黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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35:才能と、“才能”

 

「模擬戦のルールとしては……、一本勝負。確実な一撃を入れられる、天馬から落馬する、武器を落すなどをしてしまった方が負けになります。武器はこちらの厩舎でお借りした木製の槍でよろしいですね。」

 

「大丈夫です。」

 

「おっけー。」

 

 

子爵家、そしてそこのお嬢様に仕えているのであろうネルの話を聞き流しながら、思考を回していく。勝利条件だけ理解できれば、それ以外の話は聞いてもあんま意味がない。子爵家うんぬんかんぬん、とかちょっとうるさいしね。

 

 

(まぁそれがこの人の仕事だろうから仕方ないんだろうけど。)

 

 

私の知る原作の“エレナ”は、猪も真っ青なほどに嘗めた口きいた奴を片っ端からぶん殴っていくような諸突猛進系女子。てっきり挑発した瞬間に切りかかってくるものだと思っていたが……。まだそこまでヤバい存在にはなっていないようだ。まぁまだ原作開始まで9年だっけ? それだけあったら人格も変わるだろうし、今はまだおとなしいのだろう。

 

 

(“アレ”が起きたタイミングがいつなのか解らないから確証は持てないけど……。)

 

 

エレナがいる子爵家は、原作開始までに一度、壊滅的な被害を受ける。

 

一時的だが、この町から『空騎士』が存在しなくなるような被害だ。理由はいつもの帝国との戦争、だがその回は特に悲惨で、王国の腐敗が深刻化する事態にも繋がってしまう。ま、早い話戦力になる重要人物(原作では名前すら出てこない人たち)が丸ッと死んじゃったんだよね。

 

帝国も結構な被害が出て一時休戦、だけど王国よりはマシなのですぐにリカバリー可能。んでこの休戦期間に体力を貯めて一気にぶっ放したのが、主人公たちが動き始める今から9年後、ってわけだ。

 

 

(んでその被害者の中には優秀な『空騎士』だったエレナの母、職業は知らないけどなんか優秀だったらしいエレナの父も含まれてる。一人になってしまった彼女は同年代の子をかき集め、何とか子爵家の誉である『天馬騎士団』を再建するために、奔走するって感じね。)

 

 

母が統率していた騎士団は全滅し、父の優秀な臣下たちも死んだ。残ったのは自分と、自身と同様に育成中だった兵たち。そして何もできぬ無辜の民たち。貴族としての務めを果たすため、亡き母、亡き父に恥じぬ人間になるため、彼女は自己を高め続ける。

 

その負けず嫌いの性格も幸いしたのだろう、主人公と出会う頃には自他ともに認める優秀な『空騎兵』となっていた。そんな彼女が嫌うのは、これまで積み重ねた自身の努力を笑われること、それを支えてくれた人たちを笑うこと、そしてそれを守るために死んでいった人たちを笑うこと。

 

 

(んでまぁルート選択をミスると、弱点とも言えるそれを相手に突かれて、挑発で顔真っ赤っか。気が付けば真っ赤な達磨さんって全く笑えないことになっちゃうのよね。)

 

 

それでそのルート選択についてなんだけど……、早い話。彼女を止められるか、耳を傾けてもいいってレベルの力を示しておけば大丈夫だ。けどこれが結構難しくてね……? エレナって負けず嫌いだから、どんな奴にも負けないように自己鍛錬が凄いのよ。普通のレベリングじゃ、追いつかないくらいのスピードで強くなっちゃう。

 

 

(自他ともに認める強さがあって、子爵という階級、そしてそれまでの実績から、エレナには一定の自由裁量権が認められていた。)

 

 

『空騎士』の万能性もそれを後押ししていたのだろう。自分より強いか、同等レベルだと一考の価値あり、として話を聞いてくれるんだけど……。主人公が弱すぎると『あんたみたいな奴は後ろで縮こまってなさい!』とか、『私の方が強いのよ! あんな奴すぐにぶっ殺してやるわ!』みたいな感じで話を聞かず、すぐに飛び出して行っちゃう。

 

最初はそれでも無傷で帰ってくるけど、イベントまでに彼女よりも強くなるって言うフラグを取っておかないと、達磨さんルート行き。怖いねぇ。

 

 

(けどまぁ。原作開始後に、壊れたテレビみたいにぶっ叩いておけば止められる。)

 

 

故にこの子と会うのはだいぶ後だと思っていたけど……、機会が巡って来たのであれば、避けることでもない。というかここで“模擬戦”に持ち込んでいなければ、もっと話が面倒なことになっていたはずだ。

