TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第十一話 指☆ぽっきん!

 太陽が落ち、馬房の中はあっというまに暗くなっていく。

 今は冬が終わり春の少し手前という季節だそうだ。

 さすがにこの時間になると少し肌寒いな。

 アマリアがランタンに火を入れる。

 お互いの顔がなんとか見える程度には明るくなった。

 LEDライトに馴れている現代人からするとこんなの明かりのうちに入らないくらいだが。

 

「天使お姉ちゃん! お姉ちゃんにくっついてもよいかの?」

 

 リリーが甘えた声で言う。

 そっか、俺は今魔法少女だったな、別に幼女とくっついても犯罪では……ない、よな?

 

「ああ、いいぞ」

「えへへー」

 

 七歳のこどもだ、甘えたいさかりだろう。

 俺にぴったりよりそってくるリリー。

 

「天使お姉ちゃんはいい匂いがするのじゃー、えへへ」

 

 そっか、俺はいい匂いがするのか。

 リリーだってこども特有の幸せな香りがする。ふわふわの銀髪が俺の肌を優しくくすぐった。

 わらのベッドにくるまって、俺たちはぐっすりと一日の疲れをとる、はずだったのだが。

 

「おほほほほ! リリエル様、いらっしゃるかしら」

 

 ランタンを持ったココがやってきた。

 リリエルとはリリーの偽名だ。

 

「あら……どうしましたか」

 

 俺たちの護衛も兼ねているアマリアが少し警戒したようすで尋ねる。

 

「おほほほ! 本日もう夜も更けましたし、ここでお休みになるのですね」

「そうですが」

「いくら安いからと言って馬小屋で寝泊まりするなど令嬢のすることではございませんことよ。馬小屋で寝るなど、馬と同じ扱いされてるのですわ。野宿の方がましでございましてよ? 優しい私がいいことを教えて差し上げますわ。村の中心に教会がございます。今からでもそちらに行っていくばくかのお金を払うことになりますが礼拝所のすみっこでも借りてそこでお泊りになるといいですわ」

「……なにを言っているのですか? あなた自身もここで寝泊まりしてるのに……」

「おほほほほっ! なにをおっしゃってるのかしら、私はきちんとお屋敷で寝泊まりしていますわよ。それよりあなたがたでございますことよ。はやく、はやくここを出て教会へおいきなさいませ」

 

 なんだろう、こいつ、俺たちを追い出したいのか?

 でもその表情はお嬢様言葉を維持しつつもその表情はちょっとこわばっている。

 なにを言いたいんだ?

 

「早く、早く、ここを出ていかないと……女性ばかりで旅なんて馬鹿なことを……」

 

 ココが言う。

 俺はそれでピンときた。

 彼女は、なにか危険を教えに来てくれたのだ。

 具体的にいうと、なんらかの襲撃。

 

「おい、リリー、アマリア、この子のいう通り、教会へ行こう。急ぐぞ」

 

 しかし、もう遅かった。

 暗闇の向こうから、男が5人ほどやってきたのだ。

 中にはひげ面の宿屋の主人もいる。片手にはムチ。

 ほかの四人もそれぞれ体格がいい男で、手には棒やら縄を持っている。

 

「ん? お、メスネコじゃねえか」

 

 ココを見て、男の中の一人が言う。

 金髪の猫耳少女はキッと男たちの前に立ちふさがって言った。

 

「もうおやめなさい! 宿の客人を襲って魔族に売るなど……! 人として恥ずかしくありませんの!?」

「ははは、護衛もなしに女三人でこんな田舎の宿に泊まるんだ、逆にさらってやらなきゃ失礼ってもんだろ、なあ?」

 

 宿屋の主人の言葉に、ほかの男たちも下卑た笑いとともに「そうだそうだ」と言う。

 

「お前もなあ……獣人だから魔族には高く売れないし、そんなんだから客もとれねえし、魔術も使えないから奴隷としての働きも悪い、その上俺たちの仕事の邪魔までするようになるんなら、安くてもいいさ、魔族に売っちまうことにするぜ」

「おほほほほほ! このライラネック家の末娘、ココ・ライラネックに……」

「なあにがライラネック家だ、この妄想ネコが!」

 

 主人は持っていたムチを振りかぶる。

 それと同時にムチが赤く発光した。

 なにかの魔術か?

