TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第十四話 ないよりまし

 オーク。

 イノシシのような鼻と牙を持ち、茶色い剛毛で覆われた身体、人間をはるかに凌駕する大きさの体躯。 

 それなりの知能を持った魔族で、コミュニケーションはとれるが獣人族とは違い人間との交配は全く不可能である別種だ。

 その本能として獣人を含む人間を餌として認識し、人類の歴史上不倶戴天の天敵であり続けたという。

そいつらの群れが俺達のいる村を深夜、襲撃してきたのだ。

 

 まず最初に襲われたのは宿屋だった。

 こん棒で木造の建物を破壊し、火をつけている。

 

「ヤクソクノオンナハ ドコダ」

 

 そう叫んでいるらしい。

 教会の中で縛り上げられていた宿屋の主人に話を聞く。

 

「す、すまん、あいつらには前払いで女十人分の鉱石をもらっていたんだ……。だがまだ三人しか渡せていなくて……」

 

 俺は握ったこぶしで主人の頭をゴチンと小突いた。

 

「くそ、行くぞ! アマリア、リリーを守っていてくれ!」

 

 俺は教会を飛び出し、宿屋にダッシュする。

 

「おほほほほ! 私もいきますわ!」

 

 ココも俺についてこようとする。

 

「いや、お前も残っていろよ、危ないぞ」

 

 膨大な魔力を持っている上にその自覚がなく、魔術の訓練もしていない14歳の少女。

 爆弾みたいに危険な存在だし、そもそも戦闘の場所にこんな女の子を連れていく気にもならんしね。

 万が一この子になにかあったらそれはそれですごくいやだからな。

 

「危なくないですわ! 私はたしかになんの魔術の力も持たない貴族の娘にすぎませんが、天使様がいらっしゃるのですもの、天使様が奇跡の力で全部解決しますものね!? 私も見たいのですわ、天使様の奇跡を!」

「いやいいから残っておけ」

「そんなぁ! 私も、私も……」

「残れ!」

 

 叫んで俺は村の中を走っていった。

 宿屋の方で炎と煙があがっている。

 村人たちが悲鳴をあげて俺たちと反対方向へ走って逃げていく。

 宿屋には十匹ほどのオークがいた。

 簡易な衣服を着た人型をしているが、肌の色は緑色で筋骨隆々の身体、顔は豚のような鼻と大きな牙、それに細長いしっぽ。

 見るだけでちょっとビビるほどのでかさだ、身長でいうと2.5メートルはありそう。

 そいつらはすでに近くの民家も襲っていたのか、数人の村の若い女たちを集めて地べたに座らせている。

 

「マタ、オンナガキタ。オマエモ、ツレテイッテ クウ」

 

 俺を見てそういうオーク。

 しゃがれて低い声、おぞましさを感じる。

 女とは誰のことかと一瞬思ったが、そうか、俺は今おっさんではなく、魔法少女だった。

 とりあえず名乗りだ。

 

「心の架け橋! 平和でピースな雨上がり! 魔法少女ミスティレインボー!」

 

 シャキーン。

 

「ナンダオマエハ……」

 

 驚く様子のオークたち。

 そのオークの顔をまっすぐ見て、俺は言った。

 

「おい、まず、いっとくが俺は強い。お前ら魔族などあっというまにやっつけちゃうぞ。その女の子を離してやれ。昨日宿屋の主人が人間の女を売った相手ってのもお前らか? そいつらも全員解放しろ。でなければ――」

 

 俺が喋り終わる前に、オークの中の一匹がこん棒を振りかざして俺に襲い掛かってきた。

 話し合いで解決する気はまったくないようだな。

 仕方がない、こぶしでわからせてやるしかないようだ。

 俺はオークが振り下ろしてくるこん棒をひらりとかわしてふくらはぎにカーフキックを叩き込む。

 

「ぐゎう!」

 

 痛みで膝をつくオーク、そいつの身体を駆け上がっていき、

 

「てやぁぁぁぁぁっ」

 

 その顔にも蹴りを叩き込んでやった。

 するとオークはそのまま気絶して倒れこむ。

 

「コロス」

 

 数匹のオークが俺に向かってくる。

 そいつらの攻撃をひらりひらりと舞うようによける俺。

 すごいすごい、最近は座った状態から立ち上がるのもおっくうだったおっさんの俺なのに、魔法少女の俺になったら身体が軽い軽い。

 数匹のオーク相手に、俺はこぶしと蹴りを叩き込んでいく。

 こん棒をさっとかわし、ふところに入ってパンチの連打。

 

