転送された先は、廃ビルの屋上だった。
「ふにゃ? リョウコっちにモシュネっち、どうしたのだ?」
一番最初に気付いたのはアコちん
「今、この場所はオブリが大量発生していて、すっごく危険なのだ! ここにいないで、早くチームハウスに戻って……」
アコちんが言い切る前に、アコちんの後ろから大きな魚型オブリが現れ、イッカクのような鋭いその角を、アコちん目掛けて突き刺そうと襲い掛かってきた。
「アコちん危ない!」
「リョウコちゃん、今モシュ! メモカを使ってみるモシュ!」
「あ、あぁ、そっか!」
「さっきの銃じゃダメモシュ! こんなに大きいオブリモシュから、そのメモカに内蔵されているヘリで攻撃モシュ!」
「ヘ、ヘリ!?」
聞き慣れない単語で思わず復唱する
「ヘリで攻撃するの!?」
「そうモシュ! あ!」
「ふにゃ!」
モシュネちゃんとそんな会話をしていたら、敵はそんなのお構い無しで、アコちんに体当たりしていた。
小さなアコちんは遠くへ飛ぶ。
角で突き刺した訳ではなかったので、それは不幸中の幸いというべきか。
「時間はないモシュよ!」
「そ、そうだね、やってみる!」
私は、よくわからないまま、でも、みなぎってくる力に身を委ね、ジャンプしたその瞬間、誰しもが圧巻するであろうヘリに乗り込んでいた。
色々なボタンやらレバーやらがあるけれど、とりあえず目の前の操縦桿を握る。
「きっと……これだ!」
最早勘で、私はボタンやらレバーやらをいじると、パララララ、と、何発もの弾が、大きな魚型オブリに当たり、やがて大きな雄叫びと共に、その敵は空間へと融ける。
「私、やったの?」
いきなりの出来事に、私の頭はパニクっていたけれど、オブリを倒すと、私はまた元いた地面へと戻っていた。
「リョウコっち!」
そんな呆けていた私に、さっき体当たりを受けて吹っ飛んで行ったアコちんが駆け寄ってきた。
とても驚いた表情で。
「今のは……なんだったのだ!?」
「えへへ、実は……」
私が言葉を続けようとすると、アコちんの通信機器が鳴った。
私の言葉はそこで途切れる。
「あ、はいなのだ! アコっちなのだ!」
『アコ? 今、そっちからすごい銃声が聞こえたけど、大丈夫かい!?』
スピーカーとなっているそれからは、我らが第○二チームのリーダー・不知火ハヅキさんの声が聞こえた。
「ハヅ姉、ちょうど良いのだ! 今すっごいことがあったから、ちょっとレイドスタメン全員集めてほしいのだ!」
『ん? どういうことだい? 話が見えないんだけど……』
「とにかく、アコっちの所に、みんな集合なのだ! そっちにいる隊長さんも呼んでね! 話はそれからなのだ!」
アコちんが一方的に通話を切り、にしし、と笑って私を見た。
「こーんな危ない所に来たってことは、何かがあって、それをリョウコっちは伝えに来たんでしょー?」
ニヤニヤと笑うアコちん
「アコっちの勘だと、それは皆に聞いてほしいような感じがしたのだ。だから、今言いかけた話は、皆が集まったら、ね?」
アコちんは、指を一本立てて、顔を傾けて微笑む。
私も一言、うん、とだけ応えて頷き、メンバーが集まるのを待った。
程なくして、アシストメンバーを除いたスタメン五人と隊長さんが集合した。
先程の場所だと、またオブリに見つかり、攻撃をされて話どころではなくなるので、となりの狭い倉庫へと場所を移して。
「で? すっごいことってなんだい? アコ」
「レイド一日目だからと言って、時間がある訳じゃないんだ。手短に頼むぜ」
今回の特効として活躍している居吹さんは、早く次のオブリを探しにいきたく、そわそわしているのが私にもわかった。
「まぁ、そう焦らないで。詳しくは、本人の口から説明してもらうのだ!」
そこで、アコちんに促されて、後ろで控えていた私がゆっくりと前に出た。
「リョウコ? 今回のメンバーに入ってなかったよね?」
「こんな所にいたら危ないんだよ!」
「特効のチカでさえ怖いのに、本当に危ないですよ!」
今回のスタメンである、まなちゃんとチカちゃんが、心配そうに私に言う。
「それが皆、聞いてほしいモシュよ!」
私の隣で、ふよふよしているモシュネちゃんが、待った!、と言わんばかりに、右手をパッと上に挙げる。
「リョウコちゃん、どうぞ!」
「う、うん、あのね……」
私はパトリにセットしたイフメモカを取り出し、手の平にのせ、輪になっている皆の中心部分に見せてやる。
「これは……アルティメットレアのイフメモカじゃないか!」
声をあげたのは居吹さん。
パートナーである居吹さんの肩に乗っている隊長さんも、この虹色に輝くメモカをしっかりと見ていた。
「モシュネが見つけたモシュよー!」
えっへん、と胸を張って言いきるモシュネちゃん。
「それでね、もしかしたら、私も戦力になるんじゃないかと思ってここに来てみたんだ」
「なるほどねぇ」
顎に手を当てながらハヅキさんが続ける
「さっきのあの銃声は、そのメモカのものだったのか……そりゃ強力だもの、別区間にいたアタシらの所まで音が聞こえてきたのも納得だよ」
「すっごーい! まな、イフメモカって初めて見たんだよー!」
「チカもー!」
まなちゃんとチカちゃんは、目を輝かせて言う。
「アコっちが危なかった所を、リョウコっちのそのメモカのおかげで、助けてもらったのだ! 強さは保証するよー!」
アコちんは腕を組み、うんうん、と頷きながら言った。
「スタメンまでとはいかなくても、隊長さん、アシスト位に私……なれないですかね……?」
おずおずと私が言うと、居吹さんの肩から隊長さんは、まなちゃんの肩へと跳んだ。
「わ! た、隊長さん、何……?」
すると隊長さんは、まなちゃんの肩の上で、うーうー、と唸り始める。
「え? まながスタメンから降りて、リョウコちんがスタメンになるの……?」
「まぁ、このメンバー砲撃組が三人もいて、バランスが悪かった所があったからな」
居吹さんは苦笑いする。
「むー、もう! イミナちんは特効だから、降りるはずないって自信があるから笑えるんだよ! でも、隊長さんの指示だから、仕方ないよね……まな、ショックなんだよ……」
私も、まさかのスタメンの座を貰えるような流れであたふたする。
「で、でも、私、ついさっきこのメモカを使ったくらいで、まだ全然扱えてないから、アシストで参戦して馴らして……」
「大丈夫なのだ!」
私がまだ言い終えていないのに、アコちんが私の言葉を遮る。
「アコっちを助けることができる位の力があるし、さっきみた限り、武器の扱いもできていたのだ!」
「いや、確かにヘリの操作はなんとかなったけど……」
サンドバッグオブリを相手に銃を使った自分を思い出して見ると、私は目を伏せた。
何かを察して、ハヅキさんが私の肩に手を置く。
「大丈夫さ。初めての、しかもいきなりの強いメモカなんだ。そりゃ怖いと思う。でも、隊長さんが認めてくれたんだ。こんなチャンス、逃す手はないんじゃないかい?」
私は、そのハヅキさんの温かい言葉で、まだ不安は多少あるけれど、大きく一回頷く。
「レイド戦、まなちゃんの分まで、私、頑張るよ!」
そして、レイド戦一日目が始まったのでした。