黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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68:なんやお前

 

 

「……大丈夫、オリアナさん?」

 

「あぁ。だが黒騎士相手に私一人じゃちと厳しいからな。さっさと片づけてこい。」

 

「もっちろん!」

 

 

時間は少し巻き戻り、ティアラたちが帝国十将と戦闘になる直前。オリアナはゆっくりと息を整えながら意識を眼前の黒騎士に集中させていく。彼はこの戦場に於いて最強の“個”であり、ティアラが現れるまではたった一人で戦場を左右することが出来ると言われた存在。油断出来る相手ではない。

 

オリアナがそんなことを考えている間に、ティアラが動き出す。

 

彼女たちの作戦は、ティアラとナディーンが黒騎士以外の敵将を撃破し、その間オリアナが黒騎士を抑えるというもの。ティアラ一人では不安が残り、また敵殲滅にどれだけ時間を要するか解らなかったが故にナディーンを付けたのだ。

 

 

(まぁそのせいで単身でこいつを足止め……、って!)

 

 

ティアラが設置した空間による“射出”。その合間を縫うようにわざと黒騎士の真横を通ろうとする彼女。そんなことすれば昨日今日で帝国からヘイトを買いまくっている彼女が狙われるのは確実。事実黒騎士も怨敵が横を通り抜けようとしているのを察知し、その槍を振るおうとしている。

 

大量の敵兵を鬼籍に入れたことで莫大な経験値を手に入れたティアラであったが、オリアナからすればまだ『足りない』。幾分か強くなったことは彼女も把握しているが、“上澄み”と呼ぶにはまだ鍛錬の必要があり、黒騎士の一撃を受けるにはあまりにも防御力、DEFの値が少なすぎた。

 

故に、防ぐ。

 

強く地面を踏み込み、ティアラを追い越すように動くオリアナ。自然とその槍は黒騎士の前へと動き、その致死の一閃を受け止める。そしてその直後、ティアラからの支援として黒騎士の顔面にマグマが噴射された。

 

 

「ッ!」

 

「おぉ、熱そ。」

 

 

そんな軽口を叩きながら、自身の槍を打ち込んでいく。

 

一度槍を合わせた以上、なんとなくではあるが相手の動きや出方、技術の蓄積度合いというものは理解できる。長年戦場に身を置いたからこそ得た技能の一つであり、生き残るのに必要なピースの一つだった。しかしながら、それは相手も同じ。いやオリアナの蓄積に対し、黒騎士は才覚のみでそれを圧倒する。

 

溶岩によって黒騎士の兜の前面部、バイザー部分が変形しており普段通りの視界を確保できているわけではない。けれどオリアナの槍を防ぎきるどころか、むしろ圧倒してしまっていた。

 

 

「ッ! おい小僧、兜脱がなくていいのかい!? それぐらいなら待ってやってもいいぞ!」

 

 

そう言葉にするオリアナだったが、返って来たのは呼吸音と全力で振るわれた槍のみ。すでに黒騎士にとって彼女たちは言葉を交わす相手ではなく、完全な敵として判断されている様であった。

 

 

(まぁちとやり過ぎてるのは確かだからな。そっち面での時間稼ぎは無理、と。しっかしまぁ、何喰ったらこんな重い一撃打てるんかね。婆が受け持つ相手じゃないよほんと。)

 

 

手のしびれを何とか抑えながら、相手の攻撃をさばいていく。適宜ティアラからの支援砲撃が飛んでくるが、あちらはあちらで残り5人の相手をしているため、そこまで余裕があるわけではない。飛んでくればラッキー、最初からないモノとして行動した方が良いと判断したオリアナは、行動を開始する。

 

黒騎士の変形したバイザーによって生じた死角。その方向から攻撃を仕掛けようと動いたように見せかけ、手に取るのは放棄されたバリスタ。この城壁から帝国兵を撃破するために用意されたものを手に取った彼女は、片手でそのスリットの隙間。兜の奥にある黒騎士の目玉に向けて、発射する。

 

攻城兵器としても使用できるサイズのバリスタだ。その弦の固さは常人では道具の力を借りねば引くことが出来ず、支えが無ければ発射時に肩どころか全身が吹き飛んでしまうほどの威力。それを片手で放った彼女は、“弾かれる”前提で、攻撃を行う。

 

 

(槍のリーチは、ここまでだよなッ!)