 ビシッ! 

 ムチがうねってココの腕に巻き付く。

 と、その舞効かれた部分がジュウッ! と音を立てて焦げた。

 肉の焼ける嫌な臭いが漂う。

 

「へへ、魔族どもは人間を焼いて食うからな。多少傷つけても大丈夫さ。……おっと、お姫様方。お前らは俺たちで楽しませてもらってから魔族に売るからな、拷問されたくなかったらおとなしくしてろ、楽に死なせてやるからな。それともそこのガキのお姫様が拷問されるところを見たいか?」

 

 宿屋の主人はすごみのある笑みで俺たちに言った。

 

「ひいぃぃっ! こ、こわいのじゃ……」

 

 まだ七歳のリリーはアマリアの後ろに隠れる。

 

「へへへ、そこの姉ちゃん二人はかなりの美人だからな、下の方も美人か確かめてやるぜ……」

「おやめなさい!」

 猫耳娘のココが宿屋の主人にすがりつく。

 

「そんなことをしたらいずれ神様のお怒りに触れますわよ! 聖典にあるとおり、指を折られて罰せられるのです! いい加減おやめなさい!」

「うるせえ、妄想ネコが!」

 

 宿屋の主人がココの腹を思い切り蹴飛ばした。

 ココの身体がくの字に折れる。

 そして、

 

「ううっ……」

 

 とうめきながらその場に崩れ落ちた。

 あまりの痛みに息をするのも困難なのか、地面によだれを垂らしながら目を見開いて、

 

「ぇぐっ……ぇっ、……おえっ……」

 

 と嗚咽するココ。

 こんなやせっぽちの女の子になんてことしやがる、このクズ男!

 アマリアが駆け寄ってココの背中を撫でる。

 

「ひどいことをっ! ……天使様、私がやってしまってよろしいですか?」

「いや、ダメだ、俺がやる!」

 

 あまりにひどい!

 俺は怒りで脳みそがぐつぐつ沸き立っていた。

 こいつら、クズすぎる。

 アマリアの魔術にかかれば一撃なのかもしれないが、だけど、俺は男だ、男なんだ、俺が女の子を守らないでどうする!

 いや身体は女の子だけどさ……。

 いやいや今はどうでもいい!

 

「やってしまったなあ、おめえら……」

「あ? なに言ってんだ、女だけでなにができる? こっちは三人も魔術が使える人間が揃ってるし、あとの二人は都で兵士をやっていた剣士だ、俺たちだって相手の魔力の大きさくらいはわかるんだぜ、そこのピンク髪はゼロ、そっちの黒髪も魔力ゼロだ。そっちのチビは多少あるみたいだがガキだしな、俺たちには絶対に勝てない」

 

 天才と称されたという元宮廷魔術師のアマリアは普段は自分の魔力を隠しているらしい。

 そして俺はこの世界の魔術とは違う理で戦う魔法少女。

 さらに言うなら、俺とアマリアは見た目普通の女性の恰好をしているから、この男たちがあなどるのも無理はなかった。

 

「リリー、ちょっと後ろにさがっていろ」

「はいなのじゃー!」

 

 俺は男たちの前に出る。

 

「なんだ、てめえ、手足を切り取って犯してやるぞ?」

 

 男たちのうちの一人が剣を抜いて俺にむかって構えた。

 

「俺の名前をおしえてやるさ。俺は、俺は……」

 

 腰に下げたレインボークリスタルロッドを取り出し、空に掲げ、ボタンを押す。

 そして俺は叫んだ。

 

「レインボースパークチェーーーンジ!!」

 

 ズン♪ ズン♪ ズン♪

 とどこからか重低音のバスドラムがリズムを刻むのが聞こえてくる。

 すこし遅れてポップなメロディー。

 

