黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~   作:サイリウム(夕宙リウム)

26 / 107
26:ヤバい奴は総じて強い

 

「ちッ! あいつもう突っ込みやがった!」

 

 

最強無敵ティアラちゃん()がロリコン伯爵のお部屋に突入したころ。オリアナさんは正面からそのお宿に殴り込みに来ておりました。本来はもうちょっと丁寧にスマートな侵入を考えていたようですが……、やはり伯爵側は一枚上手だったのでしょう。想像以上に敵兵の数が多く、少し苦戦している様です。

 

 

「て、敵襲「うるせぇ黙れッ!」」

 

 

更に増援を呼ぼうとした兵士の顔に、オリアナさんの拳が叩き込まれます。完全に骨に罅が入るであろう一撃、嫌な音を響かせながら、吹っ飛ばされる兵士さん。しかしその音に惹かれたのか、どんどんと伯爵家の兵士が飛び出てきます。

 

本来のオリアナさんの実力、原作開始時の実力はそこまで高くありません。上級職というこの世界における一つの到達点に位置している存在ではありましたが、老いには勝てず若い者たちに追い抜かれてしまう、というのが彼女の運命です。

 

しかし……。

 

 

「覚悟ォ!」

 

「遅いッ!」

 

「グボァァァ!!!」

 

 

剣を抜き切りかかって来た敵兵の脚に蹴りを叩き込み、倒れた瞬間その顔を強く踏みつける彼女。その背に収められた【アダマントの槍】は未だ抜かれておらず、素手で敵兵を処理しているご様子。

 

この場にいる兵士たちは、そのすべてが伯爵子飼いの優秀な者たちです。あのロリコンは確かに性癖が終わっていますが、それ以外は優秀な貴族。才能ある部下を集め、育成し、臣下とする能力はしっかりと備わっていました。

 

故にここにいるのは、最低でも下級職レベルカンストの存在。その大半が上級職という強敵ばかり。ステータスの各種平均値も20後半と、この世界における『最高練度』。物語の最終章あたりに出てくる一般敵兵程度の実力を持つ者ばかり。そんな相手に彼女の力では一対一ですら苦戦しそうなものですが……。

 

 

「一人ずつじゃ時間が掛かり過ぎるだろうが! もっと集団で襲い掛かってこいッ!」

 

 

今の時代は原作開始から10年前。老化による肉体の劣化は抑えられ、そして原作で10年間酒浸りだった生活をしていないおかげか、彼女の能力値は信じられないほど向上しています。いやむしろ“槍鬼”としてあるべき姿を保っていると言っていいでしょう。

 

それゆえにできる、無傷での立ち回り。要らぬ殺生を避けるための手加減すら出来る状態でした。

 

 

(こっちが攻めてくることも想定してやがったんだろうなァ! クソが! 数が多い! それにやり過ぎると私だけじゃなくあの子にも面倒な罪状が付く……! 喧嘩で収まる程度にしねぇと後が面倒だ!)

 

 

そんなことを考えながら、次々と兵士たちを夢の世界に飛び立たせていくオリアナさん。鎧の上から拳を叩き込み、鉄の板に拳の痕を作りながら吹き飛ばすのは当たり前。敵が振るった槍の矛先をつかみ回転させることで敵を転倒させ、武器を奪い取る。飛んできた弓を素手で受け止め逆に投げ返すなどと人間離れしたことを繰り返し、すでに築いた人山は50を下りません。

 

しかしながらどんどんと出てくる敵兵たち。

 

もともとのティアラちゃんの作戦では、『私が中に入った後、伯爵のいる場所まで移動した後は、オリアナさんも突入して中に侵入。可能なら中で合流して、伯爵のアレを切り落として、ハピハピ帰宅』というモノでした。

 

オリアナさんは『まぁ不可能ではないだろうし、逆にここで却下して勝手に動き回られると困る』ということで許可。自分が速攻でこの屋敷を占拠して、ティアラちゃんが動く前に伯爵を締め上げる、ってのが目標だったのですが……。

 

ちょっと想定よりも敵兵が多くて、失敗してしまったようです。

 

 

(まぁアイツが言葉で止まるわけねぇよなぁ!)

