黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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ティアラちゃん徹夜で何かを準備中。





21:勧誘と、仕置き

 

 

「……とまぁ、こんな感じでやってました。」

 

「なるほどな。」

 

 

このティアラを名乗る子供と出会った次の日、私たちはダンジョンに潜っていた。

 

一階層程度であれば幼子一人確実に守り切れると判断してのことだったが……、この様子だとどっちが守られているのか解らないレベル。確かにこれができるのであれば二階層程度、散歩感覚で挑めるだろう。

 

 

(この……、“射出”というのか? 魔力の起こりが感知できない技術。卓越された魔法なのか、それ以外に起因する力かは解らないが、有用以外の何物でもないだろう。上澄みには通用しないだろうが、雑兵狩りにはもってこいだ。)

 

 

魔法使いと相対したとき。それに対処するには相手の魔力の起こりを察知して回避するか、距離を詰めて先に倒してしまうのが基本だ。だがこの子の力はそれが通用しない。魔力の起こりがないので視覚しか頼りにできないし、そもそも速度が速すぎて私でも目で追えなかった。しかもストックが切れるまで連続的に攻撃することができるという。

 

 

(……これは、墓まで持っていかなければならねぇ案件だな。)

 

 

冒険者の基準はあまり理解できていないが、戦場や軍での感覚をもとに考えるのならば、自身の“手札”はあまり公開しすぎない方がいい。昔は違ったが、今はいつ味方が裏切るか解らない。使える手、技ってのはとっておきとして秘めておくのが普通だ。

 

 

「もう見ちまったからいいが、私以外にそれは見せないようにしておけ。」

 

「ん? あぁ、解ってる! というかオリアナさんが初めて見せた“人”……ではなかったや。まぁとにかく信用してるってことで!」

 

「……ならもう少し人を見る目を鍛えた方がいいかもな。他人は信用しすぎないようにしておけ。」

 

「りょ!」

 

 

……そうティアラは言ったが、明らかにこの力以外にも隠していることがあるだろう。

 

昨日はこいつに装備や武器を買ってやって、今それを身に着けているんだが……。明らかに慣れていない。いや正確に言えば、もっと“違うものに”慣れている。子供でも振るいやすいように石突を切り落とし軽くした槍ではなく、もう少し先端が重くなっている槍をコイツは愛用している。

 

 

(まぁ私を完全に信用しきってない、って言うのはいいことだ。……多分だが、この“射出”以外にも色々手札を持ってるな。確かにセルザの言う通り、優秀そうだ。)

 

 

さっきの銅の棒を高速で送り出した技はもちろん、この子が隠すものをすべて使えばいい所までいけるだろう。これをもし国が先に見つけていれば、即座に囲い込んだであろう逸材と言ってもいい。しかしその場合、確実に王宮のクソどもの“おもちゃ”にされてしまうだろうが。

 

 

(筋肉は少しあるようだが、それでも線が細く庇護欲を感じさせる見た目。……考えただけで身の毛がよだつ。)

 

 

王宮でそれだ、この『欲望の町』とも呼ばれる迷宮都市ならもっと酷くてもおかしくはない。幼子を連れ去ってそのままケダモノのように貪り食う奴がいるっていう噂も聞く。セルザが私に任せようとしたのも、そういう輩から守ってほしいと考えたのかもしれない。

 

 

(まぁあいつもギルド職員で、この町の体制側。口に出せないことも多いんだろうよ。)

 

 

昨日の買い出しの後。この子が泊まっている宿に送り返したその足で、ギルドまで向かいセルザから話を聞いた。飲み代のことについていくつかお小言はもらったが、先に払うと言い始めたのは奴である。とにかく必要な情報を手に入れた私は、中々寝付けぬ夜を何とか過ごし今日この場にいる。

 

 

(あまり眠れなかったが……、酒が入っている時よりは調子がいい。)

 

 

「……どこかに仕官するとかは考えなかったのか? その力があれば引く手数多だろうに。」

 

「あ~、いや。まぁちょっと色々ありまして。どこかに属するとかは考えてないです。……あ、それと。私教会とかそういうの無理なんで、そのあたりもオナシャスっす。」

 

「覚えておこう。」

 

 

国も、教会もダメ、か。私と同じだな。

 

……もし、あいつの子が生まれていて、大きく成れば、彼女の様になったのだろうか。ありえもしない話をつい考えてしまう。忘れようとしても、忘れられない大切な思い出たち。だからこそ、皆の無念を思えば心の臓が締め付けられるほどに痛くなる。

