黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~ 作:サイリウム(夕宙リウム)
その日、神が死んだ。
我々が古代というべき様な時代、まだアユティナと呼ばれた神が世界を見守っていた時期の話であれば、まだ納得は出来る。あの時代であれば強者は腐る程存在しており、神によって人から新しい存在へと導かれた人間も、多くいた。絶対にして唯一神であったアユティナに勝てるような存在はいなかったが、別世界から流れて来た神程度であればどうにでもなるような存在は、それこそ数えるほどにいたのだ。
けれど、神が死んだのは古代ではなく、今。
アユティナがその流れ者の神の謀略によってこの世界からはじき出され、文明が停滞し、人々の手から力を奪い取ったこの時代において、それがなされたのである。これが如何に異様なことなのか、この時代を知る者であれば絶対に不可能であると断じてしまうような功績。
それを彼女は、成し遂げたのだ。
彼女の名はティアラ。
王国の神を信奉していた者たちは、彼女のことをこう呼んだ。
背から黒い羽を生やし、それを以て戦場を音よりも速く駆け巡る彼女のことを。
黒颯のエレティコ、とーー」
「……いや何言ってるんですが“ヘイカ”。」
「あ、フアナちゃん。居たんダネ。」
私が“ヘイカ”と呼ぶ、すでに死した王。3000年ほど前にまだ王国と帝国が分裂していなかった神話の時代における、統一国家の国王陛下です。と言っても威厳たっぷりな方ではなく、話しやすくまたキュートな一面も持つ方であり、弟子入りした私にも懇切丁寧に魔導について教えを説いてくれる方でもあります。
けれどまぁ、3000年前の人間(今はアンデッド)ということで、文化の違いによるすれ違いというものは結構あったりするんですよね。ちょっとした相談をしようと彼の自室に足を運んだのですが……、さっきからよく解らないことを言いながら、本にペンを走らせておりました。
「いやネ? 我もう死んじゃってるケド、やっぱ記録って大事じゃナイ? 未来の人たちがちゃんと歴史検証できるように、ちゃんとこういうのは残しとかないナ~、って。だから。」
「いや“黒颯のエレティコ”なんて聞いたことありませんわよ? いやエレティコ、異端者は流石に聞いてますが……。」
「ウン、だから我が作っタ。カッコよくない?」
「……後世の歴史家、困惑しません?」
それが彼なりのジョークなのか、それとも真面目に記録しているのかは解りません。
先日討伐されたミサガナによって3000年前の記録はほとんど破壊されてしまっているし、そもそも風化してしまって残っている物がないのです。しかもヘイカも私も、互いが異文化である事を理解しながら交流しているので……、これスルーした方がいいの? それとも後世の歴史家のために焼いておくべき? いや確かに『黒颯』という響きは嫌いではないですが……。
「して、体の調子はどうだい。賢者を超えた『最上級職』、新たな『マギフェーダ』としての人生は。」
「えぇ、万全です。より魔力との親和性が上がった、というべきでしょうか?」
ティアラたちが戦った王国教会の使徒たち、あの者たちはそもそもヘイカを討伐するために集められ、攻め込んできた存在です。最初は『無干渉が基本ダケド、喧嘩売られたのナラ買わないと』と言うヘイカ一人で対処を行い、ついでに神そのものも消し飛ばしちゃおうと気合を入れておられたのですが……。彼の信仰するアユティナ神からストップが入り、一時中断。適当に数を間引くことに成りました。
少々残念がっていたヘイカではありましたが、即座に気を入れ替え方針を変更。使徒の対応を私に一任することで、実戦経験とレベリングをできるように、取り計らってくださったのです。
(この墳墓は、ヘイカの庭。いえ“体内”といってもいい程の場所。常にヘイカからの支援を受け続けることが出来れば、幾ら格上相手であろうと簡単に勝つことが出来ました。)
