TS魔法少女ミスティレインボー   作:羽黒楓

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第六話 きれいな水だっていうからさ

 アマリアにかみついて、その上半身を咥えていたゾルンバードの顎が、吹っ飛んだのだ。

 吹っ飛んだというか、破壊されたというか。

 

「グギャア!?」

 

 下あごを失ったまま、ゾルンバードが驚いたように羽ばたく。

 何が起こったのか、ゾルンバード自身もわかっていないようで、しかし、自分が命の危機にあることは理解したのか、ゾルンバードは俺たちに背を向け、空中に向かって逃げようとする。

 と、そこに。

 地上に残され、サラサラだった黒髪をゾルンバードのよだれでベトベトにした自称騎士のアマリアが、逃げていくゾルンバードに顔を向け――。

 大きく、口を開いた。

 大きくたって、ちょっと大口を開けた、ってレベルじゃない、もうほんとにあごの骨がはずれたんじゃないかというくらいの超大口。

 そして、その開けた口から、何かを発射した。

 それは、水流。

 水流というのは、超高圧力をかけられると、刃物同然の切れ味を誇る。

 そんな水流を、アマリアは口からビームのように吐き出したのだ。

 

「おええええええええっ」

 

 まあアマリアの声、まるで嘔吐してるみたいで、すごく、なんというか、すごく、アレなんだけど。

 響き渡る嘔吐みたいな声はともかく、そのビームみたいな水流は逃げようとしたゾルンバードをとらえる。

 ゾルンバードはなすすべなく、空中で粉みじんにはじけとんだ。

 俺と格闘していた方のゾルンバードも、それを見て恐怖したか、俺から離れ、空高く逃げようとする。

 それを見逃さず、アマリアはまたしても顎を大開き、そこから、

 

「げぼぼぼぼぼぼぉぉ~~~~~~っ!」

 

 と水流を吐き出した。

 直撃をくらったゾルンバードはそのまま地面に激突し、絶命した。

 

「なにこれ……」

 

 俺がいうと、リリーが自慢げに答える。

 

「アマリアはの、若き天才魔術使いなのじゃ。だいたいの魔術は使えるのじゃが、中でもその水流を操る魔術、王国内随一といってよいのじゃ!」

「え、じゃあなんで騎士だとかいってたの……?」

 

 偽の騎士、アマリアは、口から水流を出し終わると、俺の方に向き直った。

 だらーっと口の端からあまった液体が垂れ落ちる。

 

「けぽっ」

 

 とげっぷのようなものをすると、アマリアの口からどしゃっとひとかたまりの水が地面に落ちる。

 目の端からは涙も流れ落ちてる。

 飲みすぎて吐いちゃったOLかお前は。

 口からまだ流れ出る液体を袖で拭いながら、

 

「……私はかっこいい騎士になりたいのです。……私の魔術ってなぜか口から出るんですけど、……これ、かっこいいですか……」

「あ、うん、かっこ……うん、ごめん……」

 

 アマリアはその場で顔を覆い、

 

「嫁入り前の乙女なのに……口から……口からいろいろ出すなんて……私はかっこかわいい騎士になるんですぅ~~」

 

 といって泣き始めちゃった。

 

「しかし、すげえな、アマリア、最強じゃん……」

 

「そうなのじゃ! アマリアは最強なのじゃ!」

 

 自慢げに言ってふふーんと胸をはるリリー。

 アマリアは、

 

「私の魔術は特殊すぎて……姉君様と妹君様だけがご理解を示してくださり……おかげさまで宮廷内でいっときでも地位を得ることができたのです……そのおかげで領地の加増まで賜り……ですから私はこのご姉妹には一生忠誠を誓うと決めたのです……」

 

 そう言うと、今度はリリーの方に向き直り、

 

「妹君様……ご無事でよかった……」

「うむ、アマリア、よくやった。あいかわらずお前の魔術はすごいのー」

「ご褒美をください」

「え、やだ、ご褒美ってあれじゃろ、ぎゅってやるやつじゃろ? 今アマリア自分が吐いた水でびちゃびちゃじゃ。やだ」

「お願いですリリーさまぁ」

「ま、まてまてせめて拭いてから……」

 

 いやがるリリーをガバッ! と抱きあげるアマリア。

 

「あふぅ~~~~~ん。大好きですリリーさまぁぁぁぁ~~~チュッチュッチュっ」

 

 そして七歳幼女のほっぺたにキスしまくる偽女騎士の女魔術師。

 

「ぎょえぇぇぇぇ! びちゃびちゃじゃ! 冷たい冷たい、は、はなせ~~~~!」

 

 すっごく嫌がっているようにみえるけど、主君筋にそんなことしていいんだろうか……?