「グググゥ……」

 

 とうめいて気絶するオーク。

 そして俺は大きくジャンプ、すげえ、これ十メートルは跳んでるぞ!? 魔法少女の跳躍力ってのはやべーな。

 空中でいったんピタッととまり、

 

「ハァァァァァーーーーーーッ!」

 

 と叫んで何もないはずの空間を蹴って両足で華麗な頭突き。

 くらったオークはそのまま昏倒。

 うん、このままいけば肉弾戦だけでも圧倒できるな。

 と、突然。

 

「キャーッ!」

 

 という女の悲鳴が聞こえた。

 見ると、一匹のオークがケモミミしっぽの奴隷少女、ココの腕を捕まえている。

 おいおい、なんでここにいるんだよ、ついてくるなと言ったのに!

 

「ばかっ、なんで来た!?」

「だってだって天使様のご活躍をみたかったのですわ! 天使様、この汚いオークをやっつけてほしいですわ!」

 

 そうは言われても俺は俺でこっちの数匹のオークを相手にしている最中で――。

 

「コウフクシロ。サモナクバコノオンナヲコロス」

 

 しゃがれた声でオークがそう言った。

 くそ、どうする?

 

「離しなさい! さもなくば天使様の奇跡があなたの指をおりますわよ!」

「ナニヲイッテ……」

「さあ、見なさい! 天使様の奇跡を! そぉれ、指☆ぽっきん☆!! ですわぁ!!」

 

 とたんにオークの指がバキバキバキィッ! という音ともに関節とは逆方向に折れ曲がった。

 

「グワォォォォーーーッ!」

 

 痛みに叫び声をあげるオーク、

 

「さすがですわぁ天使様! 素敵な奇跡ですわぁ!」

 

 ……いや、俺何もしていないんだけど。

 それ、お前がやったんだけど。

 俺のせいにしないでほしいなあ……。

 

「指☆ぽっきん☆! 指☆ぽっきん☆! 指☆ぽっきん!」

 

 連発するココのケモ耳としっぽがそのたびに揺れる、オークは手の指も足の指もぼきぼきと折られ、ついでに心も折られたのかその場で頭を覆ってうずくまり、

 

「ヤメロ……ヤメロ……ユルシテクレ……」

 

 と命乞いを始める。

 

「そぉれ☆ 指……」

「もうやめてやれ、やめるぞ!」

 

 俺がそう声をかけると、ココは残念そうに、

 

「そうですか、天使様、もうおやめになるのですね……」

 

 いやだから俺がやったふうに言うなよ、まじでそう信じ込んでいるのかもしれんが。

 と、そこにひときわ大きいオークがやってきた。

 身長3メートルはあるだろうか、ほかのオークとは違って二本の鋭い角が生えている。

 

「ひぃぃぃっ」

 

 とらわれていたほかの女の子たちが悲鳴を上げる。

 

「オークキングですわ! オークどものボスですわ!」

 

 ココが厳しい声で言った。

 ふーん、こいつがボスか。

 

「おい、お前がこいつらのリーダーか? 女の子たちをみんな解放しろ。昨日捕らえた女の子もだ。そうしたら許してやる」

「バカバカシイ。オマエモヒキチギッテ、ナマデクッテヤルゾ」

 

 オークキングはそう言って、俺たちにこん棒で襲いかかろうとする。

 俺はそれを地面を蹴って飛び跳ね避ける。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そのまま身体ごとつっこんでパンチ攻撃をしかけるが、オークキングは腕をクロスしてそれを受けきった。

 さすがボスだな、強い。

 ココがオークキングを指さし、

 

「あなたの指も折れますわよ! そぉれ、指☆ぽっきん☆!」

 

 と叫んでその場でジャンプ、着地とともにオークキングの右手の指がボキィッと折れた。

 が、オークキングはひるむこともなくココをにらむと、持っていたこん棒――長さ二メートルはある巨大なこん棒だ――を、ココに向かってぶん投げた。

 

「よけろーーーーっ!」

 

 俺は叫ぶ、ココはその声に反応して横っ飛びに避けたが、完全にはかわしそこねてこん棒はココの足にぶつかる。

 

「きゃうっ」

 

 悲痛な声とともに、ココの足が折れ曲がった。

 

「あ、あ、あ、……うう…………」

 

 ココはそのまま気を失ってしまう。

 くそ、女の子になんてことしやがる!