それまでのヘイカによって生み出されたアンデッドとの戦闘。そして使徒との戦闘によってついに『賢者』Lv30に到達した私は……、ティアラと同じ、最上級職にたどり着くことが出来たのです。それだけ使徒たちの経験値が美味しかった、と言うことでしょう。
(実際、あの“初代”とかいう使徒はすごかったですからね。流石にヘイカの支援がなければ勝てる相手ではありませんでしたが……。)
それでも、自身が最上級職に至ったことは、確かなこと。
そんな私の新しい職業、『マギフェーダ』
他の最上級職と違い、『魔法兵』の到達点は、神秘という新しい力を得るのではありません。より魔力についての理解を深め昇華するのがこの職業。神の御業によって作り替えられたこの肉体は、以前と比べると明らかに“出力”が桁違いです。これを御しきり、使いこなしてようやくスタートライン、といったところでしょう。
常に体内から爆発的に湧き上がってくる魔力を御しきり、同時に精錬し、神秘にすら匹敵する高密度の魔力に変換していく。転職した直後は少々扱いに手間取りましたが……、今はもう問題ありません。
通常の魔力も、高密度の魔力も、両方難なく使用することが出来ます。……こんなもの神や眼前の“ヘイカ”の指導なければ使いこなすことなど、できなかったでしょう。それまでの自身が児戯とも思えるような指導。迷宮などを使用すれば独学で最上級職にたどり着くことは出来たでしょうが……。体内で荒れ狂う魔力の奔流を制御できず苦悩していたでしょうね。
ヘイカには、本当に感謝です。
……え? ステータスを見せてくれ? えぇ、構いませんが……。
フアナ マギフェーダ Lv1(前回魔法兵Lv2)
HP (体力)45(15)
MP (魔力)83(21)
ATK(攻撃)17(5)
DEF(防御)29(9)
INT(魔攻)67(16)
RES(魔防)62(13)
AGI(素早)39(8)
LUK(幸運)51(14)
MOV(移動) 7(5)
『全知の魔法』
スキル『魔力操作』
スキル『魔力圧縮』
スキル『魔法創造』
スキル『魔法改造』
スキル『複合魔法』
「いやマァ、まだ我には大分劣るけどさ。正直フアナちゃんのこと、怖いヨ、我。成長率ヤバくて『あ、これが新時代……!』って思っちゃったモン。」
「? そうなのですか?」
正直まだまだ力が足りないと感じていたのですが……。ヘイカがいうのなら、そうなのでしょう。ありがたく受け取り、礼を返します。
ですが、弟子は師を超えるモノ、故に先達であるこの方を目標に頑張っておりましたし、ヘイカを基準としていたのであまり高いようにも思えないのは事実です。
(それに……)
この墳墓でヘイカと共に見た、幼馴染の雄姿。
時空間魔法の一つに、違う場所で起きていることを映像化しどこかに投射するというものがある。私の時空間魔法習熟の訓練も兼ねて、墳墓の外で起きていた戦いは、全て目を通していました。
(勿論、彼女の戦いも。)
ティアラ単体の強さであればまだ勝ち星を挙げられそうでしたが、あの巨大なペガサスと合体し、異様なほど大きな翼を手に入れた彼女と戦えば、敗戦は免れないでしょう。当てさえすれば勝利を拾える可能性はありますが、私が認識できるよりも彼女は速く、そして強かった。
通常時のティアラでそうなのです。神秘という力をより使いこなし、あの神と合体することでより強固な力を得た彼女に対しては、手も足も出ないでしょう。
(私が前に進んでいる間も、彼女はより先を歩いていた。誇らしい気持ちもありますが……、ティアラの隣に立つには、私もより前に進まなければなりませんね。)
ただでさえ『全知の魔法』という大層なものまでステータスに書かれているのです。習得した魔法が多すぎるが故にステータス上での省略を意味するものらしいですが……、それでも全知と書かれているのであれば、その名に恥じぬような能力を得ていなければ示しが付きません。
