黒颯のエレティコ ~忘れ去られた神の力で凌辱シナリオをぶっ壊す~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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9:シナリオは狂うもの

 

 

 

「あ、リッテル様~。」

 

 

とっとこ小走りしながら、近くの住民に聞き込みをしていたお爺ちゃんに声を掛ける。

 

この肩幅広すぎ&腕もしかして丸太? と思ってしまいそうなお爺ちゃん事リッテル様。この村の領主にして主人公くんの義理のおじいちゃまだ。好々爺みたいな顔してるけど、明らかにその肉体が普通じゃなさすぎるんだよなぁ。腕力だけでヤシの実破壊しちゃいそうな体してるし。

 

いい人で、すっごい優しい人なんだけど……。この人に抱きしめられたら未だにDEFが紙な私はぽっきり折れちゃいそうだからな~。

 

うん、正直怖い。あんまり近づかないで♡

 

 

「おぉ、ティアラちゃん。こんにちは。」

 

「こんにちはリッテル様、何かあったんですか?」

 

 

ニコニコと笑顔を作りながら彼と話す。全力で媚びる、とまでは行かないが何とかして好感度を稼げるようにちょっとずつ積み上げてきたおかげかいい反応だ。でも王宮にも勤めていた人だし、こういった腹芸に精通しててもおかしくない。私の魂胆がバレているかもしれないが……、まぁ仲良くしたいのは確かなのだ。

 

 

(この後にあるイベントをこなすと、ヒロインは安全のため違う場所に輸送されるのだが……、主人公たちはそのまま村に残ることになる。)

 

 

主人公たちは襲われた時お爺ちゃんに助けて貰わなかったら死んでいた、という経験から『強くならないといけない』という思いを強くし、彼に様々な指導を受けることになるのだ。それまで主人公くんは一応お爺ちゃんからの修行を受けてはいたんだけど、どっちかというと友達と遊ぶ方が好きって人間だった。でも襲われてからはみんなを守れる様な力が欲しい、ってことで進んで鍛錬するようになるんだよね~。

 

んで、主人公だけでなくそのお供。男子三人組の色々修行付けてもらうんだけど、そこに私も入れてもらおうかなぁ、って思ってるわけ。原作での私はより神に縋ることで僧侶の道へ進み、フアナは魔導を修めていた母に師事を仰ぎその道を究めようとするんだけど……。ま、中身が変わりましたからね。

 

 

(そういえばフアナはどうするんかね? 流石に魔法を捨てることはないだろうけど、ちょっと剣とかに手を出したりするのかな?)

 

 

今の私には攻撃手段もあるし、防御面もアユティナ様が用意してくださった“装備”で整いつつある。だけどそれを扱う力、十全に装備の能力を発揮できるだけの力が、圧倒的に足りていない。最初は『実戦で鍛えちゃおうかな?』などと生意気なことを考えていたのだが……。

 

 

(ちょっとね。やっぱステータスの伸びがそこまででして。余計なリスクを孕むよりはちゃんとした師をもってやった方が効率がいい、ということに気が付いたわけです。)

 

 

なので馬上戦闘の極意とか、槍の扱い方とかをこの人に教えてもらおっかな、ってわけだ。この人騎士系の上位職『上位騎士』だし、そこら辺大得意なはずなのよね! ペガサスと普通の馬じゃ色々違うだろうけど、跨って戦うというところは同じ。絶対私の糧になるはず。

 

そのことを考えると……、今から全力でゴマをすりますぜ。えへへ!

 

 

「うむ、実は孫たちを探していての。今日は訓練の日と言っておいたのだが……。」

 

「……あ~、はい。ベルちゃんと遊んでるのを見たっていつもの三人が言ってましたよ?」

 

「なんと。」

 

 

ちょっとびっくりしたような顔のお爺ちゃん。おいおい主人公さんよぉ……、いや確かにイザベル様。ヒロインちゃん可愛いよ? 幼女体でも、成人体でも。両方でR18のシーンが用意されてるくらいですから。でも約束破っちゃうのはダメじゃないの。まぁ『勝手に村の外に出ない』って約束全く守っていない私が言えたことじゃないんですけどね! ガハハ!

