角付きの演奏者   作:落日

9 / 19
ep7.守れたもの

「――ひま」

 

 全てを吐露しきったチナツが風紀委員の仕事で帰ったしばらく後。

 引いていく痛みと反比例するかのように虚無感が湧き出る。

 

「SNS見るのも飽きたし……」

 

 現場にバッグごと置き去りにされた私の携帯は、チナツがまるまる回収してくれていたらしく、帰り際に充電器とともに置いていってくれた。

 だが、SNS中毒でもない人間が、数時間も携帯を(いじ)っていれば当然飽きが来て。

 いっそのこと寝てしまおうと思っても、気絶という形で散々睡眠をとった脳は、そう簡単に眠りにつけるはずもなく。

 

「やほ~、カナメ~」

 

「お見舞いに来たよ」

 

「あっ、セキにヘチマ……」

 

 だからこそ、来客というのは今一番嬉しいものだった。

 

 

 

 

 

「じゃ~、数週間はこのままなんだ~?」

 

「うん。まぁ、動きたくても動けないしね」

 

 事前にチナツからMomoTalkが飛んでいたらしく、目覚めていた事には特に触れられなかった。

 

「無茶ばっかりして……変わらないよね、カナメって」

 

「ホントにね~」

 

「……ん?」

 

 セキ、ヘチマの言葉に違和感を感じる。

 二人の言葉は、まるで以前に無茶をした私を知っているような口ぶりだ。

 しかし……

 

「……二人って、昔の私のこと知ってるの?」

 

 二人とはゲヘナ学園に入学してからの付き合いだと思っていた。

 少なくとも、私の記憶ではそうだ。

 しかし、二人と出会ってからは……撃ち合いに巻き込まれる事はあっても、自分から無茶はした事が無いはずだ。

 という事は、二人は入学前の私を知っている……という事になるが……

 

「うん、知ってるよ」

 

「ま~、カナメは私達を知らなくても無理ないかな~」

 

「えぇ~……?」

 

 聞いてみれば特に誤魔化されもせず、素直に答えてくれる。

 ただ、ヘチマの言うように、私は以前の二人を知らない。

 それに、その言い方も気になる。

 だが現状、その謎を解くカギが無く、頭が混乱するばかりだった。

 

「とはいえね~、手榴弾で自爆みたいな事するとまでは思わなかったけどね~」

 

「う゛っ」

 

「しかも投げたの私達だし……」

 

「ぐっ」

 

 改めて考えれば、相当ひどい事を提案してしまった。

 あの時はそこまで頭が回らなかったとはいえ、「友達に向かって手榴弾を投げろ」などと命令するなんて、常人の神経ではない。

 

「……それに関しては、本当に弁解の余地もないよ……」

 

「ま~でも、結果的に私達は助けられたしね~」

 

「うん。カナメが居なかったら、どうなってたか分からなかった。

 

 

 

――でも」

 

 ポツリと、こぼれるように続けるセキ。

 その声は明らかに落ち込んでいた。

 

「……私達は何の役にも立たなかった」

 

 突然の自虐に、言葉を失ってしまう。

 数秒の間をおいて状況を理解した脳が、なんとか言葉を(つむ)ごうと回転し始める。

 

「なっ……そんなこと――」

 

「ん~ん。そんなことあるよ~」

 

 否定しようとした言葉は、ヘチマに(さえぎ)られた。

 しゃべり方こそ変わっていないが、セキと同じく、明らかに声が落ち込んでいる。

 

「私達だって銃は持ってる……何なら、カナメより撃ち慣れてる」

 

「……でも~、撃たなかった――いや、撃とうともしなかった、かな~」

 

「あの戦力差で応戦したところで、勝ち目なんてない……って思ってたから」

 

「最初から諦めてたんだね~、私達は」

 

 違う。

 その考えは間違ってない。

 私だって勝てるなんて微塵も思ってなかった。

 ただ、友達を助けるのに必死で、自分を犠牲にするあの戦法くらいしか思いつかなかっただけだ。

 

「……だからね」

 

「カナメ――」

 

「「ごめんなさい」」

 

 謝られても、困る。

 私は……

 私が望んだのは……

 

「……も~!! 暗いよ二人とも!!」

 

 暗い世界は望んでいない。

 明るく、楽しく生きる。

 ()()()()な私は、せめて、そう生きていきたいから。

 

「終わり良ければ全て良し!! 過去より現在(いま)!! 二人がどう思ってるか分からないけど、私にとって大切な親友なんだから!! だから……」

 

 過去に囚われている私が言うのは滑稽だ。

 でも、だからこそ言える事なのかもしれない。

 一度失ったものは、簡単には取り返せない事を、よく知ってるから。

 

「――だから二人とも……チナツも入れて、三人とも無事で、本当に良かった」

 

 先にチナツにも言った言葉。

 今の私の心にあるのは、その一点だけだ。

 だって、そのために命を張ったのだから。

 ただ、当の二人は目を丸くしており、少しの間、静寂が部屋に訪れた。

 

「……ほんとさ~」

 

「カナメってそういうとこ、あるよね……」

 

 呆れたような反応をされ、ちょっとだけ発言を後悔した。

 ……たしかにちょっと、恥ずかしい事言ったかも……

 

「……やっぱ今の無し!! 私は何も言ってない!!」

 

 意識すればするほど、さっきの発言が恥ずかしくなってくる。

 

「だめ~。ちゃんと聞いたからね~」

 

「私も親友だって思ってるよ。もちろんヘチマも……」

 

「もういいです~!」

 

「だから私達も、カナメが生きてて本当に良かったって思ってるよ」

 

「もういいって、だからぁ~!!」

 

 ニコニコと良い笑顔の二人。

 ぶり返される発言に羞恥が止まらず、布団をあげて顔を隠す。

 今日の事は、良い意味でも悪い意味でも、ちょっと忘れられなさそうだ。

 

 

 

 

 

「身体の痛み、ぶり返しちゃった……」

 

「なにやってるのホント……」

 

「ま~、カナメらしいね~」

 

 羞恥心を隠すために顔を隠したときだろうか。

 おそらく意識がそっちばかりに行って、いつもみたいな力の入れ方をしてしまったのだろう。

 また、痛みと格闘しなければいけないのか……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。