それに、力の差ではこちらが優位でしょうが……ティアラの横を突け狙う泥棒猫は着々と力を付けてきています。先を行くティアラに追いつくためにも、後ろからくる泥棒猫たちに負けないようにするためにも、より魔の道を究めなければ……。
「時空間魔法の習得が出来てる時点で、我もう十分な気もするけどナ……。ソレで? 何か用があったから来たんでしょ? ドウシタの?」
「実は、故郷に戻ろうと思っておりまして……。」
ヘイカから時空間魔法。つまり自己の加速や転移などの魔法を教わった以上、どこにいたとしてもすぐにヘイカの元に跳ぶことが出来るようになりました。つまりこれまでのようにわざわざ面倒な王都に居を置く必要がなくなり、慣れ親しんだ故郷から数秒足らずでこの方に教えを受けることが出来るようになったわけです。
「彼女との約束は未だ継続中ですし、“会いに来てくれるまで”会うつもりはありません。それに、王都では敷地の制限があるので自分の工房も持てませんから。」
「アぁ、それで建築系の魔法とか知りたがってたんダネ。」
「はい、良い機会ですし、私も私の“城”を持とうかと。」
魔法使いにとって城とも呼べる、“工房”。自己の魔力を高めたり、魔法の研究に励んだり、魔道具を作ったりする場所。ヘイカの教えは確かに自身の血肉になるものですが、それをより自分に合った形に組み替えたり、簡略化することで発動を早めたりという作業がまだ残っています。
失敗すれば色々吹き飛ぶ可能性もあるため自身の工房を持つことが好ましいのですが……、流石に王都は土地代が高いのです。まぁやろうと思えば金銀財宝の生成も苦ではありませんが、色々と問題が出てくるのは確か。両親に負担を強いるのもアレですし、故郷に帰り余った土地を融通していただき、自分の“城”を築く方が良いかな、と。
「今後も何度かお邪魔することに成るとは思いますが……、一時お別れを言いに来ようと思い、参った次第です。それと自己鍛錬のやり方についても、幾つかご相談を。」
「あぁ、ウン。それはいい考えだと思うシ、修行の相談についても相談に乗るケド……。」
「けど?」
「フアナちゃんサ。時空間魔法覚えたでしょ? それでティアラちゃんのコト、監視しようとしてナイ?」
全力で、顔を逸らした。
◇◆◇◆◇
場所が代わり、ここは王都。
ロリコン野郎こと、リロコ伯爵の暗躍により教会上層部が大混乱に陥れられていたころ……。
ティアラから『おっぱいさん』とのあだ名を勝手につけられ、メッセンジャーとして派遣されたあまり『(空間に)しまっちゃおうね?』されそうになったメメロは、胸の下に大量の食材が入った袋を持ちながら、町の中を歩いていた。
(なんだか大司教様とかの偉い人たちがすっごい慌ててたけど、何があったのかなぁ)
ぽわぽわとそんな思考を浮かべながら、道を歩く彼女。その強大な胸部装甲のせいか色々と目立っている彼女は、男女問わず知り合いが多い。まぁそれに欲望の色が入っているのは事実であるが……、教会の人間故かその方面への知識が全くない彼女は、胸に視線が集まっていることは理解しながらも、気にせず挨拶を返していく。
そんな普段通りの行動をしながら、彼女はより思考を深めていった。
(慌てるようなこと……、思いつかないなぁ。)
彼女の教会内での階級は、『助祭』。決して低い階級ではないが、教会組織の運営などには携われない立場である。懺悔室での役回りを任されたりとか、何かの当番決めの際にリーダーを任されることはあっても、組織からすれば下っ端の方。
上層部がロリコン伯爵から齎された『実はこれまで信じてた神って偽物らしいですよ? キレた本物がやって来てこれまでの使徒とか、誤った信仰持ってた奴ぶっ殺しました』なんて情報でてんやわんやしていることなど、全く知らないのだ。
ただお偉いさん方が大変そうにしているな、なんて思いながら日々を過ごすだけである。
(そういえば教会の騎士団とかが、墳墓の調査に行ったんだっけ? 使徒様も一緒って聞いてたけど……、何かあったのかな?)