 

 

心の中で叫びながら、敵兵を殴り飛ばします。なぜか彼女の脳内に、形だけ信仰しているアユティナという神からの謝罪が聞こえてきたような気がしますが、そんなもの雑念です。すぐにポイします。

 

伯爵の性格と趣味嗜好からして、急に幼子が襲い掛かって来たとしてもむしろ嬉々として受け止め、手籠めにするため相手をすることが推測できます。オリアナさんはそう言った趣味を全く理解できませんが、知識としてそういう趣味の持ち主たちの思考を知る彼女は、ある程度の筋書きを予想することはできました。

 

 

(勝てばそれでいい、負けたとしても殺されるようなことはないはずだ。だがそうなった場合、心に傷を負うのは確実。一回ぐらい痛い目見て“現実”を理解させる。調子に乗らないようにさせる。そういう必要はあるって考えてたが……、“今”じゃねぇ。)

 

 

何かあったときのために、『傷薬』よりもグレードの高い魔法薬を持ち込んでいる彼女。これでなら欠損程度はまだカバーできますが、心の傷を何とかする効果はありません。同世代の女の子と比べると同じ年齢なのか色々と首をかしげないといけない存在ではありますが、オリアナさんからすればティアラもただの5歳児でしかありません。

 

 

(速攻でこいつらを処理して上に上がる、んで戦闘に割り込むッ!)

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「はぁいロリコン、年貢の納め時だよ♡」

 

 

と言いながらドアを蹴破ったわけだけど……、ちょっとガチで後悔してる。たぶん私の顔固まってるもん。

 

だってさ。

 

目の前にとんでもない顔。確実に逝っちゃってる顔でこっち見ながら、息を荒くして、ほっぺ真っ赤にしてるガチムチがいたらどう思う? まぁ吐くよね、うん。こいつ私のこと見て確実に興奮してる。現代日本だったらノータイムでお巡りさん呼んでるレベル。

 

まだマシなのは、誰かが攻めて来たってことをあっちも把握してて全身金属鎧のフル装備で待ち受けててくれたってことくらい? おかげで十中八九反り立ってるもの見なくて済んだわけだし……。これで全裸だったら本気でヤバかったわ。

 

うん、正直悪寒が止まらないや! 生理的に無理な奴! 同じ空気吸いたくない! こんな事せず迷宮都市から逃げ出しておいた方が良かったかも☆

 

 

「ふふふっ! まさかまさか天使自ら私の元に来てくれるとは……っ! これも日ごろの行いが良かったおかげかな? しかししかし、少々お痛が過ぎるようだ……。君の保護者かな? オリアナはどうしたんだい、我が天使よ。」

 

(……キモ。)

 

 

あ、いや、ごめんね。いや謝らなくていいか。うん。とっても素直な感想が出ちゃったよ。何お前、私のこと天使って呼んでるの? 頭大丈夫? 1回死んどく? いや死んどくべきか。考えた私が馬鹿だったわ。体の拒否反応が凄いもん。

 

反射的に“空間”を開き、取り出したるは銅の棒。神に誂えてもらった私のメイン武器だ。何も考えず、流れるようにノータイムで“射出”を行う。狙うはもちろんリロコ伯爵、ロリコンの頭部。

 

だが。

 

 

「ほぅ?」

 

 

眼で追えない速度で射出したはずのソレ。本来ならば避けられないハズのそれが……、弾かれる。響いたのは金属が破裂したかのような酷い音。彼の手元にはいつの間にか剣が握られており、背後の壁に折れ曲がり突き刺さった銅の棒。いなされた。

 

 

「その顔からして……、防がれたことがなかったのか、我が天使。ダメだぞぉ? 全ての存在に絶対はないのだ。防がれた時の対策も立てておかなければ。……しかし確かに良い技ではある。魔力の起こりはなく、同時に速度も十分。これほどの攻撃ができるものは中々いない。さらに気に入ったぞ、我が天使よ!」

 

(……、ま、マジかよ。)

 

 

チッ! 一本じゃ無理なら数で攻めるまでだ!

 

 

「数を増やすか……、単純だが良い手だ。我が天使は賢いなァ!」

 

「うるさい、死に晒せ!」

 

 

今できる最大の4門。連続的に、“射出”を行う。

 

位置も替え、速度も変える。時間差に、死角、意識外。思いつく限りの方法で、撃ち続ける。『保険』を残しそのすべてを目の前に変態に向かって吐き出したのだが……。

 

そのすべてが、弾かれた。

 

 

(いやむしろ、遊ばれている……ッ!)

