TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第三話 黒髪の女騎士

「妹君様ーッ! 妹君様ーっ!」

 

 悲痛な叫び声とともに、馬蹄の音が聞こえてきた。

 

「こっちじゃ、こっちじゃぞーっ!!!」

 

 幼女もそれに大声で答える。

 草原の向こう側、なだらかな丘の向こうから現れたのは、馬を駆る女性だった。

 女性といってもそのいでたちを見ると、金属でできた甲冑を装備していて、片手には剣を持っている。

 明らかに武装している、騎兵だった。

 しかも剣を抜いているってことは、臨戦態勢ってことだ。子連れのヒグマなみに危険だ。

 盗賊や野盗のたぐいじゃないな、胸当てにはなにかの紋章がついている、どこかに所属している正規兵だろう。

 騎馬にのった正規兵となると、あれがコスプレでもない限り、ここはヘリとか戦車とかミサイルとかがあるような世界ではなさそうだな。

 馬にも装甲がつけられているのを見るに、身分の高い兵士だろう。

 兵士というか、騎士とか貴族階級なのかもしれない。

 彼女は艶のあるショートボブの黒髪をなびかせ、馬に鞭を入れる。

 

「妹君様!」

 

 幼女の姿を認めると、まっすぐにこちらへ向かってきた。

 下馬して幼女を抱きかかえる。

 

「アマリア! どこにいってたんじゃ、死ぬかと思ったのじゃぞ!」 

「妹君様、ご無事で本当によかった……。……妹君様、こちらの……この……ずいぶんと派手な格好のお方は?」

 

 アマリアと呼ばれた女騎士は、幼女を自分の後ろに下がらせた。

 敵か味方かはかりかねているようで、剣は抜いているが俺には向けていない。

 

「アマリア、あのな、あのな、このお姉さんはな、わしを助けてくれた、天使様なのじゃ!」

「……天使……?」

 

 あからさまに警戒の表情で俺をにらむアマリア。

 ちょっと緊張する。

 相手は女とはいえ、武装した騎士。

 そしてなにより、今の俺だって女の子なのだ。

 まー、ただの女の子じゃなくて魔法少女だけどな。

 彼女は俺から数メートルほど距離をとって止まる。

 

「見たこともないドレスですね……言われてみれば聖典にある天使様にも似てますが、いやしかし、まさかそんなわけ無いですし、どこかの民族衣装……? どこの民族ですか……?」

 

 アマリアは俺を凝視した。

 そりゃそうだ。

 俺の恰好はというと、ピンク色の髪と七色に染め分けられたスカートにピンクのドレス、差し色は水色、キラキラな装飾品だらけのヒラヒラフリフリの魔法少女姿だ。

 ニチアサアニメ以外、地球上のどの歴史にもこんな衣装はなかったし、この異世界においてもそうなのだろう。

 しばらく、お互いを観察しあう。

 女騎士は(かぶと)の類を身に着けていない。

 その顔がよく見えた。

 サラサラの黒髪、黒い瞳、

 はっきりした目鼻立ち、ほんの少しだけ釣り目で気が強そう。

 ありていに言ってハリウッドで主役を張れるレベルの美人だ。

 

「武器……ですか、それは?」

 

 言われて気付いたが、俺はレインボークリスタルロッドを強く握りしめていた。

 

「いや、そうだが、あなたと敵対する意志はないんだ」

 

 俺はロッドを無造作に腰に差す。

 ちゃんとひっかけるところがあるんだな。

 それを見て、警戒の表情のまま、アマリアも剣を鞘に戻した。

 

「私の名はアマリア・エテリウス・ヴィータ・ヴァレリー。王国内最高の騎士と自負しています」

 

 ふむ、やはり騎士か。

 アマリアは続けて言う。

 

「私はディバイナ王国王位継承権第三位、エレオノーラ・イシリラル・クラリッサ・ディバイナ王女殿下、そしてその妹君であられる王位継承権第四位、リリー・イシリラル・レイヴン・ディバイナ王女殿下に忠誠を誓うもの。」

 

「わしがリリーなのじゃー!」

 

 無邪気に言う幼女。

 へー、この子王女様かよ……。

 アマリアは優し気な視線をリリーに向けてから、キリッと顔を引き締めて俺に言う。

 

「私は名乗りました。さあ、あなたの番です、名乗りなさい」

 

 名前か。

 名前なんて、いたって普通のどこにでもいる日本人の名前だ。

 

「俺の名前は…………」

 

 ところが、その名前が口から出てこない。

 いや、頭には思い浮かんでるんだ、だけど発声することができない。

 どういうことだ?

