「ラキア、やっほー」
風紀委員の一件が終わった後、私は今日もラキアの下へ来ていた。
ただ、今日は伝えなきゃいけない事がある。
「んぁ? なんだ。今日は来ねぇかと思ってた」
素っ頓狂な声をあげるラキア。
いつもは真っすぐ来るのが、今日はかなり時間が経ってしまっている。
言わずもがな、風紀委員の件があったから。
「……ラキア。今日は話があって来たんだ」
「話ぃ? んなの、いつもしてんだろ」
「あぁ、いやそうじゃなくて……いや、そうなんだけど……」
変な言い回しをしようとして空回り。
どう収集つけようか苦心していると、ラキアが鼻で笑った。
「冗談だよ。わざわざ宣言すんだから、重要な話かなんかなんだろ」
ラキアの助け舟に感謝しつつ、少し情けなくもある。
風紀委員の人達と話している時は、あんなにスラスラと言葉が出てきたのに。
「……トリニティから連絡があったみたいでさ。ラキアをあっちに引き渡す事になったみたい」
「……そうか。まぁ、分かってたことだ」
大きな溜息を吐き、目を伏せるラキア。
放たれた言葉からは諦めの感情が読み取れた。
「それで……」
「――いや、待て」
ラキアは私の話を遮り、伏せていた眼をあげて私を見る。
「なに?」
「なんでお前がソレを知ってるんだ?」
それは妥当な疑問だろう。
なぜトリニティからの連絡を、ただの一般生徒である私が知っているのか、と。
「今から話すのが、その答えだよ」
ラキアは胡散臭そうに私を見るが、ひとまず納得したようで、続きを促す。
私はうん、と1つ頷いてあの話をし始めた。
「トリニティからの要請はもう一つあってさ。ラキアの引き渡しを私にやって欲しいんだって」
「ふ~ん、お前が……
――は?」
ラキアは、当初の私の様に固まってしまう。
その気持ち……私にはよく分かる。
「どうやったんだろうね。私が貴女と仲いい事、知ってるみたい」
「――はっ。陰湿な腹黒女どものやりそうな事だな」
「ちょ、ちょちょ……き、聞かれてるかもしれないのに……」
「今更なにを怖がれってんだよ。むしろ聞かれてんだったら好都合。清々すらぁな」
意地悪な笑みを浮かべるラキア。
彼女の性格的に、やられっぱなしは気に喰わないのだろう。
私としてはハラハラするので止めて欲しいが。
「んで? お前はどうすんの?」
「受けるよ。ココに来る前に、その話をしてきたんだ」
ラキアは鼻で笑うと、自嘲気味な笑みを浮かべて私を見る。
「お前も大変だな。こんな下らねぇことで生徒会に目ぇ付けられて」
「生徒会……? あぁ、ティーパーティーのこと?」
「あ? ちげぇよ。ゲヘナにもあんだろ、生徒会」
……なにかおかしい。
噛み合っていない。会話が。
「……どうしてそこで生徒会が出るの?」
「は? 生徒会に呼ばれたんじゃねぇの?」
「ううん? 風紀委員だよ」
「はぁ~?」
なるほど、やっと分かった。
彼女は生徒会同士がやり取りしているのだと思ったのだろう。
ただ、この学園は……というより、今の状況が特殊というか……
「こんなこと普通、生徒会すっ飛ばして話し進めるかぁ?」
「まぁ、いろいろあるというか……特殊というか……」
「ことごとく変な学校だな」
彼女の言うことも、もっともだ。
言われて初めて気付いた私は、だいぶこの学園に慣れてしまっているのかもしれない。
「まぁいいや。で? アタシはいつ送還されんの?」
「それが、今朝急に言われたみたいで……何も決まってないんだって」
「……ふ~ん」
私の言葉に考え込む素振りを見せるラキア。
少しの間を置いて相槌だけが返ってくる。
私もこの件に関して話せることはコレ以上ない。
「で、もう1つあるんだけど……」
「まだあんの?」
若干うんざり気味の顔で私を見るラキア。
まぁ、重要な話の後だから気持ちはわかるけど。
「大丈夫。これは楽しい話だから」
「お前が楽しいだけじゃねぇのか?」
「はぁ~? 私と話してる時が一番楽しいって言ってたじゃん!」
「言葉の綾。建て前。わかる?」
あれからラキアは、怒りながら返事するっていう事が無くなった代わりに、知的に返してくるようになった。
嬉しいような、悔しいような……
「……まぁ、楽しいのは事実だけどよ」
「え、なに、急にデレられると困る……」
「撃ち抜くぞ」
ギロリと睨みつけられても、私の笑みが止まらない。
そんな私を見てなのか、ラキアは大きく溜息を吐き、呆れ顔を見せる。
「んで? なんだよ。もう1つの話って」
「それはねぇ……」
背負っていたギターケースを開き、中身を取り出す。
いつも入っている物より少し小さいソレは、ずっしりと重い。
「ジャ~ン」
「――お前、それ……」
ラキアが目を丸くする。
その顔を見れただけで、頑張った甲斐があったというものだ。
「返してくれるって。さっき貰ってきたんだ」
「貰ってきたんだ、って……お前……」
はい、とラキアに銃を手渡す。
彼女の目線は私と銃を行ったり来たりし、おずおずと私から銃を受け取る。
「……たしかに、アタシの……」
受け取った銃をしげしげと眺めると、彼女は大事そうに抱きしめた。
その姿を見ると余計に嬉しくなる。
「ありが、とう……」
ポツリと呟かれたその言葉。
普段の彼女から想像できないしおらしい口調に、思わず目尻が下がる。
昔から、こういうギャップには弱いのかもしれない。
「良いって。友達なんだから」
出会いは最悪。
交流時間も短い。
それでもラキアは、私の大切な友達だ。
「……そういえばソレ、ギターケースだろ? 中身はどうしたんだよ」
「ん? あぁ。あの子は、ちょっと廊下でお留守番」
「防犯意識皆無か?」