 

「ッ!」

 

 

自身の槍を以ってバリスタの矢を弾いた黒騎士。そんな体をすり抜けるように、その槍を振るう彼女。すでに相手の槍のリーチ、そしてその肉体の可動範囲は確認済み。迎撃のためオリアナに振るわれたその刃は頬の薄皮一枚切れ込みを入れただけで終わり、オリアナはその太腿部に一撃を叩き込む。

 

ほんの一瞬だけ形勢が彼女に傾いたが、オリアナは追撃せず一歩後方へと下がる。その直後彼女がいた場所には致死の一撃が通り過ぎていた。

 

そしてそこから始まる、黒騎士の反撃。

 

 

(ほんっと、やりにくいなぁオイ!)

 

 

嵐のように繰り出されていく槍撃を、何とか弾いていくオリアナ、普段の彼女ではしない様な武器の耐久度に頼るような防御、相手の攻撃が苛烈すぎるが故にアダマントというこの世界最硬の金属に縋ってしまう。それでも技術・速度、そして膂力に於いて相手の方が優れており、防御をすり抜けた槍が彼女の鎧を砕き、その脚は徐々に後ろに下がって行ってしまう。

 

 

(だが、それでいい!)

 

 

槍による防御の形をそれまでの我流の動きから、帝国槍術に一瞬だけ切り替え、相手のテンポをずらす。戦場で殺してきた相手から盗んだ技術、帝国出身の黒騎士からすれば慣れ親しんだものであったが、王国の人間からそれが出るとは思わなかったのであろう。

 

常人であれば隙と判断できないほんの数コンマ。だが上澄みたちにとっては、ギリギリ他のアクションを押し込める隙でもあった。

 

オリアナが後退した先にあるのは、カタパルト用に用意してあった油瓶の一つ。それを蹴り上げ、黒騎士に叩きつける。害はないと判断した黒騎士がそんな油瓶に目もくれずオリアナの首を刎ねるためにその槍を振るうが……、彼女にとってその行動は、期待していたものに他ならなかった。

 

残る全力を以って、黒騎士の槍に自身の槍を打ち付ける。

 

生じるのは、火花。

 

“上澄み”同士の打ち合いによって生じたそれは黒騎士にぶちまかれた油に飛来し、着火する。すぐに火が回る様に調整された特殊な油、確かに常人の肌は焼けるだろうが、超人である彼女たちの肌にとっては少し熱い程度。けれど視界を遮る障害物としては、十分。

 

槍の石突を地面に突き刺し、支えに。

 

防御のため振るわれたのであろう黒騎士の槍を飛び越え、その顔面に両足を叩き込み、振りぬく。

 

 

「ちッ! 脱力もできるのかよ。」

 

 

オリアナの攻撃を受け、後方へと転がる黒騎士。だが彼女の脚に残った感覚は、ひどく軽い。

 

両足がその顔面を貫こうとした瞬間、黒騎士が取ったのは脱力。全身から力を抜き、相手の攻撃をただ受け止める。打撃系の攻撃を受け止める際に上位勢が多用する技術の一つであり、極めればその威力を完全に殺し切ることが出来る技であった。

 

オリアナであっても戦場でなければ拍手を送る程の脱力を見せた黒騎士は、地面を転がりながら身についた炎を消火。ゆっくりと立ち上がりながら、槍を構え直す。

 

 

(……さっきのラッシュでも思ったが、コイツ戦うたびに吸収して成長していくタイプだ。一度使った戦法は次は通じねぇ。城壁の上じゃ幾つか“おもちゃ”があるってことでやりやすいかと思ったんだが……。最悪相手にも利用されるな。)

