「レインボーピュアピュアヒーリング!」
俺がレインボークリスタルロッドを振り下ろすと、ココの身体がやわらかいマシュマロみたいな光に包まれた。
ほわわーんという音ともに折れた足の部分が逆再生みたいにめきょめきょと元通りになっていく。
うん、ちょっとグロい……。
真っ青だったココの顔色もどんどんよくなっていった。
パチリ、とココは目を覚まし、がばっと起き上がって立ち上がる。
折れてたはずの自分の左足が治っているのを確かめると、俺のスカートにすがりついて俺のブーツにちゅっちゅとキスをし始めた。
「天使様! 天使様! ああ、ああ、天使様、ありがとうございますわ、こんな私などのために奇跡をお使いになってくださってありがたいですわ、この感謝の気持ち、この敬愛の気持ち、どう表現すればわからないくらいですわ!」
俺のブーツにキスをし続けるココ、ブーツだけならともかく、生足のすねとかはやめてくれ、くすぐったい。
「ココ、立ってみろ、もう痛みはないか?」
「ええ、ほら、見てください、元通りですわ! ああ、ああ、天使様、天使様、すてき……」
うるうるとした瞳で俺を見るココ、ちなみに身長はココのが少し高いので俺を見下ろす形になるんだが、それをよしとしなかったのかココはひざまずいて俺を見上げている。
ココの碧い瞳が俺を捕らえた。ケモ耳がぴょこぴょこ動き、縦ロールの金髪が揺れる。
猫みたいなここのしっぽがゆーらゆらと揺れている。
ココは俺の手を両手でしっかりつかむと、
「ああ、もう、がまんできませんわ、天使様、天使様、私がこれまでどれだけ……どれだけの……恥辱と屈辱と苦しみと痛みに満ちた……でも、天使様が、天使様がいつか私をお救いになるためにやってくるんだとそればかりを……頼りにして……生きてきたのですわ、ああ、ああ、ああ……天使様……敬愛しております、愛しております、私のすべてをあなたさまに捧げます、私の苦難の人生はこうしてあなた様にお会いするためにあったのですわぁ」
そういって俺の手の甲にほっぺたをすりつけ口づけをするココ。
まあ、ココはいままで奴隷としてこきつかわれてきたんだ。
それに、全身のあの傷……。
かなりつらい人生を送ってきたのは間違いないだろう。
そして頭の片隅でそんな都合のいいことは起こらないとわかっていながらも天使信仰をつづけ、ついに俺と出会ったのだ。
俺はココの金色の髪の毛をそっとなでた。
「ココ、これからは俺とともに来い。俺の部下となり、俺を助け、みなを助け、この世界からお前みたいなつらい目にあう人間を少しでも減らしていくんだ」
「はい……はい……っ! 天使様、私は天使様に生涯つかえます……」
俺の手をやさしく両手でつかんでほおずりするココの顔はまさに幸せそのものだった。
そして、ココだけではない、オークに捕まっていた村娘たちも俺にむかってひざまずき祈りを捧げている。
俺は未だに両手をあげて降伏のポーズをとっているオークに言った。
「おい、昨日渡された女の子たちも連れてこい。さもなければお前らも全員ただの豚にしてやるぞ、ミニブタに。豚の丸焼きはうまいだろうなあ」
オークどもはボスを失い、今後人間には手を出さないと誓って山に帰っていった。
もちろん、さらった女性たちはみな返してもらった。
「しょせん魔族です。いずれ人間たちに害をなすでしょう。しかし、しばらくの間は平和なはずです」
聖職者たる司祭はそう言った。
「天使様、ここにいるみなのものにどうか祝福を」
俺は教会の豪華な椅子に座る。
村の人々がつぎつぎとやってきては俺のブーツへ額をつけていく。
「どうぞ、祝福を」
と司祭に言われるが、どうしたらいいんだ?
「私が司祭として祝福を与えるときは杖にてそのものの頭に触れます。天使様もその聖なる杖にて民たちに祝福を」
ふーん、そういう風習なら従うけどさ。
俺は俺のブーツに額をつける人々の頭を、レインボークリスタルロッドで軽くちょん、と触れてやる。
「ああ、天使様ありがとうございます……!」
するとみな涙を流して感謝していく。
なんだろうな、俺は確かに聖典の通り、別の世からこの世に神様から転移させられてきた存在ではあるけれど、ほんとに俺が天使でいいんだろうか?
っていうか、そもそも魔法少女ってなんだ?
そうだ、それを聞いてみよう。
祝福の儀式がおわったあと、レインボークリスタルロッドに尋ねてみる。
「ピュイン。それに関する情報を私は持っていません」
「そうか。ほかに俺の仲間はいるのか?」
「ピュイン。それに関する情報を私は持っていません」
肝心なことを知らないな、こいつ。
「お前はなんなの? コンピューター? AIみたいなもんか」
「ピュイン。人工でつくられた知能ですのでAIという認識で間違いありません」
「なんでおれが魔法少女に選ばれたんだ?」
「ピュイン。不知です」
うーん、結局なんにもわからん。
とりあえずはリリーを助けて姉ちゃんのとこに送り届けてやる、ってのは決めたから、それを遂行してやろう。
と、そこに司祭がやってきた。
「天使様。やはり、天使様はこの世が悪なる支配者が悪政を行っているからこの世に顕現されたのですか?」
「うーん、特にそういうことは神様からは聞いてないけどなあ」
「いまこの国の政治を行っている王太子様のやり方は苛烈です。国王陛下がお元気だったころになされていた窮民救済の政策をほぼ廃止し、庶民の税をあげ、貴族の税を免除し、自分に意見するものはすべて粛正し、そのものに娘がいたらかどわかし、庶民の家でも見目よい娘がいたら二束三文で買いたたいて慰み者にしてその後部下に払い渡したり娼館に売るなど、本当にひどい話しかありません。私ども弱き民は声をあげることなどかないませんが、どうか、どうか、天使様、惨めな民衆たちをお救いください……」
「……この国を救うとかは約束できないけどな。できる範囲のことはやるさ」
「ありがとうございます……」
聖典第二部第一章
神は聖者クロエにこうおっしゃった。
「世に悪なる支配者が立ち、善民が苦しむときがくる。
善なるものはすべてを失い、悪なるものはすべてを奪う。
だがクロエよ、私は正しきものを決して見捨てはしないのである。
別の世で命を失いし者をこのうつしよに招き入れるだろう。
彼は人間でもあり神の祝福を受けた神聖なる存在でもある。
男性の姿でもあり女性の姿でもある。
その姿をたたえよ。
世が悪に満ちたそのとき、天使は神聖なる音楽とともに地上に降り立つであろう。ファライルの花のような色の髪の毛、ヴィオレッタ蝶のような美しい虹色のスカート、青空のような色の澄み切った瞳をしていてまばゆい光を発している。
彼であり彼女であるこの存在こそが私の遣わした奇跡の天使である。
天使は救うのだ。困難の中にいる高貴なる血筋の純潔なる乙女を。そしてその乙女を自らの手足として使うだろう。
天使の行いを信じなさい。
天使は部下とともに悪を滅し、新たなる王を据え、人々に光を与えるのである。」