角付きの演奏者   作:落日

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ep3.配信は防犯カメラじゃありません

 

「あーあーあー……うん、よし。マイクも入ってる」

 

 街が見下ろせる、山の中腹にある展望台。

 スマホを三脚で固定し、風景と自分が映る様に調整。

 モバイルバッテリーにも繋いでる。

 ポケットwifiも良し。

 最終確認を終えて、配信開始のボタンを押す。

 

「はい、こんにちは~。『カタツノソング』の時間だよ~」

 

 いつもの挨拶をしながら手を振る。

 配信確認用のサブスマホを見て、ちゃんと配信出来ているかを確認。

 

「今日もね~、いつもの風景と一緒に配信するね~」

 

<こんにちは~>

<今日はアコギか>

<きちゃー!>

<生きとったんかワレェ!>

 

 配信開始してすぐにチャットが付く。

 前世でも経験したが、最初のうちは視聴者0などザラにあるので、今こうして見て貰えていることに嬉しさを覚える。

 

「は~い、こんにちは~。前回はねぇ、悲しい事に銃撃戦に巻き込まれて配信終了だったんでねぇ。今日は最後まで出来るかな~って所ですけども」

 

<あれマジで草だった>

<ゲヘナって感じだったね>

<いきなり爆発音がして鼓膜ないなった>

 

「ね~。いきなり手榴弾飛んできた時は頭真っ白になっちゃった。まぁ、実際には黒くなったけど。ヘヘッ」

 

 ジョークを挟みつつ喋りで口を慣らしていく。

 何年もやってても、やはり緊張はしてしまう。

 軽く指のウォームアップも済ませ、ふぅっと心を落ち着かせる。

 

「んじゃ、今日は何から歌おっかな~。ん~……」

 

 撫でるようにギターを弾きながら、何となく頭に浮かんだ曲。

 よし、とそれを歌うことに決め、本格的に指を動かし始める。

 

「~♪」

 

 この世界には、知らない曲が沢山あった。

 その中には、前世で名曲と呼ばれた曲たちに匹敵するものも多数ある。

 

「――はい。〇〇さんの××でした」

 

<888888>

<うま~>

<初見です。歌上手ですね>

 

「あ、初見さんありがとね~! 皆も拍手とか、上手いって言ってくれてありがと~! この曲ね、勿論好きなんだけど一番好きなのがね~――」

 

 合間合間に曲の談義を挟みつつ、次へ次へと曲を演奏する。

 こうして演奏するのも、歌うのも私は好きだ。

 でも。

 やはり、どれも足りない。

 私の身体が、心が満足しない。

 ――私の一番欲しい音が、ここには無い。

 

 

 

「んっと、ライブの半分くらいの時間が経ったね。今日はあと4、5曲くらいかな」

 

 そうして配信開始から1時間が経った。

 

<今日は何も起きなくて良かった>

<このまま最後まで歌えるかな?>

 

「や~、今日は完走したいねぇ。前回が前回だっただけにさぁ」

 

 前回の愚痴をこぼしつつも、ラストへ向けて曲を重ねる。

 

 

 

 そのまま何事もなく演奏は進行していき、最後の曲もフィナーレへ。

 そして気持ち良く、締めの一音を鳴らし――

 

ドゴォォォォン……

 

「……へ?」

 

 最後の最後。

 本当の締めの一音に重ねて、爆発音が鳴り響く。

 背後を振り返れば、街の一角から煙がモワモワと吹き上がっていた。

 

<クッソ絶妙なタイミングで草>

<もはや様式美>

<【ゲヘナ】ゲヘナ、ゲヘナ>

<どの辺でしょう?>

 

「どの辺……うーん、あそこって確か最近、○○ってレストランが出来てた辺りのような……?」

 

 三脚を付けたまま配信用のスマホを掴み、爆心地を撮る。

 

<ありがとう>

 

「ありがとう?」

 

 コメントの意図が分からず、首を傾げる。

 コメント欄も「?」で埋まっていたが、その中に一つだけ目を引くものがあった。

 

<風紀委員じゃ?>

 

「……冗談」

 

 そんな訳はないと思いつつも、そうであれば筋が通ってしまう。

 それは視聴者も同じようだった。

 

<マジ? 即行捕まるじゃん>

<っていうか犯人、美食研究会じゃね?>

<ありえる。というか多分そう>

 

 美食研究会。

 名前からは想像がつかないが、ゲヘナでも1、2を争う程の問題組織だ。

 美食のためならば文字通り何でもする集団であり、食を冒涜していると判断すれば躊躇なく爆破する。

 その信念は尋常ではなく、風紀委員と対面してなお退かない程。

 

「え~……なんか不完全燃焼になっちゃったんだけど……」

 

<こっちは面白かった>

<撮れ高の神様舞い降りてた>

 

「あ、面白かった? んじゃあ、まぁ……いっか」

 

 歌で盛り上げた訳ではないのが心残りではあるが……理由はどうあれ楽しんで貰えたのは、せめてもの救いか。

 

「んじゃま、オチがついた所で配信も終わろうか」

 

 あまり長々と中継しても仕方がないと判断し、配信終了を伝える。

 チャットでは「中継してほしい」などという物もあったが、そういうのはクロノススクールの分野であり、私の仕事ではない。

 

「はい、じゃあお疲れ~。また見てね~」

 

 配信を切り、配信機器や楽器を撤収する。

 あのコメントが風紀委員のものであるかどうかは知る由もないが、どうであれ風紀委員が動くのは確定している事だ。

 

「……本当、大変だね……」

 

 朝は銃撃戦の鎮圧。

 そして今は市街地内での爆発の対応。

 休む暇もないとは、このことか。

 

「はぁ……帰ろ……」

 

 心の中で気の毒に思いつつ、家路についた。

 

 

 

――次の日――

 

「情報提供ありがとうございました」

 

 珍しく朝、第二校舎で出会ったチナツに開口一番で感謝される。

 

「……それってつまり、そういうこと?」

 

 それは、あのコメントが「そういうこと」だという暴露に他ならなかった。

 ……というか。

 

「見てくれてるんだ、私の配信」

 

 私の問いに、微笑を浮かべながら頷く。

 

「休憩中に少しですけど。ちょうど爆発が起きた所でした」

 

「そっか」

 

 それは、タイミングが良かったのか悪かったのか……

 風紀委員の現状を考えると、あまり手放しで「役に立ててよかった」などと言えない。

 

「――チナツは、さ」

 

 思い切って、聞いてみる。

 ここで聞かなきゃ、多分、ずっと聞く機会はないだろうから。

 

「風紀委員、嫌になったりとかはしないの? これからも続ける?」

 

 少しだけ目を伏せたチナツ。

 数秒の間の後に、口を開いた。

 

「……結局、最後は誰かがやらなければいけませんから」

 

 チナツはそれだけ言うと、一礼して去っていく。

 おそらく、また風紀委員の仕事だろう。

 言いたい事はあった。

 でも、それを口にする資格は私にはない。

 

「……そんなの、誰のためにもならないよ……」

 

 言ってはいけないと、呑みたくて、呑みたくて、呑み込めなかった言葉。

 消え入るような声で呟かれたソレは、誰に届くわけでもなく消えていく。

 

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