 

 

比較的自分が優位だった戦場が、相手の学習によって不利になりつつあると感じたオリアナ。

 

今の彼女に求められているのは、“時間稼ぎ”。ティアラたちが合流するまでの時間を稼がなければならないし、ユリアン率いる別動隊が皇帝を確保するまでの時間を稼がなければならない。けれど単純に戦えばすぐに負けてしまう。故に過去の蓄積から引っ張り出して手を変え品を変え相手をする必要があるのだが……、それが自身の首を絞めようとしていた。

 

生き残るために時間は必要だが、時間が経てば経つほど相手が学習し、より生き残るのが難しくなる相手。

 

それが、黒騎士であった。

 

 

(とりあえず場所を移して仕切り直しをしたいところだが……、私が離れてもティアラを狙うだろうからどうにかしてついてこさせなきゃいけ……。おぉ、いいタイミングだなぁおい。)

 

 

急に空が暗くなったと上を見てみれば、浮かんでいたのはティアラが落とした巨石が真上に。豪華なお屋敷を丸々踏み潰せるような巨大な岩が突如として出現する。『この前崖に鉄の棒を打ち込んで無理矢理作った岩だな』とオリアナは孫との記憶を思い出し口角を上げる。

 

ただ重力に引かれ、城壁ごと押し潰そうとしている岩。この速度であれば十分離脱可能な速度ではあるのだが……。

 

両者ともに、動かない。

 

いや、動けない。

 

 

(この城壁から逃げるということは、体を空へと投げ出し、同時に相手に背中を見せるのと同義。そんな状態のあいつから私は腕一本ぐらいなら持って行くことが出来るし、あいつは私を殺すことが出来る。)

 

 

いくら黒騎士といえど、隻腕になってしまえば振るう槍の出力は落ちるし、取れる技も弱くなる。そうなれば彼にとって格下のオリアナに敗北する可能性が高くなるため、動くに動けない。しかし上から降ってくる巨石に押し潰されれば死にはしなくても、行動不能になってしまうことは確かだ。

 

お互いどちらが先に動くか、にらみ合う。

 

既にその思考は両者ともに脳の限界ぎりぎりまで研ぎ澄まされており、二人の意識からは音が消え、色が消え、残るのは互いの体と、降ってくる巨石のみ。

 

徐々に、徐々に近づいてくる巨石。

 

両者ともに動かない。

 

 

「ッ!」

 

 

巨石が、ちょうど自身の頭髪に触れた瞬間。

 

先に動いたのは、オリアナ。全力の踏み込みを持って、外へと逃げる。それを追いかけようとした黒騎士であったが、もう遅い。彼の体が巨石へと飲み込まれていき……。彼女の視界から、消える。

 

 

(死、いやあの程度じゃ死なんっ!)

 

 

外へと飛び出した彼女は、ティアラによって吐き出され少し固まり始めていた溶岩の上を転がりながら、巨石によって破壊された城壁を注視する。彼女ですら『踏み潰されても何とかなるか?』と思えるのがあの巨石なのだ。確かにダメージ自体は期待できたが、殺せるほどではない。

 

自分が出来て相手が出来ないはずもない。そう信じた彼女が槍を構えながら相手の動きを探っていると……、背後から複数の足音。顔をほんの少しだけ傾け、後方に視線を向ける。

 

 

「“槍鬼”殿!」

 

 

騎馬に乗りやって来たのは、4人の王国兵。過去に何度か顔を合わせたことのある、王国の“上澄み”たちだった。彼らは帝国十将の残り、『雷切』たちと交戦していたはずだったと考えるオリアナの思考を、そんな王国兵が遮る。

 

 

「『清廉』を名乗る回復役に深手を負わせた故に、『雷切』は撤退した! 加勢する!」

 

「助かるッ! 黒騎士はあの岩の中だ!」

 

 