 俺はオークキングに向き直った。

 

「ゆるさんぞ! 食らえ! ラブリーハートスパーク! 私の心の輝きでぇ~!」

 

 俺の足下にポップな魔方陣が描かれ、バスドラムが刻むリズムにのって明るい音楽が鳴り響く。

 

「あなたを救っちゃう! レインボーピュアシャワー!!」

 

 シュピーンという音とともに光がオークキングを包む。

 俺は決めポーズをとり、

 

「ピュアピュアジャスティース!」

 

 と叫んだ。

 同時に辺りを暖かい光が照らした。

 そしてその光がゆっくりと消え去ったあとには……。

 

「ぶひっぶひっ……」

 

 そこにいたのは、ちっちゃなミニブタだった。

 ええと、女の子の身体の俺でも抱きかかえられそうな大きさの、ミニブタ。

 

「ふんす、ふんす……」

 

 そこらの地面をかぎ回っている。

 

「見たかっ! これが俺の力だ!」

 

 そう俺が叫ぶと、おそれおののいたのか、ほかのオークどももはその場に膝をつき、こん棒をおいて両手をあげた。

 俺の、俺たちの勝利だ。

 いや、今は。

 そんなことより、ココはどうなった?

 俺はココに駆け寄って声をかける。

 

「おい、ココ、大丈夫か?」

 

 ココは失神していて答えない。

 見ると、ココの左足はすねのところで変な方向に折れ曲がり、開いた傷口からは骨が見える。

 開放骨折ってやつだ。

 くそ、なんとかならないのか?

 俺は元の世界ではただの介護職だったから、医療の知識なんてなにもない。

 どうしたらいいかわからん。

 ふと見ると、俺たちの周りにオークにとらわれていた4~5人の女性が来ていた。

 オークどもにさらわれた村娘たちだ。

 脅されて集められていたが、縛られていたわけじゃないので、俺の方へ逃げてきたのだ。

 

「おい、この村には医者はいるか?」

 

 俺は聞くが、

 

「いいえ、こんな小さな村にお医者様なんて……」

 

 そうだ、この世界は異世界だった、なら治癒魔術とかがあるはずだ。

 

「治癒の魔術使える人とかいないのか?」

 

 水を吐いたり指を折ったりする魔術が使えるやつがいるんだから、治癒の魔術だって……。

 だが、その答えは俺の望んだものではなかった。

 

「いいえ、治癒の魔術なんて使える方は国で数人しかいません……もちろんこの村にはいません」

「国で数人!? なんで?」

「なんでといわれましても、治癒の魔術を使えるものはめったにいないのは常識じゃないですか……?」

 

 何でこんなことも知らないの? みたいな顔で俺を見る村娘。

 常識といわれても俺はこの世界にきたばっかりで常識を知らんのだ。

 くそ、じゃあどうしたらいいんだ?

 

「ピュイン。魔法少女は治癒の魔法が使えますが?」

 

 いきなりレインボークリスタルロッドがしゃべった。

 

「まじか? じゃあ今すぐ使うぞ」

「ピュイン。チャージまであと6分45秒」

 

 そんな時間さえ惜しいな。

 

「う……ううう……」

 

 きを失っていても痛いのか、ココがうめく。

 俺はそんなココの手を握ってやる。

 

「がんばれ、もう少し我慢しろ、俺が治してやるぞ」

「うう……天使様……」

 

 

 そこに、おそるおそるといった感じで村娘が俺に声をかける。

「あの……あなた様は本当に聖典にいうところの天使様ですか?」

「知らんが、違う世界から神様に呼ばれてこっちの世界へ来たのは間違いないぞ」

「やはり……天使様……! あの神々しい光と音楽は間違いありません……!」

 

 村娘たちがみなその場で膝をつき、両手を合わせて握り、頭を垂れる。

 

「ピュイン! あと1分8秒」

 

 あれ?

 さっきよりも短くなってない?

 

「ピュイン! 魔法少女は応援する心を集めることでパワーアップできます。特に、幼い少女の応援が一番効果がありますが、少女の応援でも可」

 

 応援っていうよりは信仰されてる気がするけどな。

 幼女向けアニメは劇場版だとリアル応援パートがあったりするからなー。

 

「……おっさんの応援は?」

 

 一応聞いてみる。

 

「ピュイン! ないよりまし」

「あ、そう……」

 

 なんか悲しい……。

 

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