 

 

「ま、まぁ二人ともとっても仲良しさんみたいですし……。」

 

「それは良いのだが、約束をすっぽかすのは頂けないのぉ。して? ティアラちゃんは何をしていたのかな。」

 

「私ですか? みんなで集まってた時に『旧墓地の方で遊んでる二人を見に行こう』ってなったので両親に報告に行こうかと。」

 

 

別に隠すことでもないし、むしろ誘導したかったから何の葛藤もなく白状する。普通に仲の良い友人だったらここで『知りません』とごまかすのかもしれないが、今日は別だ。というかそもそも私と主人公言うほど仲良くないしね。個人的にちょっと苦手意識あるし……。いや、話しかけられたらちゃんと返すし、みんな集まったら普通に遊ぶけどさ。

 

え? なんで苦手かって? だってコイツルートによってはとんでもない数の女に正規の手段、まぁ攻略した後に手を出して、その後ヒロインだけを選んでハイさいならする人間だよ? ハーレムスチルあるのに最後に選ぶの一人だけだよ? いや統治者としてはあってんのかもしれんけど人としてどうよ。原作の私に手を出した後普通に捨ててるし……。

 

それにこの村エロゲにしては女性の数少ないでしょ? 今後ストーリーを進めていくと徐々に女性が仲間になって行って、あの男子三人組にもいい人みたいなのが出来たりするんだけど……。選択肢次第では寝取りとか、カップル成立する前に奪うとか出来るんですよね。いやまぁそれを選ぶプレイヤーがアレ、っていうのはあるとは思うんですけど。

 

 

(ちょっと、ねぇ?)

 

 

原作がR18だからそこら辺仕方ないのかもしれんけどさ? プレイ中はそこまで違和感持たなかったけどさ? 実際に生きる世界でそれしたらもうただの屑なんよ。あいつの中身が何なのかはわからないし、この世界に生まれ落ちたままの魂を持っていたとしても、プレイヤーが急に操作始めるとかもない話じゃない。そういった不安要素を考えると……、あんま関わりたくないでしょ?

 

 

「ほほ、そうじゃったか。では皆には悪いがちょっとお邪魔させてもらうかの。バカ孫に説教してやらねば。」

 

「あ、わかりました。じゃあ私両親に伝えてから向かうので。」

 

「うむ、後でな~。」

 

 

そう言いながら旧墓地の方へ向かうリッテル様を見送る。うんうん、これで“フラグ”はちゃんと立ったね。死なない程度に主人公たちに死の恐怖を味わわせた後に、颯爽と登場して救っちゃってくださいね~。後始末は私がするんで。

 

 

んじゃ、私の準備をしてしまいましょう。

 

 

彼と別れた後、そのまま両親の元に行くのではなく、村を出る。人目に付かないように移動するのはもう慣れたものだ。適当に森の中をある程度進んだ後、ちょうど良さそうな木を探す。十分な太さが有って、上の枝の強度も確保できそうな場所だ。

 

今から着替えるのでね、見て聞いた感じ周りに何もいないけど、私の感知能力を上回る奴とかザラにいる。だったら比較的安全な木の上で着替えるよね、って話。

 

空間を経由し“射出”を行使する。使用するのはほんの少しだけ落下させた銅の斧たち。木にそれを突き刺し、即席の階段に変化させる。それをひょいひょいとのぼり、上へ。もちろん登り終わった後の階段の回収は忘れずに。少し開けた場所に銅板を置き、スペースを確保。お着替えの時間だ。

 

 

「これ、結構好きなんだよね~。」

 

 

取り出すのは、神に頂いた装備。わんわんセットだ。

 

私が頭部を吹き飛ばしたあの狼の毛皮を防具とした装備。狼の頭部をそのまま頭にかぶるような形になっていて、そこから背中全体が装甲の付与された毛皮で守られている。さらに両手両足と胴体の急所部分も鞣した毛皮で守られているため前からの攻撃も安心。しかも森での行動時に周りから捕捉されにくくなるっていう加護もついている優れもの。

 

 

「ゲームには存在しなかったけど、無茶便利な装備だよねぇ。攻撃系の見たことの無いスキルついてるし。」

 

 

 

 

▼【山の主の衣】

〇効果

DEF+3

装甲+5

森林移動時・被発見率 低下

 

スキル『ソウルウルフ』

 

〇詳細

進化と成長を司る外界の神がたった一人の信者のために誂えた装備。信者が仕留め捧げた山の主の毛皮を誂えたせいか、その信者しか使用できぬ加護が施されている。常に清浄を保ち、彼女に見合った大きさを維持し続けるそれは何も変わらず元気な姿でまた会いに来てほしいという神の願いが込められているのかもしれない。

 

 

 

 

常にDEF+3で、装甲破壊効果の付いている武器や魔法を喰らわない限りは実質的に+8となるこの装備。

 