 

 

「あ、それと。普通にこの国の貴族殺しちゃってるから多分無理……、いやどうだ? 伝わってなかったらいけるか? そのあたりどうなんだろ……?」

 

「……何やってるんだお前。」

 

「いや地元で私の親友殺そうとした輩が居ましてね? ついカッとなって撒き散らしちゃったんですよ。肉片。んでその時この【鋼の槍】を手に入れたんですけど、これがバレてたら多分ヤバいなぁって。まぁ大丈夫だとは思うんですけどね?」

 

 

そういいながらどこからともなく鋼の槍を取り出す彼女。

 

……ちょっと待て? 今お前ほんとにどこからその槍取り出した???

 

 

「…………あ。」

 

「あ、じゃねぇよ。まったく……、ちょっと貸せ。」

 

 

ティアラから槍を取り上げ、刃のところを軽く見てみる。

 

すると案の定持ち主の家名が刻まれている箇所があった。槍の装飾と一体化していて見分けにくいが、ある程度知識があればすぐにわかるやつだ。確か……、200年前ぐらいだったか? この装飾が流行り始めたの。まぁとにかくこれを持っていれば加害者として縛り首になったとしてもおかしくはない。

 

というかこの名前……、確かリッテル様の村の近くに領地を持つ野郎の家名だな。

 

 

「ほら、ここだ。よく見てみると家名になってるだろ。」

 

「……ほんまや。」

 

「別に殺すなとも盗品を使うなとも言わねぇが、とりあえずここは潰しとけ。最近は帝国も大体この辺りに刻んでるらしいから、覚えておいて損はない。」

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

 

懐からナイフを取り出し、装飾の部分を軽く潰しておく。ほんとは鍛冶師なんかに頼んだ方が確実だが、この町に信用できる鍛冶師がいない。どこから情報が洩れるか解んねぇ以上、自分でやるのが最適だ。王都にはある程度馴染みだった奴がいたが……。今何してるだろうか。

 

 

「あと、さっきの。説明しなくてもいいし、私も誰にも言わないが……。気を付けろよ、本当に。」

 

「す、すみません……。いやでもオリアナさんには言っちゃってもいいかな、って。」

 

「……はぁ。とりあえず秘密にしとけ。」

 

 

セルザから聞いた話と性格が違ったから不思議に思ってたが……、こいつアレだな。ポンコツだ。ある程度気を張ってれば変な間違いはしねぇが、気を抜くとどこまでもやらかしまくるやつだ。特に一度身内判定した奴にはクソ甘い。……マジで傍に付いとかなきゃ心配だなぁ、オイ。

 

……ったく。

 

 

「まぁいいんじゃねぇか? 親友守るためにやったんだろ? 家名見た限り、どうせ掃いて捨てるほどいるクズ貴族の一人だ。むしろ消えた方が国にとって良かっただろうよ。今の私には何の権限もないが、まだ隊長やってたら勲章ぐらい申請してやってたかもな。」

 

「ほんと? 助かる~!」

 

「それよりも私からすればお前みたいな幼子が“殺し”に対してなんの忌避感も持ってないことの方が不思議だが。」

 

「あ、あはは~。まぁ色々やってきましたですし、おすし。」

 

 

なんだ“オスシ”って。……軍も冒険者も同じだが、基本過去には触れねぇ。そいつが何をしてきたかより、今のそいつが信用できるか、背中を預けられるかってのが重要だ。

 

 

(それを考えれば……、まぁ合格か。)

 

 

友を守るために権力者に歯向かう、中々できることじゃねぇ。それだけ平民と貴族の差ってのは大きいからな。

 

 

「そういえばなんですけど……。五大臣の一人、“ミューター公爵”。私がやっちゃっても大丈夫ですか? オリアナさんからすればやっぱ自分でやっちゃいたい感じ? それともあいつの部下のポテンマスも一緒にやります?」

 

 

 

 

 

 

「……なんでお前からその名前が出てくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

王国を牛耳る五人の大臣、通称五大臣。

 

主人公の選ぶルートによってはこいつらの一部を殺すタイミングを考えなきゃだし、最悪誰かの下についてお仕事しなきゃならなかったんだけど……。オリアナさんが望むならコイツだけは別だ。私のために彼女が動いてくれるのならば、その恩に報いるのが礼儀。

 

いやむしろ、前金と言ってもいいかもしれない。

 

