黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~ 作:サイリウム(夕宙リウム)
さて、今日も今日とてレベリングなわけですが……。
「普通に強いの多くなってきたから面倒だよね。」
「ブブブブブ!!!」
「ありゃこっちもヤバくなって来たな。」
連続の“射出”を行いながら、タイタンの機嫌を取るために一度彼の背から降りる。
現在私たちがいるのは、迷宮の51~60階層に存在する極寒の世界、『雪山の世界』だ。ひとつ前の41~50がクソ暑い火山の世界だったからちょうど正反対になってるんだよね。流石迷宮、寒暖差で冒険者を殺しに来ている……! ちな現在討伐中の60階層のボス、『クマのプーさん』はなぜか黄色くて真っ赤なベストを着ている三つ首の白熊さんだ。
(制作陣め! 著作権切れたからって好き放題やりやがって……!)
まぁその名に恥じぬ? 意味わからんほどの毛皮の硬度を誇るこいつは私の“射出”をほとんど弾いてしまう強敵だ。効かないわけではないんだけど、こうやって長時間(20秒ほど)マシンガンのように連射し続けないと死んでくれない。周回の速度遅くなるから嫌なんだよねぇ、500~600発ぐらいいるから物資も減るし。
(んで、もっと嫌なのが……。クソ寒い極寒の雪山。ティアラちゃんは大人なので我慢できるとしても……、ウチの聞かん坊が耐えられるかな! ってことでして……)
そんな不機嫌さんの顔を覗き込めば……。わぁ、人殺ししてそうな人相。視線だけでコロコロいけるんじゃない? どう、直死の魔眼とか頑張ってみる? 真のペガサスは目で殺す! みたいな。あ、やば、これ以上ふざけたら私を殺してでもここから出ようとする奴の目になってる。ほ、ほら! スイーツ! 極上フルーツと青草ブレンド飯上げるから! これ好きやろお前! ペガサス版スイーツなんだろこれ! ほら怒涛の甘党!
「ブブブ!!!」
「あ、マジであかん奴や! OK、わかった! これ終わったら帰ろう! ほんと、ほんとにこれで終わりだから! ね!」
彼の口の中に取り出した甘味類を放り込んでやりながら、そう確約する。
お前でっかいから体温高くて、この吹雪の中でも巨大湯たんぽ代わりになってすごく快適だったんだけど……、仕方ない。でもタイタン、まだ今日500回ぐらいしか周回してないよ? 1時間100回で2400回頑張るって朝話してたじゃん。え、労働基準法違反? んなもんこの世界にあると思うか? ……というかどこで知ったのそんな言葉。
「ブ!」
「あ、アユティナ様ね。なるなる……、っと。ようやく熊ちゃん死んだか。んじゃ帰るからもっかい背に乗せてくれるかい?」
断末魔の様な声が聞こえたと思えば、三つ首ベアーがお亡くなりになられている。普段ならコイツの討伐証明部位である内臓とかをはぎ取ったりするのだが……。今日はやめておこう。流石にこれ以上タイタンの機嫌を損ねると色々まずい。明日から付き合ってくれなくなっちゃう。
まぁそんなワガママさんといえど、この子の個性だ。それに、自分の主張をしっかりしてくれる子は私の好み。
それに最近はタダの聞かん坊じゃなくて、自分のスタミナの具合とか、やる気の有無を教えてくれるし、帰る理由もそのあたりが起因している。あと他にもそろそろ繁殖したいなどと、色んなことを教えてくれるようになってきた。……え? お前繁殖したいの? あ、ペガサス的にはもう適齢期みたいな感じなのね? あー、うん。りょ、ちょっと直近は無理かもしれんけど考えておくわ。
ま、まぁこの子は自己が強いし、多弁な子だ。何も解らずに倒れられるのと比べれば何倍もいいんだよね。
(にしても……、あんまり順調じゃないな、こっちは。)
天馬騎士団の姉ちゃんたちや、モヒカンズと姉妹。あとエレナのレベリングはかなり順調に進んでいる。すでに全員が『オーガの首高速ちょんぱブートキャンプ』にて、目標だった下級職Lv10を達成済み。そのため現在は、いくつかのチームに分かれながらレベリングをしてもらってる。