彼女がそう言った瞬間、即座に各々の武器を構え始める王国の強者たち。年齢が離れているということもあり、あまり交友関係のなかった間柄だが、戦場で肩を並べ戦ったことはある。自然とこの中で一番の防御力を誇る『重装騎士』が大盾と斧を構えながら前に出、剣を持った男女がその後ろに。そして後衛の男がオリアナに回復薬を投げ渡しながら弓を引き絞っている。

 

オリアナが槍を地面に突き立て全身、特に黒騎士の攻撃を受け続けたせいで痺れが取れない腕へと入念に回復薬を振りかけようとした瞬間。

 

巨石に、罅が入り、

 

 

割れる。

 

 

即座に矢を放つ弓兵であったが、甲高い音が響く。弾かれた。

 

真っ二つに割れ崩れ行く巨石の合間から土煙と共に現れる黒騎士。確かにその真っ黒な鎧の各所が凹み破損していることから無傷ではなかったのだろうが……。視界の優れぬ土煙のなか、“上澄み”の弓兵が放つ矢を難なく弾いていることから、まだ相手の“底”。体力の底が見えない。

 

王国内で強者と呼ばれるような存在であっても、“格”の違いを感じてしまう敵。思わず誰かが唾を飲み込んでしまうほどの強敵であったが……。そんな彼らの気を正気へと戻すように、上空から弾けるような音が響いてくる。

 

全員の視線がそちらに向けば、ティアラが敵帝国十将の一人を槍で破裂させながら両断しており、その直後もう一人の十将をナディーンが彼女の代名詞とも呼べる一族の技『蒼月』によって首を刎ねている。

 

 

(あの感じ……やったか。)

 

 

空での戦いを多くのものが見守っていたのか、各所から歓声らしきものが上がってくる。

 

オリアナが察した通り、すでにこの戦場に残る帝国十将は黒騎士ただ一人であり、ティアラ討伐のため突撃を敢行した一般の帝国兵たちは十将の一部が撤退し、その多くが撃破されたことで組織的な抵抗が出来なくなってしまっている。

 

この戦の、大勢は決した。

 

 

(あとは“黒騎士”を何とか……、ッ!!!!!)

 

 

その場にいた全員の士気が上がり、思わず口角が上がってしまいそうになった瞬間。そのすべてがどす黒い何かによって消し飛ばされる。そしてオリアナらがそれを認識したときにはもう遅く……。

 

赤黒い斬撃が、彼女たちの全身を両断していた。

 

 

「ッ! “起動”!」

 

 

自身の上半身と下半身が分断されたことを理解したオリアナは、即座に“ズル”の一つ。アユティナから与えられた“加護”を起動する。瞬時に世界が捻じ曲げられ、両断されていたはずの肉体が、元に戻る。黒騎士の飛ぶ斬撃によって両断された、という“ログ”は消滅したのだ。

 

 

(は、はは。凄いな。……回数は限られてるが、とんでもねぇ。)

 

 

アユティナという神の愛はその信者全員に注がれているが、決して平等ではない。使徒であるティアラに注がれた愛は、それがティアラにとっての進化や成長に反するものでなければ、何でもやってあげるほどに高い。そしてそんな大事な使徒を教え導き、成長を促す存在である“オリアナ”にも、その愛は注がれている。

 

未だ神という存在に不信感を拭えないでいるオリアナは、神に必要以上のものを望むことはない。だがアユティナからすれば形だけとはいえ信仰を受け使徒の支えになっている存在に、褒美として加護を与えないのは神の名が廃る。故に送られたのが、『即死攻撃を受けた際、それをなかったことにし全回復する』加護。

 

いわゆる回復系の加護であった。

 

 

(最初はいらねぇと思ってたが……、貰っといてよかったな。だが、ちと……。)

 

 

「まずい、な。」

 

 

最大までHPを回復させ、軽くなった体でゆっくりと立ち上がるオリアナ。そんな彼女の足元には、先ほどの攻撃で両断された王国の強者たちの姿が。たった一瞬で、王国軍に属する“上澄み”が全滅してしまった。

 

