俺たち三人は草原を西へと向かって歩いていく。
馬の上にはリリーが乗り、その口をアマリアがひいている。
「んん? わしはこの国で五番目に偉いが、天使様は天使様なんじゃからわしよりも偉いんじゃぞ? だから天使様が馬に乗るのが普通じゃ」
「お前、いくつ?」
「七歳なのじゃー!」
「いいか、こんな草原のど真ん中を七歳に歩かせるやつは天使じゃなく悪魔だ。あと単純にこどものお前は足が遅いしな」
「じゃあ二人乗り……」
「俺は馬の乗り方なんてしらん」
素人がそんな簡単に馬に乗れるわけがない。
ちなみにリリーは王族のたしなみとして馬術をならってきているから並足の馬に乗るくらいはできるらしい。
そんなわけで、リリー一人を馬に乗せ、俺と女騎士アマリアは徒歩で進むことになった。
しかし俺のこのスカート、中にパニエがみっちり詰まっているから歩きにくいなー。そのおかげでパンチラは絶対なさそうだけど。
まじでニチアサ幼女向けアニメっぽいデザインだな。
「半日ほど行った西の先に、私の師匠が村長をやっている村があります。まずはそこを目指しましょう」
アマリアがそういう。
「いったい、なにがどうなっているんだ?」
聞きたいことはたくさんあるぞ。
「天使様とか言われても、俺は天使なんかじゃない」
「では、あなた様はどこからいらっしゃったのですか?」
「地球と言う星の、日本という国だ。そこで妖精みたいなのと黄色い魔法少女に一緒に戦おうと誘われて……」
自分で話しているうちに思い出してくる。
そもそも、それまでは普通の生活をしていたのに。魔法少女? 何だそれは?
おかしな着ぐるみとコスプレ少女がいるなーと思ったらレインボークリスタルロッドを無理やり渡されて、その直後、よそ見運転の暴走トラックにひかれて死んでしまったのだ。
そしたら気がついたらこの世界にいたわけで。
「俺もなにがなんだかさっぱりわかってないぞ。日本語も通じるみたいだし……」
と、そこでレインボークリスタルロッドが音を出した。
「ピュイン。魔法少女システムにより自動翻訳されています」
ほーん。
「それに俺は元々男だし……」
そこにリリーが馬上から言う。
「聖典に天使は男性でもあり女性でもあると書いておるのじゃー! 聖典通りなのじゃー!」
そうは言われてもなあ。
「これ、元の体には戻れるんだよな?」
レインボークリスタルロッドに向かって尋ねると、
「ピュイン。理論的には可能ですが許可しません。この星は地球とは別宇宙にあり、物理法則が地球とは異なります。大気の組成、太陽光線が及ぼす影響などを考えますと、生身の地球人はここでは十分間で死に至ります。魔法少女の姿を保っている限りはマジカルバリアーによって守られていますので活動に問題はでません。セーフティーシステムは最優先ですので、安全のためいかなる事があっても魔法少女システムを解除することはできません。ピュイン」
なんだおい、俺はこの世界にいる限り、ずっとこの格好のままってことかよ!
「じゃあ元の世界には帰れないのか?」
「ピュイン。現在の所持している情報からすると不可能と思われます」
何なんだいったい、ほんとに夢じゃないのかこれ?
自分の腕を見る。
すべすべでつややかな、女の子の肌。
現実感がないなー。
「つまり、こことは別の世界で亡くなられて、神様に選ばれ、この世界に復活されたということですよね? まさに聖典の通りじゃないですか!」
アマリアが明るい声で言う。
聖典が何だかよくわからんが、この世界にも何らかの宗教があって、その教典ってことだろうか。
「まあそういうことになるの……か? そういや神様みたいなのに会った気はするけどなに話したかは全然覚えてないぞ……」
なにか大事なことを言われた気はするけどさ。
魔法少女ってだけでも意味わからんのに、そのうえ死んで異世界転生して、さらにその世界では天使様?
意味不明が幾重にも重なってるぞ。
俺は歩きながら考え込む。
広い草原のなか、馬に乗った七歳の幼女と武装した女騎士、そしてド派手な戦闘ドレスの魔法少女が進んでいく。
これ、かなりシュールな光景だよなー。
黒髪の女騎士、アマリアの着ている甲冑が、アマリアが歩くたびにガチャガチャという音を出している。
「しかしアマリア、その甲冑重そうじゃの? 脱げばどうじゃ?」
リリーが言う。
「いいえ! なにをおっしゃいます、私は王国随一の騎士です。甲冑が重いなど、騎士の名折れ!」
アマリアはそう答えるが、しかし、彼女はまじでふらふらとおぼつかない足取りで歩いている。
よく考えたらさー、鍛えてる男だってこんな金属製の甲冑を着て歩くってのは大変だと思うんだよ。
それが、こんな細身の女の子がこれ着て草原を歩くとか……。
無理ゲーじゃね?
今までは馬に乗ってたからいいけど、長距離の徒歩で金属製の甲冑って。
「なあ、アマリア……さん」
「天使様ともあろうものが私にさんづけなどいりません」
「じゃあアマリア。それ、脱いでもいいよ」
「いや騎士の名折れ……」
とかなんとかいうけどさ、名前が折れる前にアマリアの腰が折れちゃいそうだぞ。
「天使様もそう言っておられるんじゃぞ、脱げ脱げ」
リリーが少し命令口調でいう。
「天使様と妹君様がそうおっしゃるなら……」
しぶしぶ、といった感じでアマリアが甲冑を脱ぎ捨てる。
そのとき。
俺の脳内に、衝撃が走った。
なぜなら。
アマリアは甲冑の下は案外な薄着で、結構丈夫そうな衣服を身に着けていたのだが。
「これも外してしまいますね……動きやすいんですが、さすがにずっと身に着けていると苦しいので」
と、衣服の上から胸に巻いていたサラシのようなものも外す。
すると、アマリアの
――でっっっっっけーーーー!