降りてくる情報の量は少ないが、それでも噂などで推測することは出来る。故に何かあったことを察することは出来るのだが、自分たちが信じていた神がぶっ殺されてこの星の核にぶち込まれたなど、おそらく言っても信じないだろう。
実際、教会上層部も非常に揺れ動いている。
教会の所有する力がほぼ全滅し、もし伯爵からの報告が事実であろうと虚偽であろうと歯向かうことは不可能なため、ただあるがままを受け入れようとする者たち。
神が崩御したなど考えられないが、戦況とこちらの戦力を考えれば今は耐え忍ぶしかないと考え、もともとの神が復活するまで偽りの神の支配を受け入れようとする者たち。
神の死など信じられず、伯爵やその新しい神を悪魔として弾圧しようとする者たち。
神のことなど気にせず、依然として私腹を肥やすことに余念がない者たち。
その他様々な者たちが揺れ動き、各々に行動を開始しているのが、現状である。
(まぁでも、私は私の仕事をするだけ、ですかね~。)
けれど、ただの助祭である彼女には、関係のない話。
自身の胸の重さに少し苦労しながら坂を上り、自身が勤める巨大な教会に足を運んでいく。難しいことや、ややこしいことは上層部の賢い人たちに任せ、あまり学のない自身は迷える民たちに寄り添い、神に仕える者としてあるべき姿を保ち続ける。それを自分が出来る唯一の仕事だと割り切っているが故の、思考だった。
……まぁ難しいこと考えるの嫌いだし、教会という毎日の食事に不安がないという利点に引かれ、教会勤めを始めたのが彼女、メメロである。人よりも少し信仰心はあるし、困っている人を見ればほっておけないタチであるのは確かだが……、今日のご飯が美味しければいいや、という思考の持ち主でもあった。
故に彼女は疑問を疑問のまま放置し、胸の下に抱えた食材たちの使い道を考えながら足を進めていく。
(あ、そう言えばそろそろリロコ伯爵様や、ティアラ様が王都に来る時期でしたっけ?)
ご飯のことを考えていると、自然と思考は物価へ。そして物価を引き上げている原因である顔を見たことのない五大臣を思い浮かべ、少しむっとする彼女。そんなことを考えていると、自然と思考は少し前のこと。大司教のお使いとして国境線に向かったときのことを思い出すメメロ。
(悪い五大臣さんたちをやっつけてくれるんですよね~。)
伯爵からすればメメロを納得させるための言葉だったが、それを事実だと信じ切っている彼女は、彼から伝えられた到着時期がもうそろそろである事を思い出していた。まぁ実際彼らは現在王都に向かっているし、『伯爵やティアラたちが彼女の信仰していた神をぶっ殺した』という情報は抜けてはいるが、五大臣を排除しにやってきていることは事実で間違いない。
あの場でリロコが言った『五大臣という王国を蝕む害虫を排除する』というのも、一応嘘ではなかったのだ。
それまでの工程に『五大臣に資金援助している王国教会上層部を排除する』、『その過程で邪魔になりそうな王国教会戦力と、神を排除する』というメメロが聞けば卒倒しそうな内容がすでに行われてしまっているのだが、嘘ではないのである。
「上手く行けば、もっと物価が安くなるのかな?」
教会から支給されるお給金は昔からずっと一定、故に美味しいご飯を手に入れるには、やっぱり物価が安い方がいい。メメロからすれば本当にそれだけの理由で、ティアラたちが王都にやってくることを楽しみにしていた。自分は助祭だし、そうややこしいことに巻き込まれることはないだろうと考えながら……。
まぁティアラちゃんに顔と名前覚えられてる時点で、無理なんですがね?
