその程度なの!?――

――その程度の腕に使われる楽器の身にもなりなさいよ!!――

 

 嫌われるのには慣れている。

 それに、あれに比べれば可愛いものだ。

 

「……ケッ」

 

 ラキアは再び、私から顔を背けてしまう。

 だが、さっきとは違って、怒った訳では無いのは一目瞭然だった。

 その少しの進歩に、思わず頬が緩む。

 

「じゃあね、ラキア。また明日」

 

 彼女の背中に向かって手を振りながら、自分のベッドに戻る。

 そして私は、また彼女と話すための話題を探し始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。