 くそ、魔法少女に変身していると、本名を名乗れなくなるとか、そんな仕組みになっているのか?

 と、レインボークリスタルロッドが喋った。

 

「ピュイン。正体隠匿のため、魔法少女のあいだは本名を名乗れません」

 

 うわ、めんどくせえな。

 まあいい、じゃあ今の名前を名乗ってやるか。

 

「俺は…………」

 

 ん? ちゃんと魔法少女ミスティレインボーと名乗ろうと思ったのに。

 うまく口が動かない。

 そういや、正々堂々と名乗りをあげないといけないとか言ってたな……。まじかよー……。

 俺は自分の無意識に身を任せる。

 すると、どこからか明るい音楽が流れてきた。

 

「なんだ?」

 

 とアマリアと名乗った女騎士は周りをきょろきょろ見回している。

 

「わーい!」

 

 幼女のリリーの方は大喜びで音楽に合わせてぴょんぴょん飛び跳ね始めた。

 ほんと、なんだこれ。

 でも俺の身体は俺の意志と無関係に勝手に動く。

 俺は流れてきた音楽に合わせ、ポーズをとって叫んだ。

 

「心の架け橋! 平和でピースな雨上がり! 魔法少女、ミスティレインボー‼」

 

 シャキーンっていう効果音付き。

 多分、ポップな色調の背景を背負っている感覚がある。

 決めポーズをとった俺を、しばらくの間眺める女騎士。

 

「その恰好……いったいなんです? 今の音楽は……? 後ろの水色の幾何学模様はなに……?」

 

 女騎士が尋ねるが、そんなの、俺にもわからんよ。

 

「怪しい」

 

 そう言って、女騎士アマリアは剣の柄に手をやった。

 その瞬間。

 アマリアの身体がふっとんだ。

 

 アマリアが突然吹っ飛んだのにもびっくりしたが、そのアマリア、いきなり5メートルほども飛ばされたのに、一瞬のうちに空中で体勢をととのえ、きちんと足から着地したのにも驚いた。

 すげえ身体能力しているな。化け物か。

 いやしかし待てよ、普通の物理法則に反した動きしてたぞ、なんかアマリアの身体だけ重力がなくなったような……。

 いずれにしてもすごい芸当だ。

 正直、あ、この人死んだ、って思ったもんな。

 で、今俺の目の前に、アマリアを吹っ飛ばした犯人がいる。

 それは、巨大なサソリだった。

 いや、正確にはサソリそのものではないけど、地球上の生物でいうとサソリに最も近い、異形の怪物。

 そいつが、地中から突然飛び出てきてアマリアを吹っ飛ばしたのだ。

 

 大きなハサミと、曲がった尻尾。

 多分、あの尻尾の先の針から毒が出てくるんだろうな。

 大きさは普通乗用車くらい。

 はっきりいって、バカでかくてビビる。

 俺と真正面から相対する。

 節足動物特有の無機質な目が、俺をとらえている。

 と、そのサソリの背後から、アマリアが剣をふるってとびかかった。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 だが、後ろから襲われたというのに、サソリはまるで見えているかのように尻尾を振って、アマリアの攻撃をこともなげに薙ぎ払った。

 再び吹っ飛ばされるアマリア。

 

「ふんぎゃあ〜〜!」

 

 ……なんか、王国一の騎士とか自称してたが、そうとも思えないほど情けない声で地面を転がるアマリア。

 

「私は最強の剣技を身に着けた騎士です! こんな魔獣には負けない!」

 

 女騎士はすぐに起き上がり、剣を構えてそう叫んだ。

 でもさすがにダメージを受けたのか、少しふらついている。

 

「やべえ、これまじもんの戦闘か……」

 

 思わずつぶやく。

 そりゃそうだ、そもそも真剣を見るのも今日が初めてだっていうのに、いきなり目の前でこんな戦闘が始まったら、ちょっとは恐怖を覚えるってもんだ。

 サソリの化け物はアマリアを主敵と見たか、俺を置いてそちらの方へと向き直る。

 揺れ動くサソリの尻尾の毒針が、やけにリアルで生々しい。

 大きなハサミを威嚇するように振りかざしてから、サソリはアマリアに襲いかかった。

 