◇◆◇◆◇
王国と帝国の国境線。
少し帝国側に寄った場所に存在する全く人気のない森林で、地面が隆起する。
その数秒後、轟音と共に這い上がってくる存在。息も絶え絶えといった様相で、ようやく外に出られたことを安堵したのか、すぐに地面に転がってしまう彼女。
そして即座にその森林から生気が消えていき、そのすべてが枯れ、大地からも光が消えていく。
一瞬のうちに痩せこけ枯れた大地になってしまった場所に依然として倒れ伏すのは、胸に大穴を開けた存在。
以前よりも大分傷はふさがったようだが……、それでもまだ、足りない。
(何か、何か“吸収”しないとッ!)
王国の女神だった“ミサガナ”。彼女はティアラによって殺される瞬間、最後の神秘を使い、分身を生成。そして意識を一時的にそちらに移すことで本体を仮死状態に。星の核に飲み込まれ全身が消し飛ばされる直前に意識を戻し、星の核からエネルギーを吸い取りながら、何とか地上に舞い戻ったのである。
けれど元の管理者であったアユティナがこの世界に戻ってきている以上、星の核に異常が起きれば飛んできてもおかしくない。さらに星一つのエネルギーでも一瞬だけ解放されたアユティナの神秘に勝てるか解らないと判断し怯えたミサガナは、最低限の回復だけを行った後。地上への逃走を図ったのだ。
帝国にいる自身の片割れとも言うべき存在に、助けを求めるために。
けれど、もう少し思考を回すべきだっただろう。彼女が自身の“片割れ”と表現するような存在であり、ミサガナと共にアユティナをこの世界から叩き出し、3000年間代理戦争とはいえ、殺し合った存在が自分の領地に現れたとすれば……。
「……大きな穴、開いてるね。私の口みたい。」
「ッ! ゴジ! い、いい所に!」
突如として現れたのは、帝国の女神ゴジケサ。比較的長身で白い肌に金の髪を持つ比較的白い神秘を保つミサガナとは違い、ゴジケサが持つ神秘は吸い込まれるような黒を保っている。肌はミサガナ同様白いが、髪は黒で短くまとめており、身長も一回り小さい、と言ったところだろうか。
両者ともに自然発生型の神であり、生まれた時期と場所も近いことから姉妹の様な関係である二人。しかしながら互いが持つ権能が反発しあう者であったため、アユティナ亡き後は殺し合いを続けるような間柄であった。
「あ、アイツが! アイツが戻って来たのよ! アユティナが! アユティナが!」
「知ってる。」
「…………え?」
「私のおもちゃを通じて、見たもん。だから知ってる。」
そう言うゴジケサは、自身の真っ黒な口の中から、一つの首を取り出す。ミサガナにとっては理解しえない“家畜”の顔であったが、ティアラであれば『黒騎士』と判断する者の顔だった。
ミサガナは“分身”という権能を持つゆえか、様々な場所に自身のおもちゃとなる家畜を置いていた。歴代の使徒や、自分の意に反する動きをした国王、そしていくつかの町。家畜に神の力を無理矢理押し込めばどうなるのかなどの実験場として、地図上からいくつかの町や村が消えているのである。
対してゴジケサは一つのおもちゃを長く使うタイプの神であり、ちょうど今の時期は『黒騎士』に目をかけていたのだ。負けそうになれば自動的に強化されるような仕掛けを施していたのだが、少し目を離した隙に死んでしまっていた『黒騎士』。それを“補食”した彼女は、黒騎士の記憶からアユティナの残滓を発見していたのである。
「じゃ、じゃあなんで教えて……。」
「いい機会だった。ミサガナも、アユティナも、両方食べれる。……けど想定外、ミサがここまでやられるぐらい強くなってたなんて。」