一日置いて色々考えたが、今このタイミングで彼女を“こちら側”に引き込まなければ今後の立ち回りに影響が出てしまう。私が学習し終えるまでどれだけ時間がかかるか解らないし、彼女のために動くのならば原作開始よりもずっと前から行動に移していかなければならない。

 

時間は有限だ、だからこそこのタイミングで確実にこちら側に引き込む。

 

 

「全部知ってますよ? 息子さんが嫉妬に狂うあいつらによって殺されたことも。それを衆目に晒そうとして旦那さんが殺されたこと。そして息子さんの奥さんとそのお腹の中にいたお孫さんが神によって連れていかれてしまったこと。これで国も神も信用できなくなったことも。」

 

 

この国にとって、神は絶対だ。欲望によって塗り固められているせいか、比較的宗教色が薄いこの迷宮都市でもそれは同じ。『神を信用できない』など“まともな人間”の発言ではない。だからこそオリアナさんはその意思をこれまで言葉にしたことがなかっただろうし、それが露見する行動もしていなかっただろう。

 

だからこそ、私が知ってるのは“おかしい”。

 

 

「ほかにも、色々。あの自分のことしか考えていない大臣たちに国が壊される未来とか。国が売られる未来とか、王国と帝国が相打ちになって全部滅びる未来とか。色々知ってます。」

 

「なにを……。」

 

「こんな小娘が知るはずのないお話でしょう? でも信用してください、私はこの知識を悪用するつもりはありません。この知識は、力は、全てこの世界のために。来るべき滅びの世界を打ち破るために。」

 

 

私がこの世界で生き残るために、という目標は変わらない。けれど私が動かなければこの世界が滅び、実質的に私の生存が保証できないのであれば、動かなければならない。この言葉に、嘘はない。

 

 

「私一人では限界があります。不可能があります。この身は無力、だからこそ貴女に助けてほしい。もしそれが叶うのならば、貴女に復讐の機会をご用意して見せます。残念ながら亡くなった方を生き返らせることは“不可能です”。しかし奴らにその罪の重さを理解させることは、可能です。」

 

「本当に、何を……! いや、だがどうやって。そもそも何故!」

 

 

明らかに混乱している彼女。……やっぱり、私だけじゃダメみたいだ。おそらく言葉を尽くしても、足りない。

 

……アユティナ様。お借りしますね。

 

この身に宿る魔力に意識を回し、同時に自身の魂の周りに存在していた力。“使徒”としての力をお借りする。瞬時にこの体から白い光が漏れ出し、背中に刻んでいただいた神の紋章が背中に浮き出てきたことを自覚する。

 

私一人だけの説得力じゃ、小娘の説得力じゃ足りない。

 

この人に信用してもらうためにも、神の神秘をお借りする。

 

 

「今から七年ほど後、ミューラーと貴女の家族を陥れた男であるポテンマス。奴らが帝国との取引のために国境線へと移動します。そのタイミングで、逆賊として討ち取りましょう。こちらに正当性がある戦いです。まだ7年もあります。正確な時期は解りかねますが、それが起こるタイミングはこちらで把握可能です。」

 

「そ、そんなの……。」

 

「大丈夫、他の横やりは入りません。」

 

 

五大臣は一人を除いて全員が奸臣、残りの一人は奸臣と見せかけての忠臣なのだが、共通点として全員が敵対しているという点が挙がる。10年後帝国が攻めてきた際に応戦するのだが、このうち4人がそれぞれ別ルートで『協力するから寝返りさせて、地位保証して。』という密通を帝国と行っている。

 

その証拠を押さえてしまえばこちらのもの。いやむしろ押さえた瞬間に、彼らは動き始める。相手の派閥を消し飛ばすために嬉々として攻撃を始めるだろう。本来のシナリオにはない動きではあるが、その機に乗じて王都での活動を開始すれば辻褄を合わせることも可能なはずだ。

 

 

「……お、お前は、いったい。」

 

「申し遅れました。この世界の正統な神でいらっしゃる“アユティナ様”の信者が一人。“使徒”の役目を頂きました、ティアラと申します。」

 

「あ、アユティナ……。」

 

「えぇ。本来この世界はアユティナが治める世界でした。しかしながら今の王国と帝国の神が卑劣にもそれを奪い取り、今はどちらが正当なこの世界の持ち主かを延々と争っている状況になります。」

 

 

淡々と、この世界の真実を語る。私の記憶の出所についてはまだ語れないが、この世界についての知識ならばいくらでも。しかしながら私だけでは説得力に欠けるだろう。

 

