TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第十六話 聖女の舞いを敬いなさい

 この国の王太子である、フェリックス・イシリラル・ジョン・ディバイナは、昨晩の事を思い出した。

 ベッドの隅で毛布をかぶって泣いていた女。初物はやはり固かったな、と思った。

 しかし、それがよい。

 泣きわめいて絶望の表情をする女を、無理やり抱くのは心地が良い。

 そしてそんな女たちを、さまざまな薬や魔術を使って、やがて性行為なしでは生きてはいけない心と身体に変えてやるのは、ほんとうに気分がいい。

 フェリックスは、一日に三度は女を抱く。

 相手は、ほとんどが粛清した貴族の娘だ。

 寄る辺をなくした女たち。

 昨日までは姫として蝶よ花よと育てられた女を、奴隷のようにあつかって犯す。

 なんという征服感。

 薬と魔術によって心も身体も開発されていき、どんどんとみっともないメスになっていく過程まで含んで、そしてそのメスが薬や魔術の副作用によって死ぬその瞬間までも、フェリックスは心の底から楽しんでいた。

 今日の夜はどの女を抱こうか。

 執務室で書類に裁可のサインを書きながらそんなことを考えていると。

 

「兄さん」

 

 自分と似て端正な顔立ちの男が一人、執務室を訪れた。

 

「ルーカスか」

 

 母を同じくするフェリックスの実弟、ルーカスだった。

 王位継承権第二位。

 王太子であるフェリックスにまともに意見できる数少ない人間の一人である。

 その弟の来訪に、フェリックスはため息をついた。

 

「今日はどうした?」

「兄さん、聞いたよ。……エレオノーラたちに……兵を差し向けたんだって?」

「ああ。あいつらは陛下の血を引いてはいるが、下賤な召使をやっていた母親の腹から生まれた。俺たちとは違う」

「腹違いとはいえ、僕たちの妹だよ?」

「ばかばかしい。一緒にするな。陛下と同じ黒い髪、黒い瞳を持っている俺たちだけが正当後継者だ。妾腹のあんなのに王位継承権を認めるなんて、陛下(ちちうえ)もご病気で心が弱ったんだな」

 

 フェリックスとルーカスの母は由緒正しい高級貴族出身の人物だった。

 エレオノーラとリリーの母のような、ただ顔がいいだけで陛下(ちちうえ)のお手付きになった女とは、まったく違う。

 あの女は、血筋が悪い。

 あの姉妹が王位を継ぐなんて考えられん。

 ただ、長らく病床に臥せっていた現王は、エレオノーラとリリーにも王位継承権を認めたのだった。

 実際はそれをもって王族身分とし、ある程度の生活を保証してやりたかっただけなのかもしれない。

 しかし、それが、現在王太子であり、摂政として実務を担っているフェリックスの怒りに火をつけた。

 料理人の家族を誘拐して脅迫し、一家の毒殺を試みたが、運悪く失敗してしまった。死んだのは母親だけだった。

 とはいえ、残った年端もいかぬ後ろ盾もない姉妹、いつでも殺せるはずだった。

 だがしかし、そう思ってのんびりしていたのが悪かった。

 一月後、若くして宮廷魔術師となった天才魔術師の手引きで、姉妹は後宮から魔術師の領地へ逃亡したのだ。

 一応フェリックスへの忠誠を誓う誓詞を差し出してはきたが、信用できるものではない。

 だから今度は兵を差し向けて殺してやろうと思ったのに。

 

「兄さん、どうやら失敗したらしいね」

「ああ、さっきその知らせがきた。あのゲロ女、厄介な奴だとは思ってたが……」

 

 若き天才魔術師、アマリア。

 あの騎士ごっこに興じる変人のところに身を寄せた妹姉妹は、フェリックスが派遣した軍からまんまと逃げおおせたらしい。

 どこかに潜伏しているのだろうが……。

 

「半分とはいえ血をわけたきょうだいじゃないか。もうこれ以上は深追いしないであげようよ。僕としては和解してほしいと思っている」

 

 ルーカスはそう言う。

 まったく、こいつは子供のころから生真面目でイイコちゃんだった。

 フェリックスがルーカスを自由にさせているのは、かわいい弟だから、ではなく、ルーカスの背後には教会がついているからだ。

 小さなころから大司教の後見を受けていたルーカスは、いまや教会勢力の代表面をしてやがる。

 父王が病に倒れている今、事実上この国の最高権力者となった王太子とはいえ、大司教や教会勢力を真正面から敵に回すのはまずい。

 だから、この実直な弟はこうしてフェリックスに意見をいえるのだ。

 こいつは堅物すぎる。

 弟の整った顔を見てフェリックスはもう一度ため息をつく。

 と、そこに、一羽の鳥が窓から飛び込んできた。

 

「伝書カルト……」

 

 ルーカスがつぶやく。

 この国では、空を飛ぶ鳥の魔獣カルトを飼いならして通信に使っているのだ。

 フェリックスは伝書カルトが足に着けている筒を外し、フタを取る。

 なかには手紙が入っていた。

 その内容を読んで、フェリックスはにたりと笑った。

 