私みたいな超速周回が出来る存在に比べたら流石に遅いんだけど、人数という物量で押すことが出来るため他の冒険者とかに比べれば格段に早くレベリングが出来ているって感じだね。
エレナとか最近『もうティアラの腕力追い抜かしたと思うわよ!』みたいなクソ怖いこと言いながら腕相撲挑まれたし(負けた)、姉妹ちゃんたちも良い感じに頑張れてるのかぴょんぴょん飛びながら嬉しそうに戦果を報告してくれた。ちょっと思い込んでたみたいで気になってたけど、どこかでいい感じにガス抜きできて何より。
けど肝心の私が……、全然なのだ。
(まず一つ目、レベルが上がらん。)
この世界はゲームが元になっているが、ゲームではなく現実だ。故に私が所有する情報のすべてが使えるわけでなく、一部分は完全に無意味なものに成ってしまっている。その一つとして……、レベル。これが本当に上がらなくなってきた。現在私のレベルは、28でストップしてしまっている。
ゲームでは1ユニット撃破すればある程度の経験値が手に入っていたが……、その1ユニットがどれだけの数を含んでいるのか、誰も解らないのだ。戦略系ゲームの都合上、1戦闘で出てくるユニット数は敵味方合わせても50程度、三桁に達することは処理の問題からか一度もなかった。
けれど現実の戦争はもっと多くの兵が参加している。国境線の戦争とかがいい例だよね。
(だからまぁ、1体倒したところでレベルがあまり上がらないってのは理解できるんだけど……。それでもこう、どれだけやっても向上しないレベルを見ているとしんどいものがある。迷宮もより奥に進めば進むほど難しくなってくるしね。)
オリアナさんやナディさんは私よりもだいぶレベルが低い(ステは完敗してる)おかげでまだ伸びしろはあるみたいだが、カンストまで残り2になってしまった私の必要経験値は莫大だ。アユティナ様によると経験値が全く入っていない、ということではないみたいなのでコツコツやっていくしかないようだが……。
(もう少しで迷宮都市に来てから2カ月。神との戦いまでのタイムリミットが迫ってきてしまっている。)
レベリングのおかげで強くなったとはいえ、未だこの体は幼女と少女の間位。体は成熟していないし、そもそも体が弱い私は鍛錬を積んでも効果がしれている。つまりレベリング以外の成長方法がないのだ。そんな唯一の成長が鈍化した以上、戦力としての価値は周りに比べどんと下がってしまう。
私はアユティナ様の“使徒”だ。
(自陣営の中で最強である必要はないが、今回の宗教戦争は絶対に負けられないし、死ねない。)
アユティナ様の存在を知るものは、故郷に居たころと比べだいぶ増えた。故にこの身に何か起きようとも、またあの方がこの世界からはじき出されてしまうと言うことはないだろう。けれど使徒とは、いわば現世における神の代わり。私が死ねば、それだけ神の名も落ちる。
アユティナ様の名を絶対的なものにし、この世界を元の信仰に戻すには……。圧倒的な勝利が必要だ。そして私は“使徒”として、先頭を走り抜けなければならない。ただの雑魚でしかなかった私を引き上げてくださった恩を、ここで返さなければならないのだ。
(だからこそ、強さがいる。)
けれど。成長が鈍化してしまった。
そしてもう一つ、私が焦ってしまう理由として。
「……ドロップしねぇんだよなぁ。まったく、やになっちょう。」
えーっと、ちょうどさっきのでクマちゃんで、軽く38000程ボスぶっ殺したはずなんですが……、素晴らしいことに、『成長の宝玉』! 一個も出てません! というか宝箱ですら2回しか出現してないでふ! おいLUK! 帰ってきて仕事しろ!!!
ダンジョンにおける宝箱は、迷宮の攻略中に見つけるか、ボスを撃破したときにポンッと出現することがあるのだ。これまで攻略してきた迷宮で見つけた宝箱は、すでにほかの冒険者が見つけてしまっていたのか何も残っていなかったのだが……、ボス撃破時のドロップは別。なので宝玉求めて延々と殴ってたんですが……。
(ティアラちゃんが手に入れたのは、なんと【鉄の剣】と【破魔のリボン】の二つのみ! クソ運!!! 原作でもどれだけ運悪くとも三桁回せば最悪でも2,3は出てたぞ宝玉! 運営調整しろ!!!!!)