オリンディクスに比べれば控えめな数値だけど今の私には十分すぎる。それに周りから気が付かれにくくなる、って加護がマジでありがたい。コレのおかげで盗賊に見つかることはなくなったし、獣が横を通ってもこちらのことに気が付いてなかった、みたいなこともあった。レベリングの方の狩りも、捧げものとして獣を狩る方の狩りもすっごくやりやすくなったんだよねぇ。

 

というかさ、アユティナ様。

 

『あんまり一人の信者を贔屓にしちゃうと、新しく信者できた時とか、これまでの信者に色々申し訳が立たないから……。流石に全員に同じだけの加護を与えちゃうとガス欠になっちゃうしね。』

 

とか言ってたけど。明らかにこれ贔屓して頂いてるよね? なんかもう、愛というかそういうのがすごいもん。そこら辺の相場解らんけど絶対もらい過ぎだよね!?

 

 

「まぁ私はもらった分使いこなして、手に入れたものそのまま捧げるしかできないんだけどさぁ。」

 

 

例のクソ狼の一件以降、『時間があるならいつでもおいで! というかできたら毎日顔見せに来て! 心配!』 と言われたので、狩りの帰りの後に時間が余った時は、出来るだけアユティナ様の元に行くようにしている。お呼び出しに魔力を消費してしまうが、そも基本的に魔力使わんものね。大体“空間”からの“射出”で事足りるし。

 

でも行くたびに『ケガしてないよな!』とか、『新しく加護あげるからな!』とかむちゃ過保護になっているのは……、色々とくすぐったい。頂き過ぎて色々と悪いし、銅の棒での残弾追加とか、銅板の追加とかでお茶を濁さしてもらってる……。

 

 

「ま、どっちみち私は手に入れたものをささげて、恩を返していくしかないよね。……よっしゃ行こっか!」

 

 

原作イベントを見に行くとしましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり旧墓地へ。

 

普段は場所に似合わぬ暖かな陽光に照らされ、子供たちの笑い声が響く素敵な場所だが……。

 

現在は醜い大人たちの怒号と、子供たちの悲鳴が響いていた。

 

 

「おら右だみぎぃ! そんなジジイさっさとやっちまえ!」

 

「こいつちょこまかと……ッ!」

 

「ぎゃはははは! 何だよお前! そんな丸腰のジジイ一人に何やってんだ!」

 

 

 

十数人の武装した、それも盗賊のようにチグハグな装備ではなく、統一された正規品と思われる装備に身を付けた男たち。そしてそれを指揮する馬上の男性。いくら装備を整えても中身を整えることはできなかったのか、汚い言葉を吐きながら仲間同士で侮辱し合い、丸腰の老人を嬲り殺そうと囲んでいる。

 

馬上の男性はそれを見ても何もせず、むしろ早く殺せ、後ろの子供どもには手を出すなと言及しているあたり、彼らの指揮官なのだろう。神経質そうな顔に、あまり鍛えているとは言えない細い体。装備を着ているというよりも、着られていると言った方が正しい男。

 

 

「ぬぅ……。」

 

 

対して、彼らと相対する老人。軽々と男たちの攻撃を避けてはいるが、その顔には焦りが浮かんでいた。

 

それもそのはず、彼の後ろには多くの子供たちがおり、それを庇いながら丸腰で戦っているのだから。

 

明らかに追い込まれてしまっている状況であり、その原因が自分たちであることを把握している子供たち、どうにかこの危機を脱しようともがくが、周囲は敵に囲まれてしまっており、誰一人武器を持っていない。唯一魔法によって反抗できる可能性のあったフアナはすでに魔力を使いきってしまい、もう彼らに取れる手段などなかった。

 

原作に於いては、子供たちが何とか敵の男たちを撒きながら撤退し、そこに合流した老人。リッテルの補給を受けともに戦うことになる。彼が持ち込んだ子供たちの武器や、彼自身の力量によって瞬く間に敵は一掃され、追い払うのが正規のストーリーだった。

 

 

しかし、この世界では違う。

 

 

まず、第一にリッテルが旧墓地に到着するのが早すぎた。

 

本来旧墓地の方で何かが起きていることを察知した彼が、急いで武器を片手に馬にまたがって現地に到着するのだが、この世界において彼は無手で、徒歩でこの場に到着してしまった。それもそうである、ただ約束を忘れた孫を叱りに行くのに武器など必要ないし、他の子供たちもいるのに馬に乗って威圧する必要もない。

 

