TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第四話 あったかい、いい匂い、やわらかい、大好き

「天使様……あなたは神が(つか)わした、天使さまに違いありませんね?」

「いや違います」

 

だってただの中年の介護職のおっさんだぞ。

 

「この世に魔術は数あれど、あなた様のような力は見たことがありません。そもそもあなたには魔力を感じません。つまり、今のは魔術ではない……神の奇跡以外にありえません。それに……あなた様は……あまりにも、美しい……」

 

 俺のふわふわスカートに(すが)りつくようにしてくる女騎士。

 美しい……?

 俺が、この俺が美しい?

 人生で初めて言われたぞ、そんなこと。

 

「天使様……神々しい美しさです……まるで少女のような幼いお姿の中にも神の強き力を感じます……! 聖典に書かれてある通りのお姿でございます……! あなたさまは男性のお姿もお持ちではないですか?」

「いやまあ、もともと男だし……」

「やはり……! やはり……! 天使様に間違いない……!」

 

 なーんかこの黒髪の女騎士、ひとりで盛り上がっているぞ。

 

「っていうか、俺の姿は幼いのか?」

 独り言を言うと、

「ピュイン! 魔法少女ミスティレインボ―様は13歳の少女の身体です」

 

 13歳かあ……。

 おっさんの俺からしてみたらそりゃこどもだなあ。

 

「お願いがあります。姫を……私の姫様方を、お助けください……」

 

 俺をまっすぐ見上げるアマリアの黒い瞳に涙があふれたかと思うと、それは白い頬をきらめいて流れ落ちていく。

 

「姫様方を庇護(ひご)していた私の領地が……王太子殿下の軍と魔物どもに襲われて……私は妹君様をお守りしながらここまできたのです。姉君様もやっと馬車で逃がしたのですが……姉君様も、いまどうされていることやら……」

 

 待て待て待て、全然話がわからん。

 ええと、姉君様とか妹君様?

 あ、そういえばリリーのことをさっき、『妹君様』と呼んでいたな。

 つまり、この子とその姉の姫様が王太子の軍に襲われた……?

 んん、どういうことだこれ?

 なにがどうなるとそうなるんだ?

 

「天使様、お願いでございます……どうか、姫君様方にご加護を……」

 黒髪美女に瞳をうるうるされて頼まれてしまっては、そりゃ無下にもできないけどさー。

「その、妹君様ってのがその子だろ?」

 リリーがそれに胸を張っていう。

「その通りじゃ! わしはこの国で五番目にえらい、王位継承権第四位、リリー・イシリラル・レイヴン・ディバイナ王女殿下であるぞ!」

 ふわふわのパーマがかかったような腰まである長い銀髪がすごく特徴的だ。

 うん、銀髪ふわふわのチビ少女、かわいい。

 自分で自分に殿下なんて敬称つけちゃうところもかわいい。

 子供っぽいワンピースも似合っていてかわいいぞ。

「で、天使様はわしを助けに来てくれた天使様なのじゃな?」

「いや、多分違うと思うぞ……」

 俺はそう否定する。

 だけど、リリーはワンピースのポケットからなにやら小さい冊子を取り出し、そしてページを手繰(たぐ)ると、俺とその冊子をかわるがわる見比べる。

「いいや! ここに書いてあるのじゃ! ファライルの花のような色の髪の毛! ヴィオレッタ蝶のような美しい虹色のスカート!」

 

 そしてチビ少女リリーは、ふわふわの銀髪をなびかせながら、翡翠(ひすい)のような緑の瞳で俺の眼をじっとみつめてくる。

 

「それにそれに、んーと、青空のような色の澄み切った瞳……」

 

 ほう。

 俺の瞳の色は青いらしい。

 人に言われて初めて知ったわ。

 リリーはさらに冊子に目をやり、それを読み上げる。

 

「んっとんっと、えーと、『そして天使は神聖なる音楽とともに地上に降り立つであろう……』」

 

 チビ少女リリーは、ニカッと笑って、

 

「ほらな? ほらな? ほらな? 神聖なる音楽! 間違いない!」

 

 うーん、そうかなー。神聖なる音楽っていうわりにはかなりポップな感じのメロディーだったけどなー。

 

「天使様だ‼」

 

 そう叫ぶリリー。

 

「アマリア、聖典に書いてある通りだぞ! あねさまも言ってた……。毎日毎日ちゃんとお祈りをしていれば、あでやかなお洋服に身を包んだ美しい天使様が助けてくれるって……」

「妹君様はいつもお祈りをさぼっておいででしたけれど……? いやでもこうして天使様がご降臨されたのです。妹君様、これで、これで安心ですよ、もう怖くはないのです」

 アマリアはそう言ってリリーを抱きよせ、そのほっぺたにキスをした。

 この黒髪の女騎士は感極まったのか、再び涙をこぼす。

 もう目が真っ赤だ。

 

「痛い痛い! アマリア、甲冑が痛い!」

「あ、すみません」

 

 アマリアがぱっと手を放すと、リリーはその場でぴょんぴょん飛び跳ねながら、今度は俺の方へ。

「天使様! 天使様! 天使様がやってきた! やった! やった! やった!」

 

 そして俺に抱きつく。

 ぎゅー。

 

「天使様、いい匂い……。わしを、助けてくれるのじゃな?」

 

 そう言って俺のおなかのあたりに顔をスリスリしてくる。

 うーん、こんな幼女とぴったり密着することなんてほぼほぼ初めてだけど、なんかこう、やらかいしあったかいし、母性本能というか父性本能というか、なんかくすぐられるなあ。

 思わず俺もギュッと抱きしめ返した。

 すると、リリーは、

 

「えへへ、天使様、天使様……。あったかい、いい匂い、やわらかい、大好き、天使様……。えへへ、……うぇ、ひっく、ひっく、…………うぇ~~~~ん!」

 

 いきなり泣き始めた。

 喜んだり泣いたりせわしない奴だな。

 そしてこの幼い少女は、大泣きしながらこういうのだった。

 

「あねさまのこともたすけてよ~~~~!」 

 

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