「お゛、お゛は゛よ゛~……」
あれから無数の銃弾やら手榴弾やらでボロボロになりながらも、なんとか逃げきって校舎へとたどり着いた。
「あ、おはよ~」
「うわぁ、アレに巻き込まれたんだ……」
教室についた私を見るや、同情するような声が掛けられる。
「ヘチマぁ~……セキぃ~……」
「
ここに入学して最初に出来た友達であり、恩人でもある。
「はぁ~……疲れたよぉ~……」
登校時間の9割を全力疾走し、さすがに疲れが限界に達していた私は、ボスンッと無造作に椅子に体を預ける。
「毎日毎日、よく飽きないよね……」
「また風紀委員の子、駆り出されてたしね~」
「まぁ、いつもの事……ってね」
風紀委員。
ゲヘナ学園の治安維持を一手に担う組織。
そんな組織があるにも関わらず、一向に治安が良くならないのは風紀委員の力が及ばないから……なんてことは無く。
その力は舐められるどころか、むしろ恐れられている程。
それを踏まえてなお暴れる生徒達……若気の至り、というヤツなのだろうか。
「――で、ギターケースボロボロだけど……大丈夫なの?」
「……!?」
すぐさまギターケースを開き、中身を確認する。
逃走中は、この身を盾にして爆発や銃撃からギターを守ったが、問題なのは最初に撃たれた数発。
あの時は逃げる事しか頭になく、ギターを背負ったまま逃げてしまったために、撃たれてしまった。
ケースには風穴が空いているが、果たして……
「――よがっだぁ~……」
撃ち込まれていた弾丸は全て奇跡的に本体を逸れており、傷一つ付いていなかった。
舞い降りた奇跡に、信徒でもないのに手を合わせて感謝の祈りを送った。
「奇跡すぎる……運が良すぎるよぉ~……」
「いや……巻き込まれた時点で不運じゃ……?」
「詐欺に引っかかりやすそうだよね~。カナメって」
――いいカモね。アンタって――
ヘチマのセリフに、一瞬だけフラッシュバックした記憶。
やはり夢を見たからだろうか、今日はやけに彼女の事を思い出す。
だが……どれだけ彼女を想っても、もう――
「カナメ……?」
「っ! あっ、と……どうしたの?」
反応しなくなったことを怪訝に思われたのだろうか、セキに顔を覗き込まれる。
慌てて顔をあげて反応すれば、その表情からは、ありありと「心配だ」という感情が読め取れる。
「や、急に
「あぁ、うん! ギターは大丈夫だったよ! 無傷!!」
「いや……そっちじゃなくて、カナメ自身の方」
見当違いな返答に呆れながら、「まぁ……元気そうだね」と納得してしまったセキ。
そのやり取りの間、机の上に置いていたギターの弦をベインベインと指で弾いていたヘチマが、その指を止めて問いかけてくる。
「今日は配信するの~?」
私は度々、動画サイトで配信することがある。
内容は主に弾き語りだ。
テキトーに弾きたい曲、歌いたい曲を奏でるだけ。
目の前の二人も時々、視聴してくれていたりするらしい。
「今日はするね。ギターも無事だったし!」
「せっかく無事に持ってこれたんだから、帰るまで壊しちゃダメだよ~? こう見えて楽しみにしてるんだからさ~」
「それは第一校舎の方々に言って欲しい……」
「いやいや、無理無理」
第一校舎の生徒は、ゲヘナのイメージそのものだ。
劣悪な治安。無秩序。
校舎内だろうが校庭だろうが、銃撃戦が絶えない。
一方で、私達がいるここはゲヘナ学園の第二校舎。
学園生の中でも、まともな部類が集まる……とはいえ、ゲヘナ全体でも1割程度しかいないが。
セキとヘチマを恩人と思っているのは、ここの存在を教えてくれたからだ。
「自由」という甘言にホイホイと誘い込まれ、まんまと魔境に迷い込んだ私のことを助けてくれた二人には感謝しかない。
「……あ、風紀委員帰ってきた……」
セキの言葉に釣られて外を見ると、複数の護送車が列になって校内に。
「アレ全部に入ってるのかぁ……」と、巻き込まれた身でありながら他人事のように呟く。
それと同時に、風紀委員の友達を気の毒にも思った。
「チナツ、今日も書類に追われるんだろうなぁ……」
風紀委員所属の救護担当……なのだが、風紀委員長などの一部を除いてまともに書類関連の仕事をしないため、彼女にその仕事が回ってくる。
本来なら彼女の仕事では無いし、断る権利もあるだろう。
だが、彼女はそれを拒まない。
担当外の仕事であっても、苦言の一つや二つは漏らすものの、最後までこなすのだ。
いわく「最後には誰かがやらなければいけない事だから」らしいが……その優しさや責任感は彼女のためにならない。
……前世で経験済みだからこそ言える事だが。
私としても、できれば手伝いたい気持ちはある……の、だが……
「……はぁ」
「そんなに心配なら、風紀委員に入っちゃう~?」
「無理ぃ……」
だが私は風紀委員の人間ではない。
部外者が、しかも書類仕事で手伝える事など無い。
かといって、風紀委員に入る覚悟もない。
戦いが苦手な私が入るような場所では無いのだ。
「じゃ~、また今度『お疲れ様でした会』でもする~?」
「あ、良いねソレ。丁度気になるメニューが出てさぁ――」
「……なんか、毎週お疲れ様でした会やってるような……?」
本人の知らぬところでカフェに集まる予定を立てつつ、今日も慌ただしい一日が過ぎていく……