普通でいい   作:喜村幸輝

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五話

 

 

 暗闇は、暗がりになっていた。

 

「大丈夫なのかは、あなただよ」

 

 私は、上を仰いだ状態で立っていたが、今度その声は、泣いていたはずの、私が肩に手を置いている、その人からの言葉だった。

 その子は、スクッと立ち上がる。

背丈は私くらい。と、言うよりもーー

 

「……え? 私……?」

 

 ふわふわとした癖っ毛の茶髪の女の子。

服装はサイバーチックな……そう、あのイフメモカの物。

 

「そんなに無理をして大丈夫なの?」

 

 悲しそうな顔で、涙も拭かずに私を見て、彼女は言う。

 

「無理なんかしてな……」

「普通がそんなに嫌なの?」

 

 私が言い切る前に、強い語調で彼女が言葉を遮る。

 

「私は、普通に強くなりたかった。いきなりすごい力を手に入れたら、今までの普通が普通じゃなくなる……普通の体が普通じゃなくなるの。それって、すごく悲しいし辛いことなんだよ……」

 

 彼女は、そこまでいい切ると、またシクシクとその場にしゃがんで泣き出してしまった。

 

「確かに、今はちょっと無理してるよ? でも、それも最初だけで、きっとすぐに」

「ねぇ……」

泣くのを堪えて彼女は言う

「ゆっくり、普通に、強くなろうよ……」

 

 私は、その言葉に反論する言葉を見つけようと、床に目を落とし、そして目を瞑った。

 

 

 

 

 

 反論する言葉を考えたけれど、やはり何も思い付かなかった。

だって、事実だったから。

 一目置いてもらう為に、隊長さんの側にいたい為に、大丈夫じゃないのに大丈夫と無理に自分に言い聞かせていただけ。

 結果、やはりそれは大丈夫じゃなかったんだもの。

 私は、普通に順番に強くなりたかったのかも。

 私は言葉を整理し、彼女にそれを伝える為、目を開けた。

 すると、またそこには色が戻っていた。私の部屋の天井。

 

「あぁ! よかった! 気がついたんだね、リョウコちゃん!」

 

 そこにいたのは、私の仲良しな沙島悠水。

 両手で私の右手を握っていた。

 

「ずっと起きないから、死んじゃったのかと思って、私心配しちゃったよー!」

 

 私は、どうやら眠っていたらしい。

 

「あれ? 協力戦って……」

「もう最終日だよ」

 

 静かに、でも響き渡るその答えは、雪代さんのものだった。

 

「え! どうしよう、私、スタメンに選ばれてたのに……」

 

 勢いよく、また私は起き上がった。

 

「リョウコの枠は、菜森まながまた入ったそうだ」

 

 部屋の一角の壁に寄りかかりながら、雪代さんは目を瞑りそう言った。

 そっか……、とだけ私は言う。

 

「どうしてあんな無茶したんだい? 自分でこのメモカはまだ使いこなすには難しいって事、あの試し打ちの時に分かっていただろう」

 

 雪代さんは、いつになく強めの口調である。

 

「この大切な時期にいきなり現れて、いきなり消えてしまって……選抜メンバーがどれだけ大変だったか、考えられるかい?」

 

 私は何も言えなくて、ただ黙って、視線を布団の上に落とす。

 

「ま、まぁ! 雪代さん! リョウコちゃんだって、頑張ったんだよ? ぐわーって行って、パラララッてやって! 私、アシストメンバーだったから、影からリョウコちゃんの頑張り見てたんだから!」

 

 悠水が落ち込んでいる私を元気付けようと、精一杯フォローをする、が。

 

「パラララッて、イミナとチカがやられた姿を見てたんだろう?」

 

 その雪代さんの台詞に、悠水は言葉がつまり、逆に私は驚いて、雪代さんに向き直る。

 

「私、そんなことやったの!?」

 

 雪代さんは、何も言いたくないのか、一つため息をつき、

「リョウコはもう少し寝ていた方がいい。私も部屋に戻る」

と、踵を返した。

 

 部屋には、私と悠水だけになり、雪代さんが扉を閉めて、しばらく重い沈黙が流れる。

 ただ、沈黙が苦手な悠水。すぐに口を開いた。

 

「今回は、どんまいだよ、リョウコちゃん……」

 

 ううん、と、私は首を横に振る。

 

「違うんだ……雪代さんの言った通り、私、メモカが使いこなせないってわかってたの。わかってたんだけど……皆の迷惑よりも、隊長さんの役に立ちたいって気持ちだけで、私あそこに行っちゃったからさ……」

 

 いや、それもちょっと違うかもしれない。役立ちたい、もあるけど、側にいたい、の方があってるかも、と、私は目を細めた。

 

「最近さぁ、私、変な夢見るんだー」

「夢?」

「うん、今思えば、警告夢だったのかもしれないんだけど」

 

 私は、両手を組んで前へと伸ばしてストレッチをする。

久々に体を動かすもので、重い。

 

「私のそのイフメモカの服を着た、もう一人の私が、暗い世界でずーっと泣いてたんだ。普通の何が嫌なの?、普通にゆっくり強くなろうよってさ」

 

 私は両手を布団の上へと落とす。

 

「メモカってさ、もしもの私、なんだよね? あの夢の子は、多分、そのもしもの私だったんだろうなぁって。早く普通を抜け出したい私と、強くて普通を羨ましがっているあの私とが繋がって、見たのかなぁって、今なら思う」

 

 リョウコちゃん……、と悠水が困惑しているような表情をする。

 

「あ、ごめんね! 変な話だったよね。悪魔で夢だから気にしないで!」

「違うよリョウコちゃん、私も普通のリョウコちゃんが好きだよ? だから、そんな背伸びしなくていいんだよ! 夢の中のリョウコちゃんもきっとそう思ってるはずだし、普通が売りのリョウコちゃんが普通じゃなくなったら、私どうにかなっちゃうよ!」

 

 私は、プッと吹き出す。

 

「もう! 普通普通って言わないでよ! どうにもならないでよね、私が強くなっても」

「それは私よりもアタックが上になってから言いたまえ!」

「私、今イフメモカのおかげで、悠水より随分とアタック上だよ?」

「あうち! そうだったぁ!」

 

 いつも通りの普通の会話。

 悠水なりの励ましなのだと思う。

 私は、小さく微笑んだ。

 部屋の窓からは、夕日が差し込んでいる。

 協力戦も、もうすぐ終わる時刻であった。

 

 

 

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