「ふん、あいつら、レヴォリア村にいたという情報が入った。……それも、天使を名乗る詐欺師と一緒だと。はっはっは、馬鹿め、異端審問にかけてやる」

 

 フェリックスの言葉に、ルーカスは驚きの表情で言った。

 

「異端審問⁉ 兄さん、実の妹たちを異端審問にかけようってのかい?」

「天使を名乗る人物と一緒にいるらしいぞ。そういえばあいつらは天使派だったな。聖女派たるお前とて、見過ごせんだろ?」

「……事実関係をしっかり調べてからです。そんなただの噂をあてにして血を分けた妹たちを異端審問など……!」

 

 フェリックスは薄く笑って、

 

「真実がどうとかは関係ないさ。あの目障りな姉妹を始末できるもっともらしい理由があればそれでいい」

 

 目の前の弟の顔を見る。

 わが弟ながら、美しく清潔感のある風貌。

 背も高く、宮廷内の女性を中心にして人気もある。

 そして大司教の後ろ盾つきときた。

 こいつ自身には野望がない。

 そんなことは二十数年一緒に育ってきてわかっている。

 しかし、野望がなくとも、人望があるのだ。

 王位継承権第一位の王太子にとって、この弟がもっとも地位を脅かす位置にいる。

 フェリックスは見目好い弟としばらく見つめあった。

 

 ――今一番粛清しなければならないのは、こいつだ。

 

 そう思うのだが、大司教、ひいては教会を敵に回してしまっては国政運営がままならないことになってしまう。

 そんな兄の考えを知ってか知らずか、ルーカスは厳しい顔で、

 

「とにかく、確かに兄さんは王太子で摂政ではあるけれど、エレオノーラとリリーは僕の妹でもある。……いや、僕たちの妹だ。勝手になにかしないようにしてくれよ。まったく、天使とは……。北には聖女、西には天使か……」

「聖女? なんのことだ?」

「耳の早い兄さんにしては知らないのかい。北の町に聖女が現れたと騒ぎになりかけている。聖典にある通りの姿かたちをしていて奇跡をおこすらしい。天使を名乗るものも、聖女を名乗るものも、どちらもものすごい美しい少女だそうだよ」

 

 弟の言葉にフェリックスはピクリと眉を動かした。

 ほう。

 美少女か。

 自分を聖女や天使だと思い込んだ狂信者の女だろう。

 もしくは、本当にただの詐欺師かもな。

 しかし、美しいというのなら火あぶりで殺してしまうのももったいない。

 その身体《からだ》を俺が味わってから殺してもいいのではないか?

 聖女だろうが天使だろうが、全部俺のものにしてやる。

 俺の支配下において、なぶって、苦痛を与えて殺してやる。

 ははは、それが次期王として選ばれて生まれた俺の、当然の権利だろう?

 美しいというのなら、そういえばエレオノーラだってそうだ。

 ほとんど会話したこともないから妹とも思ったことがないが、……妹というものは、抱いてみるとどんな味がするだろう?

 フェリックスは自分の思い付きに思わず笑みが浮かんだ。

 ルーカスが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 どうせ殺すのだ、あいつも俺が抱いてから殺してやろう。

 さらにリリーはまだ七歳だったか?

 七歳!

 七歳の妹を……もし……俺が……。

 くっくっくっく。

 ショックで死んでしまうかもしれんな。

 おもしろい。

 兄の腕の中でメスになって死ぬ七歳の幼女はどんな声で断末魔の鳴き声をあげるのか?

 

「はっはっはっは」

「兄さん?」

「ルーカス、わかったよ。エレオノーラとリリーは殺さない。しかし、天使を名乗る異端者とともにいるとなると話は別だ。事の真相を調べなくてはならん。グルアラを派遣して連れてこさせよう」

「グルアラだって? 兄さんの親衛隊の、汚れ仕事専門の暗殺者……」

「ははは、悪いようにはしないさ、ここに連れてこさせるだけだ。それならいいだろう? きょうだいひとつのテーブルを囲んで晩さん会でもやろうじゃないか」

 

 実際は、俺が一方的に妹たちの身体をむさぼりつくす、俺のためだけの晩さん会だがな。

 楽しみで仕方がないぞ。

 しかし……。 

 

「聖典にある通りの聖女か」

 

 そして、執務室に飾られている花瓶に気づいて言う。

 

「ちょうどマライルの花が飾られていたな」

 

 その花は、鮮やかな黄金色(こがねいろ)にひとすじの赤がまじったような、美しい姿をみせていた。

 どんな女だろう。

 見目麗しい狂信者か、それとも金を求める詐欺師か。

 いずれにせよ、俺が抱き殺してやる。

 フェリックスは、それを想像して、凄みのある笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

聖典第五部第五章

 聖者クロエは神の声を聞いた。

 

「クロエよ、お前が憂いていることを私は知っている。

 無辜の民たちが苦しんでいる。

 クロエよ、私はそれを見ている。

 私は慈悲の心でもって遠き世からマライルの花を摘んでくるだろう。

 そしてそのつぼみをやさしく撫でるだろう。

 そのときマライルの花の蕾から聖女が生まれ、ひとびとのために舞いおどる。

 聖女の舞いを敬いなさい。

 聖女は神の意志とともにあるのだから」

 

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