ミサガナも、ゴジケサも。3000年前の全盛期ながら力を抑えていたアユティナの姿しか知らない。彼女から信者たちを奪うことで神秘の供給源を断ったことは彼女たちも理解していた。故に幾ら当時の自分たちが協力しても“追い出す”ことしか出来なかった神でも、この3000年で弱体化しているはず。そしてその長い時間で家畜たちも自分たち以外の神を受け入れづらいようになっている。新たな供給源を手に入れようとしても、難しいはず。
故にこの世界に戻って来たとしても、それほど力を取り戻せていないと両者ともに判断していた。
だからこそミサガナはわざわざ地上に手を出し、使徒であるティアラを排除しようとしたし、ゴジケサもアユティナの残滓を知りながらも、王国方面にいることを理解した彼女は漁夫の利を狙おうと、それを放置したのだ。
けれどミサガナがその目で理解していたように。全盛期に程遠いらしいが……、アユティナが力を解放した姿は、3000年前彼女たちが見ていた“抑えていた時”のアユティナよりも、強かったのだ。つまり弱くなっているはずの存在が、逆に強くなって戻ってきたように見えたのである。
「あ、あれから3000年たったけど! アタシたちの全力はほぼ互角! つまりこのままだとゴジ! お前も負けるわ! て、手を組みましょう! そしたらアイツにも絶対勝てる……。」
「やだ。」
「……え。」
「帝国は、私の餌場。もうほぼ全部の神秘を失ったミサと手を組んでも美味しくない。それに、手を組むよりも……。私がミサを食べちゃった方が、何倍もいい。」
真っ黒に染まった眼、そして少し開けた口から漏れ出る黒い神秘。ゴジケサが持つ権能は、“補食と放出”。彼女にとって口に含み栄養として消化することは、ミサガナの吸収とほぼ同じ。“吸収”に比べればかなり効率は落ちるが……、やろうと思えば、その記憶どころか“権能”すらも、自分のモノにすることが出来る。
恐怖からか、思わず後ずさりするミサガナ。
「う、うそよね、あ、アタシを食べるなんて……!」
「本気。……ずっと思ってた。その顔がどんなふうに歪むのか。ミサだって、私のコト吸収したいって思ってたでしょ? おんなじ。」
「ッ!」
両者ともに、“他者から奪う”ことで成立する権能。故に最初から相容れるはずがなく、一時的に協力することはできても、互いに互いを養分としか思っていないのが、この二人の間柄であった。
勿論それは、二人だけの話でない。両者ともに、生まれながらにして神であろうとも、他者を養分としか捉えていないのが、この女神たちだ。命からがらこの世界に逃げて来た時も、それを憐れんだアユティナに対しても、この世界を生きるすべての生き物に対しても、自分以外は、全て養分。
似た者同士であるが故に姉妹の様な関係性を保っていた、だからこそミサガナも、眼前の彼女が本気である事を、理解してしまう。
大半の神秘を失い、何も抵抗できないミサガナに向かって、真っ黒で大きな口を開けながらゆっくりと近づくゴジケサ。
その口がミサガナを包み込み、飲み込もうとした瞬間……。
彼女たちの目の前に、雷鳴が鳴り響く。
「お~。もしかしたら、と思ったけど、やっぱり姉妹喧嘩してるじゃん。昔、言わなかったけ? そういう繋がりって大事だから、“仲良くするように”、って。」
「ッ!」
「……お前は。」
「ハァイ、ミサガナはさっき振り。ゴジケサは3000年振りかな? “元気だった”? アユティナ様だよ。」
青白い雷鳴と共に現れたのは、巨大な両刃斧を担ぎながら現れた、アユティナ。
普段は制限しているはずの神秘を完全に解放しており、その総量は万全な状態であるゴジケサであっても、底が見えないレベル。アユティナ本人が言っていたようにその神秘はすでに世界に影響を及ぼし始めており、先ほどミサガナによって吸い尽くされたはずの大地に、活気が戻り始めている。