「くっ……!」

 

 アマリアはどでかいハサミの攻撃をかろうじて剣で防ぎ、その剣でハサミを切り落とそうと試みるが、刃は金属音とともに跳ね返される。

 そのやりとりを何度か繰り返すが、だんだんアマリアは追い詰められていく。

 っていうかさ、人間が乗用車ほどもある野生生物に、武装しているとはいえ一対一で勝てるわけがない。

 

 想像してみてくれ、サイとかカバが本気でこちらにとびかかってきたら、剣を持ってたとしても勝てないだろ?

 それをこんなバカでかい異形の生物相手に、これだけ持ちこたえられているだけでアマリアの力はすごい。

 見ていてなんかちょっと違和感はあるんだけど。

 ぶっちゃけ剣を振るたびになんかよたよたしているしさ。

 あとなんか、サソリの尾の攻撃、アマリアが剣で防いでるってよりは、その直前になんらかの力で跳ね返されているような……?

 よくわからんが、でも、アマリアのその力もそろそろ限界が近いようだ。

 だんだんと防戦一方になっていくアマリア。

 

 やばいぞ、俺にもなにかできることはないか?

 アマリアがそろそろ危ない。

 そういえばさっき、ライオンのモンスターをレインボークリスタルロッドで浄化できたな。

 こいつも同じようにやっつけられるんじゃないか?

 よし、やってみるか。

 俺は先ほどと同じくロッドのボタンを押す。

 すると、キュゥイーン! という甲高い音とともに、先端の星が回った。

 俺はそれを振りかぶって、叫んだ。

 

「ラブリーハートスパーク!」

 

 するとどこかから重低音のリズムとともに音楽が流れてきた。

 ロッドから音楽が流れているわけじゃない、ほんと、どこかから高性能スピーカーの音質で聞こえてくるのだ。

 まじでいったいなんなんだ、これ。

 そして俺の口が勝手に詠唱を始める。

 

「私の心の輝きでぇ~~~♪」

 

 俺の全身に力がみなぎった。

 自分の身体が発光しているのがわかる。

 ズン♪ ズン♪ ズン♪

 とバスドラムがリズムを刻み、その上を軽快なメロディーの音楽が流れている。

 

「な、なんだ、この音は⁉」

 

 アマリアが驚きの声をあげた。

 やっぱり、この音楽、俺だけに聞こえてるわけじゃなくて、本当に聞こえているんだな。

 俺の背後に桜の花びらみたいなのが無数に舞い、足元にはパステルブルーの円形の魔法陣。

 なんかこの攻撃をするたびに、俺の半径数メートルだけ世界観が変わるんだけど。

 

「あなたを救っちゃう~~~!」

 

 俺の口が勝手に叫ぶ。

 なるほど、浄化技だから倒すんじゃなくて救うのね。

 

「レインボーピュアシャワー‼」

 

 そう叫んでレインボークリスタルロッドを振り下ろすと、その先から虹色に輝く光線がサソリの化け物へと一直線に向かい、そしてサソリを包み込む。

 

「ピュアピュアジャスティース!」

 

 変な決めセリフを俺が言った瞬間に、光は消え、そのあとには何も残らなかった。

 

「はあ、はあ、……。これ……あの化け物を消したのか?」

 俺はロッドにそう尋ねる。

「ピュイン。違います。あそこをご覧ください」

 

 見ると、なるほど、乗用車ほどのサイズだったサソリの化け物が、今は十五センチほどのただのサソリとなってカサカサと地面を這っていた。

 

「ピュイン。魔法少女はあくまで邪悪な支配を消し去る存在です。このサソリも、浄化されてもとのあるべき姿にもどったのです」

 

 なるほどなあ。

 

「ってことは、普通の人間同士の戦いには使えないのか?」

「ピュイン。使用できます。ただし、不可逆な精神的ダメージを負わせる可能性がありますので、対人での使用には注意を払ってください」

 

 不可逆……。

 それって、具体的にどうなるんだろう?

 それも聞こうと思ったとき、黒髪の女騎士、アマリアが俺のそばへとやってきた。

 そしてなんと、(こうべ)を垂れてひざまずいた。

 

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