 

(だからこそ、私たちには“神”が必要だ。)

 

 

空間から一枚の銅板を取り出し、地面の上に出現させる。

 

そこに刻まれたのは、この世界で私だけが知っている魔法陣。

 

私を触媒とし、神を今ここに顕現す。

 

 

「ッ!」

 

 

体から大量の魔力が抜けていき、それと同時に世界が繋がる。しかし即座にアユティナ様の力が背中の紋章を通じて私の体を優しく満たしていく。多幸感。神からの愛を全身で感じることができる。

 

そんな幸せに包まれていると、私たちの視界はゆっくりと真っ白に染まっていき……。

 

肉体が、ダンジョンから掻き消える。

 

 

「あぁ。」

 

 

眼を開けるとそこに広がっていたのは、真っ白な神殿。

 

巨人ですら運べぬような巨大な柱がいくつも立ち並んでおり、すべてが神のお力によって清浄に保たれ、暖かな空気が周囲を満たしている。各所に金糸によって装飾された真っ白な旗が飾られており、このすべてが神を称えそのあふれんばかりの愛を象徴している。

 

そして何よりも。

 

神殿の中央に作られた、高台。そこに置かれた巨大な椅子。背後にあるのは私が背負う神の紋章と同じもの。

 

 

私が知る、小さなお姿ではなく。

 

 

アユティナ様の、そのままのお姿で、

 

 

座っていらっしゃる。

 

 

 

 

「よく来た、我が使徒よ。だが一つ言いたいことがある。……色々とやりすぎ。」

 

「はうぅ!」

 

 

 

 

即座に私の横に転移し巨大なハリセンでブッ叩かれる私。ふ、普通に痛い。

 

 

 

「というか私の力に飲まれ掛かってたよ。神と人間で色々違うんだし、気を強く持たなきゃ。ほら不敬なこと。さん、はい!」

 

「アユティナ様万歳! お胸触っても良いですか!!!」

 

「……反応に困る。私中性というか無性に近いぞ? とりあえずもっかいお仕置きね。」

 

 

スパーンという小気味いい音。ティアラちゃんは、正気に、戻った!

 

い、いやほんとに飲まれてましたね……。あの多幸感、絶対尋常じゃないです。圧倒的強者によって包み込まれる安心感というか、守られてる感じというか……。とにかく言語化が難しいけどブッ叩いてもらわなきゃヤバかった気がする……! というかもしかして、あのクソ女神どもが信仰を維持できたのってこれのおかげか? 存在という格の違いで“わからせる”奴。あり得そう……。

 

『今胸部ストレートだけど、柔らかな感じの方がいい? 一応できるけど。』という神のお言葉をスルーしつつ、お話を進めてもらう。私としては柔らかい方がいいですけど、それ言っちゃうと前世のアユティナ様スキスキ勢から殺される気がするんでノーコメで! まな板はステータスだ! 希少価値だ!

 

あ。そだ。お話の途中でしたよ、アユティナ様。

 

 

「あ、そうだった。ティアラちゃんさ、色々と気持ちはわかるけどオリアナさんの気持ちも考えようね? 焦る気持ちとか、色々できるようになって初めての一人暮らし的なノリではっちゃけちゃう気持ちも解るけど……。迷惑かけたらだめよ。」

 

「ごめんちゃい……。オリアナさんも、混乱させて申し訳ありませんでした。」

 

「え、いや、え???」

 

 

ほら混乱してるじゃない~、ってアユティナ様。たぶんコレ急に神のお部屋に連れてこられたからこうなってるんだと思いますよ? 普通にアユティナ様の雰囲気は神以外の何物でもありませんし、それでびっくりしちゃってるのかと。……というかなんで私たちこっちに来たんですか? いやアユティナ様のお姿見れて、私としては大満足なんですけど。

 

 

「なんでって、YOUが“私を呼ぶ術式”じゃなくて、“私の元に来る術式”を起動したから……、って。もしかして解らずに描いてた? ちょっとこれ見なさいよ。」

 

 

そういいながらさっき使った銅板と、故郷の村で地面に掘っていた魔法陣を空中に表示してくれる神。

 

 

「ほらここ、微妙に違うでしょ?」

 

「ほ、ほんとだ……!」

 

「てっきり解ってるもんだと思って指摘しなかったけど……。今後徹夜で作業するの禁止ね? 幼子は寝ろ!」

 

 

ご、ごめんちゃい……。

 






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