高校デビュー。
それは中学校生活という長く苦しい戦いを越えた先にある非モテ童貞陰キャコミュ症にとっての希望。
どんなに陰キャでも、どんなに中学時代に友達がいなかったとしても、どんなに女子に嫌われようとも!!!高校デビューすれば!高校デビューすれば世界は一変する!!!
『内野沙耶』という少年はその淡い希望に必死にすがりつき、泣きつき、土下座し、靴を舐め、そして盛大に失敗した。
キッカケは些細なことだった。
入学式が終わった生徒は壁に掛けられたプリントを見て名前の書かれた教室へと行き、席につく。この時点からすでに陽キャは行動を始めており、それが分かっていた沙耶も積極的に人と話しかけようとして、そして言葉を詰まらせてしまった。
あ、あの・・・・・その・・・・・その・・・・・・。
1日30時間の準備を重ねた沙耶から繰り出されたのは、全世界の陰キャが涙を流しながら敬礼するような、お手本のような陰キャムーヴであった。
これぞ陰キャ、これでこそ陰キャ、これこそまさに陰キャなのだ、というようなドン引き不可避の最低ムーヴであった。
あの、その・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。
大言壮語を吐き、高校に成ったら変わると言い続けていた『内野沙耶』の高校デビューはこうして終わりを迎えた。
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「つまり高校デビューを盛大に失敗したから私に慰めて欲しい、と」
お高いマイクやらパソコンやらが載った机の前でゲーミングチェアーに座っているお姉ちゃんは、突然配信に乱入して来て一方的に事情を話し、体育座りをしながら部屋の隅っこでうずくまっている僕を流石に無視して配信は続けれなかったらしく、声をかけてきた。
「沙耶は 今 私が配信中だってこと分かってる?」
「うるさい!!!お姉ちゃんは配信と弟のどっちが大切なの!?」
「いや配信だけど・・・」
「なぁ!?」
僕のお姉ちゃんこと『内野 瑠那』は、ストリーマー?配信者?・・・・まぁそんなかんじの、ネットでニコニコして視聴者から金を巻き上げるという鬼のような商売でボロ儲けしている17歳の女の子である。
「お、弟の健康で文化的な最低限度の生活が損なわれようとしてるんだよ!?姉として何も思わないの!?」
「いや全部アナタが悪いでしょうが」
「うぐぅ!?」
「まぁアンタが高校デビューできるなんてハナから思ってなかったけど、うま「は、はぁ!?できたし!!!もっと上手くやれば高校デビューはできたハズだし!!!」
「100が1で高校デビューできたとしてもアンタなら2日目でボロを出してたわよ」
「うぐぅ!?」
それは否定できない!!!
「半端にグループに入った奴なんて悲惨なものよ?必死に会話を合わせて、アイツ空気読めないよね~って陰口言われてもニコニコしながら付き合うことになるんだから。
返ってアナタはラッキーな方だと思うけど」
「なっ、今お姉ちゃんは全世界の陰キャを敵に回す発言したよ!!!分かってる!?陰キャは望んでもグループに入れてもらえないんだからね!?
みんながカラオケとかボーリングの話で盛り上がってる側で、聞き耳たてながら悔しがるのが陰キャなんだよ!?
どんなに大変でも誰かと時間を共有するのは素晴らしいことなんだよ!?それが陰キャにはできないんだよ!?」
「でたよ、陰キャの幻想。リア充なんてそんなにキラキラしたものじゃないってことにこのバカ弟はいつ気づくのやら」
「この、陰キャの苦しみも知らないで・・・・・・・・・視聴者さ~ん、今からお姉ちゃんの恥ずかしい話しま~す!まずお姉ちゃんは心霊番組を見ると「なぁあああああああああああああああああああああああああああああ「1人でトイレに「なあああああああああああああああああ「行けなくて「なああああああっ、このバカ弟!!!!息づきのタイミングで、「トイレの前までついて来てって頼んできたことがありま~す!!!「はい死刑!!!もうムリ沙耶もう私怒ったから!!!「今もお化けが怖くて1人じゃ寝られな「沙耶ぁあああああああああ!!!!」
某狩猟ゲームのモンスターもかくやとというレベルの大声で僕の声を遮ったお姉ちゃんは、台パンしながら急に立ち上がった。
「沙耶!アンタお姉ちゃんにもプライバシーってものがあるのよ!?分かる!?されて嫌なことはしないってお爺ちゃんにも言われたでしょ!!!」
「お爺ちゃんはもういないじゃない」
「あああああああもうこのクソ弟は!!!」
お姉ちゃんは戸棚から変な四角い物体を取り出すと、ソレを僕に向かって放り投げてきた。というかブン投げてきた。
慌ててキャッチすると、それはVRMMOのゲームゴーグルだった。
「沙耶!!!それで友達を作りなさい!それなら趣味、というかクエスト関連で否応なく会話しないといけないし、NPCとだって会話できるし、・・・・とにかくアンタはこれで練習してから出直しなさい!アンタは全体的に努力が足りないのよ!!!」
「努力が足りないとは失敬な!これでもイメトレなら誰にも負けないぐらい「うるさい!!!
やれ!!!」
ドンッ!!!!!
あまりの剣幕に僕はビックリしてしまった。
こんなお姉ちゃんは珍しいというか、今までなかったというか、・・・・何よりお姉ちゃんの顔が赤くなっているのが少し気にかかった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「うるさい。やれ」
「でもゴーグルだけじゃ・・・・カセットも無いし」
「はいコレ」
そう言って投げ渡されたのは『V戦』と銘打たれたVRMMOゲームのカセットだった。
「えぇ・・・・」
これはお姉ちゃんのお古なのだろうか。それにしては新品のような匂いが・・・・。
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沙耶は気づいていなかったが、コメント欄には全ての事情を知っていた視聴者からの暖かいコメントが流れ続けていた。
コメント欄
《渡せて良かったね》
《やっと誘えたw》
《かわいい》
《怒声で乗り切るそのやり方、嫌いじゃないぞ》
《一緒のゲームがしたいからって貯金してVR機材を2つ買うとかどんだけ弟が好きなんだよなw》
《はいかわいい》
《ずっと渡せるチャンスを探ってたよなw》
《お前にわかか?》
《チラッ・・・・チラッ》
《これだけお膳立てしたんだ。ちゃんとやれよな》
《視聴者「ざわっ・・・・ざわっ・・・・」》
《まぁ結果オーライだし、後は一緒に配信してくれたら万々歳なんだが》
「あぁあああもううるさいうるさいうるさい!!!」
「え?なに?コメント欄に何かあるの?」
「アンタは出てけ!!!」
「だから何なの!?お姉ちゃん今日変だよ!?」
「うるさい!!!死ね!!!」
「えぇえ!?!?」