「助けに行く……?」
アマリアが眉をひそめた。
「私たちの目的としましては、リリー様を無事西のカラカウム王国へ送り届けること……。余計な回り道は……」
「おほほほほほっ! ぜひお願いしたいですわ! 天使様がいらっしゃればあっというまですわっ!」
ココがアマリアを制するようにそう言った。さらにリリーも、
「アマリアー、天使様は天使様だからわしのためだけには動かないのじゃー。天使様だから心配ないのじゃ、天使様のいう通りにするのじゃ!」
「リリー様がそういうのであれば……」
アマリアがしぶしぶ認める。
宗教とか信仰の力って強いからな。
さて、魔獣狩りなんて危険なことに7歳のリリーを連れて行くわけにもいかない。
とはいえ、王女殿下を一人でおいていくこともできない。
「じゃあアマリア、リリーを守ってここで留守番していてくれ。俺が一人でさくっと行って助けてくる」
「一人で……? それはさすがに天使様でも危険では……?」
「おほほほほ! 私がいますわ! 天使様は道がお分かりになりますか?」
「いや、わからん……」
「では私がご案内いたしますわ! 大丈夫ですわ、天使様と奇跡の力があれば魔獣どもなどワンパンですわぁ~」
アマリアが俺のそばにやってきて、こっそりと耳打ちした。
「天使様、あの獣人の女……かなり、やばいです」
「まあやばいのはみりゃわかるが」
「そうではなく。私は訓練を受けた魔術師ですからわかるのですが、彼女、魔力が強すぎます」
「強すぎる?」
「はい。基本的に魔力をもって生まれ、魔術の才能を持ったものというのは二十人に一人くらいの割合なのです。そして、例えばの話ですが、そんじょそこらの魔術師の力を1とすれば私は10はあります。もちろん、本来数字で表すことのできるものではないのですが、私は並みの魔術師の十倍の魔力を持っています」
「さすが若き天才宮廷魔術師だな」
「で、あの女。私を10とすると……300くらいありますよ」
「はあ!?」
おもわずでかい声が出た。
「魔力というのは幼いころから訓練しないとその力を発現させることができず、また訓練によってのみコントロールできるのです。彼女は奴隷として育てられたのでしょうから当然そんな訓練はうけていないはず……。魔力の発現も、魔術の使用も不可能なはずなのに、さきほど見せたあの指を折る魔術……間違いなく彼女の力です」
「つまり?」
「天使様への信仰……思い込みの力が、それをなしえたのでしょう。そもそも聖典には指を折る、などとは書いてないですが、なにかを勘違いしているようですね。彼女の力は使い方を誤ると一国が傾くおそれがあるほど強いものです。しかし、味方にしてしまえばこれほど心強いものもない……天使様、どうか花よりももろくか弱きあの乙女を、正しき方向にお導きください……」
★
宿屋の主人たちをしばりあげ、ココが信頼できるといっていた教会の聖職者に引き渡した。
「まさか、本当に天使様でいらっしゃいますか……? 聖典の通りのお姿をしておられますが……」
青い法衣に身を包んだ壮年の聖職者は俺を見ておそるおそる尋ねる。
聞かれてしまったら答えるしかない!
「心の架け橋! 平和でピースな雨上がり! 魔法少女ミスティレインボー!」
シャキーン!
「神聖なる音楽とともに……おお、本当に天使様であらせられるのですね……!」
ひざまずいて俺のブーツにおでこをあてる聖職者。
うむ、その体勢から上を見るなよ、パンツが見えちゃうかもしれんからな。
「じゃあ、こいつらを頼む。女性の旅人を魔獣に売っていたんだ。あと、信頼できる剣士がいたら2~3人貸してくれ。山に入って魔獣をやっつけてきてやる」
「おお……! おお……! 天使様、ありがたいことです、ありがたいことです。しかし今日はもう日も暮れて真っ暗です、明日にするとよいでしょう。お食事は済まされましたか?」
「ああ、飯は食った」
「ではお風呂は?」
「風呂は入ってないな」
「では本日はご入浴されてゆっくりとおやすみくださいませ……」
★
そんなわけで湯伽の時間だ‼️
「おほほほほほほほっ! 天使様、私がきれいにして差し上げますわっ!」
……俺ってば、一人でゆっくり入浴することってもうできないんだろうか?
今日はココに体中をぬるぬると洗われちゃった。
っていうかさー、デリケートな部分は自分で洗いたいんだけどなー。
それはともかく。
浴室で見たココの裸体を見た俺は、なんともいえない気持ちになった。
やせぎすで体中に傷跡があったからだ。
新しい傷から古い傷まで、痛々しい……。
「お前、もっといっぱい食えよ……あと、薬もらっておくようにアマリアに言ったから、あとで塗っとけ」
「おほほほほっ! 傷薬はいただきますが、たくさん食べるのはご遠慮したいですわ! 乙女は太りたくないものなのですわ!」
「そうはいってもなあ。食わないと成長しないぞ、いろいろと。お前、今いくつなの?」
「14歳なのですわぁ」
「まだまにあうからいっぱいくえ」
これからは食い物を口におしこんでやることにしよう。
そんなわけで今日はゆっくり寝ようと思ったのに。
午前二時くらいだろうか、そんな深夜に。
この村はオークたちの襲撃を受けたのだった。