命の危機を理解し、即座にこの場から離脱しようとしたゴジケサであったが……。即座に虚空から吐き出された数えきれない程の斧によって、その動きが制される。ほんの少しだけ首筋に刃が当たり、そこから血と神秘が流れていく。全て、複製された【神殺し】だ。
「うんうん、“元気”そうで何より。あぁ、何でここにいるのかって質問かい? そりゃぁ最初から自分の獲物には印をつけておくものだろう?」
貼り付けた笑みを浮かべながら、そう二人に話しかけるアユティナ。
二人の眼前にいるこの強大な神は、すでに3000年前の存在と同じではない。二人が知るアユティナという神は、もっと優しくて、甘くて、そんな恐怖すら感じるような笑みを浮かべる神ではなかった。自分たちが何をしようとも口頭の注意で済ます様な、“甘ちょろい”神でしかなかったはずだ。
その神が、“嗤って”いる。
「最初は殺すだけでいいかな~、って思ってたんだけどね? 実際顔を会せてみると自分でも可笑しなぐらいに怒りが湧いて来てさ。思わずティアラちゃんみたいな振る舞いをしなきゃ自分を抑えられなかったんだよね~。まぁちょっと影響されてる、ってのもあるとは思うけど。あはは~。」
王国を統べる神と、帝国を統べる神。その両者の命は、すでにアユティナの掌に。
怨敵に復讐を果たせる機会を得たアユティナであったが、楽しそうに嗤いながらゆっくりと大地を歩く。本来の主の再来に喜んでいるのだろうか、アユティナから発せられた神秘に反応した大地が動き始め、彼女のすぐ近くに巨大な木を生成し始める。そしてその木は本来と違う成長を始め、椅子の形へ。
それを眺めていたアユティナは彼らの歓迎に礼を言いながら、生み出された椅子に腰かける。
「あぁ、そうだ、安心して。この場で消すつもりはないからさ。でもちょっと言いたいことが有ってね?」
ゆっくりと膝を組み、頬杖を付きながら、神は語る。
「もう君たちの神秘は“覚えた”し、普段いる場所も控えておいた。どこに居ようと見つけ出してあげられるし、やろうと思えばお家ごと、全部壊してあげる。でもそれじゃぁ面白くない。ちょうど私の使徒に、新しい“成長の機会”を与えてあげないといけないな、って思っていてね。壁になってあげてよ。」
優しい笑みを浮かべながら、淡々と言葉を紡ぐ神。
「ラスボス、って言うんだっけ? ちょうどいい神を殺して、ハッピーエンド。物語としては最上だよねぇ。まぁ私が一から全部用意して、ってのは好みじゃないから君たちのことは監視しつつ放置するつもりだけど……、結末は変わらない。ティアラちゃんが君たちのことを纏めて処理して、お終いだ。」
これから訪れるであろう物語の結末を祝う様に、少しだけ手を叩く神。そして満足した後は……、眼前で何も言えず震えることしか出来ない二人の神に視線を向ける。
先ほどまでとは違う、酷く冷めながらも強い怒りをもった眼でゆっくりと、どんな愚か者でも、理解できるように。
「私の善意を裏切って、3000年間もこの世界から追い出して、自分の子供のように可愛がっていた人間たちを奪い去ったお前たちを恨んでいないとでも? たった一度殺して満足するとでも思ってた?」
ミサガナの胸に空いた大穴を直してやりながら、ゴジケサの首の切り傷を治してあげながら、彼女は言葉を紡ぐ。
「ちゃんと全部終わったら……、権能と神秘全部取り上げて。永遠の地獄を味わわせてあげる。」
知っていたかい? 私はとても、“愛”が深いんだ。
“愛して”あげるよ、君たちの愚かさをね?
「んじゃ、次会える時を楽しみにしてるよ。ばいばーい。」
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また誤字報告いつも大変お世話になっております。