そして視線は自然と、黒騎士の方へ。

 

 

「やっぱりあっちも、ウチの孫と同様“埒外”の化け物ってことか。」

 

 

怒りのせいか、全身から赤黒い覇気の様なものを放出する黒騎士。すでに会話が成立するような状態でなく、正気だとは到底思えない。もしここに皇帝を連れて来たとしても、かまわず戦闘を続けるであろう。彼の配下であった黒い鎧の騎士団。そして自分以外の帝国十将7名の殺害。そして数えきれない程の兵士たちが理不尽に殺された。

 

我を忘れるほどの怒りを抱いたとしても、おかしくはない。

 

 

「姉上ッ! 大丈夫……。え、無傷?」

 

「あぁ、ピンピンしてるぞナディ。ちょっとした“ズル”でな? 多分魔力放出系の技だとは思うが、当たるなよ?」

 

「……把握しました。ですが後で聞かせていただきますゆえッ!」

 

 

真っ先にオリアナの元に降り立ち、槍を構え直すナディ。

 

 

「うへぇ、もしかして私やり過ぎた? 強化イベ入っちゃってるじゃん。」

 

「愚痴なんか言ってる暇ないぞクソ孫。もうこうなれば殺さなきゃどうにもならん奴だ。気合入れてけ。」

 

「はーい。んじゃ、もうちょっと頑張りますかねッ!」

 

 

タイタンの背に乗りながらオリンディクスを振るい、“空間”をこの世界につなげるティアラ。

 

 

王国と帝国、この戦最後の戦闘が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ティアラ!」

 

「もち! お任せッ!」

 

 

タイタンに指示を出し大空に舞い上がりながら、空間を開く。もちろん攻撃用ではなく、防御用の空間だ。怒り狂い正気を失っているはずなのに、確実に私達を狙い消し飛ばそうと放たれる赤黒い斬撃達。あいつ最初馬乗ってたから『騎兵』かと思ってたけど無茶苦茶乱発してくるじゃん! これ明らかにMP消費系スキルだよね! なんでそんなに打てるのさー!

 

タイタンに細かい挙動を任せ、何とか距離を詰めていく。

 

 

(ひぇ! 圧だけでとんでもない!)

 

 

オリアナさんの加護の発動は、私もナディさんもこの目で見ていた。ナディさんからすれば何が起きていたのか解らなかっただろうけど、私には理解できる。あの力の出所は、アユティナ様のものだ。まぁだって私使徒だもんね? 自分の信仰する神様の力ぐらいすぐわかりますって。

 

まぁプライバシーに関連するから誰がどんな加護貰ったか、とかは自分から話してこない限りは聞かないようにしてたんだけど……。たぶんアレ、全回復する加護だね。

 

 

(でも多分回数制限があるはず、オリアナさん信仰は移してくれたけど私みたいに熱心なわけじゃないし。それに回復すると言っても、痛みは残るはずだし、回復できるのは自分自身だけ。ナディさんや私に当たればそれで終わりだ。)

 

 

「となったら、“回収”しちゃうしかないよねぇ! タイタン、全部任せるよ!」

 

「ブ!」

 

 

空での行動を全てこの子に任せ、意識を空間へと移していく。オリアナさんが言ってた魔力放出系の攻撃って言葉を信じるならば、この斬撃を完全に読み切ることが出来れば回収できるはずだ。けれど威力的に、飛んでくる斬撃丸々全部を収納できる大きさの空間じゃなきゃ、外縁部を破壊されて終わりだろう。

 

つまりいい感じに開いて……、“置く”!

 

 

「よし! いけた! 二人とも、防御任せてッ!」

 

「よくやった! 行くぞナディ!」

 

「はッ!」

 

 

オリアナさんとナディさん、二人の進行方向。そして私に絶え間なく飛んでくるすべての斬撃を、回収していく。一つ一つの攻撃範囲が広すぎるせいで滅茶苦茶脳に負担がかかるけど、もう色々使い過ぎたせいでストッパーがパーになってる。常に脳みそフル回転だ。

 

オリアナさんの進行方向に放たれた斬撃を回収しながら、ナディさんの障害物も集めていく。タイタンに操縦を任せてなけりゃできない作業だ。けれど彼のおかげで……、二人が黒騎士の元に到達する。

 

 

(こっからもサポート! タイタンもっと距離詰めてけ!)