 

このネルっていう人の言葉を彼女が遮っていなかったということは、エレナもネルと同じ考えを持っているということに他ならない。つまり、貴族は領民の生活を守るので、領民は貴族の言うことを聞け、という思考。私みたいな平民がペガサスを差し出さないことが疑問で仕方ないのだろう。

 

実際、そういう顔してたし。

 

だからこそ、“挑発”が刺さった。

 

 

(やっぱりこの時点でも、彼女の負けず嫌いは同じ。自分よりも上の人間に負けるのは仕方ないと考えていたとしても、同年代に負けるのは気にくわない。私がタイタンに言うことを聞かせているのならば、自分もできないわけがない。そこを否定されれば、キレるのは当たり前。ってところかな?)

 

 

っと、そろそろ説明も終わり、か。

 

 

「以上です、何か疑問点などはありましたか?」

 

「ないよ。ただちょっとうちの子と会話する時間もらえる?」

 

 

あと一分ぐらい放置したらプッツンして無差別に攻撃始めそうだから、なんて言いながら対戦相手であるエレナに向かって視線を送る。帰って来たのは、頷き。あちらもあちらでペガサスに話すことがあるのだろう。一度その背から降り、自身の愛馬に話しかけるようだ。

 

さ~って、ウチのぷんぷん丸君にもお話するとしますかね。

 

 

「さて、模擬戦だ。準備はいいかな、タイタン。怒ってる場合じゃないぜ?」

 

「ブ!!!」

 

 

彼から帰ってくるのは、『ころころする』という強い殺気。たぶんこれ私にも向いてる奴だな。

 

子爵側の人間たちに見えないように隠しながら、“空間”をほんの少しだけ開き、巨石の端っこをタイタンに見せつける。キレてるのはわかったから。一旦落ち着きな、解った? おぉわかったか、偉いねぇ。よしよししちゃう。

 

 

「ブ!」

 

「撫でるなって? そりゃできない注文だ。……それよりも“模擬戦”の意味わかってるかい?」

 

「……プモ。」

 

 

ありゃ、解ってなかったか。

 

まぁ模擬戦っていう単語、自然じゃ覚える機会なんてなかっただろうし、そういう概念がわかりにくいってのも理解できる。勝てば生き、負ければ死ぬ。キミが生きて来た世界ってそういうモノだろう? できれば私もそんな単純明快な初戦を用意してあげたかったけど……。まぁ仕方ない。

 

そうだなぁ、早い話。殺しナシの喧嘩さ。でも十中八九、私たちが負ければお前の所有権はあっちのものに成るだろう。『ティアラちゃんにはふさわしくない~、ってな?』。

 

 

(まぁそうなったら全員『空間にしまっちゃおうねぇ』して、逃げるけど。この子には伝えなくていいな。やる気削ぐことになっちゃうし。)

 

 

私はタイタンの意思を尊重してあげるし、本気で嫌なことはやらない。必要なことは流石にやってもらわなきゃ困るけど……、飯と、戦。この面に関しては絶対に退屈させないと神に誓える。対してあっちはどうだ? 絶対に退屈しかない人生になっちゃうぜ? そういうのは、いやだろ?

 

 

「プ。」

 

「飯だけ食わせろって? そりゃ無理な話だ。」

 

 

言うこと聞きたくないから、ご飯だけ用意してほしい。まぁ愛玩用ならそれでよかったかもしれないけどね~。ま、お前もあちらさんがムカつくのは一緒だろ? 殺しはできないけど、一緒にぶちのめしてあげよう。私はエレナの心を早めに折れて安心、お前はムカつく奴をぶっ飛ばして気分爽快。

 

目的は、一緒だろ?

 

 

「プモ。」

 

「あはー! ようやく意見が一致したね!」

 

 

あちらさんから手渡された、木製の槍をくるりと回し、タイタンに飛び乗る。また本気で嫌がると思っていたが……、ちょっとは我慢してくれるようだ。うんうん、可愛いねぇ。

 

やはりこの子には“戦闘”が似合う。おそらく普段の生活では、そのプライドからソリが合わないことの方が多いだろう。この子は私に、いや人間に指図されることを嫌っている。それがこの子の良さでもあるけど、同時に欠点でもある。言うことを聞いてくれない軍馬なんか、いても意味ないからね。

 

 

だが、同じ方向を向いた時こそ、タイタンは真価を発揮できる。

 

 

そもそものスペックが違う、この子はただ体が大きいだけではない。それを十全に動かすことが出来る彼は、普通の大きさのペガサス、その何倍もの働きが期待できる。そしてそのプライドを形成した、賢さ。私を利用するという思考が出来るほどの子は、中々いないだろう。

 

自分の体を勝手にやり取りしようとしていた親玉。そういうのをぶっ潰せるとなれば、この子のやる気は格段に上がる。完全に排除できないことがちょっと嫌なようだが……。こう言えば、納得するだろう。こういう思考回路が似通ってる子の考えること、望むことなんて一発で解っちゃうもの。

 

 

「でも生かして置いたら……、好きなだけ何度でもぶん殴れるよ? 好きでしょ、そういうの。」

 

 

あはっ! 悪い顔してる! そうだよね、そういうの好きだよねぇ!