破魔のリボン。名前は大層だが、単にRESを+2だけするクソ装備。つまり外れオブ外れ。序盤はまだいいが、中盤にはお役御免の装備と、店売りにありそうな鉄の剣しか出てきていない。それ以外ぜーんぶスカ。
前世のソシャゲガチャみたいに天井がないせいで何回やっても補償も補填もありません。死です、死。おかげさまで私とんでもない顔をしていたようで、この前エレナに『貴女ほんとに大丈夫? アンデッドみたいな顔してるわよ』なんて言われちゃった。あはー!
【て、ティアラちゃんさ? あの、私がこんなこと言うのもアレだけどさ……。制限緩めよっか? ちょっと見てられなくなってきたんだけど……。ほんとになんでそんなに運ないの?】
「こっちがしりたいですよぉ!!! ……でも私“使徒”ですから、アユティナ様の権能から外れるようなことしたくないです。だからもっと頑張る、がんばる、ガンバル……。」
「プ。」
【あぁ、ごめんねタイタン君。一芝居打ってもらって……。このままだとこの子ほんとに壊れるまで周回しそうだから……。でも権能から外れることを神の私がしちゃったら、この大事な時期にデバフ受けちゃうことになるからなぁ。】
……ほわっ! え、今なんか言ってました? 言ってない? なら良かった。んで、何の話でしたっけ……。あぁそうだ、制限を緩める、ってやつですよね。
アユティナ様は『進化と成長』の神様だ。けれど決して、“楽して成長しろ”という方ではない。すべてが自己で完結するわけでもないし、努力が全て成果につながるわけでもない。けど楽して手に入れた力が真に私たちの“心の成長”に繋がるの? ということをこのお方は問いかけてきている。
肉体の成長に、精神の成長。それを合わせて人という存在は進化し、新たな階位へと至る。私を通して介入やサポートはしてくださるけど、全て手取り足取り教えてくださるわけではない。アユティナ様の人類に対するスタンスは“見守る”ことに重きを置かれている。
だからこそ、他人が手に入れた『成長の宝玉』を貰うことは、アユティナ様の判定的には“入手していない”扱いになる。
けどまぁ私のガチャ運がひどすぎて、憐れんでくださってるのよね……。
(昔の私、アユティナ様と出会ったころの私は雑魚というのもおこがましいレベルで弱かった。だからこそ神が介入しなければ私の可能性が潰えてしまうという判断で、数多くのサポートをしていただけた。けれど今はこの世界でも上位の強さを手に入れてしまっている。これ以上私に何かを渡すと言うことは、アユティナ様ご自身が決めた“制約”から外れることになってしまう。)
以前アユティナ様からお聞きしたのだが、自身が定めた制約や権能から外れることをしてしまうと、神は大幅なデバフを喰らうことになるらしい。たしか『二頭身ぐらいの野球のゲームでさ、絶好調から絶不調あるでしょ? あんな感じ。権能から外れたことしちゃったなぁ、っていう自責の念とかで調子下がっちゃうの』とお聞きした。
今でさえかなりご迷惑お返しているのに、これ以上は……!
「ブ!」
「あ、ごめんタイタン。うんうん、帰ろうね。にしてもどうするか、これより下の61~70階層の敵は雑魚でも“射出”を弾く高DEFのステージだし、魔法系の支援がないと難し……。」
「ブブブ!!!」
ご、ごめんって! はいはい、考えるのやめる! んじゃ帰りましょうねー! ……え? 久しぶりに体洗え? うん、それは別にいいけど……。どしたー? 急にデレたな。いつもモヒカンズとかにやってもらってるのに……。私でいいの? 体おっきくないから時間かかるし下手だぜ?