「な、なんだ……?」

 

 男たちは剣やムチを構えたまま、俺の変身を硬直したように見つめている。

 俺の身体がふわっと浮いた。

 

「勇気がはじける♪ かがやく心が♬ あなたの世界をきれいにするよ♪」

 

 メロディーに合わせて歌いながら変身する俺。

 赤茶色だった俺のセミロングの髪の毛がぶわっと伸びてピンク色のツインテールになる。

 ピンク色の戦闘ドレス、スカートは七つの虹色。

 足元には魔法陣、背中には幾何学模様のポップな水色の背景。

 

「平和でピースな雨上がり! 魔法少女、ミスティレインボー!」

 

 シャキーン、という効果音。

 あっけにとられてそれを眺めている男たち、それに猫耳のココ。

 

「な、な、なんだこれ……」

「みたかー! 天使様はの、天使様なのじゃー! 悪いやつら天使様のおしおきを受けるのじゃ!」

 

 ココが俺を凝視している。

 

「て、天使様……? えーと、ファライルの花のような色の髪の毛……。ヴィオレッタ蝶のような美しい虹色のスカート……青空のような色の澄み切った瞳……そして天使は神聖なる音楽とともに地上に降り立つであろう……」

 

 金髪の猫耳娘の瞳がキラッと輝いた。

 

「あ、あ、あ、あ、……本当に、本当に……? 天使様……?」

「そうなのです、天使様ですよ」

 

 アマリアがそう言う。 

 と、突然、ココはさっきまで呼吸もできなかったのに、すっくと立ちあがると、その場でピョン、と飛び跳ねた。

 目を見開き、頬っぺたを真っ赤に上気させ、呼吸を荒くして、

 

「きた、きた、きた、ほら、来ると言ってたのに、きた、きた、きた、ほら、ほら、ほらね……」

 

 ココはピョンピョンと飛び跳ね続ける。

 そのたびに粗末なスカートが空気をはらみ、パラシュートのように膨らんできれいな太ももが見えた。

 

「お、おい、どうしたんだ……?」

 

 俺が声をかけると、

 

「う、ううーーーー!」

 

 今度は顔を覆って大粒の涙をボロボロと流し始める。

 

「ざまぁ見ろですわ、ざまぁ見ろですわ、私を馬鹿にしたやつら、ざまぁみろですわ……。ほら、きてくださったじゃありませんの、神様は……神様はいたのですわ……」

 

 そしてココはパッと顔を上げると、そこにはもう涙はなく、満面の笑顔。

 剣を構えている男を指さすココ。

 

「お覚悟はよろしくて!? 神様の! 神様の! 神様の遣わした天使様のバチがあたりますわよ! 聖典に書いてありますもの、指が折れるだろう、って書いてありますもの‼ あなたの指も折れますわよ!」

 

 そして金髪とスカートを揺らしてその場で大きくジャンプして大声で叫んだ。

 

「そぉれっ! 指☆! ぽっきん☆!」

 

 地面に着地する瞬間にココは男をビシィッ!と指さす。

 ポキィッ! といい音がした。

 

「いてええええ!」 

 

 男が剣を取り落とす。剣はカランカラン、と高い金属音とともに地面に転がる。

 

「な、なんだこりゃあ!? い、いてえ……」

 

 見ると、男の右の人差し指が、曲がってはいけない方向に曲がっている。

 

「すごいのじゃー! これも天使様の奇跡なのじゃ?」

 

 リリーが聞くが、いや、え、待って、俺まだなにもしてないぞ?

 

     ★☆★

 

聖典第三部第二章

 聖者クロエは民衆に向かってこう話した。

 

「神は、悪辣なものを決して許さぬ。神は本質を見抜き、うわべの善良さにはまどわされない。美しい花の姿をしていても、神はその言葉、葉と根がなすことを見極める。そして世の中に害なすものとわかったときは、その花を指折るであろう」

 

 ※注釈 指折るとはタルベカラン語において指で折る、の慣用句であり、指を折る、の意ではない。

 

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