 

 

二人の攻撃を受け止めようとした奴の槍に、“射出”で【鋼の槍】をぶつけその威力を減少させる。けれどやはりかなり強化されているようで、“射出”をものともせず跳ね返し、オリアナさんへとその槍を叩き込んでいく。彼女が持つ【アダマントの槍】と一瞬すら拮抗せずに押し返したそれが、私の祖母の体ごと後ろに吹き飛ばしてしまった。

 

が、まだナディさんが残っている。

 

 

「『蒼月』ッ!」

 

 

敵の鎧の合間を縫うように放たれた蒼い斬撃、オリアナさんが吹き飛ばされた直後。そして肉体の構造的に黒騎士が反撃できない位置からの斬撃は、確実に黒騎士へと命中したが……。

 

素手で、受け止められる。

 

 

「ッ! 逃げてッ!!!」

 

 

即座に自身の槍を手放したナディさん。

 

その直後、彼の周囲を埋め尽くすように空間を開き、私が回収したすべての斬撃を黒騎士にお返しする。何かことを起こされる前に、こっちで叩き潰すべき。故に少し無理しすでに三桁を越えていた斬撃のすべてを同時に投下、黒と黒がまじりあい、接触し、命中し、爆発。一瞬だけ世界から色が消えて、爆風が巻き起こった。

 

ここで終わってくれるのならいいのだけれど……、あまぁそんな上手く行くわけがない。

 

ナディさんの近くに“空間”を開き、【鋼の槍】を手渡しておく。たぶんさっきまで彼女が使ってた武器は壊されちゃってるだろうからね。それの代わりだ。出来ればもっといいものをお渡ししたかったけど、【オリンディクス】を除けば手持ちの最高ランクは“鋼”。我慢してもらうしかない。

 

 

「いや! 大丈夫だ! それよりもティアラ! 今のうちに高度を!」

 

「え!? あぁ、解った! 行きますッ!」

 

 

煙が晴れる前に、ナディさんに連れられ私も高度を上げる。私たち『空騎兵』と言えばまぁ高度は命みたいなものだけど、地上の敵と戦ってる時。それも地上の味方と連携して戦っている時は、高度を上げることはまぁない。考えられる可能性と言えば回避か……、“急降下”のみ。

 

 

「「今ッ!!!」」

 

 

二人ほぼ同時に、ペガサスの羽を畳み、真下へ。狙うは、黒騎士の脳天のみ。

 

そして私と同じタイミングで、ナディさんが回転を始める。危険すぎて私ぐらいの狂人しかしないって言ってたスパイラルを、この人も。……まぁナディさんペガサス乗りとして何倍も私よりも上な人だし、できないわけがないか。うっしゃ! 行くぞ行くぞ行くぞ!!!

 

より加速しながら地面へと落ち、黒騎士へ。

 

ようやく土煙が晴れ、出てくるのはあれほど自分の斬撃をぶち込んだというのに、全くその覇気が弱まらずピンピンしている黒騎士。鎧なんかもう全部砕けてそうなレベルなのに、その隙間から見える肉体からは、赤黒い魔力の様なものが迸っている。

 

 

(でも、これなら効くでしょうッ!)

 

「『開闢の一撃』ッ!」

 

「『蒼月』ッ!」

 

 

「「ダブルスパイラル急降下ッ!!!!!」」

 

 

赤熱した私の刃と、青白く光ったナディさんの刃が、黒騎士目掛けて振り落とされる。

 

 

が。

 

 

 

「GAAAAA!!!!!!!!!!!」

 

 

 

その槍が奴の肉体に到達しようとしたその瞬間。黒騎士の体を纏っていた赤黒い覇気が、全方向に拡散される。どう足掻いても避けようがない、奴を中心とした半円状の攻撃。それにこの熱量、さっきの“飛ぶ斬撃”よりも絶対に上だ。このまま生身で受ければ、何も抵抗できずにペガサスごと消し飛ばされてしまう。

 

 

(ッ! “空間”!)