思わず心の中で叫んだ。
いや、まあ、ほんと、でかい。
なにがとはいわんが、でかい。
すげえ、重力に逆らってるんじゃないのか、そのかたちの良さ。
そして腰が細い。
めっちゃ細い。
バストのでかさとウエストの細さのコントラスト、やばい、こんなの二次元でしか見たことないレベルだぞ。
しっかし、よくこんな細さで剣をふるえたな。
まーちょっと見てて危ういところはあったけど。
腕とかもそんなに太くはないし、剣を構えた時なんか、すこしふらふらしてたもんなー。
でもそれだって、こーんなでっかいブツを胸に二つもくっつけてたんだもんな、バランスも崩すってもんかもしれん。
「おっひゃー! 相変わらずアマリアのおっぱいはでっかいのお!」
デリカシーなく大声で言うリリー。
アマリアは少し顔を赤らめ、俺の方をちらっと見ると、
「妹君様……恥ずかしいので、あまりそういうことは……」
「なんでじゃ? わしはアマリアのおっぱい、好きじゃぞ! 揉むとなんかいい気分になるしのー」
うむうむ、その立派なふくらみ、揉んだらめっちゃ気持ちいいに決まってる……。
などと思い、いかんいかん、そんな邪な目で女の子を見ちゃダメだろ、と思いなおして、でっかいおっぱいから視線を外し、上を見上げた。
そのとき、ふとあることに俺は気づいた。
太陽が俺たちを照らしてるんだけど。
その太陽を背に、なにかが、こちらへ向かってくるような……。
それは、翼をはためかせて……。
「あれ、なんだ……?」
俺のつぶやきに反応してアマリアもそちらを見る。
次の瞬間、アマリアは叫んだ。
「ゾルンバードです! 妹君様、馬を降りて伏せて!」
始祖鳥って知っているだろうか。
鳥の先祖と言われている、クチバシに歯が生えているような、古代の恐竜と鳥のあいのこみたいなやつだ。
そいつそっくりな鳥の化け物が、三羽つらなって俺たちにむかってまっすぐむかってきているのだ。
っていうか、こうして見ると、このゾルンバードとかいう鳥の化け物、超でけえ。
翼を広げたら三メートルはありそうだぞ。
リリーは慌てた様子で馬から降りると、草むらに伏せる。
三羽でやってきたゾルンバードは、別々の方向から俺たちを狙ってくるようだ。
そのうちの一羽に狙いを定め、俺はレインボークリスタルロッドをふるう。
「ラブリーハートスパーク! 私の心の輝きでぇ~~~♪ あなたを救っちゃう~~~!」
さきほどと同じようにロッドを振り下ろすと、やはり七色の光がゾルンバードを包み込み、シュバッと光がまたたいた。
そのあとには、スズメみたいなちっちゃい鳥がちゅんちゅん鳴きながら向こうの方へと飛んで行った。
この能力、最強じゃん。
でも、もう二羽いたよな。
そちらに向き直ると――。
「こ、こら、やめ、やめなさーーーい!」
アマリアが剣をふるって二羽のゾルンバードと格闘している。
とはいえ、サイズが違いすぎるし、向こうは空からの攻撃だし、アマリアの剣のさばき方はどう見ても下手だしで、やばい、これ、アマリア、食われちゃうぞ。
もういちどレインボークリスタルロッドのボタンを押し――。
あれ?
今度は反応しないぞ?
レインボークリスタルロッドが教えてくれる。
「ピュイン。チャージ不足です。連続で浄化技は使用できません。チャージ完了まであと九分三十六秒」
おいおい、そんなに待ってたらさー、間に合わんぞ。
やべえ! 急がんと!
俺はアマリアの方へ走り寄る。
すると、二羽のうち、一羽のゾルンバードが俺の方へ。
俺の身体能力は魔法でアップしているので、徒手格闘でこの始祖鳥の化け物と戦うが、俺はともかく、アマリアの方が……。
ああほらアマリア、もうゾルンバードにパクっとくわえられて……。
やっべ、言葉を交わした女の子がスプラッタに殺されちゃうとこなんて見たくないぞ……。
「や、やめろ、空を飛ぶなんて卑怯です! 騎士たる私と正々堂々と……ぐへぇ」
あー終わったなこれ。
アマリアの奴、完全に上半身をまるごとガブッとかじられてる……。
俺はもう一羽のゾルンバードがかみついてくるもんだから、ゾルンバードの上あごと下あごを両手で持って力比べしてるみたいな格好になって助けに行けない……。
アマリアこれ死んだんじゃないの……。
「うー、アマリア、騎士の真似しているだけで別に騎士じゃないのじゃ……」
身を守るように頭を抱えてしゃがみこんでいたリリーが言った。
はあ?
なにそれ、ただの人じゃん。
だから甲冑が重そうだったり、剣をふるうのがへたっぴだったのか。
っていうかそういうことならこっから逆転のしようもないじゃん。
まじ死んだわあいつ。
とか言ってる場合じゃねえな、俺がなんとかしないと!
などと思っていたら。
そこにリリーの大声。
「アマリア! もういい加減にするのじゃ! お前は騎士ではないのじゃ! 下手な剣で戦うんじゃなくて、真面目にやるのじゃ!」
もう上半身食われちゃってるからな―。
聞こえてないんじゃないのかなー。
目の前で人が食い殺されるとこ見たくないなー。
しかしそのとき。
俺には予想外のことが起きた。