「この銃、どうにかしてラキアに返せないかな」
私の言葉にチナツは押し黙る。
たった数秒が、何分にも感じられる。
その間にも私達の視線は交差したまま動かない。
やがてチナツは目を伏せると、大きな溜息を吐く。
「……退くつもりは無いのでしょうね。貴女は、そういう人です」
諦めたような口調で話すチナツ。
彼女には申し訳ない事をしている自覚はある。
ただ、チナツの言うとおりだ。
これがダメなら別の道を探すだけ。
それがどんなに細く、脆い道でも。
「カナメ。彼女の事は、どれくらい知っていますか」
「……どれくらいって言うのが、どこまでなのかは知らないけど――」
私はラキアの事を全部話した。
ヘルメット団に入った経緯。
トリニティの生徒だという事。
彼女がおそらく退学になるであろう事。
包み隠さず、全て。
「……なるほど」
チナツは目を閉じ、俯く。
何かを考えこんでいるのだろうか。
やがて顔をあげた彼女は一息つき、口を開く。
「本当に、彼女と仲良くなってしまったんですね……」
「……どういう意味?」
彼女のソレは悲しさではなく、ましてや嬉しさでもない。
私の耳には「諦め」の感情が込められているように聞こえた。
しかし、なぜ?
最初の2つなら理解できた。
だが、その感情は私には見当がつかない。
「それを話す前に、一度戻りましょう」
チナツは私の手から銃を取ると、元あった場所に戻し、ドアへ向かう。
逸る気持ちはあった。
だが、焦っても良い結果が出るワケでは無い。
私もチナツの後に続いて――。
「――っ!」
突如、チナツがドアを閉める。
あまりに急なことに頭が真っ白になり、呆然と立ち尽くしてしまった。
「あら、チナツ。証拠物件管理室に用事でしたか」
チナツを呼ぶ、聞き馴染みのない声。
風紀委員の人間だろうけど……
「……奇遇ですね、アコ行政官」
ここに至ってようやく脳が色を取り戻し、徐々に現状の把握を始める。
あの直前、確かにチナツが息を呑むのが聞こえた。
そして「ぎょうせいかん」……おそらく行政官の事。
この声の主は、風紀委員行政官「
「そんなに慌てて扉を閉めて……何を急いでいるのです?」
「すみません、仕事が立て込んでいて……」
天雨先輩の声は終始穏やかだが……
なんだろう、心がゾワッとするというか……
心なしか、チナツの声からも緊張が感じられる。
「ふふっ、そうですか。熱心なのは良い事です」
コツコツと、足音が通り過ぎていく。
なぜか私はホッとしてしまう。
聞いているだけではあったが、出来れば話すのは避けたい……
そう思わせる何かがあった。
「あぁ、チナツ」
「はい? なんでしょう」
突然歩みを止めて、チナツの名を呼ぶ天雨先輩。
連絡し忘れか何かだろうか。
「独断で行動したのですから、それなりの報告を期待していますよ?」
「っ……!」
独断……?
チナツは何か勝手な行動をしたのだろうか。
いずれにせよ、私には関係ないだろうが……
それだけ言うと天雨先輩は再び歩き始め、足音はどんどん遠くへ行った。
ほどなくして、閉められていたドアが開かれる。
「すみませんでした」
「ううん。いいよ別に」
何かしらの事情があったのは、さっきのやり取りで分かっている。
仮に聞こえていなくてもチナツの事は信じている。
はなから嫌がらせだ何だとは思っていない。
「……カナメ。貴女の耳なら、さっきの会話は聞こえていたと思います」
「えっ? うん、聞こえてたけど……」
それはチナツの個人的な話だ。
だから、聞かなかった事にしようと思っていたのだが……
「あれは、貴女にも関係あることなんです……いえ――」
チナツの目が私を射抜く。
それは真剣そのもので、思わず私は息を呑んでいた。
「貴女こそが、中心人物なんです」
………
……
…
「カナメも知っているでしょうが、ゲヘナとトリニティはいま危険な状況です」
あれから最初の部屋に戻った私達。
チナツはベッドに腰を掛け、私はチナツに勧められた椅子に座る。
ほどなくして、チナツは語りだした。
「そこで考えられたのが『エデン条約』です。聞いた事はありますか?」
「たしか、連邦生徒会長が考えたってネットで見たけど……」
ラキアと知り合って、トリニティの事を色々と調べていた。
そうして自然とたどり着いた情報。
詳細は知らない。
なぜなら、当の考案者がいないからだ。
「でも、当の本人は失踪したんじゃ?」
「えぇ。ですが、その条約に賛同する方々がソレを引き継ぎました」
「その中の一つが風紀委員……ってこと?」
チナツは静かに頷く。
という事は、その条約はいま現在進行中という事で。
「そんな時に起きたのが、あの事件です」
ヘルメット団が……ラキアが起こしたあの事件。
当初私が思っていた以上に重い問題だとは思っていたが……
ここにきて、もっと、もっと重い問題だということが判明した。
「彼女がトリニティの生徒だという情報は、あの事件が起きて数日後には掴んでいました」
おそらく、私が目覚めるよりも前。
そんな短時間で他校の生徒まで把握できてしまうとは……それが情報部の力だろうか。
「私達は頭を抱えました。おそらく行政官や委員長は、そんなレベルでは無かったと思います」
これから関係改善しようという時にこの騒ぎだ。
ヘタなことは出来ない。
彼女達の心労は計り知れないものだっただろう。
「何も出来ないまま時間だけ進みました。ですが……」
チナツの目が私を見据える。
ここからが本題だという事か。
「今朝、突然状況が変わりました」
「……えっ、今朝?」
「はい。とある要請があったんです」
今朝とは、また唐突な……
チナツの口ぶりからして、事前に少しでも話が進んでいた……なんてことも無いだろう。
「その内容は、要約するとこうです」
――当学園の1年生「
それは仕方ない事だ。
ラキアも覚悟はしていた。
私は納得できないが……受け入れるしかないのだろう。
「そして、もう一つ」
「……もう一つ?」
「えぇ。……これが、貴女が中心人物である
――緋霞ラキアの引き渡しは、ゲヘナ学園1年生「