しかも昨今この村の周辺は異常なほどに安定している。獣は全く降りてこないし、盗賊は誰一人周囲に存在しない。最初は領主であるリッテルも『何か大きな問題の前触れではないか』と警戒していたが、本当に何も起こらなかった。いくら調査しようにも何も残っておらず、盗賊が隠れ住みそうな開けた場所も、洞窟にも何一つ痕跡が残っていなかった。

 

村に神の声を聴ける子供が出てきたこともあり、神の恩恵であると判断した彼は完全に油断してしまっていたのである。その神の声を聴ける(勘違い)少女が『これまで盗賊の死体とか放置してたけど、ちゃんと処理した方がよくね?』と思い始め焼却処分の後に痕跡を全て回収しているなど考えもしなかったのだ。

 

 

そのため、彼は完全に油断したままこの場を訪れてしまった。

 

 

第二に、フアナが冷静さを欠いたことである。

 

原作であれば冷静な思考をもって慌てふためく子供たちを正気に戻したり、その身に宿る修練し始めたばかりの魔法を使って敵を火だるまにしたり、罠に嵌めたりと活躍する彼女であったが、それは庇護する対象がいたためである。原作のか弱く守らなければいけない友がいたからこそ、彼女は頑張れたのだ。

 

作中のフアナも恐慌状態に陥りそうだったが、自分よりもひどい状態であるティアラを見て正気に戻り『自分がしっかりしなければ』と原作では踏みとどまることが出来た。“だが”、この場にティアラはいない。原作よりもレベリングをしたことで強くなった彼女は、いないのだ。

 

しかも運の悪いことに、自分たちがこの場所に移動するときに使った道を通って、敵たちはこの旧墓地へ侵入してきた。

 

想像は、より悪い方に転がる。ティアラは、『あとから来る』と言っていた。だが来たのは、彼女ではなく武装した男たち。フアナの知る彼女は、アユティナ神の信者として力を得た少女ではなく、体が自分よりも弱いけれど物知りでとても話の合う親友。

 

どこをどう考えても彼女が男たち相手に生き残れるなど考えられなかった。

 

 

故に、彼女の精彩を欠き、本来ならば発動できたはずの魔術を一つも扱うことが出来なかった。

 

原作のように数を減らすことも、後退しながら逃げ延びることも失敗してしまった。

 

 

 

最後に、敵側の陣容である。

 

本来チュートリアルとして配置された彼らは元々10にも満たない数でこの場を訪れるはずだった。そのうちの数人を罠に嵌め、魔法でやっつけることで数を減らし、リッテルが到着して本格的に戦闘が始まるころには5人ほどまで数を減らしているはずだった。

 

しかしながらこの場にいる人数は、ソレよりも。いや元々配置されていたはずの数よりも多い。そして装備も原作において表示されていた装備よりも整っている。

 

それもそのはずである、何せこの辺りは盗賊や荒くれ者からすれば“死の土地”と呼ばれているのだから。

 

盗賊たちは基本愚かではあるが、そのすべてが愚かであるわけではない。それこそ何十人もの手下を抱え、町で活動する盗賊は例外に当たる。彼らは彼らなりの情報網を構築しており、どのあたりにどんな集団が活動しているのかをある程度だが把握していた。

 

しかしながら、このペブル村周辺は例外である。

 

大きな集団に所属している盗賊たちの一派がこのあたりを根城にしていたはずが、誰一人帰って来ない。何かあるのかと20人規模の盗賊団が調査に向かえば全員ロスト、送れば送るほど消えていく人員から、いつしかこの辺りは“死の土地”と呼ばれるようになり、まともな盗賊が近寄ることはなくなった。

 

まぁそれでも『あ、なんか空いてる! ここ根城にしよ~!』という愚か者が途切れることはなかったが。

 

何せよ、とあるスジではこのあたりの危険度は著名であり、この部隊を指揮する男もその情報を得ていた。そのため当初の予定よりも倍の数を編成し、装備もよりグレードを上げることで対策とした。

 

 

 

 

 

つまり、纏めると。

 

 

武器がねぇ! わりぃおれ死んだ。

魔法もねぇ! わりぃおれ死んだ。

敵増えてる! わりぃおれ死んだ。

 

 

ということである。

 

 

 

 

 

「(どぉぉぉぉしてぇぇええええええ!!!!!!!!!!!)」

 

 

 

さて問題です。旧墓地に到着した瞬間に、上記の光景を目に叩きつけられた一般アユティナ神信者(絶賛一名)の気持ちを答えよ。(配点10点)

 

 

 






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