 しばらく無理やり主君の妹を抱きしめまくったあと、アマリアは満足したのか、とろーんとした顔のまま手を離す。

 

「こうして心が満たされると、魔力の補充もはやまるのです」

「それはいいんじゃが、せめて身体を拭いてからにしてほしいのじゃ!」

「いやもう我慢できなくて……」

「もー! もー! アマリアのことは好きじゃが、そおゆう勝手なやりかただと嫌いになっちゃうぞ! もー!」

 

 濡れちゃったワンピ―スをパタパタさせながら怒ったように言うリリー。

 と、そこで。

 アマリアは今度は俺の方を向いて言った。

 

「敬愛する人とこうしてスキンシップをとると魔力の補充がかなり早まるのです……」

「ふーん」

「で、私、天使派の人間ですし、天使様のことも敬愛している……かも? ……けぷっ」

 

 アマリアの口から水があふれ出る。

 めっちゃ美人の黒髪の女騎士(偽)が、口からだらだらと液体を垂れ流すさま、なんというか、なんだろう、これ新しい性癖に目覚めたりしちゃったらどうすんだ。

 

「天使様、試してみても? げふっ」

 

 水がジャバー。

 しまりのねえ口だな。

 まあ巨乳の美人とスキンシップとるのはやぶさかじゃなかったけど、さすがの俺も、水浸しにはなりたくなかったので、

 

「……あとでな、……あとで」

 

 といった。

 ところで天使派ってなんだろう?

 

     ★

 

 さて。

 改めて、自分の姿を確認してみる。

 

「いったいどうなってるんだよ……」

 

 自分の声が完全に女の子で、ちょっとびっくりした。

 手のひらを見てみる。小さい。女子の手だ。つるつるのピカピカの肌の、少女の肌。

 露出している腕を見る。

 すげえ、おっさんの肌とは大違いだ。人間の肌ってこんなにもきめ細やかに出来てるもんだって初めて知った。

 みずみずしくすべすべで、トゥルンとしている。

 指もスラリとしていて、その上爪にはピンク色のネイルが施されていて最高にキュート。

 衣装はさっき変身して以降、変わっておらず、魔法少女のまま。

 ローズピンクに水色の差し色がある、フリルいっぱいのドレスみたいな服。露出度は少なく、幼女にも安心して見せられる、健全な魔法少女だ。

 髪の毛を触ってみる。ふわふわのボリュームのあるツインテール。色はクリーミーピンク。

 スカートは虹のように七色に染め分けられている。

 青とピンクの派手なブーツに膝上までのニーハイソックス。

 そして、ここに鏡はないから、いまいちはっきりとはわからないけど、明らかに顔かたちや体形まで変わっている。

 まずはぺたぺたと自分のほっぺたを触ってみる。

 ぷにぷにのつるすべ。

 少なくとも夜勤明け独身男の無精ひげの感触ではない。

 体の方も触ってみる。

 

「うお、なんだこれ、細い、細い、細い!」

 

 すっげえな、人間の身体《からだ》がこんなに小っちゃいなんてありえるのか? ウエストとか細すぎて内臓とかどうなってるんだよこれ。

 胸の方はなんとなく感触はあるかな、よくわからん。 ないというほどではないけど……まあちんまりとしている。

 でもプニプニしていてやーらかいぞ。

 なんだか怖くてあんまり触りたくないけど、両足の間にあるはずのものもないみたいだし……。

 本当に俺は少女になってしまったのか?

 それも、ただの少女ではない、魔法少女だ。

 そして今、俺の身体にさらに大変なことが起きていた。

 それは。

 うん。

 おしっこ、したい。

 どうしよう、おしっこしたいぞ!

 俺たちは、アマリアの師匠がいるというレヴォリア村にむかって歩いていた。

 空の上には太陽。

 今の季節は春前らしく、灼熱ってほどじゃないけど、ずっと照らされてるとさすがに喉がかわく。

 そして。

 喉はかわいているんだけど、それはそれとして、おしっこもしたいのだ!

 しかし、まわりは見渡す限りの草原。

 全身隠れる茂みなんてない。

 そして俺は今、美少女になっているのだ。

 我慢して歩いてたけど、もー限界。

 

「あ、あのさー」

「はい、なんでしょうか」

 

 すました顔で答えるアマリア。

 ついさっきまで口から液体を吐きまくってたくせに。

 いや、これは本人も嫌がってるっぽいから言ったらいじわるか。

 

「あのぉ、なんていうか、ほら、お、お、」

「はい?」

「おしっこ……」

 

 言われたとたんにアマリアは「あ」といって、

「そ、そうですね、それではええと」

 

 うん、ここは草原だから周りに隠れるとこ、ないよね。

 ま、ほら、女の子同士だから、いっか。

 

「じゃあまあどうぞ」

 

 とかなんとかあいまいな言い方をする偽女騎士。

 と、そこに、七歳のリリーが馬からひょいととびおりると、

 

「わしもおしっこなのじゃー」

 

 といって俺のうしろからついてくる。

 お、おい、まさか……。

 しかし、おれの膀胱ももうギリギリだ。

 魔法少女の魔法は膀胱の強化まではしてくれないみたいだ。

 ちょっとアマリアから離れた場所、少しは草が伸びてるところを選んで俺は、おしっこしようとして股間に手をやり、

 

「あーーー」

 

 そうだった、今の俺にはアレがないわけだ、ないから立ちションはできない。

 頭ではわかっていたんだけど数十年以上慣れ親しんできた動作だったから無意識にパンツからアレを出そうとして、そして手が空を切ったところで、おお、ほんとにないわ、と感動してしまった。

 しょうがないから、ええと、パンツをおろす。

 パニエがみっしりだからちょっとおろしづらい。

 ……このパンツ、めっちゃかわええんだけど。ほのかに桃色でレースが上品。

 とか感動している場合じゃねえな、漏れる。

 うう、アマリアがあっちにいるぞ、俺はどっちをむいておしっこしたらいいんだ?