 

まだまだ人馬一体には程遠い。けど同じ方向さえ向けば。

 

負けるわけないよねぇ!!!

 

 

「待たせてごめんね“お嬢様”! こっちの準備は終わりだよ! っと、ペガサスに“座ってるだけ”っていう突っ込みはナシにしてくれよな! なんてったってウチのはそっちの彼みたいに貧相じゃないんでね!」

 

「ッ! 言わせておけば! やはり貴女にはふさわしくありません! 強き者には強き者がふさわしいのです! その腐った性根ごと! 叩ききって差し上げます!」

 

 

うんうん、怒ってる怒ってる。後でちゃんと謝らんと。挑発は挑発で終わらせておかないとね。悪口だめ絶対。

 

にしても……、まぁ一番の問題はアレだね。

 

 

(騎手の性能を比べた場合、明らかにあっちの方が上ってことなんだけど……。)

 

 

な、なんとか……、なるよね?

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

両者ともに動き出したのは、同時。しかし騎馬のスペック差により、大地から飛び上がったのは私の方が速い。エレナのペガサスは確かに優秀な個体なのだろうが、“ペガサス”という枠組みの中での話だ。もはや別種と言ってもいいタイタンのスペックに勝てるわけがない。

 

あちらが前に進み、加速からの離陸を行おうとした瞬間。タイタンはその大きな翼を広げ、地面に叩きつけることで、離陸する。まき散らされる土煙、そして私の全身に降りかかる重力。いいねぇ! やっぱお前は最高だ!

 

 

「タイタン! 高度上げろ!」

 

「ブ!」

 

「あ、ちょ、ちが!」

 

 

高さは正義、故にそう指示したのだが、タイタンは無視。くッ! ジムバッチが足りなかったか! まぁティアラちゃん0枚だもんねぇ!

 

野生での戦闘経験がある故の攻撃だったのであろう。低空を飛び、速度を上げながらエレナに向かって突撃を敢行する。確かに野生対野生であればそれで済んだのかもしれないが……。あっちは人が乗ってる。私よりもおそらくステが高くて、技術も経験もある奴が。

 

こちらを見て即座に軌道修正を行うエレナ。飛び立つのではなく、騎馬攻撃へ。そして体勢をずらし、受け流すものへと槍の構えを変える。これだけ見れば、確実に私よりも技量が上な事がわかる。私そんなのまだできないもん。そもペガサス乗って戦うの今日初めてだし。となると……、勝てるのはパッションしかねぇよなぁ!!!

 

 

「あぁもうやけくそぉぉぉおおおおおお!!!」

 

「ッ!」

 

 

タイタンが選んだのは、相手を轢き殺そうという単純な突撃。しかし簡単に回避されてしまうので、騎上から無理矢理私が補助として攻撃をぶち込む。というか攻撃してなかったらカウンターで地面に叩き落されていてもおかしくなかっただろう。やっぱエレナっち、小さいころから頑張ってるんだねぇ。普通に強い。

 

半ばやけくそに振るった槍だったが、タイタンの速度もあり、威力は出ていたはずだ。

 

しかしながら、普通に技術で受け流されてしまう。顔が歪んでいたことからかなりの攻撃であったことは確かなのだが……、勝利につながる攻撃ではなかったようだ。そしてそのまま両者、距離をとる様に離れていく。

 

 

「タイタン! 私の言うこと聞かないと負けるぞ! いいのか!? というか聞いて!」

 

「ブモ!!!」

 

 

うるせぇ!? はぁー、これだからプライド高い癖馬は! でもそんなところが可愛いのよね♡ でも言うこと聞いて♡ 馬刺しにするぞ♡

 

先ほどの騎馬突撃で、十分な速度を稼いだのだろう。タイタンへの抗議の言葉を言い終わる頃には、背後から大きな翼の音。エレナを乗せたペガサスが、大空へと飛びあがったことを教えてくれる。やはりこちらよりも上を取るためか、どんどんと高度を上げて行っているようだ。

 

あ~、もう、やっぱ高度差大事じゃんかぁ! ちゃんと勉強したあっちがそうしてるってことは、絶対初手そうした方が良かったじゃん!