 

 

即座に私たちの目の前に、空間を展開し溜め込んだ全ての水を吐き出させる。そして同時に“障壁”としての多重展開。どれだけ持つか解らないが、直撃するよりましだ。

 

黒騎士から放たれる驚異的な熱量の前に数百トンを超えるはずの水が一瞬にして“破壊”され、私が作ったはずの障壁たちも剥がされて、焼き尽くされていく。けれどギリギリ身を守るだけの防壁にはなったようで、五体満足のまま吹き飛ばされ、ペガサスたちと共に地面を転がる私たち。

 

 

(あ、あはは。水蒸気爆発とかも全部飲み込んだのかよアイツ。化け物め!)

 

 

轟音と、熱。耳と目が少しおかしくなったのか、ちょっと頭を振りながら、【オリンディクス】を杖に、何とか立ち上がる。というか、この戦い方。明らかに人の範疇を超えた……

 

そう、考えようとした時。

 

 

 

私の視界に、影が入る。

 

 

 

見上げれば、

 

溜め込んだ熱のせいか肌と鎧がほぼ一体化した黒騎士が、私に槍を振り上げていて。

 

視界の端には、こちらに飛び込んではいるけど、明らかに間に合いそうにないオリアナさんの姿。

 

 

手、動く。だめ、押し負け、あし、ふみこみ、おそい、まにあわ、あがけ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、お呼びかな。“我が天使よ”。」

 

 

 

 

 

 

 

…………は???

 

 

 

 

「鍛錬の成果、再びご覧入れようッ! 『剛魔大斬撃』ッ!!!」

 

 

赤黒く染まった黒騎士の刃と、形容しがたい色の魔力に染まったロリコンの刃が激突する。しかしやはり黒騎士の方が上の様で、拮抗はすぐに崩れ押され始める伯爵。けれどそんな一瞬の拮抗が、彼女にとっては十分すぎるほどの時間だった。

 

 

 

「私の孫から、離れろッ!!!!!」

 

 

 

オリアナさんが全力で槍を二人に向けて放ちながら、私を抱きかかえる。黒騎士もロリコンも受けるよりも回避を選び、大きく背後に飛ぶことで、距離をとる。

 

私を包み込んでくれる、大きくて優しい手。わぁ、すっごく安心。あ、黒騎士に“射出”ぶち込んどこ。しねー。

 

 

「大丈夫かティアラッ!!!」

 

 

う、うん。一応大丈夫だけど……。

 

 

「なんでお前いんの?」

 

「? 我が天使の危機に駆け付けぬわけがないだろう?」

 

 

いやそんな当然なことを言うような顔されましても……。

 

あ、ナディさん大丈夫? 防壁のおかげで擦り傷と打撲程度? ペガサスもまだいける? なら良かった。とりあえずコレ回復薬ね。焼け石に水かもだけど、無いよりはマシなはず。んでタイタンは……、わお。黒騎士ちゃんにキレてますな。うんうん、元気そうでなにより、一緒にあいつぶっ殺そうね♡

 

んでまぁ、肝心のコイツなんですけど……。

 

無茶苦茶不本意ではあるけれど。やっぱり、“数”は多い方がいいよね。お婆ちゃん。

 

 

「あぁ、“非常に不本意”だがな。」

 

「ふふ、そう来なくては我が天使よッ! それとナディーン殿、そんな熱視線を送られても高齢にして既婚者の貴女の想いには応えられませんからな? あぁご息女は別ですが。」

 

「気持ち悪。マジで娘にもティアラにも近づくなよお前。」

 

 

……自分で言っといてなんだけどさ。これ連携できるかな?

 

 

 






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