 

 

目の前のこいつが扱う武器はおそらくただの【鋼の剣】。レアリティはそこまでだし、攻撃力も控えめの+6。悪くない武器だが、最上のものではない。鋼程度の強度であれば、銅の棒がぶつかった瞬間にはじけ飛ぶはずだ。確かに銅の方が柔らかいが、“射出”にはそれだけの速度を加えている。

 

だがこいつの武器は、まだ壊れていない。いやそれどころか、その鎧にすら一撃も入れられていない。オリアナさんでも目で追うのが難しいと言わしめたソレを……。こいつは全部剣で流しやがった。

 

残ったのは、奴の背後に無数に突き刺さる、銅の棒たち。

 

 

「おや? もう終わりか。」

 

 

伯爵が、そういいながら剣を振るう。

 

その瞬間、私の“射出”によって崩壊寸前までダメージを喰らったのであろう壁が弾け、夜の風と月光が奴に降り注いでいく。光によって照らされたその顔は、先ほどと何も変わらず、精神の高ぶりを現していた。……マジでなんの意味もなかったってやつかよ。

 

 

「やはりだが……、我が天使よ。先ほどの攻撃。これを避けたり受け止めたりする度量はないのかな?」

 

「……。」

 

「どうやら好きな位置から攻撃できるようだが……、君に被害が及ばない角度。つまり私が避けることで君に直撃するような角度からの攻撃は一切なかった。まぁそんなときは私が全力で逸らしていたのだが……、信用されていないとは悲しいものだ。これほどまでに私は君のことを愛しているというのに!」

 

 

両手を広げながら、その愛とやらを表現する変態。

 

……あぁそうだよ。今の私に“射出”をどうにかする力はない。攻撃一辺倒だ。前世と今世合わせてある程度生きてるおかげで頭は回るしこの世界だけじゃ手に入れられない知識もある。戦いの組み立てぐらいはできなくもないが……、ダメージへの恐怖、死への恐怖ってのは未だ残ってる。

 

 

(思えばあのクソ狼以降まともな負傷してないもんな。)

 

 

そう考えながら、ゆっくりと【オリンディクス】を構える。

 

おかげさまで色々と“冴えて”きた。その口ぶり、からしてこっちを“殺す”気はないんだろう。……タダでさえ実戦経験偏ってるんだ。いくら相手が変態であろうとも、学べるなら学ぶべきだ。むしろ、10年後を考えるとこんな奴に手間取ってたら、どうなるか解らない。

 

私の目標は、コイツ相手でも何も考えずに、ただひき殺すことができる高み。そこに至ってようやく、スタートラインだ。

 

 

「いい目だ……、だからこそ組み伏せたくなる。しかしその槍、確かにかなりの業物のようだが……。背に合っていないな。愛らしくはあるが、いいのか天使よ。」

 

「黙っててくれる?」

 

「なるほど、言葉は不要か……。良い、良いな我が天使よっ! 武人という側面もあるとは思わなんだ……、やはり、やはり君が欲しい! 存分に相手させていただく! ……あぁ、しかし、天使のような年頃の子と手合わせするのは初めてでな。非常に心躍るが、壊してしまうかもしれぬという恐怖もある。細心の注意を払わせてもらおう。」

 

 

奴がそう言った直後、その体が掻き消える。

 

そして瞬きの瞬間、私の前に突如として出現する、その体。

 

 

直上

 

 

振り落とし

 

 

迎撃ッ!

 

 

オリアナさんに叩き込まれた槍の扱い、ほぼ反射で体が動き、下げていた【オリンディクス】の切っ先を全力で上へと叩き込む。その瞬間、私の頭上で発生する、甲高い金属音。剣と、槍がぶつかる音だ。

 

見上げてみれば涼しい顔、いまだその欲を治めずに剣を振り下ろしていた奴と、その剣の切っ先に反射する白い私の顔。

 

 

「驚いた、受け止めるか。新兵程度であれば確実に切り裂かれていたであろう一撃だったのだが……。素晴らしいぞ我が天使よ! もしそれを磨き上げれば……、いずれ兵を束ねる将に成れるやもしれぬな! ふふ! そのころにはもう我が趣味では無くなっているのだろうが……、あぁ、なんと悲しいことだっ! まだ交わっていないというのにそこまで大きくなってしまうとは……ッ!」

 

「勝手に、想像するなッ!」

 

 

コイツが何を考えていたのかは知らない、だが確実に気持ちの悪いものだということは理解できる。

 