 

 

「ブブブ!!!」

 

「おぉ、またキレちゃった。」

 

 

攻撃を避けられた上に、自分より上空にいるのが気に入らないのだろう。即座にタイタンも高度を上げ始める。だが、取るべき選択肢はそれではない。こちらの失策により勝利を確信したエレナが、動き始める。ペガサスの羽を畳ませ、そのまま下へ。

 

高度差を利用した、急降下突撃。その狙いすまされた槍の切っ先を、こちらに。

 

 

(さすがに不味いな。)

 

 

“空間”とか、【オリンディクス】とか使えればまだ何とか出来るんだけど……。この勝負じゃ使えない。あるのはオリアナさんから教えて貰った、まだ習熟途中な槍の技術だけ。それに私とエレナのステ比べても、あっちの方が強いだろうし……。勝ててるのって口先の上手さだけかもしれない。悲しいねぇ。

 

タイタンは独自判断でそれに受けて立つように、有り余るパワーで高度を上げているが……、確実に私のことを考慮していない。彼にとっての攻撃は、どうにかしてその体を当て、相手を吹き飛ばすこと。私の攻撃なんか最初から頼りにしてないし、お荷物として見てやがる。

 

つまりこのままだと、落とされる。言うこと聞かないから回避もできないし、何かしてもあっちが微調整して何とかしてしまうだろう。となれば、残るのは奇策だけ。

 

 

「口ほどにもなかったですわねっ!」

 

「それはどうかな、っと!」

 

「なッ!」

 

 

攻撃を受ける直前、さっきまで座っていたタイタンの鞍を足場にし、思いっきり空中に飛び上がる。

 

私の足元、そのすぐ下を通り過ぎていく木の槍。理解できない行動に、驚愕の表情を浮かべるエレナ。隙と見て、即座にその顔に槍を叩き込もうとするが……。足場がなかったせいかまともな攻撃にはならない、その背に直撃自体はしたが、ろくなダメージにならず、この身は自然落下していく。

 

……んでさ、このままじゃ地面に真っ逆さまなわけだけど。お~い、タイタン~。ご主人が地面に落ちるぞ~。いいのか?

 

 

「プモ!」

 

 

あ、勝手に落ちとけとか言ってる。でも私地面に落ちたらお前負けるぞ? 一生あのクソムカつく奴の愛玩動物になるけど……、ええんか? 私みたいに楽しい戦場とか、大量のご飯とか絶対用意してもらえないぞ? お前ももっとバチバチに喧嘩したいんだろ? ほら、助けないと負けるで~。

 

 

「……ブ!!!」

 

 

うんうん、いい子だね。ちゃんと回収に来てくれた。

 

羽を畳み、地面へと落下して来るタイタン。

 

更に加速することで、即座に私の隣まで落ちて来た彼は私を鞍の上に回収。もう一度上昇する。うん、うん。いい子。助けてくれてありがとうねぇ。……これで言う通りに動いてくれれば最高なんだけど。あ? なんで私が飛び降りたのかって? そりゃお前さんが私の指示聞かないからだろ? 尻ぬぐいだよ尻ぬぐい、

 

 

「ブ! ブ!」

 

「私が本気出さないから? まぁそれは確かに。でもお前がもっと私の言うこと聞けば、簡単に勝てるんだけどな……。あ、そうだ。一回試してみるのはどうだい?」

 

 

私が指示出してお前がそれを聞く、んで相手に勝てたらタイタンの今日のおやつは山盛り果物。んでもし負けたら、私との契約撤廃。面倒な人間どもは私が処理して、お前は自由な野生に戻る。どう? 勝っても負けてもお前にとって利があるよ。まぁ負けるってこと自体クソ嫌そうだけど。私から解放されるなら一回くらいいいんじゃない?

 

 

「相手さん、もっかい同じ攻撃するために高度上げてるけど……、どう? 多分すぐ急直下して来るよ? 早く決めなきゃ。」

 

「…………プミ!」

 

「おっしゃそうでないと! いい子だぜタイタン! 即座に着陸して受け止めるぞ!」

 

 

返って来たのは、しぶしぶの了承。でもこれで一歩前進、後は勝つだけ、だ。

 

即座に着陸する指示を出し、エレナの攻撃を受け止めるための準備を開始する。なんで降りるかって? そりゃ今から高度上げるのじゃ遅いからさ! さっきみたいになっちゃうぜ?