 ちょっと逡巡して、おしっこしている顔を見られるのはいやだなと思ってお尻を向けてしゃがみこむ。

 これって女の子っぽい考えか?

 それとも男特有の考えか?

 俺って今、男なのか女なのかよくわかんなくなっちゃってるぞ。

 おっと、スカートとかパニエにひっかけると悪いからしっかりめくりあげて。

 そして。

 あれ、力の入れ方が男の時とちがうんかな。

 ええと、こ、こうかな、こうだな!

 

 シャーーーーーーーー。

 

 あーーーー。

 そうですかはいはい、こんな感じなのね、女の子のおしっこって。

 はー。

 限界まで我慢してたから解放感がすごいのなんの。

 とそこで、俺のすぐとなりに座り込んだ七歳の女の子も一緒になって、

 

 ジョーーーーーーーー。

 

 なぁにこれぇぇぇ。

 

 じょぼじょぼじょぼじょぼーー。

 

 二人の奏でる水音が見事な二重奏となって響き渡る。

 うう……。

 太陽の下、草むらで幼女と連れションなんてさすがに人生初めてだ。

 この放尿音、多分向こうにいるアマリアにも聞こえているよなー。

 

「アハハハ、きもちいーぞー」

 

 屈託なく笑う幼女。

 こいつ、ほんとに王族かよ。

 深窓の令嬢って感じでは全然ないな。

 どっちかっていうと野生児っぽい。

 さて、終わったから戻ろうかな、と思ったその時に、俺は天地がひっくり返るかと思うような事実に気が付いたのだった。

 

「あれ、これ、……拭かないとだめだよな……」

 

 うん、たぶん、このままパンツをはいたら濡らしてしまう気がする。

 しかし、俺が着ているこの魔法少女の衣装、ポケットというものがなく、もちろんティッシュペーパー的なものももっておらず、

 

「おい、リリー……さま?」

「あはは、天使様なのに人間にさまをつけるのはおかしいのじゃ、わしのことはリリーと呼ぶのじゃ!」

「じゃあ、リリー、ええと、紙、もってない?」

「もってないのじゃ。天使様も持ってないのじゃ?」

 

 あれ、これ、どうしよう。

 まさか、その辺に生えている草で?

 でも、野生の草木の中には毒があるものもあって、それで間違ってお尻拭くと死ぬこともあるってテレビでやってたのを見たことあるぞ。

 とか迷ってたら、リリーが大声を出した。

 

「アマリアー! わしも天使様も紙を持ってないのじゃー!」

 

 はいはい、といってアマリアがやってくる。

 いやちょっとまって、俺いまお尻丸出しでしゃがんでいるんだけど。

 足元にはおしっこのみずたまりができてるんだけど。

 アマリアは何気なくこちらへ近づいてくる。

 ひぇ~~~~~~!

 今の俺はお尻丸出し少女だぞ。

 は、恥ずかしぃ……。

 アマリアは、

 

「はい、どうぞ」

 

 と紙を俺に渡す。

 渡すと、頬を赤らめてぷいと横を向く。

 はじゅかしいぃぃぃぃいいぃ!

 くわーーーっ、やっば、こんなお尻丸出しでしゃがんでいるとことか、水たまりになって地面を流れていくおしっことかを、こんな美少女に見られるとか、今は俺自身が美少女になっているとはいえ、なんかこうやべーぞ。

 俺は無言で紙をうけとって股間を拭く。

 自分の顔が火照ってるのを感じた。

 何十年も生きてきても、やっぱりこれは恥ずかしいぞ。

 

「妹君様、ご自分でお尻を拭けますか?」

「もちろんなのじゃ、わしはもう七歳なのじゃぞ! ……んしょんしょ」

 

 となりで幼女も股間を拭いている。

 うーん、なんかこう、なんだこれ。

 しかしまー放尿をすませてすっきりすると、今度はのどのかわきが気になってくるなあ。

 

「水飲みたい……」

 

 俺がつぶやくと、アマリアがありますよ、といって口を開いた。

 

「げぶぅぅ……」

 

 といって手のひらをおわんにして水を吐き出すと、俺にむかって差し出す。

 

「はいどうぞ」

「はいどうぞじゃねえよ! さすがにそれは極限のときだけいただくわ!」

 

 でも手はそれで洗った。

 いやだってきれいな水だっていうからさー……。

 ちょっと生暖かった。

 

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