奴の横に空間を開き、残っていた小石たちを“射出”する。左右両側から発射されるそれ、銅の棒と違い、小石は数が多く散弾銃のような性質をしている。奴もそれに気が付いたのだろう。後ろに飛び去ることで、それを回避。……この一瞬で、整えるしかない。

 

心の臓から魔力を体内に循環させ、この一瞬で動かせた魔力すべてを【オリンディクス】へと叩き込む。かち上げていた切っ先を回し、背にその柄を当てて遠心力を利用。魔力によって動き始め急速に回り始めたその機構は私を中心に円を描きながら、赤熱化していく。

 

叩き込むのは、最大出力。

 

 

スキル『開闢の一撃』

 

 

「おぉ、もうそんな“技”まで使えるのか。ではこちらも迎え撃たなければッ!」

 

 

ほんの少し力んだのであろう奴の刃と、私の刃が、ぶつかる。

 

 

(は!? 押し負けッ!)

 

 

私のATKは、相棒の数値も合わせて26。それにスキルも合わせている。確かに今の私は非力な存在だけど、確実にボス級。各章のボスと同等かそれ以上の攻撃力、ATK30以上の攻撃を叩き出せたはずだ。それなのに、押し負けた。……つまりこいつは、それ以上の出力を出したことになる。

 

私が知るゲームでの彼では、決して出せない出力。

 

 

「ッ!」

 

 

力の押し合いに負け、体格差では勝てるわけがない。想像以上の力に押し込まれた私は、そのまま後方へと吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられてしまう。……さっきの私のスキルはHP3割を代償に発動するタイプのものだ。今の攻撃で、かなり削られた気がする。【山の主の衣】の装甲効果のおかげである程度和らげることができたけど、たぶんこの感覚。残りHP2とかそんなのだ。

 

 

(きず、ぐすりっ!)

 

 

“空間”から傷薬が入った陶器を頭上から落とし、頭で割ることでその内容物を体にぶちまける。傷薬独特の白い粘着質な液体が顔を包み込み、鼻に薬草らしき匂いが残る。……ほんの少しだけど、体の痛みがマシになった。瀕死から、半殺しになったぐらい。

 

 

(こ、ここまで差があるとは、思ってなかったかも。)

 

「な、なんとも……。これが生殺しか! ふふ、楽しませてくれるな我が天使よ……ッ! しかし、その傷薬。……いや、立ち合いの場に余計な感情は不要か。今は一人の男として相まみえようではないか!」

 

 

……あぁ、そうだ。認めるよ。遊ばれてるし、目の前のこいつは私が想定していたよりも強い。たぶんステータス30~40辺りの、ボス級の力があるとみていい。……そういえばまだ原作開始まで10年もあったんだった、そりゃオリアナさんも若いし、こいつも若い。いわばこのリロコ伯爵の“全盛期”に喧嘩を売っちゃったってコトなのだろう。

 

あはー、やっばいねぇ。何? このままじゃ敗北解らせ凌辱ルート一直線? あはは、ほんと笑えない。

 

 

(どっかで、いや確実に“嘗めてた”。)

 

 

故郷の村にいたころはマジで崖っぷちである程度収まっていたようなもんだけど……、神に見初められて、レベルが上がって、できるようになったことが増えたせいで、ずっと調子に乗ってた。上手くいっている時はいいけれど、まぁそれだからこそ見落とすものが多くあった、ってコトなんだろう。

 

だからまぁ、こんな状況に成っちゃってるわけだけどさ……。

 

なぜだろう。

 

 

「あはは、たーのしぃ。」

 

 

楽しくて仕方がない。

 

あぁ、そうだ。私はほんとに“あの世界”にいるんだ。人と人との殺し合い、目の前には殺してもいい相手がいて、私も死にかけている。確かに高い壁だけど、超える道筋が見えないわけじゃない。故郷の狼との戦いのときみたいに全く言葉が通じないわけはない相手との、戦い。

 

一歩下がればそこは死で、前に進めばこれまでの自分を超えることが出来るであろう戦い。

 

もうややこしいことなんか考えるのやめやめ。

 

全部シンプルに行こう。とても簡単な話だ。

 

 

「さ、仕切り直しといこっか。ロリコンさん♡ ぶっ殺してア・ゲ・ル!!!」

 

 

もっと、ギアを上げればいい!

 

 








なら私がヤバく成ればいいんだよッ!


感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いいたします。

また誤字報告いつも大変お世話になっております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。