俺たちがたどりついたのは、そこそこ大きな町だった。
人口数万人はおり、都市してはまずまずの大きさ。
広いメインストリートには人通りが多く、馬車も行き交っている。
「おお! おいしそうなケーキの店があるのじゃ?」
俺とアマリアを物欲しげな顔で見るリリー。
俺たちは苦笑して、
「わかったよ、宿を確保したら食べに行こう」
「やった! やった! うれしいのじゃ! やった!」
俺のスカートを持ってぴょんぴょん跳びはねはしゃぐリリー。
かわええなあ。
ケーキで大喜びする7歳の女の子を見て顔がだらしなくにへら~とならないおっさんはいないぞ、俺は今は少女だけど。
突然、騎馬の集団が、道をこちらへと走ってきた。
遠目に見ても、あまりガラがよくなさそうな奴らだ。
「アマリア、リリーを守るぞ」
リリーは王太子に追われている身だ、警戒してしすぎってことはないだろう。
俺はレインボークリスタルロッドを握りしめ、アマリアと一緒にリリーを守るように前に出た。
うかつだった、そしてそんなことは予想外だった。
さすがの俺もそんなことは想定していなかった。
王太子はリリーについて、いや、妹姉妹についてそこまで正確な情報をつかんでいなかったのだ。
どういうことかって?
つまり、王太子の認識としては、リリーと、リリーの姉であるエレオノーラは、アマリアと一緒に逃避行している、ということになっていたのだ。
リリーやアマリアがエレオノーラとバラバラになって連絡もつかない状態だということは、王太子は知らなかったのだ。
そして、王太子の放った追っ手はこう考えた。
若き天才宮廷魔術師であるアマリアと真正面から戦闘するのは得策ではない。
では、姉妹のうち、どちらかを人質にとってことを有利に進めればよいではないか、と。
王女姉妹は一緒にいる。
そう思い込んで全速力で走る馬上から見る俺たちはどう映っただろう。
小さな幼女。
それを守るように立つ召使いの女と、騎士。
そして少し離れたところにぽつんと立つ、そこそこ綺麗な服を着た少女。
馬上の輩が叫んだ。
「姉の方を狙え!」
そして馬に乗っていた一人の魔術師が、手から長く光るロープのようなものを出現させた。
そのロープはまるで生きているかのようにココに巻き付き――。
「きゃあっ!?」
ココの悲鳴。
魔術によって具現化したロープはココをそのまま持ち上げる。
「あ!?」
俺たちは、賊はリリーを狙うもんだとばかり思っていたから対応が遅れた。
だって、ココは獣人で、奴隷だったんだ、まさかそっちが狙われるとは思ってもいなかった。
でもココは、こぎれいな格好をしていてケモ耳もしっぽも隠れていて――。
くそっ。
「追いかけるぞっ!」
俺たちは、走り去る騎馬の集団の後ろから、馬車を走らせた。
アマリアが騎馬で先行して追いかけようとして――。
だが鞭を馬には入れず、馬車の中の俺に向かって叫んだ。
「天使様! ……あの娘を、助けますか!?」
そう。
選択肢としては、助けない、を選ぶことができる。
というか、アマリアの立場からすると、助ける意味なんてない。
アマリアの目的はリリーの保護であって、ココなど知り合ったばかりのただの女奴隷だ。
合理的な判断をするならば、これはラッキーなアクシデントであって、ココにはこのまま犠牲になってもらって我々は逃げるべきだ、とアマリアの立場ではそう考える。
ココはしょせん奴隷で、膨大な魔力を持っているとはいえ、それは俺への信仰心ありき、俺の力だと信じ込んでいる状態で使える魔力なわけで、俺から離れてしまえばもしかしたらただの女の子のままかもしれない。
アマリアの視点からいうと、ここでただの奴隷一人を囮にして王女を助けて逃げるのは、当然の選択肢だった。
生まれたときからこの階級社会で生きてきた人間にとっては、ここで奴隷のためにリスクを犯すなんてこと、正気の沙汰ではない行動だった。
だけど、アマリアはこう言った。
「私は助けたいです!」
間髪入れず俺は答える。
「よし、行けっ! 俺はリリーを守ってる」
馬に乗れない俺がリリーをつれて騎馬で追いかけることはできない。
アマリア頼みだった。