普通でいい   作:喜村幸輝

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2017年秋のサンクリにて
コピー本として出したものの1作です。
これを含む3本収録したコピー本でした。
ーーーーー


一話

 

 

 そこはただ、真っ暗だった。

 手を伸ばすと、闇に融けてしまう程の暗闇。

 目を開けて見ても、黒で塗りつぶされていた。

 そんな空間の中、耳を澄ますと、しくしくと泣いている声が聞こえる。

 私以外に、誰かいる。

 でも、誰……?

 なんだか聞き覚えのある声なのだけど……

 私は声の主を探す為に、右も左も前も後ろもわからない、黒の中をさ迷い始めた。

 

 

 

 

 

 トントントン、と、乾いた音が響く。

 

(あれ……今のは……?)

 

 私はここで、暗闇は夢だと気が付いた。

 気が付いたそこには、色があった。

 いつもの私の部屋。

 しばらくボーッと白い天井を見ていると、再度、夢ではなく、トントントン、と言うノックの乾いた音が鳴る。

 

「リョウコ、起きてるかい?」

「ゆ、雪代さん!?」

 

 私・東雲リョウコは、扉の向こうに居るのであろう声の主・雪代マリが、私の部屋を訪ねようとしていることに慌てる。

 

「ちょ、ちょっと待って! まだ起きたばかりで……」

「いや、別にいいよ。イミナが朝食を作ってくれたから、キッチンに置いてある。後から食べると良い」

「あ、皆はもう食べたんですか?」

 

 私のその問いに、雪代さんはしばし黙っていたが、答える。

 

「今日から、レイドオブリを倒す為に、皆出発して行ったよ」

 

 え!?、と思わず私は声を漏らす。

 私の所属している、第〇二チームーーココナッツ・ベガは、今日から始まるレイドオブリ戦のスペシャリストとして名高い。

 そんな重要な戦いの時に限って、私は寝坊してしまったのか、と、私はベッドから飛び起き、枕元に置いてある、パトリという機器と、小さなメモカという物を手に取る。

 

「すみません! 今から急いで準備し……」

「リョウコ」

 

 扉の向こう側から、いつも落ち着いたトーンでしか喋らない雪代さんが、少し強い声音で、私の言葉を制した。

 私は、その声に固まる。

 その後、雪代さんのため息が聞こえたかと思うと

 

「私らは、いいんだよ……」

 

と、寂しげなトーンで続いた。

 

「え、いいって……」

「私らは、アシストにも入れて貰えない……足手まといになるって事だ。今回、留守番組だっただろう?」

 

 手に握ったメモカを見て私は、あぁ、そうだった、と思い出した。

そのメモカは……ノーマルメモカだったことを。

 今までは、ココナッツ・ベガとしか動いていなかった私達。

 しかし、ついこの間、私達の目の前に突如、猫ちゃんが現れた。

この猫ちゃんが、隊長さん。

 それまで、ココナッツ・ベガとして行動をしていたけれど、この隊長さんが、より強いチーム……つまり、選抜チームを作って、今の私達は活動をしている。

 選抜チームに入るためには、強いメモカという物が必要となる。

 今、隊長さん始め、ティエラ管理官やモシュネちゃんという方々を筆頭に、メモカを探してくれて、私達を強くしてくれてる。

 ただ、私の持っているメモカは、ノーマル……選抜チームに入れて貰えない強さの物だけなのです。

 

「そう、だったね……いつもの癖で、レイドオブリ退治に行こうと思っちゃって……私バカだねぇ」

 

 あはは、と私は笑っていると、雪代さんが

「扉、開けて良い?」

と、聞いてきた。

 私がそれを許可すると、白いジャージ姿の雪代さんがそこにいる。

 

「ご飯を食べてからで良いんだけど、一緒に特訓しない?」

 

 雪代さんも、実はノーマルメモカしか持っていない。

つまり、私と同じ留守番組。

 

「特訓したと言って、強くなる訳じゃないけど……」

 

 雪代さんは、フッ、と軽く笑って見せた。

 私も、えへへ、と今度は笑う。

 

「ですよね、同じチームのハヅキさんや居吹さんやアコちんが必死に戦っている中、のほほんと過ごせないですよね」

 

 私はメモカを発動させ、青いジャージ姿になって見せた。

 

「まだお腹が空いてないので、ご飯は後からいただきます。雪代さん、特訓、しましょ?」

 

 雪代さんは、やれやれ、と言った具合に、今度は笑った。

 

 

 

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