角付きの演奏者   作:落日

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ep5.友達の為なら

「――セキ!! ヘチマ!!」

 

「うん!!」

「ほ~い」

 

 二人が力を合わせて、テーブルをヘルメット団に投げつける。

 

「な、ぁっ!?」

 

 突然のことに怯んだヘルメット団。

 

「チナツ!!」

 

「――えっ、あ……」

 

 その隙にチナツの手を引き、ヘルメット団の対角線上に避難する。

 本当は逃げたかったのだが、入り口は、そのヘルメット団に塞がれて使えない。

 裏口もあるだろうが、従業員でもないため、場所が分からない。

 なにより、(ひる)んだと言っても一瞬のため、探す時間もなく、こうして距離を取るだけで精一杯だった。

 

「ッックソがっ!! ナメやがってナメやがってナメやがってぇぇぇ!!」

 

 もはや狙いなど一切付けずに乱射される。

 近くのテーブルなどをバリケードとして使うが、いつまでもつか……

 

「チナツ? チナツ!!」

 

「あ……すみません、その……」

 

 (うつむ)くチナツの表情には暗い影が落ちていた。

 そして、自虐するように呟く。

 

「――あらためて、風紀委員の見られ方を……委員長の偉大さを思い知りました……」

 

 たしかに、これが空崎 ヒナ委員長だったなら、犯人たちも投降した可能性はあった。

 だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

「……チナツ、考えるのは後。今はここを切り抜けよう」

 

「……はい」

 

 暗い表情のままだったが、やるべき事は理解してくれたようだ。

 

「でもどうする~? 結局、多勢に無勢だよ~?」

 

「まともに撃ち合っても、勝ち目ないよ……」

 

 それはそうだ。

 正面からいくなど、負けに行くようなもの。

 だから。

 

「だからこそ正面から行くよ」

 

「な……何を考えているんですか、カナメ!?」

 

「もちろん、このまま突撃なんてしない。セキ、ヘチマ」

 

 これは賭けだ。

 そもそも戦いなんて詳しくない私に、この状況を打開する策なんて思いつくわけがない。

 だから。

 余計な策で勝率を下げるくらいなら。

 

「さっきみたいに、あいつらにテーブル投げつけて」

 

「え……で、でも、さすがに……」

 

「同じ戦法は対応するんじゃないかな~」

 

「――承知の上、だよ」

 

 私はもう、腹をくくった。

 失敗する公算は高い。

 だが。

 今回は自分の事だけじゃない。

 友達の安全が掛かっているのだ。

 

「二人とも、手榴弾はあるよね」

 

「……ま、まさか……」

 

「ま~……やれって言うなら、やるけど~……」

 

 私のやりたいことを察した二人は、少し躊躇したようだが、承諾してくれた。

 

「チナツ」

 

「? は、はい……?」

 

「骨は、拾ってね」

 

「――え」

 

「――いくよ!!」

 

 私の言葉と同時に、セキとヘチマが指示通りに動く。

 投げつけられるテーブル。

 それと同時に。

 私は地面を蹴った。

 

「――ッ!! 何度も同じ手に――」

 

 ヘルメット団は銃を持ち直し、振り上げると――

 

「――かかるかぁ!!」

 

 銃のストックを思い切り、飛んでくるテーブルに叩きつけた。

 テーブルは真っ二つに砕け――

 

「ん、なぁっ!?」

 

 そのテーブルの欠片を弾き飛ばしながら、私はヘルメット団に肉薄する。

 周りの団員は呆気にとられたようで、私を撃っては来なかった。

 

「――く、そ……!!」

 

 慌てて銃を持ち直そうとするが。

 ――私の方が早い。

 

「ッおらぁ!!」

 

 懐に飛び込んだ私は、そのまま体ごと垂直に飛び上がる。

 バギィッと音を立てて、敵の顎が跳ね上がった。

 

「んが、ハァ……ッ!?」

 

 間髪入れずに跳ね上がった顎にショットガンの銃口を突きつけ、引き金を引く。

 ズガァン!! という爆音とともに、顎に散弾が撃ち込まれた。

 

「ごばぁっ!!」

 

 衝撃をもろに受け、身体が一回転し、頭から地面に落下する。

 

「……っ!! う、撃て!! 撃てぇ!!」

 

 無防備な背中に、無数の弾丸が突き刺さる。

 全員の注意が私に向けられたこの瞬間。

 これこそ、私が欲しかった時間だ。

 

「ぐ……がぁっ!! セキィィィ!! ヘチマァァァ!!」

 

 痛みに耐えながら二人の名前を叫ぶ。

 その次の瞬間、

 

――ゴトンッ……

 

 重い音を響かせ、いくつも転がってくる。

 その緑色の、デコボコした表面の物体は――

 

「――っ!? しゅ、手榴だ――」

 

 私を撃つことに意識が向いていたヘルメット団。

 気付いた時には、もう手遅れ。

 退避も間に合わず、ヘルメット団は全員手榴弾の爆発に呑まれた。

 ――もちろん、その中心にいた私ごと。

 

 

 

 

 

「ご、ほ……」

 

 私は生きていた。

 ただ、もう自力で起き上がる気力は……いや、指一本すら動かす気力も無かった。

 どう、なっただろう。

 上手く行っただろうか……

 

――ザッ……

 

 耳元に、足音が響く。

 この身体になってから異常なほど耳が良くなった私には分かる。

 ……この足音は、知らない人物のものだ。

 

「て、めぇ……よくも、やってくれやがったな……!!」

 

 この声は知っている。

 私がショットガンで顎を吹き飛ばしたヘルメット団員だ。

 ……悪運も、ここまでか。

 

「てめぇは、絶対ぶっ殺し――」

 

――バゥン!!

 

 銃声。

 だが、痛みも衝撃も来ない。

 これは……

 

「っがぁぁ!?」

 

 この銃声は知っている。

 ――風紀委員の訓練の時に、何度も聞いた音。

 

「――大人しく武器を捨ててください」

 

 チナツの、銃。

 

「っクソがぁ!! たかが一人の風紀委員と、ワケの分かんねぇゲヘナどもに負けるかぁ!!」

 

「――鎮圧します」

 

 数回の銃声が響き、人が倒れる音と振動を感じる。

 そして再び、足音が近づく。

 今度は、よく知ってる音。

 

「カナメ」

 

 名前を呼ばれ、抱きすくめられる。

 ポタッ……と、一つの雫が落ちてきた。

 

「よかった……っ!!」

 

 ギュウッと抱きしめられ、耳元ですすり泣く声が聞こえる。

 あぁ。

 感動を分かち合いたいのに。

 

 私の意識は、闇に沈んでいった……

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