 

お前の強みはその圧倒的なスペック! だが流石に後手後手に回れば勝てるものも勝てない! 相手の攻撃の特性を読み、弱点を突くようにそれを受け止め! 吹き飛ばす! 相手が怯めばこっちが先手! 怯まなくても大ダメージだ!

 

 

(ペガサスによる急降下、確かな技量と覚悟がないとできない技。ミスればそのまま地面に真っ逆さま。そのリスクの分だけ高い攻撃力を誇る技だけど……、タイタンならひっくり返せる。)

 

 

「地面全力で走って速度上げろ! ペガサスごと吹き飛ばすぞ!」

 

「プモ!」

 

 

着陸した瞬間、急加速を指示し、地面を走らせる。

 

そして速度を乗せた瞬間、方向転換。天から落ちるようにこちらを貫こうとするエレナとかち合う様に、タイタンを進ませる。相手はすでに加速している。故にその落下地点、地面に激突しないように落下を止めなければいけない高さ。すでに予測済みだ。

 

槍を回し、遠心力。そしてタイタンの速度を乗せ、叩き込むのは、その一点。

 

 

「そこッ!」

 

「ぐッ!」

 

 

交差する槍。さっきまであちらに傾いていた天秤は、私たちに傾いた。

 

タイタンの有り余るパワーによって、ペガサスごと押し出すその一撃は、確実にその体勢を崩す。だが倒れてはいない。まだ、攻撃が必要だ。

 

 

「上がれッ!」

 

 

このタイミングを、逃してはいけない。相手が立て直すよりも早く上空に上がり、高度を得るためにさらに上昇を指示する。なんとか落馬せずにその体勢を立て直し、負けじと上昇を指示したエレナだったようだが……。こちらの方がスタートするのが早かったうえに、スペック差でもこちらの方が上の“機体”で、高度勝負なんて勝てるのかい?

 

 

「無理だよねぇ!」

 

 

二度もエレナに見せてもらったお手本、見よう見まねで、やってやる。

 

視線は、視界一杯に広がる大地へ。

 

指示は一つ、“墜ちろ”。

 

羽を畳み。重力、高度、この子の巨体。そのすべて、エレナへ。

 

 

「勝負だァ!」

 

「ッ! ならッ!」

 

 

自分の技に、対抗策を持っておくのは必須。彼女はそう言う様に、私を受け止めるために槍を構えた。そしてペガサスを羽ばたかせ、速度を上げ……。回転する。

 

遠心力、そしてペガサスが出した速度。下から上に叩き込まれようとする一撃が。

 

私に。

 

 

「タイタンッ!」

 

 

叫ぶのは、名前だけ。でもこいつの性格なら、選ぶのは一つ。

 

重力、高度、巨体、これでまだ足りないのならば。

 

いや。圧倒的な勝利で終えるためには。

 

 

 

地面に向かって、再加速だ。

 

 

「あはははははははッ!!!!!」

 

 

より早まる速度と、見えてくる地面。感じるのは死の恐怖と、そんな恐怖すらかき消すような精神の高揚。

 

 

「とったぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

笑いながら振るわれた私の切っ先と、彼女の槍が、ぶつかる。

 

一瞬の拮抗すらなく彼女の手から槍は離され、信じられない速度で地面へと叩きつけられ、爆散。

 

そしてそれは、数秒後の私の姿。

 

 

「ッ! タイタン!」

 

 

全力で羽ばたく指示を出し、その勢いを殺させる。脳内を埋め尽くしていた快楽物質も、一瞬で消え失せた。最悪“空間”からクッションとして大量の牧草をばらまいてやろうかと思ったが……。やっぱりこの子は格が違った。ほぼ墜落といった形だったが、何とか無事に地面に到着し、二人一緒に地面を転がる。Ohタイタン! お前受け身も取れるんか! 偉いなぁ!

 

 

「ととっ! おーい、ネルとかいう人ー! 判定はー?」

 

「さ、先にエレナ様が武器を落したため、ティアラさんの勝利です……。な、なにあの子。」

 

 

へへーん! だよね! ティアラちゃん大勝……、んぁ? どうしたタイタン。は? 動いて腹減ったから飯? いやお前ついさっき昼食べたばっかって、あっ! おま! 服破ろうとするな! 古着でも高いんだぞお前! 噛むな! わかったから噛むな~~!!!

 

 

 







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また誤字報告いつも大変お世話になっております。

次回はエレナ視点のお話が含まれます。
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