角付きの演奏者   作:落日

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ep14.急転する立場

「この銃、どうにかしてラキアに返せないかな」

 

 私の言葉にチナツは押し黙る。

 たった数秒が、何分にも感じられる。

 その間にも私達の視線は交差したまま動かない。

 やがてチナツは目を伏せると、大きな溜息を吐く。

 

「……退くつもりは無いのでしょうね。貴女は、そういう人です」

 

 諦めたような口調で話すチナツ。

 彼女には申し訳ない事をしている自覚はある。

 ただ、チナツの言うとおりだ。

 これがダメなら別の道を探すだけ。

 それがどんなに細く、脆い道でも。

 

「カナメ。彼女の事は、どれくらい知っていますか」

 

「……どれくらいって言うのが、どこまでなのかは知らないけど――」

 

 私はラキアの事を全部話した。

 ヘルメット団に入った経緯。

 トリニティの生徒だという事。

 彼女がおそらく退学になるであろう事。

 包み隠さず、全て。

 

「……なるほど」

 

 チナツは目を閉じ、俯く。

 何かを考えこんでいるのだろうか。

 やがて顔をあげた彼女は一息つき、口を開く。

 

「本当に、彼女と仲良くなってしまったんですね……」

 

「……どういう意味?」

 

 彼女のソレは悲しさではなく、ましてや嬉しさでもない。

 私の耳には「諦め」の感情が込められているように聞こえた。

 しかし、なぜ?

 最初の2つなら理解できた。

 だが、その感情は私には見当がつかない。

 

「それを話す前に、一度戻りましょう」

 

 チナツは私の手から銃を取ると、元あった場所に戻し、ドアへ向かう。

 逸る気持ちはあった。

 だが、焦っても良い結果が出るワケでは無い。

 私もチナツの後に続いて――。

 

「――っ!」

 

 突如、チナツがドアを閉める。

 あまりに急なことに頭が真っ白になり、呆然と立ち尽くしてしまった。

 

「あら、チナツ。証拠物件管理室に用事でしたか」

 

 チナツを呼ぶ、聞き馴染みのない声。

 風紀委員の人間だろうけど……

 

「……奇遇ですね、アコ行政官」

 

 ここに至ってようやく脳が色を取り戻し、徐々に現状の把握を始める。

 あの直前、確かにチナツが息を呑むのが聞こえた。

 そして「ぎょうせいかん」……おそらく行政官の事。

 この声の主は、風紀委員行政官「天雨(あまう)アコ」先輩のものだろう。

 

「そんなに慌てて扉を閉めて……何を急いでいるのです?」

 

「すみません、仕事が立て込んでいて……」

 

 天雨先輩の声は終始穏やかだが……

 なんだろう、心がゾワッとするというか……

 心なしか、チナツの声からも緊張が感じられる。

 

「ふふっ、そうですか。熱心なのは良い事です」

 

 コツコツと、足音が通り過ぎていく。

 なぜか私はホッとしてしまう。

 聞いているだけではあったが、出来れば話すのは避けたい……

 そう思わせる何かがあった。

 

「あぁ、チナツ」

 

「はい? なんでしょう」

 

 突然歩みを止めて、チナツの名を呼ぶ天雨先輩。

 連絡し忘れか何かだろうか。

 

「独断で行動したのですから、それなりの報告を期待していますよ?」

 

「っ……!」

 

 独断……?

 チナツは何か勝手な行動をしたのだろうか。

 いずれにせよ、私には関係ないだろうが……

 それだけ言うと天雨先輩は再び歩き始め、足音はどんどん遠くへ行った。

 ほどなくして、閉められていたドアが開かれる。

 

「すみませんでした」

 

「ううん。いいよ別に」

 

 何かしらの事情があったのは、さっきのやり取りで分かっている。

 仮に聞こえていなくてもチナツの事は信じている。

 はなから嫌がらせだ何だとは思っていない。

 

「……カナメ。貴女の耳なら、さっきの会話は聞こえていたと思います」

 

「えっ? うん、聞こえてたけど……」

 

 それはチナツの個人的な話だ。

 だから、聞かなかった事にしようと思っていたのだが……

 

「あれは、貴女にも関係あることなんです……いえ――」

 

 チナツの目が私を射抜く。

 それは真剣そのもので、思わず私は息を呑んでいた。

 

「貴女こそが、中心人物なんです」

 

………

……

 

「カナメも知っているでしょうが、ゲヘナとトリニティはいま危険な状況です」

 

 あれから最初の部屋に戻った私達。

 チナツはベッドに腰を掛け、私はチナツに勧められた椅子に座る。

 ほどなくして、チナツは語りだした。

 

「そこで考えられたのが『エデン条約』です。聞いた事はありますか?」

 

「たしか、連邦生徒会長が考えたってネットで見たけど……」

 

 ラキアと知り合って、トリニティの事を色々と調べていた。

 そうして自然とたどり着いた情報。

 詳細は知らない。

 なぜなら、当の考案者がいないからだ。

 

「でも、当の本人は失踪したんじゃ?」

 

「えぇ。ですが、その条約に賛同する方々がソレを引き継ぎました」

 

「その中の一つが風紀委員……ってこと?」

 

 チナツは静かに頷く。

 という事は、その条約はいま現在進行中という事で。

 

「そんな時に起きたのが、あの事件です」

 

 ヘルメット団が……ラキアが起こしたあの事件。

 当初私が思っていた以上に重い問題だとは思っていたが……

 ここにきて、もっと、もっと重い問題だということが判明した。

 

「彼女がトリニティの生徒だという情報は、あの事件が起きて数日後には掴んでいました」

 

 おそらく、私が目覚めるよりも前。

 そんな短時間で他校の生徒まで把握できてしまうとは……それが情報部の力だろうか。

 

「私達は頭を抱えました。おそらく行政官や委員長は、そんなレベルでは無かったと思います」

 

 これから関係改善しようという時にこの騒ぎだ。

 ヘタなことは出来ない。

 彼女達の心労は計り知れないものだっただろう。

 

「何も出来ないまま時間だけ進みました。ですが……」

 

 チナツの目が私を見据える。

 ここからが本題だという事か。

 

「今朝、突然状況が変わりました」

 

「……えっ、今朝?」

 

「はい。とある要請があったんです」

 

 今朝とは、また唐突な……

 チナツの口ぶりからして、事前に少しでも話が進んでいた……なんてことも無いだろう。

 

「その内容は、要約するとこうです」

 

――当学園の1年生「緋霞(あけがすみ)ラキア」の身柄引き渡しを要請する――

 

 それは仕方ない事だ。

 ラキアも覚悟はしていた。

 私は納得できないが……受け入れるしかないのだろう。

 

「そして、もう一つ」

 

「……もう一つ?」

 

「えぇ。……これが、貴女が中心人物である所以(ゆえん)です」

 

――緋霞ラキアの引き渡しは、ゲヘナ学園1年生「高科(たかしな)カナメ」がする事――

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