角付きの演奏者   作:落日

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ep13.隠しごとは苦手だから

「……以上です」

 

 月明かりが照らす一室。

 青白い光によって染まったテーブルは、元来有していた高貴さをより一層引き立たせていた。

 そのテーブルの傍らで椅子に座る1つの影。

 その人物は何も言わず、手にしたティーカップを口に運ぶ。

 数秒の静寂。

 カチャリ、と陶器が重なり合う音が響く。

 

「――下がって良いですよ」

 

 部屋の中にいたもう一つの影。

 その人物は頭を下げると、退出する。

 再び訪れる静寂。

 先の人物が置いていった数枚の紙を手に取ると、興味深そうに目を通す。

 

「……高科カナメ、ですか」

 

 ズラリと並ぶ個人情報。

 幾枚もの写真。

 その写真の中には、笑顔で笑いあう二人が――

 

………

……

 

「二人にとってさぁ、銃ってどれくらい大事?」

 

「え、なに突然……」

 

 会うなりすぐに質問した私に引き気味になるセキ。

 言った後に、もうちょっと説明すれば良かったと後悔した。

 

「いや、二人ってさぁ。銃の手入れ怠らないじゃない?」

 

 二人は時折、学校で銃の点検をしている。

 私は傍でその作業風景を見学するのだが、とても綿密で手際が良かった。

 私も護身用としてショットガンを持っているため、定期的に手入れはする。

 しかし二人のソレは、私のとは比較にならない程だ。

 

「だから、すごく大切なモノなのかなぁ……とか思ったり」

 

 私の言葉に二人は目を見合わせる。

 数秒の間の後、目線は私に戻された。

 

「まぁ、私達はこの子達と一緒に生きてきたようなものだから……」

 

「相棒ってやつだね~」

 

 相棒と言える程、彼女たちにとってとても大切なモノとのこと。

 まぁ、ここまでは事前に分かっていた事だ。

 その上で、私には聞きたいことがあったのだ。

 

「じゃあさ、もし誰かに奪われちゃったら、二人はどうする?」

 

「ま~、取り返しに行くよね~」

 

「『しょうがない、新しいの買おう』とはならない?」

 

「まぁ、無いね。粉々に破壊されたとかなら別だけど」

 

 ふ~ん、と二人の言葉を反芻させる。

 そこまで聞ければ、後はラキアがどうかだが……

 

「そっか。ごめんね、いきなり変なこと聞いて」

 

「いいよ~。風紀委員は手強いから気を付けてね~」

 

「なっ、なん、なんで?」

 

「そりゃあ、あれだけ入れ込んでたら嫌でも想像つくよ」

 

 いつも通り、にへらと笑いながら直球を放り込んでくるヘチマ。

 呆れたように苦笑いを浮かべるセキ。

 二人は私が何のために動こうとしているのかを察しているらしい。

 しかし、二人は私を止めなかった。

 認めてくれた。

 あるいは、止めても無駄だと判断したのかもしれない。

 いずれにせよ、ちょっとは前進したかな……

 

 

 

「すみません、1年の高科カナメです。火宮チナツに会いたくて伺ったのですが」

 

「あぁ、話は聞いてる。通って良いぞ」

 

 あのあとすぐチナツに、話したいことがあるとモモトークを飛ばした。

 ほどなくして、放課後なら大丈夫という返事が。

 場所は風紀委員本部の1室。

 さて、迷わず行けるだろうか……と考えていた時。

 

「カナメ」

 

 入口のそばに見慣れた姿。

 チナツは、わざわざ出迎えてくれたのだ。

 

「あ、チナツ……もしかして、わざわざ?」

 

「カナメは中を知りませんから。それに、客人を出迎えないのは失礼ですし」

 

 礼儀正しい彼女らしい。

 チナツを先導役として中を歩いていく。

 これで迷う心配は無くなった訳だが……

 

「ごめんね? 急にこんなことお願いして……」

 

「いえ……私も丁度、貴女に話したいことがありましたから」

 

「あ、そうなの?」

 

 まさにベストタイミング、といった所だろうか。

 しかし、これから私が話すのは彼女が困るような頼み。

 彼女の善意と反比例するかのように、罪悪感が増す。

 

「こちらです」

 

 しばらく歩いていると、いつのまにか目的地である部屋の前に。

 「どうぞ」と、チナツは扉を開けて私を迎え入れる。

 

「へ~……」

 

