角付きの演奏者   作:落日

3 / 19
ep1.祈り むなしく

 

「あわわわわ……」

 

 朝の祈りは虚しくも天に届かなかった。

 朝早くから撃ち合いは始まっており、何とか回り道できないかと大回りしたが……

 

「……あ?」

 

 バチッと、後方で待機していた一人の不良生徒と目が合ってしまった。

 肩に乗せていたアサルトライフルを持ち直し、こっちに歩いてくる。

 私はゆっくりと後ずさりながら、距離感を一定に保つ。

 

「おい」

 

 不機嫌そうな声とともに、こっちに近寄るスピードが速くなる。

 同時に私の後ずさりの速度も上がるため、距離は常に一定だ。

 ピタッ……と歩みを止めるので、私も止まる。

 

「――待てコラァァァ!!」

 

 いきなり地面を蹴り、私に詰め寄ってくる。

 当然、私も振り返って逃げだした。

 

「私は無関係ですぅぅぅ!!」

 

 一瞬目が合っただけで即バトル。

 ポ○モンじゃないんだから……

 

 ズガガガガ……ッ!! と撃ち込まれる弾丸の雨。

 それらは肉体に到達することなく、バスンバスンッと背負っているギターケースに吸い込まれる。

 

「ぅわぁっ!? ダメダメダメ!! これだけはダメ!!」

 

 弾幕に晒されるギターを背中から下ろし、両腕で抱える。

 

 こんな風に撃たれるのは初めての事ではない。

 入学してからというもの、何度撃ち合いに巻き込まれた事だろうか。

 というより、もはや巻き込まれなかった日を数える方が早いだろう。

 そんな日常を送ってきて今日まで生きているのは、キヴォトス人だからに他ならない。

 というのも――

 

「あだだだだだっ!! ご勘弁をぉ!!」

 

 背負うものが無くなった無防備な背中に、無慈悲に撃ち込まれる弾丸。

 にも(かか)わらず、「痛い」だけで済んでしまう謎の耐久性。

 それはこのキヴォトスの人間全員が有しているもの。

 その程度で済むからこそ、銃ですら喧嘩の道具にされてしまう。

 ただ、痛いものは痛いうえ、そもそも無関係な身の上であるため、私に撃つのは是非とも勘弁してほしい所だ。

 

「こうなったらアレを……痛い痛い!!」

 

 ベチベチと体を痛めつけてくる銃弾を浴びながら、建物の角を曲がり、敵の視界から消える。

 その瞬間に逃げるのをやめ、抱えていたギターを壁に立てかけ、護身用のショットガンを取り出す。

 そのまま影で身構えながら、耳に全神経を集中させる。

 近付く怒声と足音。

 

(まだ……もう少し……!!)

 

 限界まで引き付け、そして今、すぐそこで地面を踏みしめる音を聞いた。

 

「うあぁぁあぁ!!」

 

 思い切り地面を蹴り、身体ごと前に突進する。

 

「ぅぐぉっ!?」

 

 狙い通りの、完璧なタイミング。

 全体重を乗せたショルダータックルが不良の腹部に突き刺さり、そのまま地面へと押し倒す。

 突進の勢い+全体重の衝撃を受けたまま、無防備な背中から地面へと倒された彼女は(うめ)き声をあげる。

 私はその勢いのまま一回転し、スムーズに立ち上がると、倒れたままの彼女に向かってショットガンを構える。

 

「んなっ、ちょっ――」

 

 セーフティを外し、躊躇なく発砲する。

 ズギャン!! という音と共に散弾がさく裂、不良の腹部に集中して弾丸が浴びせられる。

 

「ぅげぇっ!?」

 

「うおあぁぁぁぁ!!」

 

 相手の呻き声をかき消すように叫びながら、スライドして排莢・装填、即座に発射。

 それを何度か繰り返した後、カチンッカチンッという音が、装填していた全てのシェルを撃ち果たしたことを告げる。

 

「ハァーッ……ハァーッ……」

 

 叫びながら撃ち続けたために荒れ果てた息を整える。

 不良は、目が明後日の方を向き、ピクピクと痙攣していた。

 ちょっとだけ不安になり、手を口元へ持っていけば、ほのかに感じる風が彼女の命を教えてくれる。

 息がある事に安堵すると、途端に身体から力が抜けた。

 大きなため息を一つ吐きながら、ストンと地面に座り込む。

 

――グイグイ……

 

「……ふぇ?」

 

 肩甲骨あたりに、何か硬いものが押し付けられるような感触。

 間抜けな声を発しながら振り向くと、三人程の不良生徒が。

 一人は私にライフルの銃口を押し付け、残り二人は肩に乗せたまま。

 

「……へ、へへ……」

 

 思わず笑いが(こぼ)れてしまう。

 三人はニコッ♪ という音が聞こえそうな笑みを浮かべると、

 

 

 

 その三つの銃口を私の顔に向けた。

 

「もうやだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 立てかけていたギターを再度抱え、逃走を再開する。

 果たして登校できるのだろうか……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。