暗闇は、暗がりになっていた。
「大丈夫なのかは、あなただよ」
私は、上を仰いだ状態で立っていたが、今度その声は、泣いていたはずの、私が肩に手を置いている、その人からの言葉だった。
その子は、スクッと立ち上がる。
背丈は私くらい。と、言うよりもーー
「……え? 私……?」
ふわふわとした癖っ毛の茶髪の女の子。
服装はサイバーチックな……そう、あのイフメモカの物。
「そんなに無理をして大丈夫なの?」
悲しそうな顔で、涙も拭かずに私を見て、彼女は言う。
「無理なんかしてな……」
「普通がそんなに嫌なの?」
私が言い切る前に、強い語調で彼女が言葉を遮る。
「私は、普通に強くなりたかった。いきなりすごい力を手に入れたら、今までの普通が普通じゃなくなる……普通の体が普通じゃなくなるの。それって、すごく悲しいし辛いことなんだよ……」
彼女は、そこまでいい切ると、またシクシクとその場にしゃがんで泣き出してしまった。
「確かに、今はちょっと無理してるよ? でも、それも最初だけで、きっとすぐに」
「ねぇ……」
泣くのを堪えて彼女は言う
「ゆっくり、普通に、強くなろうよ……」
私は、その言葉に反論する言葉を見つけようと、床に目を落とし、そして目を瞑った。
反論する言葉を考えたけれど、やはり何も思い付かなかった。
だって、事実だったから。
一目置いてもらう為に、隊長さんの側にいたい為に、大丈夫じゃないのに大丈夫と無理に自分に言い聞かせていただけ。
結果、やはりそれは大丈夫じゃなかったんだもの。
私は、普通に順番に強くなりたかったのかも。
私は言葉を整理し、彼女にそれを伝える為、目を開けた。
すると、またそこには色が戻っていた。私の部屋の天井。
「あぁ! よかった! 気がついたんだね、リョウコちゃん!」
そこにいたのは、私の仲良しな沙島悠水。
両手で私の右手を握っていた。
「ずっと起きないから、死んじゃったのかと思って、私心配しちゃったよー!」
私は、どうやら眠っていたらしい。
「あれ? 協力戦って……」
「もう最終日だよ」
静かに、でも響き渡るその答えは、雪代さんのものだった。
「え! どうしよう、私、スタメンに選ばれてたのに……」
勢いよく、また私は起き上がった。
「リョウコの枠は、菜森まながまた入ったそうだ」
部屋の一角の壁に寄りかかりながら、雪代さんは目を瞑りそう言った。
そっか……、とだけ私は言う。
「どうしてあんな無茶したんだい? 自分でこのメモカはまだ使いこなすには難しいって事、あの試し打ちの時に分かっていただろう」
雪代さんは、いつになく強めの口調である。
「この大切な時期にいきなり現れて、いきなり消えてしまって……選抜メンバーがどれだけ大変だったか、考えられるかい?」
私は何も言えなくて、ただ黙って、視線を布団の上に落とす。
「ま、まぁ! 雪代さん! リョウコちゃんだって、頑張ったんだよ? ぐわーって行って、パラララッてやって! 私、アシストメンバーだったから、影からリョウコちゃんの頑張り見てたんだから!」
悠水が落ち込んでいる私を元気付けようと、精一杯フォローをする、が。
「パラララッて、イミナとチカがやられた姿を見てたんだろう?」
その雪代さんの台詞に、悠水は言葉がつまり、逆に私は驚いて、雪代さんに向き直る。
「私、そんなことやったの!?」
雪代さんは、何も言いたくないのか、一つため息をつき、
「リョウコはもう少し寝ていた方がいい。私も部屋に戻る」
と、踵を返した。
部屋には、私と悠水だけになり、雪代さんが扉を閉めて、しばらく重い沈黙が流れる。
ただ、沈黙が苦手な悠水。すぐに口を開いた。
「今回は、どんまいだよ、リョウコちゃん……」
ううん、と、私は首を横に振る。
「違うんだ……雪代さんの言った通り、私、メモカが使いこなせないってわかってたの。わかってたんだけど……皆の迷惑よりも、隊長さんの役に立ちたいって気持ちだけで、私あそこに行っちゃったからさ……」
いや、それもちょっと違うかもしれない。役立ちたい、もあるけど、側にいたい、の方があってるかも、と、私は目を細めた。
「最近さぁ、私、変な夢見るんだー」
「夢?」
「うん、今思えば、警告夢だったのかもしれないんだけど」
私は、両手を組んで前へと伸ばしてストレッチをする。
久々に体を動かすもので、重い。
「私のそのイフメモカの服を着た、もう一人の私が、暗い世界でずーっと泣いてたんだ。普通の何が嫌なの?、普通にゆっくり強くなろうよってさ」
私は両手を布団の上へと落とす。
「メモカってさ、もしもの私、なんだよね? あの夢の子は、多分、そのもしもの私だったんだろうなぁって。早く普通を抜け出したい私と、強くて普通を羨ましがっているあの私とが繋がって、見たのかなぁって、今なら思う」
リョウコちゃん……、と悠水が困惑しているような表情をする。
「あ、ごめんね! 変な話だったよね。悪魔で夢だから気にしないで!」
「違うよリョウコちゃん、私も普通のリョウコちゃんが好きだよ? だから、そんな背伸びしなくていいんだよ! 夢の中のリョウコちゃんもきっとそう思ってるはずだし、普通が売りのリョウコちゃんが普通じゃなくなったら、私どうにかなっちゃうよ!」
私は、プッと吹き出す。
「もう! 普通普通って言わないでよ! どうにもならないでよね、私が強くなっても」
「それは私よりもアタックが上になってから言いたまえ!」
「私、今イフメモカのおかげで、悠水より随分とアタック上だよ?」
「あうち! そうだったぁ!」
いつも通りの普通の会話。
悠水なりの励ましなのだと思う。
私は、小さく微笑んだ。
部屋の窓からは、夕日が差し込んでいる。
協力戦も、もうすぐ終わる時刻であった。