 私は小さい会議室のような場所を想像していた。

 しかしこの部屋は、なんというか……

 

「なんか、不思議な感じ」

 

 書類が積んである仕事用のデスクを見れば、ここがれっきとした職場の一つであるのは明白。

 しかし一方で、ベッドが併設されているなど、仕事オンリーという雰囲気ではない。

 それに、見れば明らかに私物らしい物がチラホラ。

 「公」と「私」が入り混じる珍しい場所。

 普通なら目移りしてしまいそうになるが……

 チナツが、この歳にして公私を分けられる人物ゆえに出来る事だろうか。

 

「カナメ」

 

 静かな部屋に、私の名を呼ぶチナツの声が響く。

 振り返って彼女をみれば、その目は至って真剣そのもので。

 

「ここであれば監視の目は届きません。少なくとも、この校内のどこよりも」

 

 監視。

 情報部の事を言っているのだろうか。

 言われてみると確かに、軽率だったかもしれない。

 ということは、チナツは私の要件を知っているのだろうか。

 

「……もう、気付いてるんだね」

 

「えぇ。……彼女の事でしょう?」

 

 なるほど。これが情報部か。

 ラキアの事はとっくに周知済みなんだね。

 だったら。

 

「知ってるなら話が早いね。チナツ――」 

 

 ここに来るまでいろいろ考えていた。

 ラキアの事は言うべきか。

 言うとして、どこまで話すべきか。

 しかし、やはり私に腹芸は向かないらしい。

 じゃあ……こうするしかない。

 

「彼女の……ラキアの銃を見せて欲しいんだ」

 

 隠し立ては無用。

 いや、知っているからこそ、隠すのは下策。

 ヘタな隠しごとや嘘は、相手に不信感を抱かせるだけだ。

 

「……なるほど」

 

 そうきましたか、とチナツは呟く。

 彼女が銃を大切にしていたかどうか。

 それを確認するには、実物を見るのが手っ取り早い。

 問題は、それを許してくれるかどうかだが……

 

「……カナメは被害者です。その現場に私はいましたし、貴女は事件解決の功労者でもあります」

 

 まぁ、問題はないでしょう。

 そんな言葉がチナツの口から、あっさりと出てきてしまう。

 ……もしかして、重く見すぎてた……?

 

「今から行きますか? さっき到着したばかりですが……」

 

「えっ、あ……う、うん!」

 

 あっさり、本当にあっさりとここまで来てしまった。

 確かに拍子抜けはしたが、ここからだ。問題は。

 

「では、こちらへ」

 

 チナツの後に続いて、再び廊下へ。

 ドクンドクン、と心臓が大きく脈動し始める。

 緊張しているのだ。私は。

 そもそも私は、誰かのために率先して行動するような人間ではない。

 誰かが作った波に乗るだけの消極的な性格なのだ。

 そうだ、私は……

 

「――着きましたよ、カナメ」

 

「……え? あっ」

 

 変なことを考えているうちに、いつの間にやら着いてしまっていたようだ。

 自分の世界から引き戻された私は、戒めるように深呼吸する。

 ……よし。

 

「入っても?」

 

 念のために確認すると、「えぇ」という肯定の返事が。

 扉を二回ノックし、入室する。

 

「失礼します」

 

 中には誰もおらず、沢山の物が置いてあった。

 おそらく、今まで没収した物が集められているのだろう。

 銃もズラリと並んである。

 

「カナメ、こちらに」

 

 チナツの後ろについて行くと、彼女は一つのアサルトライフルを手に取った。

 そのまま私に手渡すように差し出してくる。

 

「これがラキアの……」

 

 受け取った銃をいろんな角度から眺める。

 彼女の髪を想起させる真っ赤な塗装。

 パッと見、目立つ汚れは無い。

 しかし、よくよく見れば多数の傷が。

 傷の量に反してこれだけキレイだという事は、これが彼女の普段の整備によるものだという何よりの証明だ。

 これがいかに使い込まれているかが分かる。

 

「……わかった。……よく、分かった」

 

 ラキアの銃に対する想いも。

 私が次にするべき行動も。

 すべて、今この瞬間に理解した。

 

「チナツ」

 

 ここまでは順調だった。

 恐ろしいくらい、トントン拍子に進んだ。

 しかし、ここからだ。

 ここからが、本番なのだ。

 

「この銃、どうにかしてラキアに返せないかな」

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