「ブ!」
「そうなの? ……なら丁寧にやらせてもらいますか!」
◇◆◇◆◇
ティアラ 天馬騎士 Lv25→28
HP (体力)34
MP (魔力)29
ATK(攻撃)25→26
DEF(防御)20
INT(魔攻)32→34
RES(魔防)30→31
AGI(素早)29→30
LUK(幸運) 0
MOV(移動)5(8)
(対魔法のタンク、としての運用が出来なくもないRES。けどHPの低さがネック。タイタンのおかげで速度と高度、一撃離脱とかが出来ないわけではないけど……。最悪一撃も喰らえない戦い、ってのも求められてしまいそうな勝負になるかも。)
そんなことを考えながら、タイタンの体を洗ってやる。
……一応、色々と準備は終わっているのだ。“対神”用の装備も出来る限り揃えたし、“射出”だって強化した。王国の女神が私の知る通りのステータスであれば確殺できるだけのものをご用意している。けれど原作は原作、ゲームとして落とし込むために弱体化していてもおかしくはない。本来の敵の強さが解らない以上、油断は禁物。出来る限りのことをしなきゃいけないんだけど……。
「ブ。」
「お前もう考えるな、だって? まぁそりゃそうなんだろうけど……。変にプレッシャーかかってるのかもね。」
「ブブーブ。」
「あー、なるほど。確かに。」
子爵領に居たころエレナと戦っていた時に私がしていた、笑い。楽しくて愉しくて仕方ない、って状況に自分を追い込み、無理矢理笑ってテンションを跳ね上げる方法。確かに最近やってなかったし、いっちょやってみよっか。んじゃタイタン、採点してよ。
「あはっ、あははは。」
「ブ。」
「あはははッ!」
「ブ!」
「あはははは! あはッ! アハハハハハハッ!!!!!」
「……いや何してんだお前。」
およ? オリアナさんじゃーん! どしたの? え、自分のことよく見てみろ? タイタン用のブラシと、石鹸と、泡だらけになった手? それで狂気的な笑みを浮かべながら笑い始めた私? ……どこにでいそうな休日の幼女じゃない? うん、ふつーふつー!
「どこがだ。お前が普通だったらこの国色々終わるぞ? いやそっちの方が今よりマシにはなるだろうが……。まぁいい。“やっこさん”から手紙だ。先に内容を確認させてもらったが……、とにかくお前も見てみろ。」
「あ、うん。ちょっと待って。」
手に付着していた泡を洗い流し、ついでにタイタンの体にもお湯をかけてやる。さっきまで雪山にいたからねぇ。暖かいお湯ですよ~。ほんとは風呂とか入れてやりたいんだけど、流石にお前用の風呂を作るとなると土地の用意もそうだけど、お金がね……。掛け湯で勘弁してつかあさい。
と言うことで持っていたタオルで手を拭き、おそらく“伯爵”からの手紙に目を通す。どうせ手紙の後半部分は私への恋文になっているだろうから破り捨てるとして……。本題は何かな?
「え~っと? 王国教会の集団が王都にある墳墓に集結して突入? 4分の3が墳墓内で消滅? 主力は未だ健在だが、それ以外は消耗率が高く使い物にならない? 故に相手が立て直す前に勝負を決めるため、すぐに伯爵領へと参られたし? ……???」
「ティアラ、あの墳墓何かあるのか?」
「え、マジで知らん。こわ、え、マジで何……???」
いや確かにあそこアンデッド出てくるから危険な場所だよ? でも脅威度はそんなにだし、序盤中盤のレベリングに使えなくもないかな、ってレベルだよ? ダンジョンの方が経験値効率も金策もできるからイベントで中に入ったらそれっきりというか、その後のイベントで地盤沈下か何かで全部大地に沈んで入れなくなるというか……。
「ほんとに知らん。何が起きてるの……!?」
「……知らんならそれでいい。とにかく、あちらさんはもう勝負を決める気みたいだぞ。どうする。」
「そ、そうだよね。決めなくちゃ。」
敵の兵力が減ったってことは、その分余力が生まれるってことだ。対神にどれだけ使えるかは解らないけれど、上手く行けば取れる手がぐんと増える。それに、相手がそれだけの被害を受けたのなら、戦う前に逃げ出す様な奴もいるかもしれない。信仰心が篤い奴は難しいかもだか、金目当てに教会に入ったような奴は消える。これを好機とみる伯爵の考えには、賛成だ。
……覚悟を、決めよう。
不安は残るけど、勝てない勝負じゃない。準備も、できている。
「みんなを集めて。すぐに全員転職させて上級職にする。その後伯爵領に向かって、あっちの軍と合流する。」
「了解だ。……気負いすぎるなよ。」
アユティナ
「これ伝えた方が……。ん、どうしたの“ヘイカ”君。あ、お弟子ちゃんが黙っておいて欲しいって? あー、うん。じゃあそうしておこうか。でもティアラちゃんにとって明かした方がいい状況になったら普通に言うからね? それでもいいなら。いい? ならそうしようね。」
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また誤字報告いつも大変お世話になっております。